【ドイツ決勝進出記念】アルバン・ベルク四重奏団の「皇帝」「騎士」(ハイドン)

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アルバン・ベルク四重奏団(Alban Berg Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」、Op.74のNo.3「騎士」の2曲を収めたアルバム。収録は1973年から74年にかけて、ウィーンのバイエリッシャー・ホーフでのセッション録音。レーベルはTELDEC。
アルバン・ベルク四重奏団は、日本では最も有名なクァルテットでしょう。ハイドンもベートーヴェンもブラームスもラヴェルも雑誌などでは皆推薦盤となっており、精緻、精妙な演奏は弦楽四重奏曲のスタンダードとして広く親しまれています。また、ずいぶん来日していたようで、生で聴かれた方も多いかもしれません。私も一度ミューザ川崎でのコンサートでハイドンを聴いています。アルバン・ベルク四重奏団の情報も含めて、その辺はEMIでのレコーディングを取りあげた記事に記しています。
2011/11/17 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アルバン・ベルク四重奏団のOp.76のNo.1
そのアルバン・ベルク四重奏団も2008年7月に解散してから、すでに6年が経ちます。アルバンベルク四重奏団のハイドンの弦楽四重奏曲はEMIの録音がスタンダードとされているようですが、私は今ひとつ、クッキリと精緻に演奏するスタイリッシュなアルバン・ベルク四重奏団の演奏が、ハイドンの弦楽四重奏曲の多様な魅力を伝えきっているかといわれると、そうでもないとの印象をもっており、世評ほど高く推してはいません。
また、今日とりあげるTELDECの旧録音の方は、実は手元になく、先日ディスクユニオンでようやく手に入れた次第。この旧盤の出来も気になっていたため、ワールドカップのドイツの活躍をきっかけとして、今更のレビューとなったわけです。このアルバムの演奏時のメンバーは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:ギュンター・ピヒラー(Günter Pichler)
第2ヴァイオリン:ゲルハルト・シュルツ(Gerhard Schulz)
ヴィオラ:ハット・バイエルレ(Hatto Beyerle)
チェロ:ヴァレンティン・エルベン(Valentin Erben)
新盤はヴィオラがトーマス・カクシュカ(Thomas Kakuska)に変わっていますので、その違いも興味深いところです。
Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
このアルバムを聴くのにEMIの新録音の方の皇帝も聴いたのですが、新録音の方が響きの多いホールで遠くに定位する録音、TELDECの旧録音の方はそれに比べるとオンマイク気味でオーソドックスな録音という感じという違いがあります。旧録音は演奏もオーソドックスに聴こえます。1楽章はハイドンの書いた楽譜のエッジをキリリとシャープに聴かせて、音の重なりとメロディーの変化を克明に響かせる感じ。このシャープに聴かせるというところにこだわっているのがアルバン・ベルクの特徴でしょう。
2楽章のポコ・アダージョ・カンタービレがドイツ国歌のメロディー。Wikipediaによれば、この曲はハイドンが1797年に神聖ローマ皇帝フランツ2世に捧げた「神よ、皇帝フランツを守り給え」(後に弦楽四重奏曲「皇帝」第2楽章の主題に用いられる)のメロディーに、1841年にアウグスト・ハインリヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベン(August Heinrich Hoffmann von Fallersleben)がヘルゴラント島で詠んだ詩を付けたものとのこと。歌詞は同じくWikipediaによれば下記のとおり。
ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ
この世のすべてのものの上にあれ
護るにあたりて
兄弟のような団結があるならば
マース川からメーメル川まで
エチュ川からベルト海峡まで
