作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ズビグニェフ・ツークのホルン協奏曲(ハイドン)

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皆さま、前記事で書いたとおり、叔父が亡くなり、日曜、月曜と通夜と告別式に出席してきました。出棺の時や荼毘に付させる時のやるせない悲しみは言いようがありません。葬儀が終わると、なんとなくひと段落です。帰って手元の未聴盤のなかから取り上げた一枚は、なぜか心にグッと染みる演奏でした。

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ズビグニェフ・ツーク(Zbigniew Żuk)のホルン、ゲディミナス・ダリンケヴィチウス(Gediminas Delinkevičius)指揮のバルチック・ヴィルトゥオージ(Baltic Virtuosi)の演奏による、テレマンのホルン協奏曲、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)、モーツァルトのホルン協奏曲2番、ロッシーニの前奏曲、主題と変奏(ヘルマン・ゲルナー編曲)の4曲を収めたアルバム。収録は1992年5月9日から11日にかけて、ポーランド中部のトルン(Toruń)でのセッション録音。レーベルは奏者のズビグニェフ・ツークの興したŻuk Records。

この実にマイナーなアルバム、お察しのとおり湖国JHさんから貸していただいているもの。年越しで随分預かったままなので、消化しなければなりませんが、ふと取り出して聴くと、実に素晴らしい音楽が流れ出してくるではありませんか。上手い演奏という感じではなく、染みる演奏。音楽が心に響く素晴らしいアルバムです。特にハイドンとモーツァルトは絶品。ほんとうにふとした巡り合わせですが、こちらの気持ちを察するように活き活きとした音楽が心を癒してくれます。

これだけ素晴らしい演奏を聴かせる奏者について、簡単にさらっておきましょう。

ホルンのズビグニェフ・ツークは1955年生まれで、父は作曲家のエドゥアルト・ツーク(Edward Żuk)。ポーランド中部の街ウッチ(Łódź)の音楽アカデミーを卒業し、ウッチのすぐ南のパビャニツェ (Pabianice)で1976年に開催された国際ホルンコンクールで2等を獲っています。1976年から1982年までウッチ・フィルハーモニー、ポーランド室内管、ワルシャワ室内歌劇場の主席ホルン奏者として活躍、1982年にはドイツ北部のブレーマーハーフェン(Bremerhaven)管弦楽団の主席ホルン奏者となりました。その後もバリー・タックウェルなどに師事し、以降ヨーロッパを中心に活動しています。

オケのバルチック・ヴィルトゥオージは、1991年、リトアニア中部にあるカウナス(Kauns)のカウナス室内管のリーダーだったゲディミナス・ダリンケヴィチウスがカウナスや、ポーランドのトルン(Toruń)、ラトビアのリガ、現ロシアのカリーニングラードであるプロイセンのケーニヒスベルク、リトアニアのビルニュスなどからメンバーを集めて結成されたオケ。ネットなどを調べてもオケの情報がないことから、このアルバムの録音前後に結成された一時的な団体と想像しています。

ヨーロッパの辺境たるポーランドやバルト三国あたりの腕利き奏者によるこのアルバム、以前からポーランド系の奏者のハイドンは良いという原則どおりの素晴らしい演奏です。

1曲目のテレマンからオケに生気が漲り、ホルンもころがるような見事な音階を聴かせます。特にライヴ感というかちょっとワイルドなホルンの音階の魅力をもっています。このズビグニェフ・ツーク、只者ではありませぬ。

Hob.VIId:3 / Concerto per il corno [D] (1762)
お目当てのハイドン。オケの音色はちょっとザラつき気味ですが、先に触れたように生気が漲り、活き活きとした伴奏が心地いいですね。ホルンは少し荒削りながら力強い音色。オケはアクセントが効いてピリリと引き締まっています。ハイドンの意図通りホルンの低い音の面白さをあえて音量を落として強調。からりと晴れ上がる青空のような痛快な伴奏に乗って、ホルンが気持ちよさそうにメロディーを置いていきます。ホルン好きにはたまらない恍惚感。カデンツァは流石と思わせる高音の伸びを聴かせ、ちょっとアルペンホルンのような深々とした響き、そして終盤低音のハーモニクスのような不思議な音色でこちらを驚かせます。
絶品なのがアダージョ。ダリンケヴィチウスのコントロールするオケは深い深い情感を湛えた実に豊かな音楽。過度な感情移入のベタつきはなく、むしろ清々しい情感。ホルンの音程が下がるたびにゾクゾクするような快感が走ります。なんと力強いホルン! 至福の音楽にうっとり。2楽章のカデンツァは静寂と戦慄が同居する素晴らしいホルンを堪能できます。神々しいとはこのこと。ハイドンの世界へトリップ。
フィナーレは落ち着いた入り。あえて正当な表現に戻し、ハイドンの純粋な音楽の面白さを際立たせます。すぐにホルンの音階のキレの良さにハッとさせられます。ホルンとオケのメロディーのやり取りのリズミカルな面白さやメロディーのキレに唸らされます。終楽章のカデンツァもキレの良さとホルンの響きの面白さに圧倒されます。参りました。

この後のモーツァルトも絶品の超名演。オケが踏み込んで素晴らしい気合い。これほど踏み込んだオケははじめて。ホルンも図太くしなやか。私見ですがデニス・ブレイン/カラヤン盤を凌ぐ名演と断じます。これは素晴らしい!

全く存在を知らなかったズビグニェフ・ツークとゲディミナス・ダリンケヴィチウス率いるバルチック・ヴィルトゥオージですが、あまりに見事な演奏にノックアウトです。久々に鳥肌がたつような名演奏に出会いました。深々としたホルンの音色を万全に捉えた録音も見事。完璧なアルバムといっていいでしょう。これがツーク自身が興したレーベルからリリースされているということが問題です。大手レーベルはこの絶品の演奏をリリースせずに何をしているのでしょうか。やはり奏者のネームバリューがないと商売にはならないということでしょうか。ネット世代の現代でこそ、この素晴らしい音楽の価値を広く知らしめるべきですね。アルバムが手に入るうちにどうぞ! 評価は[+++++]しかありえません。

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