作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【追悼】ブリュッヘン/スコットランド室内管の「王妃」ライヴ(ハイドン)

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8月13日にフランス・ブリュッヘンが亡くなりました。今年はアバド、マゼールと時代をつくってきた偉大な指揮者が亡くなっていますが、もちろんブリュッヘンも古楽器界を切り開いてきた人の一人。特にハイドンの演奏においては群を抜いた存在感でした。

今日はブリュッヘンの追悼ということで、手元ににある最新のハイドンのライヴを取りあげます。

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フランス・ブリュッヘン(Frans Brüggen)指揮のスコットランド室内管弦楽団(Scottish Chamber Orchestra)の演奏による、ハイドンの交響曲85番「王妃」、シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュの交響曲Op.11-2、モーツァルトの交響曲31番「パリ」の3曲を収めたCD-R。収録は2006年1月20日、グラスゴーでのライヴ。レーベルはCD-Rでは良く見かける米DIRIGENT。

当ブログの読者ならご存知のとおりブリュッヘンはハイドンの曲をかなり録音しています。手兵、18世紀オーケストラとの交響曲や天地創造、十字架上のキリストの最後の七つの言葉、エイジ・オブ・エンライトメント管とのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲、モーツァルテウム管とのリラ・オルガニザータ協奏曲など50曲にもなりますが、ほとんどが90年年代までの録音。2000年代以降のものは、2004年のGROSSAレーベルへの18世紀オーケストラとの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」と、今日取り上げる2006年のスコットランド室内管とのライヴくらい。今日はCD-Rではありますが、ブリュッヘンの最も新しいライヴということでこのアルバムを選びました。

これまで当ブログで取りあげたブリュッヘンの演奏は以下のとおり。

2013/05/29 : ハイドン–交響曲 : フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラの86番(旧盤)
2012/10/23 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘン/エイジ・オブ・エンライトメント管の42番
2011/04/29 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘン/モーツァルテウムのリラ・オルガニザータ協奏曲、84番
2011/03/01 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンの90番、91番、オックスフォード
2010/11/01 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンの88番、89番、協奏交響曲
2010/10/20 : ハイドン–管弦楽曲 : ブリュッヘンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉
2010/04/04 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンのザロモンセット

あらためて読み返してみると、ブリュッヘンのハイドンの録音はライヴが多く、しかも曲ごとに出来に結構ムラがあります。気合いの乗ったブリュッヘンのハイドンは古楽器ばなれした素晴しい迫力を帯び、また、感情に流されない構築感を感じさせます。この迫力ある構築感こそブリュッヘンのハイドンの真髄でしょう。なんと、これまで度々取りあげているフランス・ブリュッヘンですが、略歴などを紹介しておりませんでしたので、触れておきましょう。

1934年、オランダ、アムステルダム生まれで、アムステルダム音楽院、アムステルダム大学などで学び、弱冠21歳で王立ハーグ音楽院の教授となるなど、若いころから才能が開花した人。1950年代にはリコーダー奏者として活躍し、リコーダーと言う楽器を本格的な楽器としての地位の確立に貢献しました。1981年に古楽器のオーケストラ、18世紀オーケストラを創設し、指揮者に転身。18世紀オーケストラとはハイドンをはじめとしてモーツァルト、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、シューベルトの交響曲をPHILIPSレーベルに次々と録音し、その独特の迫力ある演奏によって広く知られるようになりました。以後の活躍は皆様ご存知でしょう。日本では2005年から新日本フィルでハイドン・プロジェクト、ベートーヴェン・プロジェクトなど一連のコンサートを開催し、晩年の充実した指揮を聴かれた方も少なくないのではないでしょうか。

さて、そのブリュッヘンの2006年1月のグラスゴーでのライヴで取りあげられた「王妃」ですが、如何なる響きを聴かせてくれるでしょうか。

Hob.I:85 / Symphony No.85 "La Reine" 「王妃」 [B flat] (1785?)
なぜか収録レベルが低く、かけるとだいぶ音量が低いのでヴォリュームを調整します。録音は少し遠めにオケが定位し、鮮明さはほどほどで、音のリアリティはもうすこしほしいところ。CD-Rとしてはまずまずでしょう。96年録音の18世紀オーケストラとの演奏が速めのテンポで直裁にグイグイと煽る入りだったのに対し、こちらはテンポは落ち着き、音楽のフォルムをしなやかに描いて行くような演奏。特に木管楽器の美しい音色を慈しむように響かせ、迫力よりも音楽の展開に素直な演奏。18世紀オーケストラ盤よりもかえって力が抜けて、音楽の流れが良い感じ。
つづくアレグレットに入ると、その流れの良さがさらに磨かれて、流麗に。晩年のブリュッヘンの心境なのか、泰然とした澄みきった心境を表すよう。以前の怒濤の迫力への憧憬のようなものはなく、実に自然な音楽。ここでもフルートや木管楽器の響きの美しさは惚れ惚れするよう。スコットランド室内管の名手たちの隙のない演奏に打たれます。
メヌエットに入っても一切力まず、音楽の流れが非常にしなやか。まさに悟りを開いたように心穏やかな演奏。パートパートのの音の重なりは緻密なので、コントロールは十分行き渡っていますので、ブリュッヘンの心境を踏まえた表現でしょう。
素晴しいのがフィナーレ。これまでたたら畳み掛けてきたであろう楽章ですが、実に流麗、華やか。ハイドンの書いたメロディーの素晴しさを歌いつくすようなアプローチ。残念ながらピークが伸びきらない録音の粗がありますが、それでも十分にこの澄みきった音楽が伝わります。力の抜けた素晴らしい王妃に会場から拍手が降り注ぎます。

続くシュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュの交響曲は非常に珍しいもの。シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュは、ハイドンと同時代の人で、ハイドンにパリ交響曲を注文したコンセール・ド・ラ・ロージュ・オランピックのコンサートマスターをしていた人で、まさにシュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュがハイドンに注文をした本人とのこと。そしてその後にモーツァルトのパリ交響曲がおかれるなど、この日のプログラムは実に良く考えられた企画。パリ交響曲はかなり華やかで、これぞブリュッヘンという演奏。ブリュッヘンの面目躍如。おそらくこの日のプログラムの全体構成から、あえて王妃はしなやかな演奏を狙ったものと推察できます。万全ではない録音を通してさえ、この日のコンサートの素晴らしさが伝わります。この日の会場いた聴衆の心に刺さる素晴しいコンサートだったに違いありません。評価は録音のコンディションにもかかわらず[+++++]を進呈です。

またひとり、偉大な個性が逝ってしまいました。こころよりご冥福をお祈りいたします。

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