ケイト・ディリンガムのチェロ協奏曲集(ハイドン)
今日はチェロ協奏曲。

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ケイト・ディリンガム(Kate Dillingham)のチェロ、ウラティスラフ・ブラコフ(Vladislav Bulakhov)指揮のモスクワ室内管弦楽団「四季」の演奏でハイドンのチェロ協奏曲1番、2番を収めたアルバム。収録は1999年11月17日から20日にかけて、モスクワ音楽院の大ホールでのセッション録音。レーベルは米Connoisseur Society。
淡色のいい雰囲気のジャケット。美人チェリストのアルバムということで、いつものように湖国JHさんから送り込まれた課題盤。何はともあれ、まずはチェロのケイト・ディリンガムのことを調べてみます。ネットを検索すると彼女のサイトがありました。
Kate Dillingham - Home Page
彼女のサイトには、ジャケットの絵画調の写真とは異なる清楚な姿の写真が載せられており、まさに美人チェリストという言葉がしっくりくる人。ただ、その路線でアルバムを造っていないところは好感がもてます。
ケイト・ディリンガムはアメリカ人チェリストですが、デビューは1998年ロシアで。このアルバムでも共演しているモスクワ室内管弦楽団「四季」のソリストとして招かれてのこと。この年、ペテルスブルグフィルとも共演しています。もともとアメリカニュージャージー州のラトガース大学でレオナルド・グリーンハウスに師事し、デビューアルバムはバッハ、シューマン、ブロッホ、ラヴェルの小品集。ロシアの現代音楽の曲も数多く演奏し、ロシアでのデビューの後はモスクワ音楽院のマリア・チャイコフスカヤに師事し、同氏のドイツのマスタークラスを卒業しています。今日取り上げるハイドンの協奏曲集はウラティスラフ・ブラコフとモスクワ室内管弦楽団「四季」とのデビュー以来の親交によって生まれたものということです。
経歴は地味ではありますが、その演奏はなかなかのものでした。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まずは1番から。オケの伴奏は手慣れたもの。テンポ良くハ長調の晴朗な序奏が鳴り響きますが、草書体のようにしなやかな伴奏。冒頭からテンポ良くチェロが入ります。チェロも草書体のようなしなやかな入り。最初からチェロがよく鳴り、ボウイングも鳴きを聴かせる演歌調。といってもくどいような演奏ではなくしっとりとしなやかさを感じさせるもの。もう少し鮮度重視の演奏かと想像していましたがさにあらず。糸を引くようにメロディーをつなぎ、低音をふくよかに鳴らす、最近流行の古楽風の演奏とは対極にあるような演奏。燻したような独特の表情が、音楽の成熟を表しているよう。まるで老成した奏者の演奏のような感じ。カデンツァもそうした力の抜けたボウイングで聴かせるもの。晩年のアラウのピアノのような澄みきった音楽に近づこうとしているのでしょうか。2番ではなく、1番からこの枯れ具合。渋いです。
アダージョは、予想通りぐっとテンポを落として、三途の川のこちら岸で最後に散歩するような風情。フレーズのひとつひとつを慈しむような演奏。美人チェリストの演奏として売り出すような雰囲気ではなく、まさに老成した音楽。楽器も良いのかチェロも実に深い響きを聴かせ、チェロ全体に響きが伝わり魂に触れるような音。ジャケット写真がコントラストを落とした淡いモノクロ調に仕上げている意図がなんとなくわかりました。奏者の霊が弾くような浮世離れした音楽です。カデンツァでは再び澄みきり、暗黒の淵とこの世の境を音楽にしたよう。
アダージョの尋常でない澄みきりかたがフィナーレのオケの鮮度を引き立てます。分厚く熟成したオケの響きにのって、チェロが今度は活き活きと弾む音楽を生み出します。ところどころにしっとりとアクセントを効かせ、しなやかなのに弾む音楽を創っていきます。速いフレーズはキレの良さではなくしなやかさで聴かせる芸風。独特のフレージングが心地良さを生んでいますね。最後までディリンガムのチェロに釘付け。
晴朗な1番が実に味わい深い演奏だったので、2番はさらに深みを聴かせてくれると期待。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
