作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

シューラ・チェルカススキーのウィグモアホールライヴ

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ピアノソナタが続きます。今日はコンサートをそのまま収めたような素晴しいライヴです。

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amazon / TOWER RECORDS

シューラ・チェルカススキー(Shura Cherkassky)のウィグモアホールでの1993年10月29日のリサイタルの様子を収めたライヴ。レーベルはもちろんWIGMORE HALL LIVE。

チェルカススキーは名前は知っていたものの、演奏を聴くのははじめて。はじめての奏者のアルバムを聴くのはいつもながら楽しみですね。しかも好きなライヴということで期待先行です。いつものように略歴をさらっておきましょう。

シューラ・チェルカススキーは1909年、ロシア(現ウクライナ)のオデッサ生まれのピアニスト。程なくチェルカススキーの家族はロシア革命を逃れるためアメリカに渡りました。ピアノは母に手ほどきを受け、その後カーティス音楽院でヨゼフ・ホフマンに師事、ホフマンは1日4時間の練習を課し、また聴衆を前にしての演奏を重んじましたが、チェルカススキーは生涯にわたってホフマンの教えを守ったとのことで、それゆえ、チェルカススキーの録音の多くはライヴだそうです。1940年代にはカリフォルニアに移り、バルビローリやストコフスキーらとともにハリウッド・ボウルなどに出演した。また1946年のハンブルクでハンス・シュミット=イッセルシュテットの指揮での「パガニーニの主題による狂詩曲」の成功により、ドイツやザルツブルク音楽祭などに出演するようになり、また1957年のウィグモアホールでのリサイタルを契機に、イギリスでも人気が出るようになりました。1961年からはロンドンのホワイトハウスホテルで暮らすようになり、1995年に亡くなるまで住み続けたとのこと。チェルカススキーにとってはウィグモアホールはロンドンで暮らすきっかけになった想い出深いホールなのでしょうね。

今日とりあげるアルバムの録音は1993年とチェルカススキーが亡くなる2年前、84歳の頃の録音。ホールが暖かい雰囲気に包まれている理由がわかりました。

1曲目はラモーのイ短調組曲から7分ばかりのガヴォットですが、これが実にしんみりといい雰囲気。少し距離を置いて奥に定位するピアノの音がホールにゆったりと響き渡ります。残響は多めですが、十分鮮明ないい録音。ライヴを得意としたチェルカススキーの濃厚な音楽が聴衆を釘付けにしているのがよくわかります。拍手もリアルでまさにコンサート会場にいるような臨場感。

2曲目がお目当てハイドン。

Hob.XVI:34 / Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
前記事でグロウホヴァの演奏を聴いたばかりの曲。チェルカススキーはライヴですが流石に安定感は抜群。グロウホヴァほどの個性的な演奏ではありませんが、軽々としたタッチでセッション録音とは異なる閃きが感じられる演奏。速めのテンポで淡々と進め、特に右手の転がるような音階の美しさはかなりのもの。この軽やかながら、適度にメリハリをつけたキレのいいタッチが84歳の奏者のタッチとはとても思えません。ライヴではありますが力任せなとことは全くなく、ハイドン特有の小気味好い雰囲気が実に良く出た演奏。
つづくアダージョは、そのまま速めのテンポながら音量を落として、静かにきらめく美しさが印象的。さらさらとさりげなく進めるのですが、実に味わい深い音楽。このさりげなさの中の感興こそ、チェルカススキーの真骨頂でしょう。音量をさげるほど右手のきらめきが研ぎすまされて行く至芸。終盤にいたるタッチの変化の波の心地よいこと。
フィナーレは静かなタッチから音楽が滲み出てきます。フィナーレはアダージョと比べるとむしろ遅めに聴こえます。アダージョでのさりげなさに対して、フィナーレは明らかに落ち着いた表情。慌てるそぶりは全く見せず、じつにしっとりとメロディーを置いていきます。ちょっとミスタッチもありますが、そこはライヴゆえ、ほとんど気になりません。終盤にかけて曲が徐々に明るく変化するところの、デリケートなニュアンスの変化、そして再び表情を曇らせるところなど、やはり表現の奥行きが深いですね。そっと終えて拍手をもらう作法も流石と唸らざるを得ません。

このあと、ヒンデミット、ショパンにリスト、チャイコフスキーと得意としているレパートリーが続きますが、まさにピアノを楽しむツボを押さえたようなプログラム。流石にライヴの人ですね。ネットを検索しても現在リリースされているアルバムではハイドンが含まれているのはこのアルバムのみ。チェルカススキーの唯一のハイドンのレコーディングということで貴重な演奏でしょう。評価は[+++++]とします。これは真似のできる演奏ではありませんね。短い演奏の中にチェルカススキーと言う人の人生が凝縮されているように感じるのは私だけでしょうか。こころを洗われるようなハイドンでした。

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