オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管の「オックスフォード」、「ロンドン」(ハイドン)

所有盤リストを眺めながら、これまで取りあげていない大物のアルバムをさがしていると、ありました!

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amazon / amazon(新装盤)/ TOWER RECORDS(新装盤)

オットー・クレンペラー(Otto Klemperer)指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団(New Pilharmonia Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲88番、92番「オックスフォード」、95番、98番、100番「軍隊」、101番「時計」、102番、104番「ロンドン」の8曲を収めたアルバム。今日はこの中からCD3に収められた「オックスフォード」と「ロンドン」を取りあげましょう。収録は「オックスフォード」が1971年9月、「ロンドン」が1964年10月、ロンドンのアビーロード・スタジオでのセッション録音。レーベルは英EMI。

もちろんクレンペラーのハイドンは何回か取りあげていますし、このセットからも88番をレビューしています。

2010/12/28 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の88番
2010/10/29 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーのトリノの時計
2010/10/26 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーの時計

なぜかマニアックにライヴの時計を2枚取りあげていますが、肝心のこのセットからは88番のみということで、このセットの真価を紹介しきれていないわけですね。しかも演奏者の背景を知り演奏を聴くことを旨としている当ブログですが、クレンペラーについては過去にきちんと紹介しておりませんので、簡単にさらっておきましょう。

オットー・クレンペラーは1885年、当時ドイツ領だったブレスラウ、現ポーランドのヴロツワフ生まれの指揮者、作曲家。もちろん近代の巨匠指揮者の一人とみなされていることは皆さんご存知のことでしょう。4歳でハンブルクに移り、母親にピアノの手ほどきを受けた後、フランクフルトのホッホ音楽院で学び、ベルリンでは作曲、指揮、ピアノを専攻しました。22歳の時マーラーの推挙でプラハのドイツ歌劇場の指揮者となって以降、ヨーロッパの歌劇場で指揮を重ね、またベルリンフィルでデビューするなどしましたが1933年、ナチスの台頭などにともないアメリカに亡命しました。アメリカではロサンジェルスフィル、ピッツバーグ交響楽団を指揮しますが1939年、脳腫瘍で倒れ、その後後遺症や躁鬱などにともないアメリカでの活躍は終わる事となりました。
戦後1947年から、ハンガリー国立歌劇場の音楽監督に就任しますが、3年で共産党政権と衝突し辞任。その後ロンドンでの客演がEMIのウォルター・レッグの耳にとまり、1952年からEMIとレコーディング契約を結びます。1954年からフィルハーモニア管弦楽団とのレコーディングを開始し、多くの録音をリリース。それがヒットし巨匠として世界的な名声を得る事となったとのことです。その後1964年からは楽団がニュー・フィルハーモニア管弦楽団となったあとも関係は続きましたが、1972年1月には体の衰えが進み、楽壇から引退し、1973年、スイスの自宅で亡くなりました。

