作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ドロテー・ミールズの歌曲集(ハイドン)

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実に久しぶりのレビュー。先月末から約1ヶ月、関西への旅行をきっかけに旅行記にかまけて、レビュー記事をアップしておりませんでした。純粋にハイドンファンの皆様には大変ご無沙汰をしておりました。しばらくはハイドンのレビューに集中したいと思います。

さて、今日は最近手に入れたアルバムから、お気に入りの一枚を取りあげたいと思います。

Mields.jpg
HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ドロテー・ミールズ(Dorothee Mields)のソプラノ、レサミ・ド・フィリッペ(Les Amis de Philippe)の伴奏による、ハイドンの英語カンツォネッタ集から6曲、スコットランド歌曲集から12曲のあわせて18曲を収めたアルバム。収録は2013年2月18日から21日にかけて、ドイツ,ブレーメンの放送ホールでのセッション録音。レーベルはマイナーな曲を網羅的に録音している独cpo。

ドロテー・ミールズは1971年、ドイツのエッセン近郊の街、ゲルゼンキルヒェン生まれのソプラノ。バロック及び現代音楽をレパートリーとしているそうです。子供のころピアノとヴァイオリンを習い、歌をエッセンで習うとその後、いくつもの合唱団で経験を積み、ブレーメン芸術大学で声楽を学ぶようになります。大学では17世紀、18世紀の音楽に対する興味が増し、ハリー・ファン・デル・カンプ等に師事、卒業後はシュツットガルトでユリア・ハマリについて声楽を学びました。その後は古楽、現代音楽のコンサートで経験を積み、レパートリーはモンテヴェルディからブーレーズまでとかなり広く、手元のアルバムではヘンゲルブロックの天地創造でエヴァを歌っていました。

伴奏のレサミ・ド・フィリッペは、ヴァイオリン、ヴィオラ、フォルテピアノの3人から成る団体。メンバーは以下のとおり。

ヴァイオリン:エヴァ・サロネン(Eva Salonen)
チェロ:グレゴール・アンソニー(Gregor Anthony)
フォルテピアノ:ルドガー・レミー(Ludger Rémy)

この歌曲集、好きなハイドンの歌曲集ということで、注文を入れておりましたが、到着して聴いてみると、清透なドロテー・ミールズのソプラノの美しさのみならず、しっとりとした伴奏の美しさ、特に遅いテンポの曲に宿る静けさのようなものの表現の美しさにぐっときました。ハイドンが最晩年に手がけたスコットランド民謡への伴奏づけという仕事の面白さが手に取るようにわかる、実に見事な演奏。ちょっと旅ボケしていた私の、ハイドンの音楽の素晴しさを感じる脳の中枢のスイッチを入れ直してくれるような癒し系のアルバムです。

18曲もの曲が収められているので、曲ごとに簡単にメモを残しておきましょう。

Hob.XXVIa:32 / 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
カンツォネッタ集からの曲はフォルテピアノのみの伴奏。ルドガー・レミーのフォルテピアノは歌曲の伴奏ということを踏まえた雄弁すぎないサポート。清らかで良く延びるドロテー・ミールズのソプラノに対し、訥々と語りかけるようなタッチで寄り添います。切々としたほの暗い表情の美しさ際立つ曲。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
名曲ですが、時折消え入るような伴奏の表現の幅の大きさが素晴しく、これまでの演奏の中でも、曲の劇性が際立って、特に静けさの表現が秀逸。歌曲における伴奏の重要さを再認識。しっとりとしているのに、素晴しい立体感を感じます。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
つづく名曲。この曲も入りの伴奏から、グッと惹き付けられます。ミールズの歌はそれに応えるように、しっとりと艶やかで、一貫して清楚。発音もドイツ人とは思えない自然さ。ここまでの3曲が英語カンツォネッタ集からの曲。

Hob.XXXIa:9 - JHW XXXII/1 No.9 / "The waefu' heart"
ここからはスコットランド歌曲。伴奏にヴァイオリンとチェロが加わりますが、フォルテピアノの雄弁さがヴァイオリンとチェロにも乗り移っているような、見事なしっとり感。スコットランド歌曲集といえば、Brilliant Classicsからリリースされているアイゼンシュタット・トリオの全集が決定盤ではありますが、キレのいいカッチリとした伴奏の魅力で聴かせるもの。こちらはそれにたいし陰りのようなものを実に旨く表現していて、スコットランド歌曲集の別の魅力を引き立てます。

Hob.XXXIa:2 - JHW XXXII/1 No.2 / "John Anderson" (Robert Burns)
徐々に、ミールズの歌と、レサミ・ド・フィリッペの伴奏の醸し出すえも言われぬ世界に魅力に引き込まれます。

