絶品! アルベルト・リジーのヴァイオリン協奏曲集(ハイドン)

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アルベルト・リジー(Alberto Lysy)のヴァイオリン、カメラータ・リジー・グシュタード(Camerata Lysy Gstaad)の演奏で、ハイドンのヴァイオリン協奏曲3曲(Hob.VIIa:1、VIIa:3、VIIa:4)を収めたアルバム。収録は1979年11月及び1983年2月、ドイツハイデルベルク南にあるテイエ・ファン・ゲースト・録音スタジオ(Tonstudio Teije van Geest)でのセッション録音。レーベルはスイスのClaves。
このアルバム、しばらく前にディスクユニオンの店頭で発掘したもの。しばらく未聴盤ボックスに放り込んでそのままにしてあったのですが、先日用事で車で出かける際に未聴盤ボックスから何枚かランダムに取り出して、車の中でドライブがてら聞いてみると、恐ろしく冴え渡る尋常ならざるヴァイオリンの響きにびっくり。ヴァイオリニストのアルベルト・リジーははじめて聴く人ですが、あまりのインパクトに帰ってからちゃんと聴きなおして、再度びっくり。いやいや、世の中にはあまり知られていないのに凄い人がいるものです。ちょうどシュミット=ゲルテンバッハの悲しみを聴いた時の衝撃に近い物があります。
2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ
ライナーノーツなどによると、アルベルト・リジーはアルゼンチンのヴァイオリニストで指揮者。1935年にブエノス・アイレスに生まれ、2009年に亡くなっています。5歳からヴァイオリンを弾きはじめ、様々なコンクールで頭角を表すと、17歳でヨーロッパに渡り、1955年にブリュッセルで開催されたエリザベス女王国際コンクールで優勝します。その時審査員を務めたユーディ・メニューインに見出され、メニューイン音楽アカデミーで若いヴァイオリニストの指導役としてメニューインとともに教育にあたることになり、その生徒を集めて結成されたのがこのアルバムのオケのカメラータ・リジー・グシュタードということです。
ライナーノーツの最後のページにはメニューインのサインとともに次のような一文が掲載されています。
「メニューイン音楽アカデミーの最高の成果はカメラータ・リジー・グシュタードであり、この音楽院で学んだ優秀な若者らによる室内管弦楽団は、私の真の協働者であるアルベルト・リジーの指導の元、世界的に高く評価されています。」
このメニューインの言葉が表すとおり、リジーのヴァイオリンもオケも鬼気迫るような素晴らしい演奏を聴かせています。なんの予備知識もなく聴いてのけぞった戦慄の演奏。
Hob.VIIa:1 / Violin Concerto [C] (c.1765)
録音は音がちょっと硬いですが、その分弦楽器の素晴らしい浸透力が強めに表現されています。オケは自然な入りではありますが、冒頭から研ぎ澄まされた尋常ならざる響き。すぐにリジーのヴァイオリンが入りますが、ストラディバリウスかグァルネリかわかりませんが、こちらも美音轟く素晴らしい響き。オケもソロも鬼気迫るとはこのこと。メニューインが自身の音楽院の最高の成果と呼ぶのもうなずけます。ハイドンの書いた音楽の美しさを伝えるというよりは、ヴァイオリンという楽器の真価を問うようなストイックさ。ヴァイオリンの磨き抜かれた高音が脳髄に直接届いて痺れます。1楽章のカデンツァは超絶技巧による長大なもの。聴く方も正対してこのエネルギーを受け止めなくてはなりません。
きらめく夜空の星のように美しいメロディーの2楽章のアダージョですが、ピチカートの伴奏はかなり抑えて、冒頭からリジーのヴァイオリンの唸るような美音に圧倒されます。カントロフのヴァイオリンも素晴らしかったんですが、こちらのほうがエネルギーが勝るでしょうか。これほどまでに美しいヴァイオリンそろがあったかと驚嘆。カデンツァはあの世の音楽のような研ぎ澄まされ方。オケが実に静かに最後はソロを受け止めます。
フィナーレはオケもキレまくり。流石にリジーの指導を受けた奏者が集まっているだけのことはあります。奏者全員の楽器が異常に良く鳴って、アンサンブル全体にエネルギーが満ち溢れます。フレーズ毎に巧みにテンションをコントロールしてたぐいまれな音楽の立体感。ソロもオケもキレまくって脳内にアドレナリンが溢れます。冴え冴えとした名演奏。空手の形の妙技を見るような素晴らしいメリハリ。完全にノックアウトです。
Hob.VIIa:3 / Violin Concerto "Merker Konzert" 「メルク協奏曲」 [A] (c.1765/70)
あまりに素晴らしくてもう少し曲間の静寂が欲しいほどですが、容赦なく次の曲の美音が轟きます。落ち着いた曲想から入るにもかかわらず、またしてもノックアウト間違いなしの素晴らしい覇気が噴出。響きに奏者の気合というか生気が乗って、落ち着いた演奏にもかかわらず素晴らしい緊張感。この曲ではリジーの高音ではなく唸るような低音の魅力も見せつけます。並の奏者には一生たどりつけないような高みが続きます。聴き進んでも前曲同様、エネルギーに隙のない見事な演奏。楽章ごとのレビューは不要でしょう。
Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
華やかな開始はこのコンビの演奏で一層華やかに聴こえます。ふとしたところの陰りが華やかさを一層引き立て、音楽から芳香が立ち上るよう。ソロもオケもメロディーのエッジがキリリと引き締まっているので音楽に緩みがなく、孤高の美しさ。強音は言うに及ばず、抑えた部分の美しさは鳥肌が立つよう。もはや言葉で表現する必要もないでしょう。レビューというよりゆっくりとこの素晴らしい演奏に浸らせていただきます。
ハイドンのヴァイオリン協奏曲の曲自体の美しさにはレビューで何度も触れていますが、このアルベルト・リジーのヴァイオリンは、その曲の美しさを極限まで追い詰めた高みに達しています。オケのカメラータ・リジー・グシュタードのグシュタートはスイスのアルプスの麓の山村のようですが、ここでメニューインとリジーが若者に音楽を教えていたようです。美しいアルプス雨の麓で音楽に没頭できる素晴らしい環境が、このアルバムに収められた美しい音楽を産んでいるに違いありません。メニューインが生涯をかけて取り組んだ音楽教育の最高の成果と認めたリジーとカメラータ・リジー・グシュタードの奇跡の音楽がこここにあります。評価はもちろん全曲[+++++]とします。
この冴え冴えとした音楽、是非聴いてみてください。amazonならまだ入手可です。
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