作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

アイザック・スターンのヴァイオリン協奏曲(ハイドン)

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気づいてみればもう年の瀬。

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アイザック・スターン(Isaac Stern)のヴァイオリンと指揮、ヤーノシュ・ローラ(János Rolla)率いるフランツ・リスト室内管弦楽団(Franz Liszt Chamber Orchestra)の演奏で、モーツァルトのセレナータ・ノットゥルナ(K.239)、ヴァイオリンとオーケストラのためのアダージョ(K.261)、ヴァイオリンとオーケストラのためのロンド(K.373)、ベートーヴェンのヴァイオリンとオーケストラのためのロマンスNo.1、No.2、ハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:4)の6曲を収めたアルバム。収録は1996年5月12日から14日、ブダペストのイタリアン・インスティテュートでのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

皆さんご存知の大御所アイザック・スターンのヴァイオリン協奏曲。これまで手元にアイザック・スターンのハイドンのアルバムはありませんでした。このアルバムも湖国JHさんがこちらの所有盤リストにないものを貸していただいているもの。このアルバムに興味をもったのがヴァイオリンがスターンというだけでなくオケがヤーノシュ・ローラ率いるフランツ・リスト室内管であること。ヤーノシュ・ローラとフランツ・リスト室内管といえば受難、告別の素晴らしい演奏が記憶に残っていますし、協奏曲の伴奏でも何枚かのアルバムに登場しています。

2013/06/22 : ハイドン–交響曲 : ヤーノシュ・ローラ/フランツ・リスト室内管の受難、告別
2010/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ペレーニの至芸、チェロ協奏曲
2010/06/05 : ハイドン–協奏曲 : ハイドン第2のホルン協奏曲?

特に告別の演奏は絶品。私のイチオシ盤ですが、残念ながら非常に入手しにくい状況です。ヤーノシュ・ローラとフランツ・リスト室内管の情報は告別のアルバムの記事を御覧ください。

ヴァイオリンのアイザック・スターンは有名どころですが、調べてみるとハイドンの録音はあまりなく、今日取り上げる以外にはランパル、ロストロポーヴィチと組んだロンドントリオのアルバムがあるくらいのようです。ロンドントリオのアルバムも手元になかったため注文を入れてみました。
アイザック・スターンは1920年、ウクライナに生まれたヴァイオリニスト。1歳の時に家族とともにサンフランシスコに移り、早くから母親から音楽教育を受けます。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年にピエール・モントゥー指揮のサンフランシスコ交響楽団との共演でデビュー、その後世界的に活躍しています。小澤征爾との親交があったことから日本でもテレビ番組などを通してよく知られた存在でしょう。パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨー・ヨー・マら新進の奏者はスターンとの共演を通して一流どころとなるなど、音楽家の育成にも大きな貢献のあった人でした。アメリカ同時多発テロ事件があった2001年、そのテロの直後に心不全で亡くなったとのこと。

実はハイドン以外も含めてスターンの演奏はあまり聴いた事はなく、手元にあるのはアバドとロンドン交響楽団メンバーとのベルクの室内協奏曲とバーンスタインとニューヨークフィルとのベルクのヴァイオリン協奏曲をまとめたCBSのアルバムくらい。ベルクのヴァイオリン協奏曲といえばクレーメルの冴え冴えとしたアルバムを愛聴していたので、スターンのヴァイオリンのちょっと骨太な印象が鮮明に記憶に残ることはありませんでした。

今日取り上げるアルバムはハイドンのヴァイオリン協奏曲が最後に置かれ、最初にモーツァルト、そしてベートーヴェンという配置。冒頭のセレナータ・ノットゥルナから聴き始めましたが、指揮も兼ねるスターンの音楽は快活なもの。虚心坦懐に弾き進めるこのセレナータ・ノットゥルナはいいですね。この録音時スターンは76歳ということですが、音楽には誠実さと爽やかさが満ちています。

Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
最後に置かれた名曲、ハイドンのヴァイオリン協奏曲。オケの序奏は流石フランツ・リスト室内管、落ち着いた進行にもかかわらず華やかな色彩感に彩られ、パッと花がさいたよう。スターンのヴァイオリンはモーツァルトの時とは異なり、いぶし銀の渋さ。録音のバランスは明らかにオケ主体。スターンはオケに花を持たせようとしているのか、渋めにサラサラと運びます。ことさらヴァイオリンの美音を聴かせようというようなそぶりを見せず、逆にハイドンの書いたメロディー自体にこそ美しさが宿っていると言わんばかりの淡々としたスタンス。聴いているうちにこのスターンの謙虚な音楽に打たれます。もしかしたら自らの力の衰えを知ってのことかもしれませんね。カデンツァでは音に宿るエネルギーは限られるものの、弓運びのキレは流石。縦横無尽な弓運びにうっとり。雄弁かつ華やかなオケに支えられた老スターンの謙虚な音楽と往時をしのばせる華麗な弓捌きを堪能。
アダージョ楽章は暖かなオケの音色に癒されます。ヤーノシュ・ローラ率いるフランツ・リスト室内管の面目躍如。ジャケットに写るスターンの姿を彷彿とさせるあらん限りの集中力で音楽を生み出していくような素晴らしい音楽。なぜかこのスターンの淡々とした演奏が心に沁みます。美しいメロディーをかみしめるようにじっくりと描いていくスターン。2楽章のカデンツァではテクニックを凝らすことはなく、メロディーの美しさのみを浮き彫りにするような純粋無垢な音楽。迎えにきたビロードのようなオーケストラのあまりの柔らかさにはっとします。
フィナーレは折り目正しさの限りを尽くしたフランツ・リスト室内管に応えるようにスターンのヴァイオリンにも力が漲ります。豊かな残響に包まれながらオケがスターンを支え、スターンもそのエネルギーが乗り移ったように力を振り絞って弓を引きます。最後は素晴らしいオケの響きが耳に残る名演でした。

アイザック・スターン76歳時のヴァイオリン協奏曲の録音。ヤーノシュ・ローラとフランツ・リスト室内管のスターンに対するリスペクトの結晶のような演奏であり、告別の演奏で聴かれたあのすばらしいオーケストラの響きが再び鳴り響きました。技巧の限りを尽くした圧倒的な独奏だけが協奏曲の演奏ではなく、この染み入るような虚心坦懐な独奏も協奏曲の姿の一つ。名演ひしめくハイドンのヴァイオリン協奏曲の中ではイチオシとはいきませんが、この演奏の息吹は貴重なものです。評価は[++++]とします。

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