作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団のディヴェルティメント集(ハイドン)

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ちょっと間があいてしまいました。今日は珍しいアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団(Belvedere Trio Wien)の演奏によるハイドンのバリトン三重奏曲8曲を収めたアルバム。収録曲は下記をご参照ください。収録は2005年2月13日から15日にかけて、ブダペストのフンガロトンスタジオでのセッション録音。レーベルはもちろんHUNGAROTON CLASSIC。

このアルバム、バリトン三重奏のバリトン、ヴィオラ、チェロの組み合わせでの演奏ではなく、バリトンの代わりにヴァイオリンが入った、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという構成での録音。この組み合わせでの演奏で思い出すのがアンサンブル・リンコントロのアルバム。

2010/12/21 : ハイドン–室内楽曲 : 【年末企画】アンサンブル・リンコントロのバリトン・トリオ

バリトン三重奏曲の演奏は、もちろんバリトンという珍しい楽器の神秘的な響きに耳がいくわけですが、リンコントロ盤では、そうした音色の面白さという点ではなく、弦楽四重奏曲同様メロディー構成の面白さに惹き付けられる演奏でした。バリトントリオをあえてバリトンをはずして演奏するというところに、演奏者の意図があるような気がします。

今日取り上げるウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団による演奏もおそらく似た狙いを持っているように聴こえます。

ウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団は1990年、ハンガリーのブダペストの北東の街ゲデレー(Gödöllõ)の宮殿で行われた室内楽音楽祭で出会った若手奏者3名によって設立されたトリオ。メンバーは以下のとおりです。

ヴァイオリン:ヴィルモシュ・サバディ(Vilmos Szabadi)
ヴィオラ:エルマー・ランダラー(Elmar Landerer)
チェロ:ロベルト・ナジ(Róbert Nagy)

なんと調べてみたらヴィオラのエルマー・ランダラーとチェロのロベルト・ナジは今はウィーンフィルのメンバーですね。ヴァイオリンのヴィルモシュ・サバディはフランツ・リスト音楽院の出身で今はハンガリーを代表するヴァイオリニストということで腕利き揃いのメンバーでのハイドンの演奏ということになります。

演奏は現代楽器の非常に晴朗な音色の堂々とした三重奏。教科書的というと型通りな印象もはらみますが、いい意味で見本になるような実に明解な響き。陽光に照らされたギリシャ彫刻のような圧倒的な存在感とフォルム。バリトンの三重奏曲の作曲年代は1765年から75年くらいにかけてと、シュトルム・ウント・ドラング期にあたりますが、作曲の契機がバリトンを好んだニコラウス・エステルハージ侯が演奏するためということで、わかりやすく明解な曲調になっているため、このウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団の演奏は、これらの曲の本質を突くスタイルということでもあります。

曲ごとの特徴などを簡単にさらいながら紹介していきましょう。

Hob.XI:53 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [G] (1767)
モデラート、メヌエット、フィナーレという3楽章構成の小曲。3人の音色、テンポがそろい、非常にシンプルな小曲をキリッと引き締めての演奏。テンポのキレで聴かせ、チェロのピチカートが弾みます。楽章間のテンポのメリハリはそこそこですが、音楽の表情が活き活きとして飽きさせません。小曲なのにフィナーレがフーガ風でなかなか本格的な構成。

Hob.XI:81 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1772?, 69-71)
かわってアダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエットという構成。短調のメロディーがぐっと迫ってきます。サバディのヴァイオリンは存在感抜群。切々と訴えかけてきます。眼前にリアルに定位する3台の楽器。リアルな録音によってこの演奏の魅力が引き立ちます。続く2つの楽章も素晴しいテンション。グイグイ来ます。

Hob.XI:96 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [b] (before 1772?, 69-71)
ラルゴ、アレグロ、メヌエットという構成。バリトントリオのなかでは比較的取りあげられる曲。バリトンの演奏では摩訶不思議な響きが充満する不思議な曲ですが、ヴァイオリンに変わった演奏ではやはりこの曲のメロディーラインに集中できます。弦楽四重奏曲と同様、このころのハイドンの構成の面白さに惹き付けられます。ここまでの曲でも曲の構成が1曲1曲独特で、同じ楽器構成で3楽章構成なのにまったく曲想が異なるため、ハイドンの思考回路を想像しながら聴くと非常に刺激的です。最後のメヌエットの堂々とした風情と中間部の可憐さの対比に驚きます。

Hob.XI:101 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [C] (before 1778, 72-78)
アレグロ、メヌエット、フィナーレ(フーガ)という比較的馴れた構成。長調の典雅な音楽からの入り。爽快な展開に前曲までのテンションの高い音楽から雰囲気が一変。心なしか奏者も力が抜けてリラックスしているよう。メヌエットも軽快ですが、最後のフーガは非常に珍しいメロディー構成。現代音楽を予感させる音の展開にここでも驚きます。ハイドンとしても意欲的な表現だったのでしょうね。

Hob.XI:114 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 72-78)
モデラート、メヌエット、フーガ。進むにつれて曲の構成が本格的になっていきます。音を追いかけながら曲の展開を楽しみます。メヌエットはピチカートを積極的に使って弦楽四重奏にもないような意欲的な表現。弦楽四重奏曲よりも響きの純度が高く構成がわかりやすいですね。最後は畳み掛けるようなフーガで締めます。

Hob.XI:117 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [F] (before 1778, 72-78)
ふたたび変わった構成にもどります。アダージョ、アレグロ、メヌエットとなります。しっとりとしたアダージョからの入りで、曲の印象もずいぶん変わります。1楽章だけでもぐっと盛り上がり、緩急のコントロールの鮮やかさが印象的です。恐ろしく鮮やかなアレグロ、癒しに満ちたメヌエットと曲の構成の面白さに釘付けです。

Hob.XI:109 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [C] (before 1778, 72-78)
この曲もアダージョから始まり、アレグロ、メヌエットと続きます。XI:96とともに良く演奏される曲ゆえ、響きに親しみがあります。1楽章は和音の余韻の変化の面白さが聴き所。聴き慣れると2楽章が快活なのも悪くありませんね。そして同じメヌエットでも奏でられる曲想はかなり異なり、聴き進みながらハイドンの創意の多彩さに打たれます。

Hob.XI:113 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 72-78)
最後の曲。アダージョ、アレグロ・ディ・モルト・メヌエット。はっとするほどしなやかな入り。このアルバムの選曲、冴えています。静かに間を取った詩的なピチカート、そしてゆったりと音楽が沈み込み、深い渕を垣間見せます。華やかな2楽章を挟んで、最後のメヌエットの実にのびのびとした風情。ヴァイオリンの奏でるメロディーの透明感と謙虚な伴奏の対比、自在な展開部を挟んで最後は伸びやかに終わります。

ウィーン・ベルヴェデーレ三重奏団のバリトンなしのバリトン三重奏曲集。最初の入りは律儀というか深みに欠けるような印象もありましたが、それは曲を素直に演奏していたからでした。次々に曲が進むと、その構成の面白さ、ハイドンの創意に釘付けになります。奏者は流石ウィーンフィルメンバーということで、隙がなく、最後の曲まで一気に聴かせる素晴しいアルバムでした。入りを聴いて少し低めにつけようかと思いましたが、このアルバム、やはり全8曲の対比の面白さを買って全曲[+++++]とすることにしました。室内楽好きな方には絶好のアルバムです。

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