ラースロー・ショモギー/ウィーン響の89番、90番(ハイドン)

ラースロー・ショモギー(László Somogyi)指揮のウィーン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲89番、90番の2曲を収めたLP。収録は1963年6月、ウィーンのコンツェルトハウスの中にある中規模のモーツァルトホールでのセッション録音。レーベルはHIS MASTER'S VOICE。
ラースロー・ショモギーは1908年、ハンガリーのブダペスト生まれの指揮者。ブダペストのフランツ・リスト・アカデミーでコダーイらに音楽を学び、のちにショモギー自身が後年この音楽院の指揮クラスの教授となっています。ハンガリーにいた時代には彼自身のオーケストラを創設したり、ハンガリー放送の指揮者を務めたり、ハンガリー国立歌劇場に客演したりしていましたが、その後、ポーランド、東独、ルーマニア、ユーゴスラビア、ブルガリアなどの主要なオケを指揮するようになります。1956年には母国を離れて、イギリス、フランス、イタリア、スイス、スペイン、イスラエルなどで活躍するようになり、南アフリカにも遠征しています。アメリカデビューは1961年、ヒューストン交響楽団とのこと。以後世界的に活躍していたということです。亡くなったのは1988年スイスのジュネーブにて。
ショモギーはこのアルバムではじめて聴く人。恥ずかしながら今までまったく知りませんでした。ディスクユニオンの店頭でこのアルバムに出会った時、油彩風のショモギーの肖像と目が合い、いつものように不思議なオーラを感じたため、迷わずゲット。帰ってプレイヤーにかけると、盤のコンディションもほどほど良く、いきなりキレの良い音楽が吹き出してくるではありませんか。やはりLPには独特のリアリティがあっていいですね。
Hob.I:89 / Symphony No.89 [F] (1787)
おなじみの証城寺のメロディから入りますが、いきなり覇気が満ちあふれる充実の響き。テンポは中庸ですが、音に宿る力感が凄い。ウィーン交響楽団の最良の響き。筋肉が黒光りして浮き出るボディービルダーの均整のとれた肉体の如き立体感。録音も1963年とは思えない鮮明さで、眼前にオケがリアルに定位します。演奏のキレは素晴らしく、まるでハイドンの交響曲の理想像のような出来。1楽章からあまりの素晴らしさに息を飲まんばかり。
続くアンダンテ・コン・モートはテンポを落として、味わい深い響きに変わります。ダイレクトな響きのまま、オケが落ち着いてゆったりとした音楽が流れます。中間部の壮大な展開を挟んで、再びゆったりとした音楽に戻り、彫りの深い表情の魅力で聴かせます。特に木管陣の引き締まった演奏が印象的。非常に造りの大きなアンダンテ。
メヌエットに入ると、一層彫りが深くなり、音楽の立体感は尋常ではありません。確信犯的にキリリと引き締まった音楽にただただ圧倒されるよう。もちろん時代がかった表現ではありますが、時代を超えた説得力があるように感じるのも正直なところ。音楽の気迫に押されっぱなし。
フィナーレはむしろ、これまでの緊張感からすこし解放されるようにのびのびとした印象を醸し出します。力づくのフィナーレではなく、ここに来て流麗さを感じさせるあたり、並の力量ではありませんね。まるで見事な楷書の書を見せられているよう。楽章毎の力加減のバランスに静かな美しさが宿ります。中盤以降の力を入れながらも、メロディーの重なりを表すようなところでは、溜めを効かせて音楽の面白さを際立たせます。見事!
Hob.I:90 / Symphony No.90 [C] (1788)
序奏からすでに迫力満点。前曲の素晴しい演奏で、力量はわかっていますので、耳を峙てますが、序奏は軽いタッチでまだ牙は剥きません。主題に入ると、力は八分ですが、殺気のようなものを感じさせながらの演奏。メロディーのキレが尋常ではないので、そのように聴こえるのでしょう、音楽は平常なのに、どこからか狙われているような気分。この不思議な高揚感がハイドンの音楽を際立たせます。メロディーのひとつひとつはユーモラスなのに音楽は素晴しい緊張感に包まれます。奏者がボウイングに全神経を集中させているよう。
つづくアンダンテも前曲同様、非常に落ち着いた表情ながら、大きな起伏をつけて壮大な造り。メロディーにハイドンが込めたニュアンス以上に彫刻的な表現が素晴しい効果を生んでいます。ドラティも険しい表情づくりは上手いのですが、ドラティ以上に引き締まり、また隈取りがクッキリとしたフォーマルな表情を作ります。録音の優秀さも手伝って素晴しい迫力が味わえます。
メヌエットでは、曲調をうまく捉えて、逆に力を緩めて流すような表現に変化します。この微妙なテンションのコントロールが生み出すデリケートな表情こそが音楽を活き活きとさせるポイントに違いありません。
フィナーレはラトルが終わりそうで終わらないという部分をコミカルな演出で聴かせる曲。ショモギーはコミカルなのではなくアーティスティックに仕上げ、クライマックスにふさわしく白亜の大神殿のごとき完成度で磨き込んで攻めてきます。フレーズの陰影の深さはショモギーならでは。テンポも上がり、素晴しい盛り上がりで一旦終わったような表情を見せた後は、非常に柔らかに表情を変えて入りなおしますが、この辺りの洗練された演出はこれまで聴いた中では一番のもの。クッキリと陰影のついた正統派の交響曲演奏というばかりではなく、こうした演出の上手さも一流でした。
はじめて聴くラースロー・ショモギーのハイドンは予想を遥かに超える圧倒的な名演でした。パリセットとザロモンセットの間の交響曲2曲をこれだけ見事に演出して聴かせるとは思いませんでした。ドラティ以上にタイトで、ドラティ以上にユーモラスな部分の演出も上手く、そして録音も鮮明。3拍子そろった名演とはこのことでしょう。検索してみてもこの演奏はCD化はされていないようです。これだけの名演奏が現在流通していないのはやはり痛恨事。是非良好な音質でのCD化を望みたいものです。評価は両曲とも[+++++]、というより両曲のベスト盤といってもいいでしょう。
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