【ブログ開設5周年記念】ピノック/イングリッシュ・コンサートによる交響曲集(ハイドン)
普段はかなり飽きっぽい性格の私が5年にわたって記事を書き続けてこれたというのは、かなり希少なこと。普段の仕事も忙しいのですが、家に帰ってから音楽をあれこれ聴いて、ちょっと背景を調べて、そして聴いた印象を文章にするというそこそこ時間のかかる作業をこれだけの期間続けられているというのも、ハイドンの音楽の素晴らしさとともに、このニッチな分野のブログを読んでコメントやメールなどを送ってくださる皆さんの存在があってのこと。あらためて読者の皆様に感謝申し上げます。
5年たったからどうだというのは特にないものの、なんとなく節目感はあります。こんな心境になったのは、2010年12月のブログ開設1周年と、昨年10月に記事数が1000記事となった時。それからまだ1年少しですので、もちろんブログは続いておりますが、毎日書いたり、義務感が生じてしまっては長続きしませんので、無理なく気楽なペースでやらせてもらっています。ということで、次は10年か、はたまた2000記事の時にまた振り返ることにしましょう。
さて、当ブログの本分は演奏のレビューでありますから、戯言だけ言っているわけにはまいりません。この機会になにかいいアルバムをと考えて、今日取り上げたのはこちら。

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トレヴァー・ピノック(Trevor Pinnock)指揮のイングリッシュ・コンサート(The English Consert)の演奏で、ハイドンの交響曲35番、38番、39番、59番「火事」の4曲を収めたアルバム。収録は38番と火事が1988年4月、残りは1989年2月、ロンドンのヘンリーウッドホールでのセッション録音です。レーベルは名門ARCHIV。
このアルバム、以前に記事で書いたように、私がハイドンにはまるきっかけとなったピノックの交響曲集。
2010/01/24 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-3
2010/01/23 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?-2
2010/01/21 : ハイドンねた : 私はなぜハイドンにはまったのか?
何度もリンクしているので、今更ではありますが、私がハイドンに興味をもつに至った経緯をブログの初期に書いたものです。この記事で書いているように、このピノックのハイドンの疾風怒濤期の交響曲集が私がハイドンに興味をもつきっかけとなった演奏なんですが、なかでもで最初に第1巻としてリリースされたこのアルバムとの出会いが本当の原点。今はなき六本木WAVEの店頭でモーツァルトに飽きてきた心境でこのアルバムを手に取らなかったら、ハイドンにこれほど興味を持つことはなかったかもしれません。ということで原点を振り返るために今日はこのアルバムを取り上げた次第。
2011/04/06 : ハイドン–交響曲 : ピノックのラメンタチオーネ、受難、58番
2010/11/18 : ハイドン–交響曲 : ピノック/イングリッシュ・コンサートの朝、昼、晩
2010/09/08 : ハイドン–ピアノソナタ : ピノックのソロ、ウィグモアホールライヴ
いつものようにピノックの過去の記事を振り返ってみると、どの記事でも振り返ってましたね(笑) やはりピノックのこの曲集は私の原点なんです。
実に久しぶりに取り出しで聴きます。このアルバムを手に入れた1991年頃のクラシック界はまさにモーツァルトの生誕200年アニヴァーサリーで祭り騒ぎ。小学館とPHILIPSと組んでモーツァルト全集が発刊されたり、様々な企画物もリリースされ、景気もバブル絶頂期で全て右肩上がりな世の中でした。当時はモーツァルトのかなりの曲のアルバムを手に入れ、交響曲ではホグウッドのモーツァルトの交響曲全集を1巻ずつ手に入れ、古楽器演奏の潮流に飲み込まれるような勢いでモーツァルトの初期交響曲集を聴き込んだものでした。特にモーツァルトの初期の作品の千変万化する響きに引き込まれ、いろいろ聴いたものの、鮮やかな響きの変化にもちょっとしたものたりなさを感じるようになっていた、まさにその時、このアルバムが売り場で目に入ったわけです。モーツァルトのちょっと前の時代のハイドンの初期交響曲集。しかも当時バッハやヘンデルなどの演奏で一世を風靡していたピノックのアルバムということで、なんとなく手に入れた一枚。家に帰って聴いてみたときの驚きというか新鮮さは今でも忘れません。ほの暗い雰囲気のなか、曲ごとに構成感に満ち、一曲一曲が実によくできていて飽きさせません。もちろん、当時リリースされていた第2巻以降のアルバムを手にいれることは即断でした。この閃きのような瞬間が、その後の私の興味を決定づけたわけです。もちろん、このアルバムのインパクトもありますが、当時のモーツァルトにちょっと飽きてきたという私の心情もあって、ハイドンの魅力がひときわ鮮明に浮かび上がったというところでしょう。
私のハイドンへの興味の本当に原点たるこのアルバム。今聴くとどのように聴こえるのでしょうか。
Hob.I:35 / Symphony No.35 [B flat] (1767)
