作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

珍盤 カスバル・ダ・サロ四重奏団のひばり、皇帝など(ハイドン)

2
0
ちょっと前にディスクユニオンで仕入れたアルバム。

CasparDaSaloQ.jpg
amazon(mp3)

カスバル・ダ・サロ四重奏団(Caspar Da Salo Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.1のNo.1、Op.64のNo.5「ひばり」、Op.76のNo.3「皇帝」の3曲を収めたアルバム。収録年、収録場所の表記はなくPマークが1988年とだけ記載されています。レーベルはDigital Concerto。

このアルバム、音楽専門のレーベルではなく、量販店で売られるクラシックベスト的な感じの造りで、なんとなく怪しい雰囲気のもの。日本向けのものではなく解説は英語のみですが、ハイドンに関する短い解説と、このシリーズの有名作曲家による名曲を集めたシリーズの一覧カタログが載ったもの。ジャケットの下部には誇らしげに”60+ MINUTES”と書かれているあたりも思いっきり安っぽい感じです(笑)

店頭で見かけた時は、もちろん手に入れるのを躊躇しましたが、ハイドンのコレクションを充実させるという目的のみで入手。しばらく未聴盤ボックスに寝かしてありましたが、先日何気なしに聴いてみると、意外や意外、なかなかいい演奏なんです、これが!

あわててネットで奏者であるカスバル・ダ・サロ四重奏団について調べてみても情報はなし。メンバーもわかりません。英語のサイトをいくつかたどると、気になる書き込みがあり、このクァルテット名は恐らく仮名で、実際は別のクァルテットではないかとのこと。このアルバムこうした廉価盤として長らく流通しており、おそらく欧米では知られた存在なのでしょう。なんだかよくわかりませんが、実際の演奏は素直な名演奏ということで、取り上げることにしました。たまには珍盤も良いでしょう。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
木質系の弦楽器の直裁な響きがダイレクトにつたわる素直な録音。やや速めのテンポでサクサクと進めていくことで非常に快活な印象。ハイドン最初の弦楽四重奏曲の面白さが実に素直に表現されています。先日聴いたペターセン四重奏団はアーティスティックなまでに昇華された見事な演奏でしたが、こちらはまさにオーソドックスな演奏。弦楽四重奏曲の見本のような端正さ。とても廉価盤レーベルの録音とは思えない、なかなかいい演奏です。奏者間のバランスと対比も見事。
この曲は5楽章構成のはずですが、このアルバムではなぜか4トラック。聴いてみると4楽章と5楽章が一緒になっているのはいいのですが、本来2楽章はメヌエットで、3楽章がアダージョであるところ、2楽章はアダージョで3楽章はメヌエットとの表記。この辺も廉価盤レーベルならではということでしょう。演奏がいいだけに惜しいところです。続くメヌエットでは一糸乱れぬアンサンブルの緻密さ、アダージョに入ると誰だかわからない第1ヴァイオリンの落ち着きながらもピンと張り詰めたヴァイオリンの美音にグッときます。しっとりと染み渡るような演奏。これはかなりの腕前です。4楽章のメヌエットは程よいメリハリ、そしてフィナーレでは自然な流れで壮麗な雰囲気をうまく描いていきます。なかなか聴き応えのある演奏でした。

Hob.III:63 / String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
前曲同様速めのテンポであっさりとしながらも勘所を抑えた入り。有名なこの曲も実に堅実な音楽に引き込まれます。演奏の安定感というか、スタンスの一貫性も流石なところ。ちょっとやそっとの腕前ではここまで安定した音楽を奏でることはできません。テンポのせいか、非常に見通しの良い音楽となっています。ハイドンの音楽は素直な演奏ほどその良さが生きるということでしょうが、聴き進むとフレーズごとの表情付けも見事で、この一貫性とそのなかでの音楽の造りかたのバランスは絶妙。前曲以上に演奏の上手さに驚きます。
続くアダージョ・カンタービレは圧巻。一貫したスタイルはそのままに、大きく波打つ音楽を凛々しく表現。弦楽四重奏曲の真髄に迫る鬼気迫る音楽を奏でます。ここまでの演奏が聴けるとは思いませんでした。他の一流どころの演奏に引けをとるどころか、全く遜色ないもの。この楽章でこれほどの音楽を聴かせる演奏は滅多にありません。
すっかり奏者のペースにはまってしまっています。メヌエットも、各奏者が代わる代わるメロディーを引き継いでいくところのやりとりの見事さに耳を奪われます。そしてフィナーレに続きますが、ほどよいキレと少し溜めるような音階の表現が最後に個性を残すよう。いやいや見事なひばりでした。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
最後は名曲皇帝。すでに耳は鋭敏になり、前のめりで聴きます。相変わらず速めのテンポでサクサク入ります。すぐにアンサンブルの面白さに引き込まれます。よく聴くと、速めのサクサク進める部分と、ゆったりとメロディーを奏でる部分の対比をうまく使いわけて音楽に活気を保っていることがわかります。それが実に自然に変化するので実に味わい深い音楽になって聴こえるということでしょう。
ドイツ国歌の2楽章は自然なしっとり感を残した柔らかな表情で淡々と耳に残るメロディーを奏でていきます。ゆったりと歌われるメロディー。チェロのちょっと燻らしたような音色が独特の味わいを加えています。この楽章の深みも見事なもの。これだけの深い淵を聴かせる演奏はそうはありません。絶品!
一転、軽いタッチの音楽に変わります。自ら奏でる音楽の範囲の中での安定した表情の変化。安心して音楽に没頭することができます。メヌエットでも描き方で音楽の印象が大きく変わりますが、この安定感は流石です。そしてフィナーレは前曲同様、華やかさだけを狙うのではなく、あえて少し重さもともなった落ち着いたもの。技巧重視でくるとグイグイ攻め立ててくるパターンもありますが、この落ち着いたフィナーレこそ、曲の流れを崩さないものと言いたげです。終盤すこし音程が落ち着かないところもありますが、よくまとまった演奏でした。

カスバル・ダ・サロ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。奏者の実態もわからず、廉価盤然とした造りにもかかわらず、演奏は一級品と言っていいでしょう。特に「ひばり」は見事の一言。オーソドックスな演奏ではかなりいい線いっています。このアルバム、他の有名なクァルテットの演奏のコピーである可能性も否定できませんが、手元のアルバムのタイミングを見ても近いものがなく、その線はなさそう。逆に腕利きの奏者たちが、なんらかの理由で名を明かさずに録音したものかもしれません。その辺は想像しているうちが楽しいわけであります。万一このアルバムの出自がわかる方がありましたら教えていただければと思います。さて、評価はひばりが[+++++]、残り2曲は[++++]とします。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

2 Comments

There are no comments yet.

小鳥遊

これ、確かにいい演奏なんですよね。
昔、聴いてそう思いました。

ハイドンの録音も、他にも幾つかあるんですが、幽霊団体なので、盤毎に実際の演奏団体は違うんじゃないかとも思います。

一説に、イタリア・カルテットの演奏では、なんて言われていた様な。

東欧の放送録音の横流しでしょうね。

Daisy

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。

この演奏、現在はmp3などのデジタル音源で広く出回っているようですね。聴いたこともある人が少なくないようです。
> 東欧の放送録音の横流しでしょうね。
なるほど、それはありそうですね。これだけいい演奏ならば奏者名を明かしても良さそうなのに、、、 大人の事情があるのでしょうね。

  • 2014/12/01 (Mon) 07:39
  • REPLY