【追悼】ホグウッド/AAMのロンドン、軍隊(ハイドン)
遅ればせながら追悼記事を。
去る9月24日、古楽器演奏を切り開いてきたクリストファー・ホグウッドが亡くなりました。今年に入って、アバド、マゼールなど名だたる指揮者が亡くなっていますが、ブリュッヘンの後を追うようにホグウッドまで亡くなるとは。ハイドンの演奏にも偉大な足跡を残してきた人だけに、その死が惜しまれます。

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TOWER RECORDS(交響曲選集)
クリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)指揮のエンシェント室内管弦楽団(The Academy of Ancient Music)の演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」の2曲を収めたアルバム。収録は1983年9月、11月、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音。レーベルはもちろんL'OISEAU-LYRE。
当ブログの読者の方ならご存知のとおり、ホグウッドのハイドンの交響曲集は全集を目指した丁寧な作りで続々とリリースされながらも、8合目あたりまで差し掛かった第10巻をリリースしたところでプロジェクトが中止になってしまいました。今日取り上げるアルバムは全集としてリリースされ始める前に、ザロモンセットの有名曲を2枚リリースしたうちの1枚。ホグウッドのハイドンとしては最初期の1983年の録音です。このロンドンと軍隊の他に驚愕と奇跡の録音があります。
このアルバムはジャケットもLP時代のL'OISEAU-LYREのイメージをそのままCDにした古いタイプのものですが、今見ると妙に雅な印象で懐かしい感じですね。私がこのアルバムを手に入れたのはかなり前で、おそらく1992年くらいだと記憶しています。当時確か第4巻から続々とリリースされはじめた交響曲全集の輸入盤をリリースされる度に手に入れ、舐めるように聴き入ったものですが、何巻か手に入れたあとにこのアルバムを入手。当時は初期の交響曲の面白さに開眼したばかりだったので、全集の方は興味深く聴いたものの、こちらのアルバムの方は当時は古楽器登場前のドラティやカラヤン/ウィーンフィルなどの古典的な演奏のイメージが強く、ホグウッドの繰り出すあまりにすっきりとした響きへの違和感が強くあまり楽しめなかった記憶があります。まだまだ耳が若かったわけです(笑)
今はオフィシャルにリリースされた75番までと、このロンドン、軍隊と驚愕、奇跡を合わせたものが交響曲選集として手に入るようになっているようですが、やはりリリースされた頃の古い体裁のアルバムの方に愛着があります。なんとなく時代の空気も一緒に詰まっているような気がして手放せません。
ホグウッドのハイドンでは私は協奏曲の伴奏を高く評価しており、交響曲については、ちょっと控えめな姿勢です(笑) これまでに取り上げた記事の一覧を貼っておきましょう。
2012/09/09 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMのアレルヤ、ホルン信号
2011/11/03 : コンサートレポート : 【サントリーホール25周年記念】ホグウッド/N響の第九
2011/06/08 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMの校長先生
2011/04/02 : ハイドン–声楽曲 : 【新着】ホグウッドの伴奏による歌曲集、室内楽
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンの大オルガンミサ
2010/12/23 : ハイドン–声楽曲 : 【年末企画】サイモン・プレストンのチェチーリアミサ
2010/09/21 : ハイドン–協奏曲 : ホグウッドのトランペット協奏曲
2010/09/15 : ハイドン–協奏曲 : コワン/ホグウッドのチェロ協奏曲
2010/05/30 : ハイドン–交響曲 : 散歩の収穫、ホグウッド未発売盤
古くは同じL'OISEAU-LYREのプレストンのミサ曲のアルバムでオルガンを弾いているものもあり、それもなかなかいいのですが、私のお気に入りはトランペット協奏曲、オルガン協奏曲、ホルン協奏曲を収めたもの。とりわけオルガン協奏曲がスバラシイ! どの交響曲の演奏よりもオケに勢いというか生気があり、ホグウッド自身が弾くオルガンもキレてます。たまに取り出しては至福の陶酔感を味わっています。
