作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ヤーラ・タールの十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

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今日はピアノによる「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。しかもピアノはファツィオーリ。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ヤーラ・タール(Yaara Tal)のピアノによるハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」ですが、曲間にシェーンベルクの6つのピアノ小品 Op.19からの4曲をちりばめ、最後の地震のあとにバルトークの10のやさしい小品(Sz.39)から「夜明け」という小曲を置いたもの。収録は2013年10月28日から31日にかけて、SWRのシュツットガルト放送スタジオでのセッション録音。ライナーノーツにFAZIOLIのロゴが載せられていることから、ピアノはファツィオーリですね。

ヤーラ・タールははじめて聴く人。不思議な名前のつづりからどこの国の人かと思いきや、イスラエルの人のようです。普段はタール&グロートホイゼンというピアノデュオで活動しており、アルバムも何枚かリリースされています。サイトが見つかりましたのでリンクしておきましょう。

Tal & Groethuysen

サイトのディスコグラフィを見ると、デュオとしてリリースされているアルバムはかなりの数にのぼります。1988年にリリースされたフンメルの4手のためのピアノ作品集を皮切りに、バッハ、モーツァルト、ブラームス、メンデルスゾーン、ワーグナー、マックス・レーガーなど現代曲まで広大なレパートリー。ちなみにハイドンはこれがはじめてのアルバムで、ヤーラ・タール単独での演奏もはじめてのようです。

Hob.XX:1C / XX:1C-"Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七語」 (1787)
序奏
最初はピアノの鳴りをたしかめるように、強靭なタッチでピアノを響かせる序奏。女性奏者の割にはタッチに力があり、スタティックな強靭さがあります。ピアノの響きは艶のあるファツィオーリ独特なもの。録音はオーソドックスにピアノが適度な距離感で定位しリアルなピアノの響きが楽しめるもの。
第1ソナタ
穏やかに入る楽章は、しっとりと落ち着いていて悪くありません。あまりテンポは動かさず、訥々と語りかけるようなピアノ。さっぱりとした情感表現が基調になり、素朴な表現のなかからじわりと伝わる音楽。
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19~II: Langsam
一瞬のそよ風のようにさっと終わる短い曲。曲間に置かれることで、ゆったりとしたハイドンの曲の魅力を引き立てます。
第2ソナタ
メロディをクッキリ転がしながら、伴奏の音階をあっさり聴かせるなかなかのテクニック。表現はかわらず穏やかで、無理やりなところがないのがいいですね。音をゆったりと響かせ、伴奏とも十分対比をつけているのでメロディーが印象的に響きます。
第3ソナタ
だんだんタールの音楽が弱音のデリケートなタッチの表現にあることがわかってきました。ときおり強靭な強音を響かせる以外は極力抑えてじっくりと音楽を作っていきます。しかもくどくなくさっぱりとした音楽なので、清らかさもあり、そのことで祈りのような敬虔さがしっかり演出できているように思います。
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19~I: Leicht, zart
再びきらめきのような一瞬の虹色の響き。この現代的な響きが実によく合います。
第4ソナタ
静かに語るような入り。弦楽器だとじっくりと色濃い表情を描けますが、ピアノ版ではピアノの研ぎ澄まされた響きで構成するため表情の濃さよりも楽器の音色に関心が集まります。そういった意味で、ピアノの響きの特徴はすでに活かされていますので、クリスタル細工のような繊細さが際立つわけです。
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19~V: Etwas rasch
今まで2曲おき置かれていたシェーンベルクの曲ですが、対称性にこだわったのか、1曲を挟むだけでまたシェーンベルクのさりげない前衛的な響きが配置されています。
第5ソナタ
弦楽器バージョンではピチカートに乗って印象的なメロディーが置かれるお気に入りの曲ですが、ピアノ版では逆にピチカートの部分が普通の音階になり音色の面白さが失われてしまっています。それを知ってか、タールはあえて速めのテンポでクッキリとした音楽に仕立ててきました。中盤のクライマックスになるような迫力。強音の強靭さと、さざめくような静かな伴奏の対比も見事です。
第6ソナタ
ピアノダイナミックレンジを極限まで追求したようなコントラスト。冒頭の強靭なタッチなメロディーとその後の静寂から微かに音を判別できるような弱音への変化は印象的。ダイナミクスのコントロールの緻密さに圧倒されます。この曲一の聴きどころ。つづく曲の流れの良い展開も秀逸。ほんのりと光が射すような場面の演出も見事です。
シェーンベルク:6つのピアノ小品 Op.19~VI: Sehrlangsam
遥か遠くの空でほのかに稲光が見えたような印象の曲。
第7ソナタ
最後のソナタはメロディーで聴かせるオーソドックスな演出。曲の構造をよく考えてコンセプチュアルに演奏してくる人ですね。
地震
耳をつんざくような強音で来ると思いきやさにあらず。朗々、堂々とした余裕ある演奏でまとめてきました。
バルトーク:10のやさしい小品 Sz.39~VII:夜明け
最後になぜかバルトークをもってきました。個人的には地震で終わってもよかったと思いますが、地震のあとにこの曲をもってきたところになにやらこだわりがありそう。これまでのシェーンベルクはどれも1分ぐらいの短い曲でしたが、最後は約2分の曲。聴き終わるとこのバルトークの曲の最後の消え入るようなところでまとめたかったものと合点がいきました。

ヤーラ・タールによるハイドンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉ですが、かなり演出設計にこだわった演奏で、曲ごとに演奏スタイルを明確に変えてくるこだわりの構成。ゆったりした楽章のみで構成されるハイドンの名曲にシェーンベルクの前衛的な響きをスパイスのように効かせることで、ハイドンの曲の面白さを際立たせるアイデア。これはいいアイデアでした。メロディーに濃密な表情を乗せるようなタイプではなく、基本的にはさっぱり穏やかな演奏ながらダイナミクスや構成の面白さに焦点をあてて個性を主張してきました。前半は少し硬い印象が伴いましたが徐々に落ち着いて、終盤はぐっと聴かせてきました。この演奏は人によって評価が割れるかもしれませんね。私は[++++]としました。

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