【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲39番、グルックの「ドン・ジュアン」、ハイドンの交響曲49番「受難」、交響曲1番のあわせて4曲を収めたアルバム。収録は2013年10月20日から24日、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはAlpha Productions。
Alpha Productionsのアルバムはマーキュリーが丁寧な解説の翻訳をつけて国内に流通してくれているのでお気に入りです。久々に会社帰りにTOWER RECORDS新宿店に立ち寄った際、ハイドンの棚でこのアルバムを発見。なんとハイドンの交響曲全集の第1巻とのことで、つい手が伸びてしまいました。しかも意味ありげに「Haydn2032」とアルバムにデザインされたロゴが記載されているではありませんか。18年後のハイドン生誕300年のアニヴァーサリーでの完成を目指しているという意味でしょう、かなり壮大な計画。
ご存知のように、ハイドンの交響曲全集は1人の指揮者のものとしては、現在アンタル・ドラティ、アダム・フィッシャー、デニス・ラッセル・デイヴィスのものがあり、それに続いて、トーマス・ファイが完成を目指して1枚ずつリリースをつづけています。古楽器では先日亡くなってしまったクリストファー・ホグウッドやロイ・グッドマンが多数の録音を残していますが、全集の完成を見ず頓挫してしまっています。ファイは純粋に古楽器の演奏ではなく管楽器のみ古楽器のオケでの全集ですので、このイル・ジャルディーノ・アルモニコの全集が完成すれば、古楽器による初の全集ということになろうかと思いましたが、解説を読んでみると、このプロジェクト、指揮者はジョヴァンニ・アントニーニが通しで務めますが、オケはイル・ジャルディーノ・アルモニコと、バーゼル室内管弦楽団と2つのオケが担当するということです。おそらく後半のパリセット以降くらいからバーゼル室内管が担当するということになるのではないかと想像しています。
ちなみに気になったので過去のハイドンの交響曲全集の録音期間を調べてみました。
ドラティ:1969年~1972年(4年)
アダム・フィッシャー:1987年~2001年(15年)
デニス・ラッセル・デイヴィス:~2009年?(約10年)
トーマス・ファイ(約2/3リリース):1999年~(ここまで16年)
ドラティは集中的に録音したということでしょうが、他のアルバムは10年以上かかっていることを考えれば、今回のプロジェクトの20年近い録音期間はとりわけ長いというわけでもなさそうです。まずは商業的に成功しないと、この全集の完成は危ういことになりますので、特に最初の数枚の出来はこの全集の成否を握ることになりそうですね。
さて、演奏者についても触れておきましょう。指揮者のジョヴァンニ・アントニーニは1965年ミラノ生まれの指揮者、リコーダー奏者。ミラノ市立音楽学校、ジュネーヴ古楽研究所などで学び、1989年、このアルバムのオケである古楽器オーケストラ、イル・ジャルディーノ・アルモニコを設立。イル・ジャルディーノ・アルモニコとはTELDECに膨大なヴィヴァルディの録音を残しており、17~18世紀のイタリア音楽の演奏で知られている存在ということです。近年ではハイドンの交響曲全集の録音を担当することになるバーゼル室内管とベートヴェンの交響曲全集を録音中であったり、また、ベルリンフィル、コンセルトヘボウに客演したりと活躍している人。
残念ながらヴィヴァルディは守備範囲外なため、アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコの偉業の評価をできる立場にはありませんが、ハイドンの交響曲全集の完成を目指すということで、ヴィバルディ風、いやイタリア風の輝かしいハイドンが聴けることになるのでしょうか。これは追いかけざるを得ません。
Hob.I:39 / Symphony No.39 [g] (before 1770)
シュトルム・ウント・ドラング期の短調の名曲を最初にもってきました。速めのテンポでまさに疾風怒濤の勢いで畳み掛ける迫力満点の演奏。古楽器オケですが典雅な響きというよりは、ざらついた音色が迫力を増すような切れ味鋭い響き。ファイの千変万化する響きとは異なり、推進力と迫力にエネルギーが集中しています。1楽章はまさに挨拶代わりに素晴らしいキレを聴かせます。
アンダンテに入ると落ち着きを取り戻しますが、くっきりとアクセントを効かせて、リズムの鮮やかなキレを引き立てます。落ち着いた音楽ですが旋律が活き活きと踊り、飽きさせません。続くメヌエットあえてさらりとこなしメロディーに潜む色彩感で聴かせる感じ。フィナーレに入るとまさにヴィヴァルディを彷彿とさせる嵐の場面のような盛り上がり。タイトに攻めてくる音楽。木管も金管も号砲のように轟き、弦もざわめくように響きます。文字通り疾風怒涛。アントニーニのめざすハイドンの響きを一番わかりやすく伝える曲かもしれません。