そしてホグウッドは実演も2度聴いています。いずれもN響に客演した時で、最初は2009年9月にはにハイドンの「ロンドン」をメインとしたプログラム、そして上の記事にも書いた2011年11月のサントリーホール25周年の第九。ホグウッドがハイドンの交響曲を録音していた1980年代、90年代からずいぶんたって実演を聴き、交響曲演奏のころも萌芽があった新古典主義的諧謔性が音楽に活気を与えていたのが印象的でした。小刻みに体を縦に揺らしてオケを煽っていくホグウッドの姿が今も記憶に残っています。
ブリュッヘンやピノックらとともに古楽器演奏の潮流をつくり、ハイドンの演奏史にも偉大な足跡を残したホグウッドの、ハイドンの交響曲の演奏の原点たるこのアルバム、今聴き直すとどう感じるのでしょうか。
Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
このアルバムを聴いた時の驚きが蘇ります。古楽器独特のキリリとした響きによる序奏が轟きます。現代楽器の響きに慣れた耳に衝撃的に響くオーセンティックな音の塊。今は古楽器演奏は珍しくはありませんので、ホグウッドの溜めのない直裁なフレージングに違和感はありませんが、当時はモーツァルトの交響曲とともにホグウッドの演奏で古楽器の時代のはじまる息吹を浴びたのを懐かしく思い出します。速めのテンポでグイグイではなくサラサラと流れていく音楽。迫力よりも繊細な響きの変化を聴けと言われているような流れの良さ。独特の弦、木管、そして硬質なティンパニの響き。どれもが新鮮でした。聴きなれたロンドンが垢をを落とされ、修復工事を終え製作当時の鮮やかな色彩を取り戻したシスティーナ礼拝堂のミケランジェロのフレスコ画に接するような新鮮なものに映りました。
アンダンテも速めにサラサラと流れ、これまでのゆったりとした感興ではなく、清流のようなしなやかな音楽として響きます。途中にホグウッドのものか唸るような声が入りますが、当時は気づいていませんでした。メヌエットは透明でキレの良いヴァイオリンの切れ込むような音色が印象的。一貫して速めのテンポが当時は非常に新鮮でした。フィナーレも弦の切れ味とオケの吹き上がりの痛快さを楽しむような演奏。今聴くと迫力もそれなりにあって、ロンドンの演奏としては非常にまとまりのよいもの。時代を切り開いてきた息吹が存分に味わえる演奏です。
Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
軍隊の方も速めのテンポで流れの良い演奏なんですが、意外に迫力があります。他の演奏との対比からあまり迫力がある演奏との記憶はありませんでしたが、今聴くと、記憶の印象のせいかスバラシイ迫力の方に驚きます。響きの美しいキングスウェイホールに古楽器の響きとその余韻が広がる快感。ここにも後年芽をふくホグウッドの新古典主義的なリズム感がほんのりと感じられます。オケが次々と吹き上がる陶酔感。迫力のみならずキリリと引き締まった速めのテンポで統率され、高雅な魅力に満ちています。
聴きどころの2楽章は意外にオーソドックス。こちらの耳が古楽器に慣れたのでしょう。最近では迫力重視の灰汁の強い演奏が増えたため、逆にオーソドックスに聴こえるということですね。それでも木管をはじめとした古楽器の音色の美しさを存分に聞かせながら、サラリと爆発するところの手腕は見事と言うほかありません。淀みなく音楽が流れますが、そこここにさりげないアクセントがあり、穏やかな刺激が脳に届きます。
メヌエットも同様、これほどの完成度だったかと認識を新たにします。演奏によっては平板な印象もあることがあるホグウッドの演奏ですが、実に表情豊か。そしてフィナーレもオケが気持ち良く鳴り響きます。タクトを振る快感を疑似体験するような素晴らしいオケの吹き上がり。この曲ではオケの俊敏な切れ味を堪能できます。ホグウッドの素晴らしいオーケストラコントロールを再認識させる名演でした。
このアルバムをちゃんと聴き直したのはもしかしたら20年ぶりくらいかもしれません。記憶に残る演奏は当時の驚きの分、新鮮さと直裁な印象が勝っていましたが、今聴きなおすと、意外にオーソドックスでかつ、その完成度も素晴らしいものがありました。ロンドンの新鮮な響きもいいのですが、何より軍隊のバランスの良い迫力は秀逸。今聴いても古さを感じるどころか、逆に名演ひしめく古楽器の演奏のなかでも指折りのものと再認識しました。ホグウッドのハイドンの交響曲の原点の録音たるこのアルバム、あらためて聴きなおし、心に焼き付けなおしました。やはり古楽器演奏の時代を切り開いたというのにふさわしい偉大な存在でした。評価はロンドンは[++++]のまま、軍隊は[+++++]にアップです。
