作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のアルバム収集とレビュー。音楽、旅、温泉、お酒など気ままに綴ります。

ヨセフ・スークのヴァイオリン協奏曲VIIa:4(ハイドン)

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今日はいままで取り上げていない奏者の演奏です。

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ヨセフ・スーク(Josef Suk)のヴァイオリン、ヨセフ・ヴラフ(Josef Vlach)指揮のスーク室内管弦楽団(Suk Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIa:4)、ヴァンハルのヴァイオリン協奏曲ト長調の2曲を収めたアルバム。収録はプラハの芸術の家で、期日はPマークが1985年とだけ記載されています。レーベルはSUPRAPHONのDENONによる国内盤。

ヨセフ・スークは日本でも良く知られたヴァイオリニストですが、これまで当ブログでもスークの演奏は取りあげたことがありませんでした。先日ディスクユニオン店頭でこのアルバムを見つけ、ようやくスークのハイドンに出会うことができました。例によって略歴を紹介しておきましょう。

1929年チェコに生まれたヴァイオリニストで、祖父は同名の作曲家でヴァイオリニストのヨセフ・スク、そしてそのスクは作曲家ドヴォルザークの娘婿とのことで、血統賞付きの音楽一家の生まれ。1945年からプラハ音楽院で学び、ボヘミア・ヴァイオリン楽派の重鎮だったヤロスラフ・コチアン(Jaroslav Kocian)にヴァイオリンを師事します。コチアンにはスークが7歳のころから師事しはじめ、スークのヴァイオリンの美点である高貴な音の響かせ方を学びます。プラハ音楽院を卒業後はプラハ舞台芸術アカデミーで学びますが、不運なことに政治的理由から中退を余儀なくされてしまいます。1950年から1952年までプラハ四重奏団の第1ヴァイオリンとして活動し、その後1953年から55年までプラハ国立劇場管弦楽団のコンサートマスターを務めます。
スークの名が知られるようになったのは1954年11月のプラハでのリサイタルが成功を収めたためで、その直後にジョージ・セルがスークをクリーヴランド管弦楽団と共演するためにアメリカに呼び、翌1958年にはドイツ、オランダ、ルーマニア、ベルギー、フランスなどで演奏するようになりました。1960年、「Campocelice侯爵」と呼ばれるストラディヴァリウスを貸与され、スークの美音は決定的な魅力を持つようになります。
室内楽ではプラハ四重奏団の他、1951年に祖父の名前をとって、友人のヤン・パネンカとヨセフ・フッフロとスーク三重奏団を結成し、チェコ国内にとどまらず国際的に活躍しました。またスメタナ四重奏団とはスークがヴィオラを弾いてモーツァルトの弦楽五重奏曲などを共演しています。亡くなったのは2011年のことで、晩年は前立腺がんの闘病生活を送っていたとのことです。

このアルバムを聴いて驚いたのはやはりスークの力強く高貴な美音。今これだけの音を出せる人はそういませんね。セルが呼び寄せたくなった気持ちがわかります。

Hob.VIIa:4 / Violin Concerto [G] (c.1765/70)
録音は少し古さを感じさせますが、ほどほど鮮明。デッドな会場での録音のようですが響きに潤いはあります。ゆったりとはじまるオケの序奏。オケは広がりのある音で、それとは別にクッキリとセンターに定位するスークのヴァイオリン。一緒に演奏しているのに別空間のようなちょっと不自然な感じがあります。オケの響きは豊穣。スークは最初からいきなり美音を轟かせます。完全にスークのヴァイオリンにフォーカスを合わせた録音。オケもスークもゆったりと落ち着いたテンポで演奏していきますが、艶かしい輝きを帯びたスークの美音が異様な迫力を感じさせ、ちょっと身を乗り出して聴きます。最近のスタイリッシュな演奏と比べるといささか古風ですが、そうしたスタイルを越えた音の力を感じさせる演奏です。
アダージョに入るとスークのヴァイオリンの定位がオケと溶け合うように変わります。古いタイプの演奏ゆえ、過度に感傷的になることなく、引き締まりながらの癒し。スークは1楽章ほど目立つ事はなく、オケに寄り添うように美音を控えめに轟かせます。徐々に音量を上げていくとスークのヴァイオリンの浸透力のある音色の威力に惚れ惚れします。ゆったりとしたままカデンツァに入ると、まさに孤高の響き。高音の消え入る美しさと豊かな胴鳴りが尋常ならざる洗練を聴かせます。
意外に良かったのがフィナーレ。オケのキビキビとしたキレの良い演奏とスークの抜群のプレゼンスで素晴しい迫力。聴き所は鬩ぎ合うフィナーレでした。

このあとに収められたヴァンハルのヴァイオリン協奏曲でもスークの美音、特に高音のキレのよいボウイングの魅力炸裂です。

名ヴァイオリニスト、ヨセフ・スークによるハイドンのヴァイオリン協奏曲は有無をも言わせぬスークの美音に圧倒される名演奏でした。ハイドンのヴァイオリン協奏曲としてはいささかクラシカルなアプローチではありますが、この演奏の説得力に比べればさしたる問題ではありません。ジャケットに写るスークの真剣な姿が目に浮かぶような気品に溢れた演奏です。ヴァイオリン協奏曲は名演盤が多いのですが、このスーク盤も心にぐさりと刺さる演奏です。評価は[+++++]をつけます。

残念ながら、このアルバムも入手が難しそうですね。このアルバムは復刻のし甲斐があろうというもの。DENONかTOWER RECORDSで復刻のプロジェクトに乗らないでしょうか??

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