グルックのバレエ音楽「ドン・ジュアン」はオペラの音楽のような湧き上がる興奮が味わえるなかなかいい曲。
Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
最初の39番同様、シュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲。ほの暗いアダージョから始まる曲のコントロールが聴きどころ。穏やかなメロディーをじっくり描き、キレばかりではなくしっとりした表情の作り方もなかなかです。古楽器ならでは直裁な表現ながら、コントラストを落とし、短く音を切りながらも大きな波のようなうねりを加えて爽やかなほの暗さをあらわしていきます。
2楽章は予想どおりキレキレ。弦楽器のエッジがキリリと立って、クッキリとメロディーを描いていきますが、表現が適度で荒れた感じはしません。このへんのバランス感覚はハイドンの交響曲の演奏の勘所かもしれませんね。速めのテンポで要所にしっかりアクセントをつけてメロディーの面白さが引き立つこと! 力を抜く部分とアクセントの対比が実に巧み。さざめくように進む音楽が徐々に活気を帯びて自在に跳躍。
この曲でもさらりとしたメヌエットの魅力は健在。この独特のセンス、悪くありません。間奏曲のような軽さで音楽が流れ、箱庭的美学が感じられる面白さ。
フィナーレはそここに湧き上がるようなエネルギーをちりばめながらもまとまりよく速めのテンポで畳み掛けます。痛快に吹き上がるオケ。意外に正攻法なアプローチで曲の魅力をあえて引き出そうということでしょうか。
Hob.I:1 / Symphony No.1 [D] (before 1759)
最後は交響曲全集の第1巻にふさわしく交響曲1番をもってきました。ハイドンの交響曲の楽しさが全てつまった宝石箱のような小交響曲ですが、ワクワクするような魅力をストレートに表現。最初の39番で荒れ狂うヴィヴァルディっぽさの片鱗を垣間見せましたが、基本的にはまとまりよく躍動感を詰め込んだオーソドックスな演奏。メロディーのキレとコントラストが良いので、ダイナミックでハイドンの交響曲のスペクタクルな魅力がうまく引き出されているということでしょう。
アンダンテは速めの軽い足取りで、やはり爽やか。そしてフィナーレは壮麗爽快。アクセントを見事に効かせて素晴らしい躍動感。ハイドンの初期の交響曲の素朴な魅力をたっぷり味わえました。
新時代のハイドンの交響曲全集の第1巻を飾るにふさわしい、素晴らしい演奏でした。古楽器をダイナミックに鳴らし、クッキリとアクセントをつけていきますが、基本的に音楽のまとまりはオーソドックス。アーティスティックさを狙って、表現が重くなるということは一切なく、ハイドンの曲を演奏する悦びをストレートに表現しているような姿勢がハイドンの曲の真髄を突いています。これまでの交響曲全集のなかで一番曲を楽しめるアルバムとなりそうな予感です。これからレギュラープライスで1巻ずつ集めるのは、CD激安時代の現在、ちょっとハードルが高いかもしれませんが、ハイドンの交響曲全集を改めて聴きなおす良いきっかけかもしれません。私は激気に入りました。したがって評価は全曲[+++++]といたします。
次のリリースが待ち遠しいですね。


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No title
彼のベートーベンもまだ第九が残っているくらいなので全集完結を見ることができるか不でもあります。ベートーベンのバーゼル室内管はいわゆる折衷型ですが、低弦を厚めに編成しているので聴きごたえがありました。ハイドンはアルモニコ一本で完結して欲しいと、先は長いとしても何となくそう思っています。
Re: No title
当方アントニーニははじめて聴きますが、ハイドンには相性がいいと思います。想像ですが、ベートーヴェンにはちょっと楽観的すぎるかもしれませんね。
さて、ドラティの全集を入手されたとのこと。ハイドンの交響曲はドラティが原点です。彫りの深い峻厳なハイドンをご堪能ください。私は今でも全集はドラティ推しです!
古典派の音楽構造を無視して、バロック音楽の流儀でベートーベンをやった印象で(笑)
我々は、21世紀からベートーベンを振り返るけど、アントニーニは18世紀からベートーベンという異質な才能にご対面、そういう感じがして面白かったけど、続編のレーベルが変わったり、販売が遅れたりで、それっきりになってました。
ハイドンでも、そういうアプローチなのか、イル・ジャルのやりたい放題に期待してしまいます。
四季もブランデンブルクもヤンキーな演奏でしたから。
Re: タイトルなし
ヤンキーな演奏という表現、なんとなくわかります。ハイドンでもファイとはまた違った意味で溢れる創意を発揮してもらいたいところですが、最初のアルバムを聴く限り、いい意味でまとまりもあるので、ちょっと期待できるかなと思っています。全集を目指すということで、全集としての完成度が問われるわけですから。最初の5枚くらいが成否を決めるような気がしてます。ハイドンの大山脈、ぜひ完成させてほしいものです。