ジョン・ラボック/セント・ジョーンズ・スミス・スクエア管の悲しみ、受難(ハイドン)
あまり知られていない超名演奏、見つけました。

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ジョン・ラボック(John Lubbock)指揮のセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団(The Orchestra of St. John's Smith Square, London)の演奏による、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」の2曲を収めたアルバム。収録年に関する表記はなくPマークが1986年とだけあります。レーベルは名録音の多いMCA CLASSICS。
ちょっと廉価盤然としたジャケットに「悲しみ」と「受難」というハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の短調の傑作交響曲2曲を組み合わせたアルバム。さして期待せずCDプレイヤーにかけてみると、実にしなやかかつ緻密な音楽が流れてきてびっくり。何気なく聴きはじめましたが、あまりの充実度に集中。これは衝撃的に素晴らしい演奏です。
ということでまったく未知だった奏者の情報を調べます。
指揮者のジョン・ラボックは検索するといろいろなアルバムをリリースしているようですが、あまり情報がありません。指揮者であり歌手であるようで、1967年にこのアルバムの演奏を担当するセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団を設立。Promsには1976年から2006年の間に6度出演しており、現代作曲家の作品の初演などを担当しているとのこと。1999年にはロンドンの王立音楽院の名誉フェローに選ばれています。
ということで今ひとつよくわかりませんが、このハイドンの稀有な名演をレビューすることにいたしましょう。
Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
極めてオーソドックスな入り。程よい躍動感を伴ってよくコントロールされたオケがほの暗い悲しみのメロディーを奏でていきます。ただし、ただオーソドックスな演奏なだけではなく、くっきりとしたバランスの良い陰影がついて、ほのかにアーティスティック。適度に写実的な風景画を見るようですが、色のバランスや構図の設定がよく、まるでフェルメールが書いたような穏やかな個性があります。このコントロールは相当の技術的裏付けと音楽性が必要。演奏のタイプはニコラス・ウォードやロバート・ハイドン・クラークのような方向性。この曲の1楽章に潜む劇性をしなやかに描ききります。こうした円熟の技によるオーソドックスな演奏こそ、ハイドンの名曲を引き立てます。1楽章から身を乗り出して音楽に入りこみます。
続く2楽章に入っても演奏スタイルは変わらず、滔々と音楽が流れます。一貫して堅固な構成。全ての音に必然性があり、実にしなやかな音楽。素晴らしい完成度。弦によるメロディーをうっすらと隈取る木管やホルン。各奏者はハーモニーを乱すことなくそっと音を乗せていき、まるで一人の奏者による演奏の重ね録りのような一体感。
絶品なのが続く3楽章のアダージョ。テンポをかなり落としてビロードのような肌触りの極上の癒しに満ちた音楽が流れます。この楽章をここまで磨き込んだ演奏を知りません。音楽がとろけて心に染み込んできます。バーンスタインのような脂っこさはなく、清々しい練りによって、ハイドンらしさを保っています。絶品。悲しみが昇華されて天に昇っていくよう。
フィナーレは、節度を取り戻すようにオーソドックスな演奏に戻ります。深く燻らしたような陰影を伴いながらもオケの表現は穏やかに踏み込んで、躍動感もかなりのもの。気づいてみれば色彩感豊かなバランスの良い演奏できりりと締まって終わります。
Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
入りはアダージョ。前曲の3楽章の素晴らしいアダージョの再来のような、いきなりぐっと沈み込む情感が伝わります。この遅いテンポの描き方の深さは相当なもの。冒頭から惹きつけられます。ヴァイオリンの高音部を強調してメロディーをくっきり浮かび上がらせるなど、演出上手なところも垣間見せます。迫真のアダージョ。
大波が寄せては返すような大きな流れを彷彿とさせる2楽章。前楽章の暗く沈む情感から激しく展開して各パートもかなり踏み込んだ表現に変わりますが、相変わらずオケの一体感は素晴らしく、すばてのパートが完璧にコントロールされています。ジョン・ラボックはよほどの完璧主義者だと想像。
メヌエットは穏やかな劇性を感じるこの曲一番の聴きどころ。この穏やかさを保ちながら音楽の起伏を表現するあたり、やはり只者ではありません。あえて淡々と刻む伴奏に対し、非常に深い音色のヴァイオリンの奏でるメロディーが孤高の表情。
フィナーレは疾走するオケの魅力で一気に聴かせます。かなりのテンポにもかかわらず各パートのつながりの良さが印象的。要所できりりと引き締まりながらも疾走を続け、最後はきっちり終えます。
いやいや、このアルバムの演奏、この2曲のなかでも指折りの名演と断じます。悲しみ、受難といえば名演盤が多い名曲ですが、その中にあっても燦然と輝く価値があるといっていいでしょう。特にアダージョ楽章の濃密な情感と癒し音楽、全体のバランスを崩さないコントロール、そして何より素晴らしいのがオケの一体感。これが今では無名に近い演奏者の演奏というのが驚きです。有名どころの演奏よりよほどハイドンの真髄に迫っていると言っていいでしょう。この2曲はハイドンの交響曲でも名曲であり、その名曲の代表的な名演として永く聴き続けられるべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]。手に入るうちにどうぞ!

