作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ラザール・ベルマンのXVI:27 1972年ミラノライヴ(ハイドン)

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今日は先日届いたばかりのアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ラザール・ベルマン(Lazar Berman)のピアノによるベートーヴェンのピアノソナタ29番「ハンマークラヴィーア」、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:27)の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1972年11月12日、ミラノでのライヴ。レーベルは伊Istituto Discografico。

大変珍しいラザール・ベルマンのハイドン。ラザール・ベルマンといえば、我々の世代には懐かしい人。突如老舗Deutche Grammophonからカラヤンとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲がリリースされ、彗星のごとくメジャーに登場したロシアの剛腕ピアニスト。燃えたぎる岩の塊のような轟音を鳴らすことで剛腕ピアニストと言われましたが、あまりデリケートなピアノを弾く人との印象はありません。チャイコフスキーにリストなどを得意としていたと記憶しています。

そのベルマンがハイドンを弾いたライヴということでちょっと興味をもった次第。もちろんベルマンに詳しいわけではないので、ちょっと略歴などをさらっておきましょう。

ベルマンは1930年、レニングラード(現サンクトペテルスブルク)生まれのピアニスト。母がピアニストだったことから手ほどきを受け、3歳でコンクールに参加し、4歳で最初の演奏会を開くなど早くから才能が開花。7歳でモーツァルトの幻想曲を録音し、ギレリスから神童と呼ばれるほどの才能だったとのこと。その後リヒテルなどに師事し、公式デビューは10歳の時、モスクワフィルハーモニーとの共演でモーツァルトのピアノ協奏曲25番を演奏。しかしユダヤ系だったベルマンは1941年の第二次大戦勃発を機に疎開し、生活も困窮するようになります。戦後は1951年のベルリン国際青少年音楽祭と1956年のブダペスト国際音楽コンクールにおいて優勝し、ハンガリーではリストの再来と絶賛されるも、西側諸国には鉄のカーテンに包まれ、その存在が知られることはありませんでした。転機は1975年のアメリカへの演奏旅行。リストの超絶技巧練習曲の演奏がホロヴィッツと双璧と伝えられ、評判になり、前出のカラヤンとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音もこの直後ということです。その後当時のソ連からの活動制限に対する反発から1990年にイタリアに渡り95年にはフィレンツェに定住することになります。日本には1977年に来日しておりコンサートも開いていることから、生でベルマンを聴いた人もいるかもしれませんね。2005年2月にフィレンツェで亡くなっています。ということで、この2月で没後10年なんですね。

このベルマンのハイドン、録音はカラヤンとのチャイコフスキーのピアノ協奏曲の録音の3年前、西側にその名が轟く少し前のライヴということで、ベルマンが最も充実していた時期の貴重な記録と言うことができるでしょう。

Hob.XVI:27 / Piano Sonata No.42 [G] (1776 or before)
録音はモノラルで、会場のざわめきと咳払いが時折聞こえるもの。ベルマンは予想とは異なり、古典の矜持を守るように、まるで練習曲をさらりとこなすような超平常心での入り。ベルマンにとってハイドンとは穏やかな心情をベースとした音楽なのでしょう。非常に落ち着いて小気味好いテンポ感での入り。徐々にメロディーを表す右手にアクセントが効いてきて、クッキリとした表情が浮かび上がります。後年のパワーをふまえると嵐の前の静けさ的落ち着きが心地よいですね。1楽章はそれでも緊密な演奏に聴こえましたが、2楽章に入るとさらりとした演奏なのに情感が乗って、なかなかの盛り上がり。途中からグールドばりにベルマンの鼻歌が入り、入魂の演奏であることが伝わります。ベルマンの録音を調べて見るとハイドンの録音は唯一この曲ばかりで、他に何組かの演奏がありますが、同じ音源かどうかはわかりません。ベルマンがこの曲を愛好していたのでしょうか。特にこの2楽章の入れ込みぶりは特別なものと感じます。
フィナーレに入るとタッチの力感が増し、リズムのキレと迫力は、あのパワーで押すベルマンを彷彿とさせますが、さすがにハイドンで野暮なキレ方はしません。古典のバランスを保ちながらの抑えたメリハリが心地よいですね。最後はものすごい拍手が降り注ぎ、当日のミラノの聴衆のベルマンの演奏に対する歓待ぶりがわかります。

剛腕ピアニスト、ラザール・ベルマンの珍しいハイドンのソナタの演奏。西側に忽然と現れる直前のミラノでの貴重なライヴ。もちろんハイドンでは爆発することはありませんが、剛腕ピアニストでもハイドンの魅力をクッキリと描き、その古典的魅力をしっかり伝えていることが、この人の芸風の深さを感じさせるところ。私はカラヤンとベルマンのチャイコフスキーをエアチェックしてカセットで随分聴いたほうですのでベルマンの印象は圧倒的な迫力を持つ人だという世代です。このハイドンはそうしたベルマンの演奏の原点たる基本に忠実なところの良さを表していると思います。個人的に演奏の面白さを堪能できる良いアルバムであると思っていますが、他の方への推薦度合いという点ではこの特殊な状況を加味して[++++]としておきたいと思います。

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