【新着】ジャン=エフラム・バヴゼのピアノ協奏曲集(ハイドン)

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ジャン=エフラム・バヴゼ(Jean-Efflam Bavouzet)のピアノ、ガボール・タカーチ=ナジ(Gábor Takács-Nagy)指揮のマンチェスター・カメラータ(Manchester Camerata)の演奏によるハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は2013年10月14日と15日、英マンチェスターの王立ノーザン音楽大学のコンサートホールでのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。
バヴゼのアルバムはソナタ集を過去に2度取り上げています。ソナタ集は現在第5巻までリリースされており、その途中で協奏曲集をリリースしたというところ。
2012/06/14 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.3
2012/05/22 : ハイドン–ピアノソナタ : ジャン=エフラム・バヴゼのピアノソナタ集Vol.1
これまでのソナタの演奏を聴く限り、フランスっぽい色彩感とドイツっぽい質実さを併せ持つ演奏スタイルの人。ソナタではピアニストの個性がそのまま出ますが、協奏曲ではオケとの丁々発止のやり取りがあり、指揮者やオケとの相性も加わるため、バヴゼの別の面が見えるかもしれませんね。
バヴゼの経歴などはソナタ集Vol.1の記事を御覧ください。指揮者のガボール・タカーチ=ナジは名前から予感はしてましたが、なんと、あのタカーチ四重奏団の元第1ヴァイオリン奏者。現在はマンチェスター・カメラータの音楽監督となっています。ということでバヴゼのピアノとともにガボール・タカーチ=ナジのコントロールするオケ、とりわけ弦楽セクションに関心が集まりますね。
Hob.XVIII:3 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
柔らかな肌触りのオケがしっとりとした伴奏を聴かせ、バブゼがクッキリとしたピアノで入ります。オケの生成りの音色に対し、クリアなバヴゼのYAMAHAのピアノの対比がわかりやすいですね。オケに比べてピアノのリアリティがちょっと弱いバランスの録音。鮮度は十分なので、これはバランスの問題でしょう。音量を上げると非常に鮮明な録音であることがわかります。バヴゼの転がるようなタッチが演奏に色彩感を与え、オケの方は実にタイトで堅実な演奏。パブゼはときおりアドリブをかまそうとしますが、オケの方は一貫して堅実。ノンヴィブラートの弦の透明感のある響きにときおりホルンの心地よい響きが加わり、いい感じ。カデンツァはバヴゼのオリジナルということでコンパクトにピアノのテクニックをさらりと聴かせるような粋なもの。
2楽章のラルゴ・カンタービレに入るとバヴゼのピアノの軽やかな色彩感がぐっと魅力を増します。メロディーを構成する音階もかなり表情をつけ、華麗な響きにしてしまいます。イケメンフランス人ピアナニストの本領発揮。すれ違いざまにコロンが香るような芳しい音楽。カデンツァはまるでドビュッシーの音楽のような夢の中にいるような天上の響き。
フィナーレはオケの鮮烈さが印象的。快速テンポに乗ってバヴゼのピアノはまさに自在に転がり回るよう。この曲がこれほどまでに迫力のある曲だと改めて気づかされるような演奏。ハイドンの曲ということを忘れてしまいそうになる芳しい爽快感。これは見事です。
Hob.XVIII:4 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
つづく曲も変わらず鮮度抜群のオケの序奏にいきなり引き込まれます。リズムの面白さが印象的な曲ですが、オケとピアノの豊穣な響きの魅力が素晴らしいですね。冒頭から爽やかな迫力に圧倒されます。やはりガボール・タカーチ=ナジのオーケストラコントロールは並のものではありませんでした。バヴゼの存在感を食うほどの迫力で耳に迫ってきました。
この曲でも2楽章のアダージョ・カンタービレの濃密な響きが特に印象に残ります。やはりオケが表情をつくり、その上でバヴゼが自在にメロディーを操るという構図は変わりません。さすがと思わせるのはバヴゼの個性をしっかりと踏まえてガボール・タカーチ=ナジがオケを操っているところ。
フィナーレは俊敏なオケのスロットルコントロールが聴きどころ。オーケストラコントロールにエクスタシーを感じるほどのキレ味。バヴゼもそれに詩情あふれるピアノの響きで応えます。切れ味を競いあうような緊迫感あるセッション。疾風のように駆け抜けます。
Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後はハイドンのピアノ協奏曲の代表曲。これまでの曲で聴かせた先鋭なアタックをすこし抑えて聴きなれたフレーズを演奏していますが、そこここにキレ味鋭い響きをちりばめ、隙あらばキレまくってしまいそうな不気味な迫力を感じさせながら演奏を進めます。徐々にバヴゼのピアノのアタックに迫力が増し、オケも鋭敏に反応するようになります。オーソドックスな演奏ながら尋常ではないキレ味がスリルを加えて実に見事な展開。カデンツァでは鮮やかな指さばきと和音の織りなす響きの変化を存分に聴かせて曲の成熟度合いに応じたスタンスの変化を聴かせる余裕ぶり。
曲の美しさに敬意をはらってか、前2曲よりも表現は穏やかになり、曲自体の美しさに語らせる演奏。バヴゼの詩情の表現はあいかわらず芳しく、スタイリッシュ。オケもエキセントリックに美麗な響きを聴かせます。
フィナーレの力感は期待通り。前2曲に近いエネルギーの凝縮とキレ。やはりオケの迫力が尋常ではありません。ともすると単調になりがちなこのフィナーレに迫力とテンポの波を持ち込み、フレッシュに再生。最後はオケの響きがぐっと凝縮して終わります。
ジャン=エフラム・バヴゼとガボール・タカーチ=ナジ指揮のマンチェスター・カメラータの演奏によるハイドンのピアノ協奏曲集。タカーチ四重奏団を率いた指揮者のコントロールはもう少し弦を歌わせるものとの先入観を粉々に打ち砕く鮮烈なオーケストラコントロールで度肝を抜かれました。バヴゼのピアノソナタ集で感じた気品に傾いた演奏ではなく、バヴゼの個性をふまえてガボール・タカーチ=ナジがど迫力のオケでサポートする、個性と個性を重なりあわせて音楽の魅力が倍増しています。やはりオケの魅力が勝るでしょうか。バブゼには申し訳ありませんが、ソナタ集よりもこちらの方が気に入りました。評価は全曲[+++++]とします。
さてさて、本日は月末ですが、この記事を書きかけたまま終わるわけにもいかず、まずはこの記事をアップします。今月の1枚は月をまたいでしまいますが、明日アップ予定です。
11月はまたもや湖国JHさんから送り込まれたアルバムが溜まっていますので、じっくり取り上げようと思います。


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