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ジョン・ラボック(John Lubbock)指揮のセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団(The Orchestra of St. John's Smith Square, London)の演奏による、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」の2曲を収めたアルバム。収録年に関する表記はなくPマークが1986年とだけあります。レーベルは名録音の多いMCA CLASSICS。
ちょっと廉価盤然としたジャケットに「悲しみ」と「受難」というハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の短調の傑作交響曲2曲を組み合わせたアルバム。さして期待せずCDプレイヤーにかけてみると、実にしなやかかつ緻密な音楽が流れてきてびっくり。何気なく聴きはじめましたが、あまりの充実度に集中。これは衝撃的に素晴らしい演奏です。
ということでまったく未知だった奏者の情報を調べます。
指揮者のジョン・ラボックは検索するといろいろなアルバムをリリースしているようですが、あまり情報がありません。指揮者であり歌手であるようで、1967年にこのアルバムの演奏を担当するセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団を設立。Promsには1976年から2006年の間に6度出演しており、現代作曲家の作品の初演などを担当しているとのこと。1999年にはロンドンの王立音楽院の名誉フェローに選ばれています。
ということで今ひとつよくわかりませんが、このハイドンの稀有な名演をレビューすることにいたしましょう。
Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
極めてオーソドックスな入り。程よい躍動感を伴ってよくコントロールされたオケがほの暗い悲しみのメロディーを奏でていきます。ただし、ただオーソドックスな演奏なだけではなく、くっきりとしたバランスの良い陰影がついて、ほのかにアーティスティック。適度に写実的な風景画を見るようですが、色のバランスや構図の設定がよく、まるでフェルメールが書いたような穏やかな個性があります。このコントロールは相当の技術的裏付けと音楽性が必要。演奏のタイプはニコラス・ウォードやロバート・ハイドン・クラークのような方向性。この曲の1楽章に潜む劇性をしなやかに描ききります。こうした円熟の技によるオーソドックスな演奏こそ、ハイドンの名曲を引き立てます。1楽章から身を乗り出して音楽に入りこみます。
続く2楽章に入っても演奏スタイルは変わらず、滔々と音楽が流れます。一貫して堅固な構成。全ての音に必然性があり、実にしなやかな音楽。素晴らしい完成度。弦によるメロディーをうっすらと隈取る木管やホルン。各奏者はハーモニーを乱すことなくそっと音を乗せていき、まるで一人の奏者による演奏の重ね録りのような一体感。
絶品なのが続く3楽章のアダージョ。テンポをかなり落としてビロードのような肌触りの極上の癒しに満ちた音楽が流れます。この楽章をここまで磨き込んだ演奏を知りません。音楽がとろけて心に染み込んできます。バーンスタインのような脂っこさはなく、清々しい練りによって、ハイドンらしさを保っています。絶品。悲しみが昇華されて天に昇っていくよう。
フィナーレは、節度を取り戻すようにオーソドックスな演奏に戻ります。深く燻らしたような陰影を伴いながらもオケの表現は穏やかに踏み込んで、躍動感もかなりのもの。気づいてみれば色彩感豊かなバランスの良い演奏できりりと締まって終わります。
Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
入りはアダージョ。前曲の3楽章の素晴らしいアダージョの再来のような、いきなりぐっと沈み込む情感が伝わります。この遅いテンポの描き方の深さは相当なもの。冒頭から惹きつけられます。ヴァイオリンの高音部を強調してメロディーをくっきり浮かび上がらせるなど、演出上手なところも垣間見せます。迫真のアダージョ。
大波が寄せては返すような大きな流れを彷彿とさせる2楽章。前楽章の暗く沈む情感から激しく展開して各パートもかなり踏み込んだ表現に変わりますが、相変わらずオケの一体感は素晴らしく、すばてのパートが完璧にコントロールされています。ジョン・ラボックはよほどの完璧主義者だと想像。
メヌエットは穏やかな劇性を感じるこの曲一番の聴きどころ。この穏やかさを保ちながら音楽の起伏を表現するあたり、やはり只者ではありません。あえて淡々と刻む伴奏に対し、非常に深い音色のヴァイオリンの奏でるメロディーが孤高の表情。
フィナーレは疾走するオケの魅力で一気に聴かせます。かなりのテンポにもかかわらず各パートのつながりの良さが印象的。要所できりりと引き締まりながらも疾走を続け、最後はきっちり終えます。
いやいや、このアルバムの演奏、この2曲のなかでも指折りの名演と断じます。悲しみ、受難といえば名演盤が多い名曲ですが、その中にあっても燦然と輝く価値があるといっていいでしょう。特にアダージョ楽章の濃密な情感と癒し音楽、全体のバランスを崩さないコントロール、そして何より素晴らしいのがオケの一体感。これが今では無名に近い演奏者の演奏というのが驚きです。有名どころの演奏よりよほどハイドンの真髄に迫っていると言っていいでしょう。この2曲はハイドンの交響曲でも名曲であり、その名曲の代表的な名演として永く聴き続けられるべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]。手に入るうちにどうぞ!
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