生きていれば未完のハイドンの交響曲全集を完成させるという偉業に挑むこともできたでしょうが、亡くなってしまい、それも叶わぬこととなりました。また一人時代をつくった偉大な個性が失われました。こころよりご冥福をお祈りいたします。
去る9月24日、古楽器演奏を切り開いてきたクリストファー・ホグウッドが亡くなりました。今年に入って、アバド、マゼールなど名だたる指揮者が亡くなっていますが、ブリュッヘンの後を追うようにホグウッドまで亡くなるとは。ハイドンの演奏にも偉大な足跡を残してきた人だけに、その死が惜しまれます。

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クリストファー・ホグウッド(Christopher Hogwood)指揮のエンシェント室内管弦楽団(The Academy of Ancient Music)の演奏でハイドンの交響曲104番「ロンドン」、100番「軍隊」の2曲を収めたアルバム。収録は1983年9月、11月、ロンドンのキングスウェイホールでのセッション録音。レーベルはもちろんL'OISEAU-LYRE。
当ブログの読者の方ならご存知のとおり、ホグウッドのハイドンの交響曲集は全集を目指した丁寧な作りで続々とリリースされながらも、8合目あたりまで差し掛かった第10巻をリリースしたところでプロジェクトが中止になってしまいました。今日取り上げるアルバムは全集としてリリースされ始める前に、ザロモンセットの有名曲を2枚リリースしたうちの1枚。ホグウッドのハイドンとしては最初期の1983年の録音です。このロンドンと軍隊の他に驚愕と奇跡の録音があります。
このアルバムはジャケットもLP時代のL'OISEAU-LYREのイメージをそのままCDにした古いタイプのものですが、今見ると妙に雅な印象で懐かしい感じですね。私がこのアルバムを手に入れたのはかなり前で、おそらく1992年くらいだと記憶しています。当時確か第4巻から続々とリリースされはじめた交響曲全集の輸入盤をリリースされる度に手に入れ、舐めるように聴き入ったものですが、何巻か手に入れたあとにこのアルバムを入手。当時は初期の交響曲の面白さに開眼したばかりだったので、全集の方は興味深く聴いたものの、こちらのアルバムの方は当時は古楽器登場前のドラティやカラヤン/ウィーンフィルなどの古典的な演奏のイメージが強く、ホグウッドの繰り出すあまりにすっきりとした響きへの違和感が強くあまり楽しめなかった記憶があります。まだまだ耳が若かったわけです(笑)
今はオフィシャルにリリースされた75番までと、このロンドン、軍隊と驚愕、奇跡を合わせたものが交響曲選集として手に入るようになっているようですが、やはりリリースされた頃の古い体裁のアルバムの方に愛着があります。なんとなく時代の空気も一緒に詰まっているような気がして手放せません。
ホグウッドのハイドンでは私は協奏曲の伴奏を高く評価しており、交響曲については、ちょっと控えめな姿勢です(笑) これまでに取り上げた記事の一覧を貼っておきましょう。
2012/09/09 : ハイドン–交響曲 : ホグウッド/AAMのアレルヤ、ホルン信号
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古くは同じL'OISEAU-LYREのプレストンのミサ曲のアルバムでオルガンを弾いているものもあり、それもなかなかいいのですが、私のお気に入りはトランペット協奏曲、オルガン協奏曲、ホルン協奏曲を収めたもの。とりわけオルガン協奏曲がスバラシイ! どの交響曲の演奏よりもオケに勢いというか生気があり、ホグウッド自身が弾くオルガンもキレてます。たまに取り出しては至福の陶酔感を味わっています。
そしてホグウッドは実演も2度聴いています。いずれもN響に客演した時で、最初は2009年9月にはにハイドンの「ロンドン」をメインとしたプログラム、そして上の記事にも書いた2011年11月のサントリーホール25周年の第九。ホグウッドがハイドンの交響曲を録音していた1980年代、90年代からずいぶんたって実演を聴き、交響曲演奏のころも萌芽があった新古典主義的諧謔性が音楽に活気を与えていたのが印象的でした。小刻みに体を縦に揺らしてオケを煽っていくホグウッドの姿が今も記憶に残っています。