Hob.XXXIa:1 - JHW XXXII/1 No.1 / "Mary's dream" (Alexander Lowe)
感極まったのがこの曲。以前聴いたスーザン・ハミルトン盤もすばらしかったのですが、再びノックアウト。スコットランドの魂に触れるような素晴しい曲。美しすぎるメロディー。スコットランドの鉛のような空の魅力をたっぷり含んだ名曲。ハイドンのつけた伴奏はこの曲の美しさを余すところ無く伝えます。

Hob.XXXIa:246 - JHW XXXII/3 No.230 / "The boatman" (Allan Ramsay)
前曲の余韻を昇華するように、さらりと明るい歌が脳の別の中枢を刺激。歌っている歌手、伴奏を担当する演奏者自身が微笑みながら演奏を楽しんでるようすが手に取るように伝わる素朴な音楽。音楽の楽しみの真髄はこうした素朴な音楽にあるのだとハイドンが微笑んでいるよう。

Hob.XXXIa:235 - JHW XXXII/3 No.257 / "Langolee" (John Tait)
聴き進むごとに、どっぷりとスコットランド歌曲の魅力に浸かっていきます。ドロテー・ミールズの豊かな表情づけの魅力を堪能。ヴァイオリンとチェロはくだけた表現で、ミールズの素朴な魅力をさらにもり立てます。

Hob.XXXIa:173 - JHW XXXII/3 No.181 / "Sensibility" (Robert Burns)
ミールズの高音の素朴な伸びの美しさが際立ちます。録音は最新のものですので、適度に控え目な残響のなかにしっかりと奏者が浮かびあがり、実体感溢れる安定したもの。

Hob.XXVIa:42 / "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
つづく3曲は再び英語カンツォネッタ集から。伴奏もフォルテピアノのみに戻ります。民謡から歌曲に戻ったことを印象づけるフォーマルな雰囲気に変わり、歌もタイトな表情に変わります。高音の音階の美しさを真摯に表現して、コントロール力を印象づけます。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
伴奏がシンプルになったことで、ミールズの歌に集中。あまりヴィブラートをかけないのびのびとした歌唱で、声の透明感が強調されますが、しなやかさが欠ける場合も多いものですが、ミールズの声質はもともとやわらかさをもっており、じつにしっとりと響きます。

Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
間に挟まれた3曲のカンツォネッタ集からの曲はいずれもフォーマルな佇まいをもつ曲。アルバムの中間において、変化をつけるという趣旨でしょう。なかなかいい発想です。

Hob.XXXIa:91 - JHW XXXII/1 No.91 / "Jockie and Sandy" (Robert Burns)
やはり、このアルバムの主役はスコットランド歌曲集。ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏の饒舌さは素晴しいもの者があります。1分少しの曲なのに雰囲気を変えるインパクトをもっています。

Hob.XXXIa:3 - JHW XXXII/1 No.3 / "I love my love in secret" (Robert Burns)
語るような歌い口に伴奏もくだけて応じ、じつに楽しげな演奏。

Hob.XXXIa:13bis - JHW XXXII/3 No.214 / "Gramachree" (Said to have been written in Bedlam by a Negro)
終盤の名曲。再びスコットランドの魂にふれるような郷愁溢れるメロディーにぐっときます。繰り返し以降のすこし力を抜いた歌のはかない美しさは秀逸。伴奏は明らかに曲のメリハリを意識して、かなり弱音を緻密にコントロールしています。

Hob.XXXIa:168 - JHW XXXII/3 No.161 / "Auld Robin Gray"
そうとう考えた選曲なんでしょう。アルバムの終盤の曲にふさわしい、名残惜しさと機転を感じさせる曲。途中での短調への転調のキレ。そして静けさに徐々に包まれるような気配。

Hob.XXXIa:134 - JHW XXXII/2 No.134 / "What can a young lassie do" (Robert Burns)
そして、ヘザー・ハニーのような独特の芳香を放つ曲。

Hob.XXXIa:252 - JHW XXXII/3 No.232 / "Jenny's bawbee" (Alexander Boswell)
最後はコケティッシュなドロテー・ミールズの表現の幅の広さを印象づけます。ヴァイオリンは音程を狂わせるほどの演出で、このアルバムが皆を楽しませるための音楽であることを気づかせます。なかなか粋な演出です。

いやいや、このアルバム奥が深い。歌曲のアルバムは歌手の特徴がわかってしまうと、その個性をずっと引きずる単調さをはらむリスクがありますが、このアルバムでは、曲を変え、表現を変えて、ハイドンの歌曲の面白さと、ドロテー・ミールズの表現力を存分に楽しめる構成になっています。スコットランド歌曲集の面白さが際立ち、特にマリーの夢は名唱。伴奏もテクニックではなく味わいで聴かせる秀逸なもの。ハイドンの歌曲の入門盤としてもオススメです。評価は全曲[+++++]とします。

目の前には未聴盤の山。しばらくがんばります!

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