今日取り上げる録音のうちロンドンはニュー・フィルハーモニア管となった頃、そしてオックスフォードは、クレンペラー最晩年の録音ということになりますね。これらの経歴を知ってこの2曲を聴くと歴史のパースペクティヴが一層よくわかります。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
幽玄さすら感じさせる雄大な序奏。なぜかクレンペラーは巨大なものを感じさせるんですね。主題に入ってもテンポは雄大なまま、慌てるそぶりはなく、ゆったりと言うより岩のような堅牢さで進みます。オケは一切の小細工を禁じられ、禁欲的にさえ思えるほど表情を変えず、一貫して重たいリズムを刻みます。ただし演奏には不思議と生気が宿り、なにか気迫にみちた熱気を帯びています。岩の巨人がのしのし歩いてくるような迫力。録音はそこそこ鮮明。特にヴァイオリンパートはかなりの鮮明さで切れ込んできます。これぞクレンペラーのハイドン。
普通の演奏では伸びやかな感興が聴き所のアダージョですが、最晩年のクレンペラーの手にかかると、まさに枯淡の境地。ゆったりではなくやはり幽玄。東洋的な、禅の境地のような緊張感が漂います。ハイドンの機知に富み、活き活きと美しく響くはずのアダージョが三途の川のBGMのように響きます。中間部の木管楽器の演奏を聴きながらがなぜか恐山の宇曽利湖の記憶が浮かびます。
メヌエットもかなり遅めで来るかと思いきや、意外と普通のテンポで逆にビックリ。間をたっぷりとって立体感を際立たせます。徐々にリズムが重さを帯び、忍び寄る迫力は殺気すら感じさせます。
指揮者によっては踊り出すような躍動感を感じさせるフィナーレの入りですが、クレンペラーはそこはあっさりこなし、すぐに重量感あふれるオケがフルスロットルに。大排気量のスポーツカーがブォーっと爆音をたてて走りすぎて行くよう。最晩年のクレンペラーの鬼気迫る気迫がオケに伝わってもの凄い迫力。険しい岩のようなオックスフォードでした。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
クレンペラーらしい堅固な印象は感じさせつつも、こんどは表情にしなやかさと生気が宿り、クレンペラー全盛期の余裕が感じられるサウンド。ニュー・フィルハーモニア管として生まれ変わったオケとの充実した演奏。ロンドンという記念碑的な曲に相応しい祝祭感も感じさせ、響きも前曲よりかなり柔らか。まさにロンドンに期待される神々しさを帯びた素晴しい響き。ところどころに岩の塊のような堅固な響きをちりばめ、要所でリズムの重さを聴かせます。中盤から終盤にかけての盛り上がりは79歳の頃の演奏ということを考えると信じられないようなエネルギーを発散しています。クレンペラーの凄さを再認識しました。
続くアンダンテは、やはり枯れてました。侘び寂びを感じるような淡々として、また音色にも和の印象が感じられるような枯れ方。この曲でも幽玄な世界は健在。ただ、オックフォードほど枯れきっていない感じ。オックスフォードは葉の落ちた冬の梅の古木の様な世界でしたが、こちらは晩秋の紅葉の終わりのような風情。と思っていたら中間部で恐ろしく覇気に満ちた爆音を轟かせ、本当にビックリ。
ロンドンでもメヌエットはテンポが上がり、素晴しい躍動感。むしろ速いくらい。クレンペラーは全体に遅いテンポと思いがちですが、このメリハリがあるから素晴しいのでしょうね。
フィナーレはオーソドックスなんですが荘厳さを帯びて聴こえるのがクレンペラーらしいところ。ところどどころ力が抜けて、盛り上げるばかりではなく、かなりメリハリをつけながら、それでも一貫して頑固な印象を与えるところは流石。ロンドンの終楽章は力任せにいくと一本調子に聴こえてしまうことを踏まえてか、クレンペラーにしてはきめ細かくアクセルをコントロールしている感じ。最後は弦楽器群がグッと図太い響きを聴かせて素晴しいクライマックス。

実に久々にちゃんと聴き直したクレンペラーのハイドン。やはり余人には真似の出来ない演奏であることは間違いありません。最晩年の演奏であるオックスフォードはクレンペラーのハイドンの中でももっとも枯れた演奏。オックスフォードの演奏としては相当マニアックな演奏です。逆にロンドンはオーソドックスな範疇に入る名演奏。クレンペラーのハイドンを代表する演奏と言ってもいいでしょう。評価は特にオックスフォードが難しいですね。元は[+++]としていましたが、聴き手の器の問題かもしれませんね。今回あらためて聴き直してみると、やはりクレンペラーの覇気が満ちた名演ということが出来ると思いますが、オックスフォードの演奏としては変わり種。ということで[++++]につけ直すことにします。また、ロンドンは[+++++]のままとします。

クレンペラーのハイドンを取りあげるということで、最後にライムンドさんのブログを紹介しておきましょう。やはりクレンペラーはライムンドさんの縄張りですから(笑)

いまでもしぶとく聴いてます:クレンペラーのロンドン交響曲 ニュー・フィルハーモニア管

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : オックスフォード ロンドン ヒストリカル

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No title

ご紹介ありがとうございます。昨年のメモリアル企画(EMI全録音・廉価箱)の
反動で、この記事で取り上げられている初期CDが中古に流出したので再度
購入していました。ちょうど今、ファイ・ハイデルベルクSOとクレンペラーの92
番を連続取り上げようかと思っていたところなので不思議なタイミングです。
(まだ聴いていませんがCDは近くに置いています。)最々晩年になって何故
オックスフォードを録音したのかと不思議さが残る録音です。

Re: No title

ライムンドさん、ご無沙汰してます。
そうですね、クレンペラーがオックスフォードを最晩年に取りあげようと思ったのはなぜなんでしょうね。このセットでもザロモンセットの未録音があるのに、あえてオックフォードを取りあげたのは気になります。クレンペラーの芸風から言えば太鼓連打や驚愕、99番などを選んでもおかしくありませんね。本来軽やかに演奏されることが多い曲だけに、そういわれると気になります。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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ハイドンディスコグラフィ
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,368
登録演奏数:11,793
(2019年12月31日)
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