意外にサラッとした序奏。テンポも意外に速く、こちらの想像とはずいぶん違った演奏にちょっと驚きます。かなりインテンポで煽るオケ。チェロはどう入るのでしょうか。何と早めの序奏のテンポを切り、普通のテンポに戻して入ります。オケの推進圧力に抗するように落ち着いたチェロ。なんとなくテンポの駆け引きをしながらの演奏。これは面白い。演奏の燻し加減は前曲同様、両者ともに負けていませんが、堂々と自分のテンポで弾き進めるディリンガムに対し、オケがテンポを握るところではテンポを微妙に上げてきます。根負けしたのか中盤以降、オケもじっくりしたテンポに落ち着いてチェロに寄り添うようになり、音楽が落ち着きますが、もう少しオケに戦ってほしかったという心情になるのが不思議なもの(笑) 長大な1楽章は徐々に響きではなく音楽が枯れて、淡々とした進行になり、心情の起伏で聴かせます。終盤カデンツァ直前にちょっとテンポが噛み合ない瞬間がありますが、すぐにチェロが音楽を建て直し、孤高のソロで音楽を引き締めます。展開が実に面白い。
アダージョは予想通り、ゆったりと歌うチェロの鳴きが見事。ソロとオケも噛み合って、至福の境地。そしてフィナーレもいい余韻を引き継いで、ゆったりとした演奏が続きます。アダージョもフィナーレも起伏を抑えて淡々と演奏することで、枯淡の境地をうまく表現しています。最後はビシッと引き締めて終わります。
美人チェリスト、ケイト・ディリンガムのチェロ協奏曲集は非常に個性的な演奏でした。世の中にはいろいろンな才能を持つ人がいると感心しきり。メロディーを自分のものにして音楽をつくっていく能力は素晴しいものがあります。しかも時流に流されず、自分自身の音楽をしっかりと持っているよう。このハイドンの協奏曲は1999年の録音ですが、デビュー直後の録音としてはかなり枯れたものと驚きます。年を重ねて音楽がより深くなると思うと、将来が楽しみな人ですね。日本ではあまり知られていない人だと思いますが、要注目です。評価は素晴しい完成度の1番を[+++++]、スリリングなやり取りが興味深い2番は[++++]としておきます。

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ケイト・ディリンガム(Kate Dillingham)のチェロ、ウラティスラフ・ブラコフ(Vladislav Bulakhov)指揮のモスクワ室内管弦楽団「四季」の演奏でハイドンのチェロ協奏曲1番、2番を収めたアルバム。収録は1999年11月17日から20日にかけて、モスクワ音楽院の大ホールでのセッション録音。レーベルは米Connoisseur Society。
淡色のいい雰囲気のジャケット。美人チェリストのアルバムということで、いつものように湖国JHさんから送り込まれた課題盤。何はともあれ、まずはチェロのケイト・ディリンガムのことを調べてみます。ネットを検索すると彼女のサイトがありました。
Kate Dillingham - Home Page
彼女のサイトには、ジャケットの絵画調の写真とは異なる清楚な姿の写真が載せられており、まさに美人チェリストという言葉がしっくりくる人。ただ、その路線でアルバムを造っていないところは好感がもてます。
ケイト・ディリンガムはアメリカ人チェリストですが、デビューは1998年ロシアで。このアルバムでも共演しているモスクワ室内管弦楽団「四季」のソリストとして招かれてのこと。この年、ペテルスブルグフィルとも共演しています。もともとアメリカニュージャージー州のラトガース大学でレオナルド・グリーンハウスに師事し、デビューアルバムはバッハ、シューマン、ブロッホ、ラヴェルの小品集。ロシアの現代音楽の曲も数多く演奏し、ロシアでのデビューの後はモスクワ音楽院のマリア・チャイコフスカヤに師事し、同氏のドイツのマスタークラスを卒業しています。今日取り上げるハイドンの協奏曲集はウラティスラフ・ブラコフとモスクワ室内管弦楽団「四季」とのデビュー以来の親交によって生まれたものということです。
