作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ギルバート・カリッシュのピアノソナタXVI:52(ハイドン)

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本日はマイナー盤。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ギルバート・カリッシュ(Gilbert Kalish)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:52)、ベートーヴェンののバガテル(Op.119)、シューベルトのピアノソナタ第21番(D.960)の3曲を収めたアルバム。収録は2013年9月19日、米ボストン近郊にあるタフツ大学のグラノフ・ミュージック・センターのディスラー演劇ホールでのセッション録音。レーベルはニューヨークのBRIDGE。

私の情報収集能力以上に世の中は広く、またしても全く知らないピアニストによるハイドンのアルバムがリリースされました。学者然とした姿の老ピアニストが腕組みをして写るジャケットもちょっと気になり、手に入れた次第。まずは奏者について調べてみます。

ギルバート・カリッシュは1935年、ニューヨークに生まれたピアニスト。当初はピアニストに師事して学びましたが、現代音楽室内アンサンブルを創設し1960年代から70年代に頭角を現わしました。1969年から1999年までの30年にわたり、ボストン交響楽団チェンバー・プレイヤーとして活動しています。アイヴズ、クラム、カーター、キルヒナーなどアメリカ現代音楽の録音でも知られていますが、ノンサッチにはハイドンのソナタの録音もあったということで、ハイドンも得意としていたようです。また、メゾソプラノのジャン・デガエターニと30年にわたって共演を重ね、数多くの現代音楽の録音を残しています。教職ではニューヨーク州立大学やタングルウッド音楽センターなどで要職にあったとのこと。

このカリッシュが80近い年齢で、ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトという古典的なプログラムを録音するということで、その意図はどこにあるのかと、ライナーノーツを読んでみると、末尾に本人のメッセージがありました。どうやらこのアルバム、長年つれそった奥さんに捧げられたもので、選曲は奥さんの好きな曲とのこと。なんとなく合点がいきました。

現代音楽を得意としていたカリッシュ。80近い年齢での古典的なソナタの録音、奥さんの心を打つ慈しみ深い響きが聴かれるでしょうか。

Hob.XVI:52 / Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
最新の録音だけあって、ピアノの豊穣な響きがよく録られています。適度な残響をともなう録音ですがリアリティもあります。カリッシュのピアノは非常におおらかな演奏。タッチはすこし乱れるところもありながら、紡ぎ出される音は宝石のよう。晩年のアラウのように魂で弾くような雰囲気が感じられます。基本的には現代音楽を得意とした人だけに、音楽は客観性があり、クッキリとした表情を的確に描いていきますが、そこここにしなやかな雰囲気が漂い、カッチリとした印象ではなく、訥々と音を重ねていく印象が強い演奏です。特に弱音のキラメキ感がいい雰囲気を醸し出しています。
アダージョに入ると、一段とくつろいだ雰囲気になります。間を印象的にとりながら、テクニックはあるのに、ちょっと余裕をみせて遊んでいるよう。中盤に入り、音量が下がる部分では磨き込まれたタッチの美しさをさりげなく聴かせ、ところどころクッキリとしたアクセントで曲のメリハリを確保。この弱音をクッキリと引き立たせながら描いていくあたりは円熟の技でしょう。自在なタッチで余裕の進行。しっとりしなやかなアダージョ。
3楽章の入りへの音階は、ハッとするような緊張感に満ちていました。妙に心に響く音階。人によっては畳み掛けるような迫力で聴かせるところですが、カリッシュはピアノの一音一音ごとの響きの純度で聴かせようとしているよう。このアプローチ、好きですね。3楽章になってタッチの乱れはほぼなくなり、軽やかに速いパッセージをこなしていきます。まさに無我の境地のような純粋無垢な響きの魅力で聴かせる演奏。

現代音楽で鳴らしたピアニストが奥さんのために残した清らかなハイドン。力みは全くなく、音符をじっくりと音にしていくところは、まさに現代音楽のスペシャリストらしいものですが、ピアノの磨き抜かれた響きの美しさに焦点を合わせ、無欲で演奏しているような境地を感じさせます。これだけ澄み切った心情になるためには、長い年月が必要なのでしょう。音楽がメッセージだとわかるような美しい演奏でした。地味で素朴な演奏ですが、ここには心に刺さる何かがある、素晴らしい演奏でした、評価は[+++++]をつけました。

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