ブリュッヘンやピノックらとともに古楽器演奏の潮流をつくり、ハイドンの演奏史にも偉大な足跡を残したホグウッドの、ハイドンの交響曲の演奏の原点たるこのアルバム、今聴き直すとどう感じるのでしょうか。
Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
このアルバムを聴いた時の驚きが蘇ります。古楽器独特のキリリとした響きによる序奏が轟きます。現代楽器の響きに慣れた耳に衝撃的に響くオーセンティックな音の塊。今は古楽器演奏は珍しくはありませんので、ホグウッドの溜めのない直裁なフレージングに違和感はありませんが、当時はモーツァルトの交響曲とともにホグウッドの演奏で古楽器の時代のはじまる息吹を浴びたのを懐かしく思い出します。速めのテンポでグイグイではなくサラサラと流れていく音楽。迫力よりも繊細な響きの変化を聴けと言われているような流れの良さ。独特の弦、木管、そして硬質なティンパニの響き。どれもが新鮮でした。聴きなれたロンドンが垢をを落とされ、修復工事を終え製作当時の鮮やかな色彩を取り戻したシスティーナ礼拝堂のミケランジェロのフレスコ画に接するような新鮮なものに映りました。
アンダンテも速めにサラサラと流れ、これまでのゆったりとした感興ではなく、清流のようなしなやかな音楽として響きます。途中にホグウッドのものか唸るような声が入りますが、当時は気づいていませんでした。メヌエットは透明でキレの良いヴァイオリンの切れ込むような音色が印象的。一貫して速めのテンポが当時は非常に新鮮でした。フィナーレも弦の切れ味とオケの吹き上がりの痛快さを楽しむような演奏。今聴くと迫力もそれなりにあって、ロンドンの演奏としては非常にまとまりのよいもの。時代を切り開いてきた息吹が存分に味わえる演奏です。
Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
軍隊の方も速めのテンポで流れの良い演奏なんですが、意外に迫力があります。他の演奏との対比からあまり迫力がある演奏との記憶はありませんでしたが、今聴くと、記憶の印象のせいかスバラシイ迫力の方に驚きます。響きの美しいキングスウェイホールに古楽器の響きとその余韻が広がる快感。ここにも後年芽をふくホグウッドの新古典主義的なリズム感がほんのりと感じられます。オケが次々と吹き上がる陶酔感。迫力のみならずキリリと引き締まった速めのテンポで統率され、高雅な魅力に満ちています。
聴きどころの2楽章は意外にオーソドックス。こちらの耳が古楽器に慣れたのでしょう。最近では迫力重視の灰汁の強い演奏が増えたため、逆にオーソドックスに聴こえるということですね。それでも木管をはじめとした古楽器の音色の美しさを存分に聞かせながら、サラリと爆発するところの手腕は見事と言うほかありません。淀みなく音楽が流れますが、そこここにさりげないアクセントがあり、穏やかな刺激が脳に届きます。
メヌエットも同様、これほどの完成度だったかと認識を新たにします。演奏によっては平板な印象もあることがあるホグウッドの演奏ですが、実に表情豊か。そしてフィナーレもオケが気持ち良く鳴り響きます。タクトを振る快感を疑似体験するような素晴らしいオケの吹き上がり。この曲ではオケの俊敏な切れ味を堪能できます。ホグウッドの素晴らしいオーケストラコントロールを再認識させる名演でした。
このアルバムをちゃんと聴き直したのはもしかしたら20年ぶりくらいかもしれません。記憶に残る演奏は当時の驚きの分、新鮮さと直裁な印象が勝っていましたが、今聴きなおすと、意外にオーソドックスでかつ、その完成度も素晴らしいものがありました。ロンドンの新鮮な響きもいいのですが、何より軍隊のバランスの良い迫力は秀逸。今聴いても古さを感じるどころか、逆に名演ひしめく古楽器の演奏のなかでも指折りのものと再認識しました。ホグウッドのハイドンの交響曲の原点の録音たるこのアルバム、あらためて聴きなおし、心に焼き付けなおしました。やはり古楽器演奏の時代を切り開いたというのにふさわしい偉大な存在でした。評価はロンドンは[++++]のまま、軍隊は[+++++]にアップです。
生きていれば未完のハイドンの交響曲全集を完成させるという偉業に挑むこともできたでしょうが、亡くなってしまい、それも叶わぬこととなりました。また一人時代をつくった偉大な個性が失われました。こころよりご冥福をお祈りいたします。
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