経歴は地味ではありますが、その演奏はなかなかのものでした。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まずは1番から。オケの伴奏は手慣れたもの。テンポ良くハ長調の晴朗な序奏が鳴り響きますが、草書体のようにしなやかな伴奏。冒頭からテンポ良くチェロが入ります。チェロも草書体のようなしなやかな入り。最初からチェロがよく鳴り、ボウイングも鳴きを聴かせる演歌調。といってもくどいような演奏ではなくしっとりとしなやかさを感じさせるもの。もう少し鮮度重視の演奏かと想像していましたがさにあらず。糸を引くようにメロディーをつなぎ、低音をふくよかに鳴らす、最近流行の古楽風の演奏とは対極にあるような演奏。燻したような独特の表情が、音楽の成熟を表しているよう。まるで老成した奏者の演奏のような感じ。カデンツァもそうした力の抜けたボウイングで聴かせるもの。晩年のアラウのピアノのような澄みきった音楽に近づこうとしているのでしょうか。2番ではなく、1番からこの枯れ具合。渋いです。
アダージョは、予想通りぐっとテンポを落として、三途の川のこちら岸で最後に散歩するような風情。フレーズのひとつひとつを慈しむような演奏。美人チェリストの演奏として売り出すような雰囲気ではなく、まさに老成した音楽。楽器も良いのかチェロも実に深い響きを聴かせ、チェロ全体に響きが伝わり魂に触れるような音。ジャケット写真がコントラストを落とした淡いモノクロ調に仕上げている意図がなんとなくわかりました。奏者の霊が弾くような浮世離れした音楽です。カデンツァでは再び澄みきり、暗黒の淵とこの世の境を音楽にしたよう。
アダージョの尋常でない澄みきりかたがフィナーレのオケの鮮度を引き立てます。分厚く熟成したオケの響きにのって、チェロが今度は活き活きと弾む音楽を生み出します。ところどころにしっとりとアクセントを効かせ、しなやかなのに弾む音楽を創っていきます。速いフレーズはキレの良さではなくしなやかさで聴かせる芸風。独特のフレージングが心地良さを生んでいますね。最後までディリンガムのチェロに釘付け。
晴朗な1番が実に味わい深い演奏だったので、2番はさらに深みを聴かせてくれると期待。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
意外にサラッとした序奏。テンポも意外に速く、こちらの想像とはずいぶん違った演奏にちょっと驚きます。かなりインテンポで煽るオケ。チェロはどう入るのでしょうか。何と早めの序奏のテンポを切り、普通のテンポに戻して入ります。オケの推進圧力に抗するように落ち着いたチェロ。なんとなくテンポの駆け引きをしながらの演奏。これは面白い。演奏の燻し加減は前曲同様、両者ともに負けていませんが、堂々と自分のテンポで弾き進めるディリンガムに対し、オケがテンポを握るところではテンポを微妙に上げてきます。根負けしたのか中盤以降、オケもじっくりしたテンポに落ち着いてチェロに寄り添うようになり、音楽が落ち着きますが、もう少しオケに戦ってほしかったという心情になるのが不思議なもの(笑) 長大な1楽章は徐々に響きではなく音楽が枯れて、淡々とした進行になり、心情の起伏で聴かせます。終盤カデンツァ直前にちょっとテンポが噛み合ない瞬間がありますが、すぐにチェロが音楽を建て直し、孤高のソロで音楽を引き締めます。展開が実に面白い。
アダージョは予想通り、ゆったりと歌うチェロの鳴きが見事。ソロとオケも噛み合って、至福の境地。そしてフィナーレもいい余韻を引き継いで、ゆったりとした演奏が続きます。アダージョもフィナーレも起伏を抑えて淡々と演奏することで、枯淡の境地をうまく表現しています。最後はビシッと引き締めて終わります。
美人チェリスト、ケイト・ディリンガムのチェロ協奏曲集は非常に個性的な演奏でした。世の中にはいろいろンな才能を持つ人がいると感心しきり。メロディーを自分のものにして音楽をつくっていく能力は素晴しいものがあります。しかも時流に流されず、自分自身の音楽をしっかりと持っているよう。このハイドンの協奏曲は1999年の録音ですが、デビュー直後の録音としてはかなり枯れたものと驚きます。年を重ねて音楽がより深くなると思うと、将来が楽しみな人ですね。日本ではあまり知られていない人だと思いますが、要注目です。評価は素晴しい完成度の1番を[+++++]、スリリングなやり取りが興味深い2番は[++++]としておきます。
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