作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

友田恭子のピアノソナタ集(ハイドン)

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今日は久しぶりの日本人演奏者のアルバム。また一枚、名演盤をみつけました。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

友田恭子(Yasuko Tomoda)のピアノによるハイドンのピアノソナタ4曲(Hob.XVI:42、XVI:37、XVI:34、XVI:46)と、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の合わせて5曲を収めたアルバム。収録は2002年8月28日から30日、青森県鯵ヶ沢にある音楽ホール、日本海拠点館あじがさわでのセッション録音。レーベルはコジマ録音というマイナーレーベル。

このアルバムの奏者である友田恭子さんはもちろんはじめて聴く人。売り場でこのアルバムをみつけてコレクションにないものということだけで、たまたま手に入れたものですが、帰ってライナーノートを読んでみると、この友田さん、アルバムリリース当時は青森県の明の星高校の音楽科の非常勤講師。青森の高校の音楽の講師が青森のホールで録音したアルバムということで、なんとなくアルバムの立ち位置を勝手に想像して、さして期待もせず聴き始めましたが、一音目からあまりに研ぎすまされた響きにのけぞりました。なんたるギャプ! いや、これは素晴しい演奏です。青森県はハイドン王国なのでしょうか?

あらためて友田さんについて調べてみました。彼女のサイトがみつかりましたので、紹介しておきましょう。

ピアニスト友田恭子 Official Website

出身は桐朋学園大学で、卒業後ヨーロッパに渡り、いくつかのコンクールで入賞し、ソロや室内楽、オケとの共演などヨーロッパでの演奏活動ののち1992年に帰国。国内では東京、大阪、神戸、青森などでリサイタルを開いたり、ペレグリーニ四重奏団と共演するなどの活動を行っているとのこと。姉の笠原純子とのピアノデュオではヨーロッパでもリサイタルを開き評判をとったそうです。レコーディングはおそらくこのハイドンのソナタ集がデビュー盤で、他にモーツァルトのソナタ集が4枚、笠原純子とのデュオによるシューベルトなどの録音があります。モーツァルトのソナタ集は評価が高いようで、ピアノ好きな方の間では知られた存在なのかもしれませんね。

このアルバム、ハイドンのソナタの中から詩的な響きの美しい曲を選りすぐった選曲。曲の並びからも並々ならぬ意気込みが伝わってきます。

Hob.XVI:42 / Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
実に落ち着いたタッチで入ります。広めのホールに気持ちよく広がる残響をうまく捉えた録音。ライヴで聴いているような実体感のあるピアノの音が美しく響き渡ります。奏者も録音スタッフもハイドンのピアノソナタが美しく響くツボををよく理解しているような素晴しい録音。右手のメロディのきらめき感がポイント。リズムも落ち着いてしっとりとしたもの。曲の美しさを知り抜いた人のさりげない演奏と言う感じ。岩清水のような清澄さに溢れています。濃い音楽ではなくあくまでも清らかさを主体とした日本人奏者ならではの研ぎすまされた感覚です。

Hob.XVI:37 / Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
キレのいいタッチが印象的な入り。実にオーソドックスな演奏ながら、音楽が適度に弾んで豊かに展開します。さりげないパッセージにも音楽が息づいているあたり、この奏者の力量が示されている感じ。良く聴くと大きな流れの起伏もしっかりついて、しかもディティールの磨き方も非常に自然なもの。この曲でも2楽章のラルゴの、沈みながらもほのかに明るさを保ったフレージングの見事さに上手さが光ります。一貫して爽やかさを保ちながらの詩情の表現。音の流れ、時の流れに身を任せながらゆったりと楽しめます。
たっぷりと間をとって、その間の気配をふまえたフィナーレの入り。このしなやかながら鋭敏な感覚。狂気を感じるようなキレではなく実におだやかな鋭敏さ。最後も爽やかな余韻で終わります。

Hob.XVI:34 / Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
刷り込みはブレンデルの磨き込まれた演奏ですが、友田さんの演奏も磨きこまれ方は劣りません。ただ、日本人らしい爽やかさを基調としている根底のところが違うだけ。左手のアクセントもブレンデルの厚みのある強靭さには及びませんが、逆に、バランスを保った強さと言う意味でいいところを突いています。和音の変化の余韻が美しいので、聴き飽きません。
楽章間のコントラストは程々に、ゆったりとしたアダージョに入ります。淡々と進めながらも儚い美しさ、高音のきらめくような音階の美しさをうまく表現しています。フィナーレに入ると意図的なのか、ちょっとタイミングをはずすような休符で変化をつけ、緩急の変化の面白さを引き出します。やはりフレーズ毎の描き分けも見事なので、詩情も濃くなります。

Hob.XVI:46 / Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
終盤にちょっと響きの変わった曲を配置。この曲で際立つのは速いパッセージの音階の鮮やかなキレ。曲ごとの聴かせどころを踏まえて、実に巧みな演出。この曲こそ緩急の面白さが際立ちます。この縦横無尽な音階をさらりとこなすあたり、テクニックはかなりのものと見受けました。
この曲でもアダージョの美しさは格別。オーソドックスなのに音楽が溢れてくる名演奏。音数が少ない曲ゆえ、一音一音の磨き抜かれた響きの美しさがグッと沁みます。あえて音量を落として夜空の星の瞬きのような深みを感じさせます。ほんのりと暖かい音楽に移り変わって行くところの変化の見事さ。フィナーレは今までで一番快活。グイグイ来ます。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後に傑作をもってきます。ここまでの演奏ですっかり聴き惚れてますので演奏スタイルは予想がつくものの、実際に曲が進み、美しいメロディーが変奏となって交錯するところの美しさはなみなみならぬもの。メロディーの描き方が上手いので、音楽が淀まず、清潔感ただよう色気のようなものに聴き惚れます。これまでのソナタで聴かせた清澄な印象は決して構成の弱さなどにつながらず、むしろ美しさを際立たせる方向に作用して、独特の輝きを生んでいます。このアルバム、冒頭にもふれましたが録音が素晴しく、ピアノの響きの美しさと実体感をともに感じる理想的なもの。鯵ヶ沢町のホールでの録音ですが、有名なラ・ショー=ド=フォンで録ったといわれてもおかしくない仕上がり。演奏は最後までゆるまず、素晴しい緊張感がつづきました。

まったく知らなかった友田恭子さんのハイドンのソナタ集。レビューを読んでいただければわかるとおり、大変気に入りました。選曲も演奏もハイドンの面白さを知り尽くした人のものと唸らされるもの。日本人らしい清らかな響きに彩られたハイドンのソナタの演奏として広くオススメできます。評価はもちろん全曲[+++++]とします。友田さんには是非ハイドンのソナタ集の続編の録音を期待したいところです。最近ではダリア・グロウホヴァのショパンのようなハイドンのピアノソナタ集が印象に残っていますが、それに劣らず、日本らしい美しさを帯びたハイドンとして全世界にその素晴らしさを問いたいものです。友田さん、レコード会社の方、是非ご検討ください!

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