作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

プラハ・ヴラフ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

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今日は弦楽四重奏曲。

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プラハ・ヴラフ四重奏団(Blach Quartet Prague)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、Op.33の3「鳥」、Op,77のNo.1の3曲を収めたアルバム。収録は2000年4月10日から12日、17日、チェコのプラハにあるスタジオ・アルコ・ディーヴァ(studio ARCO DIVA)でのセッション録音。レーベルはチェコ、プラハのWALDMANNというところ。

このアルバム、例によって湖国JHさんから送り込まれた3月の課題曲。いつも当方の所有盤にない名盤をさりげなく送り込まれますので、油断なりません(笑)。このアルバムも調べてみると、簡単には手に入りそうもないレアもの。いままでいろいろなアルバムを貸して頂いていますが、どれも流石ハイドンに詳しいだけあると唸るばかりの名盤揃い。今回もアルバムをプレイヤーにかける前には、佐々木小次郎を前にした宮本武蔵のような張りつめた空気が漂います。いや、もしかしたら、宮本武蔵を前にした佐々木小次郎の心境かもしれません(笑)

プラハ・ヴラフ四重奏団は、1982年、第1ヴァイオリンのヤナ・ヴラコーヴァが設立した四重奏団。

第1ヴァイオリン:ヤナ・ヴラコーヴァ(Jana Vlachová)
第2ヴァイオリン:カレル・スタッドゼール(Karel Stadtherr)
ヴィオラ:ペトル・ヴァマー(Petr Verner)
チェロ:ミカエル・エリクソン(Mikael Ericsson)

このクァルテットの前身は、ヤナ・ヴラコーヴァの父、ヨゼフ・ヴラフが第1ヴァイオリンを務めたチェコでは有名なヴラフ四重奏団。時代が変わって、メンバーも変わったため、クァルテット名に新たにプラハをつけて新設されたということでしょう。設立の翌年1983年にはチェコの国際弦楽四重奏コンクールで、チェコ現代音楽演奏賞に輝き、1985年には英ポーツマスで開催された国際弦楽四重奏コンクールで欧州1位となるなどの受賞歴があります。その後スイスでメロス四重奏団のマスターコースに参加しています。ヨーロッパ、アメリカ、日本などでもコンサートを開き、1997年には岐阜のサラマンカホールのレジデンス四重奏団となっているとのこと。日本にもゆかりがあるのですね。また、録音はNAXOSからドヴォルザークの弦楽四重奏曲全集15枚がリリースされているなど、なかなかの実力派でもあります。

Hob.III:34 / String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
ざわめきのようなそわそわした感じの入り。録音のせいか少し饐えたような音色の印象がありますが、すぐに第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのキレのよいボウイングに耳を奪われます。テンポは中庸ですが、フレーズの息が短く、テンポ感の良い演奏。きっちり音色を合わせていく演奏ではなく、適度に粗さを持ちながら、アンサンブルが凝縮していく感じ。一人一人のボウイングのキレの良さが時折重なり、時折離れていくような自在さがあります。音量を上げていくと実演の印象と重なってきて、スピーカーの前に4人が並んで弾いているようなリアリティ。
2楽章に入ると、絞り出すように情感を感じさせる演奏。もうすこし伸びやかな演奏で情感を滲ませていく方が好みではありますが、この独特の絞り出すような感じがこのクァルテットの特徴でもあります。半ばよりプレゼンスが上がるミカエル・エリクソンのチェロのフレージングがおおらか。線がほそいのですが、鋭さをもったヴァイオリンとチェロの対比が緊張感をもたらします。
メヌエットでもチェロの素朴なフレージングとヴァイオリンが拮抗。そしてフィナーレはヴァイオリンのキレで一気に聴かせます。音階のキレをことさらクッキリ描いていくことで、曲がカッチリと明解になります。テンポは少し足速で前のめりな印象。もしかしたら、もう少し落ち着きと柔らかさがあった方が曲の深みが出るかもしれませんね。

Hob.III:39 / String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
ご存知有名曲の「鳥」。少し短めの呼吸はこれまでのまま。すこしごつい感じがしますが、この曲では気にならず、もともとのテンポ良く進める感じが曲にはあってます。インテンポで畳み掛けながら曲を進めますが、やはり第1ヴァイオリンのヴラコーヴァのはち切れんばかりのボウイングがかなりのインパクト。ハイテンションとはこのことでしょう。穏やかな表情と軽さを表現する演奏が多いロシア四重奏曲の演奏のなかにあっては、ハードな部類に入るでしょうか。素晴しい凝縮感ではありますが、曲の位置づけからするとちょっと力みを感じなくもありません。
続くスケルツォはなでるようなじっくりした演奏を両端に置き、中間部は軽さを聴かせる曲ではありますが、サクサク感が聴き所。
そしてアダージョ。アダージョまでテンポとテンションを落としきっていない印象もあります。フレーズ毎にメリハリをつけているようですが、やはり第1ヴァイオリンのコントロールで聴かせきってしまう勢いがあります。
そしてフィナーレではヴラコーヴァのヴァイオリンがエッジが立ったようにキリリとフレーズを奏でていきます。一貫してハイテンションで終えます。まさに鳥のさえずりのよう。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
これまでのテンションとはちょっと異なり、ゆったりとしたリズムで入るので、ちょっと安心できます。表現がテンションのみではなく、曲が成熟した分、音楽の流れの良さにも廻って、音楽に少し余裕ができてきます。徐々に力感を増しながら1楽章のクライマックスへ。代わる代わる登場する楽器がプレゼンス良くメロディーを受け継ぎ、一つの音楽にまとめあげていきます。
アダージョは音楽の流れのしなやかさを保ちながら、ヴァイオリンの高音部が今まで一番力の抜けた演奏を披露。相変わらずチェロは生真面目に伴奏に徹する姿勢。やはり力が抜けているのが音楽にはプラスでしょう。弦楽器の音の重なる部分にアンサンブルの面白さが宿ります。
そして、これまでのメヌエットでは最も力の乗ったメヌエット。奏者のエネルギーが集中します。最後の力を振り絞っているのか、中間部でも弦が峙つ感じが素晴しい効果を挙げています。
フィナーレは予想通りヴラコーヴァの鮮やかなキレのよい弓さばきが聴き所。他の3人も髪を振り乱して追随しているよう。アルバムのフィナーレに相応しい盛り上がり。ハイドン最晩年の作品のテンションを浮き彫りにした形。武闘派の演奏でしょう。

プラハ・ヴラフ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集。各時代の名曲から3曲選んでアルバムにしたというところでしょう。基本的に攻めのハイドン。カミソリのようなキレ味で第1ヴァイオリンのヴラコーヴァがメロディーを描き、3人がそれをサポートするという構図。録音のせいか、鋭利な音色が耳に刺さるような鮮明さで迫ってきます。時代をまたいだ3曲ながら演奏の姿勢は一貫していて、あえて言えば最後のOp.77の前半はすこしゆったりしてテンションを緩めますが、聴いているうちに攻めの姿勢に戻ります。これはこれで非常に刺激的なハイドンです。評価は一般のハイドンファンへのオススメ度合いを勘案して、3曲とも[++++]とします。これはハイドンマニアの方向けの、知的刺激に満ちた演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の魅力をこれから知ろうという人にとっては刺激過多です(笑)

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