ドイツよ、ドイツよ、すべてのものの上にあれ
この世のすべてのものの上にあれ
まさにワールドカップの決勝戦の前に歌われるのにふさわしいもの。私には歌詞ではなく、ハイドンの書いた神々しいメロディーだけが響きますが、、、
(追記)
だまてらさんのコメントにあるように上に引用した歌詞は1番で現在は3番の歌詞が歌われているそう。よく考えれば1番の歌詞は今は歌えませんね。Wikipediaにも明記されてました。だまてらさん、ご指摘ありがとうございます。3番の歌詞も載せておきましょう。
統一と正義と自由を
父なる祖国ドイツの為に
その為に我らは挙げて兄弟の如く
心と手を携えて努力しようではないか
統一と正義と自由は
幸福の証である
その幸福の光の中で栄えよ
父なる祖国ドイツ
演奏にもどると、流石にアルバン・ベルク、2楽章のメロディーをくっきり描いて行く手腕は見事。まさに精緻そのものという感じ。変奏ごとの表情をクッキリと描き分け、パートごとにアクセントをつけて、特にヴィオラ、チェロの表情の多彩さが素晴しいですね。この2楽章はスタイリッシュすぎず、じっくり、しっとりとしていて悪くありません。新盤よりも音楽が深い感じ。
続くメヌエットは意外に変化をあまり付けず、一様なリズムで淡々と進めます。メヌエットの演出はクァルテットによってかなり異なりますので、ハイドンの弦楽四重奏曲の聴き所の一つ。中間部は表現を抑えて穏やかに進み、再び適度に活き活きとしたメロディー。やはりヴィオラ、チェロの響きが心地よいですね。
フィナーレはもうすこし激しく来るかと思いきや、踏み外しません。きっちりと枠にはまって、設計どおりの演奏を意図しているよう。やはりカッチリとしたメリハリが印象的。これをドイツ的というのでしょうか。あえて言えば模範的な演奏というべきでしょう。
Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
騎士の方にもすこしふれておきましょう。適度にカッチリした演奏というスタイルは変わりませんが、騎士の方が曲に虚心坦懐に向き合っているように聴こえます。八分の力の範囲で冷静にコントロールしている感じがやはりアルバン・ベルクらしいところ。ほの暗い表情を織り交ぜながら、かなり多彩な展開。ピヒラーのヴァイオリンは他の3人のアンサンブルの調和を乱さず、うすく縁取りを目立たせるような絶妙なもの。
つづく2楽章は先にふれたミューザ川崎のコンサートのアンコールで取りあげられ、4人の呼吸とボウイングが完全に一体化した、実に精妙な音楽の流れに打たれましたが、このアルバムの演奏では、そこまでの突き抜けた表現ではなく、まだ自然さの残る演奏。
メヌエットも前曲同様、安定したリズムに乗って、特段の踏み込みは見せません。そしてそのまま終楽章に入り、安定した弓さばきで、タイトに引き締まった音楽を聴かせます。
1970年代のアルバン・ベルク四重奏団による皇帝と騎士というハイドンの弦楽四重奏曲の名曲2曲を収めたアルバム。やはりアルバン・ベルク四重奏団の演奏は盤石の安定感で、クッキリとしたメロディーを、踏み込みすぎずに奏でて行くスタイル。この演奏を好む方も多いと思いますが、これまで様々な弦楽四重奏曲の名演を聴いている立場からすると、彼らのイメージするかっちりとしたハイドンという枠にはまっている演奏と聴こえます。アルバン・ベルクのハイドンはこのクッキリとした響きを造る事にこだわっている感じがして、ハイドンの音楽に潜む人間的なウイットとかユーモアの表現がもうすこしあればいいのにとの余韻を残してしまいます。逆に響きの完成度は高く、そこを評価する人には好まれる演奏だと思います。評価は両曲とも[++++]としておきましょう。
アルバン・ベルクのカッチリとしたハイドン、今回のワールドカップの冷静沈着なパスまわしを特徴とするドイツのサッカーのスタイルと共通点が無くもありませんね。さてドイツ。天才メッシを擁するアルゼンチンの止める事ができるのでしょうか。決勝戦のドイツ国歌を楽しみながら、試合を見たいと思います。決勝は特にどちらを応援しているわけではありません。今回私はチリに入れこんでおりました。
アルゼンチンが勝ったら。ピアソラでも取りあげましょう(笑)
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