躍動感にあふれたピノックのコントロールする古楽器オーケストラ。流れるメロディーと独特の音色が相俟って脳の郷愁中枢を直撃。痺れます。このアルバムをはじめて聴いたときの衝撃というか興奮が再来。なんたる屈託のなさ。エネルギーに満ちたオケが小気味よく晴朗なのに少し陰りのある音楽を奏でていきます。ホルンが音が割れるほどのアクセントで曲を引き締めます。モーツァルトとは全く異なるキリリと引き締まった構成感。1楽章の躍動に対して、2楽章の穏やかな表情のアンダンテ。シンプルなのに慈しみ深いメロディー。演奏は端正なのにメロディーの向こうに人知れぬ情感が宿って妙にあたたかい気持ちになります。ピノックのコントロールは情に流されることなく淡々とメロディーを置いていくのですが、それがかえっていいんですね。メヌエットでは直裁な表情で一段落、そしてキレ味鋭く畳み掛けるようなフィナーレ。金管と木管、弦楽器群のメロディーのやりとりのキレのいいこと。響きの良いヘンリー・ウッド・ホールであえてオンマイク気味にとらえたイングリッシュ・コンサートのざらついたような響きの迫力がスピーカーから吹き出します。ホルンの美しい響きがアクセントになりますね。シリーズの出だしを飾るのにふさわしい素晴らしい出来。古楽器草創期の演奏ということで多少古さを感じるかと思いきや、今も新鮮です。
Hob.I:38 / Symphony No.38 [C] (before 1769)
そしてなによりビックリしたのがこの曲。一体どうしてこのような曲想が生まれたのか想像がつかないほど斬新というか、予想だにしないメロディーに本当にビックリ。祝祭感あふれるものの、根本的にユーモラスな印象もあり、この曲を最初にニコラウス侯に聴かせる機会はどんなものだったのでしょうか。ピノックの演奏はこの曲の祝祭感を際立たせる方向で、リズムのキレと金管が前に出てくるエネルギーが素晴らしいものです。まさに交響曲の演奏でトランス状態寸前。ピノックは確信犯的にこの奇怪な1楽章のエネルギーに焦点を当てた演奏。この曲が素晴らしいのは2楽章のアンダンテ・モルトの静謐な美しさ。ヴァイオリンの奏でる美しいメロディーに聴き入ります。そして堂々としたメヌエットが切々と美しく進んできた静寂を切ります。ピノックの迷いのないメリハリの効いた直裁なコントロールが曲の良さを素直に伝えます。フィナーレに入るとやはり鮮やかなオケのキレ味が聴きどころですが、なかでもオーボエが上手さが際立ちます。いま聴き直すと、ピノックのこのシリーズにかける意気込みのようなものが伝わる素晴らしい演奏です。
Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
短調の名曲。先日交響曲全集の第1巻をリリースした、イル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏を取り上げたばかりですが、録音の鮮明さは時代の違いを感じさせるものの、あらためて聴き直すとこちらもエネルギー感みなぎる素晴らしい演奏。キビキビとした運びとテンポのキレの良さはピノックならでは。有無をも言わせぬ説得力があります。この曲も2楽章がアンダンテ。ピノックの踏み込みすぎないアンダンテはどの曲も好感触。適度なメリハリをつけながら切々とメロディーを描いていきます。メヌエットからフィナーレの後半の展開はちょっと力任せになってしまっているかもしれません。
Hob.I:59 / Symphony No.59 "Feuersymphony" 「火事」 [A] (before 1769)
最後は「火事」と名付けられた曲。1774年にエステルハーザを訪れたヴァール劇団の「火事」という演劇の間奏音楽として作曲されたとのこと。1楽章からコミカルなメロディーが印象的な曲。1楽章は緊密な構成をタイトに表現するピノックのスタイルにピタリとあった曲。そそくさと進む1楽章に対し、しっとりとした曲調の2楽章が聴きどころでしょう。告別の最後に出てくるメロディーに似ていてちょっとセンチメンタルな印象。コンティニュオはピノック自身が弾くハープシコードですが、この音色が繊細な印象を残しています。2楽章の余韻を上手く踏まえた軽いタッチのメヌエットをはさんで、フィナーレに突入。やはりピノックのコントロールするオケはフィナーレのような入り組んだスコアをキリリと引き締めて演奏するのが得意のよう。ホルンがあまりに見事なのでメンバー表を見るとアンソニー・ホールステッドの名が見えます。ヴァイオリンにはサイモン・スタンデイジやアンドリュー・マンぜの名もあり、この時期のイングリッシュ・コンサートの充実ぶりが伺えます。
実に久々に取り出して聴いたこのアルバム。1991年ということで今から20年以上も前にハイドンに傾倒するきっかけを作ってくれたアルバムだけに、その時の感動が再び蘇りました。ピノックのタイトなコントロールでハイドンの名曲がキリリと引き締まった姿で浮かび上がります。このアルバムの各曲の評価はあまり高くつけてはいませんでしたが、いま聴き直しても、その新鮮さはなかなかのもの。その後色々な演奏を聴いてのこのアルバムの評価でしたが、ちょっと過小評価でした。あらためて評価をつけると、39番の後半、ちょっと型にはまった印象を残したのを踏まえて[++++]、他の曲は[+++++]とします。冒頭の35番、そして度肝を抜く38番、最後の「火事」の見事なエネルギー感は今もってハイドンの交響曲の名演奏としてオススメできるものです。
さて、次のブログ開設10周年を目指して、淡々とレビューを続けていくといたしましょう。皆様今後ともよろしくお願いいたします。
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