ステファン・ヴァン・デイクのカンツォネッタ集(ハイドン)
久々の歌曲のアルバム。英語によるカンツォネッタ集では珍しい男性の歌です。

TOWER RECORDS
ステファン・ヴァン・デイク(Stephan van Dyck)のテノール、ジャン=ピエール・バック(Jean-Pierre Bacq)のフォルテピアノによるハイドンの英語によるカンツォネッタ集から15曲。収録曲は下のレビュー記事をご覧ください。収録日は記載されていませんが、ネットの情報などから2004年頃でしょう。収録場所はベルギーのナミュールの東にあるフラン=ワレ城のすぐそばのフラン=ワレ教会でのセッション録音。レーベルはベルギーのARSIS Classics。
テノールのステファン・ヴァン・デイクはベルギーのテノール歌手。生年はわかりませんが、ブリュッセル生まれで、ブリュッセル王立音楽院で歌を学び、ブリュッセル自由音楽大学で音楽学の学位をとりました。その後ルネ・ヤコブスのヴェルサイユ・オペラ・スタジオ、パリ国立高等音楽院のウイリアム・クリスティのクラスで学び、以後、古楽器の著名なオーケストラと共演を重ねました。日本ではバッハ・コレギウム・ジャパンの公演、録音にも参加している人なので、ご存知のかたもあるでしょう。
フォルテピアノのジャン=ピエール・バックは、どうやら、今日取り上げるアルバムをリリースしているARSIS Classicsを主宰している人。彼のサイトは見つかりましたが、略歴がいまいちよくわかりません。
Jean-Pierre Bacq
このアルバム、先に触れたように普通はソプラノなど女性によって歌われることが多いハイドンの英語によるカンツォネッタ集などをテノールで歌った珍しいものですが、フォルテピアノの伴奏に乗ってテノールのステファン・ヴァン・デイクの凛々しく安定した歌声が教会に響き渡る素晴しい録音が楽しめるアルバム。テノールによるカンツォネッタも悪くありませんね。
Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
少し下がって定位するフォルテピアノの伴奏に乗って、ヴァン・デイクの透明感あるテノールが残響たっぷりに響き渡ります。教会での録音らしく、のびのびしたテノールが非常に心地よい響き。高音の伸びと、強い部分の安定感ヴァン・デイクの力量をあらわしています。以後は曲ごとに少しずつコメントを。
Hob.XXVIa:29 / 6 Original Canzonettas 1 No.5 "Pleasing Pain" 「愛の苦しみ」 [G] (1794)
フォルテピアノのバックは控えめかつ自在にテンポを揺らしながら柔らかい音色でヴァン・デイクをサポート。媚びないさっぱりとした表情が伴奏にぴったり。
Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
目立たぬ曲ですが、フォルテピアノとテノールの掛け合いの妙を味わえる曲。要所でテンポを落とし、情感をコントロールしていきます。テンポ感が良いので、曲が変わっても一貫してクリーンな表情を保ってます。
Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テノールの高音の伸びが印象的な曲。教会堂の響き渡るヴァン・デイクの美声。徐々にデイクの真価が発揮されてきました。バックのフォルテピアノもちょっと踏み込んで今までの曲よりも濃い表情。残響が消え入るようすが美しいこと。
Hob.XXVIa:32 / 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
ぐっと沈み込み、表現が深くなります。訥々と語られる詩情。フォルテピアノもぐっと深いフレージングで支えます。ちょっとした音程の変化の美しさに心を打たれます。
Hob.XXVIa:33 / 6 Original Canzonettas 2 No.3 "Sympathy" 「共感」 [E] (1795)
ヴァン・デイクも調子が上がってきたのか、ちょっとしたフレーズの立体感が冴え、小曲の起伏に酔います。
Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
名曲。序奏から、これからはじまる音楽の豊かな響きを予感させます。曲の起伏は進むにつれて深くなり、間も長く、歌曲の醍醐味が詰まった歌唱。ハイドンの歌曲にして濃い陰影。テノールの優しさと演奏の起伏の深さが拮抗してえも言われぬ仕上がり。
Hob.XXVIa:35 / 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
再び、サラッとした表情に戻り、一休み。
Hob.XXVIa:36 / 6 Original Canzonettas 2 No.6 "Content"(Transport of Pleasure) 「満ち足りた心」 [A] (1795)
とろけるようなヴァン・デイクの高音の伸び伸びとした響きの魅力が活きる曲調。
Hob.XXVIa:26 / 6 Original Canzonettas 1 No.2 "Recollection" 「回想」 [F] (1794)
静かな語り口ですが、音階が昇るところのぬけの良さと、高域の伸びの良さが印象的。
Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
文字通り牧歌的な歌。伴奏からのどかな感じが溢れ、ヴァン・デイクの歌ものびのびとして、草原で歌うような雰囲気。
Hob.XXVIa:28 / 6 Original Canzonettas 1 No.4 "Despair" 「絶望」 [E] (1794)
終盤にかかり、フォルテピアノも渾身の気迫。ゆったり流す部分とアクセントの対比のダイナミクスが上がり、しかもゆったりした部分の呼吸の深さがここまでで最も深い。彫りの深い表情と、穏やかさの織りなす綾。終盤のクライマックスと言っていいでしょう。
Hob.XXVIa:42 / "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
美しい高音の和音をキーとした展開。最後に精霊の歌が来るの知ってか、澄んだ展開の曲を挟んできました。
Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
最後の大曲。ハイドンの歌曲の中でも「ナクソスのアリアンナ」と並んで本格的なもの。明るい曲もいいのですが、メロディーに魂が乗っているいるようなシリアスな展開ですが、ヴァン・デイクのテノールの張りのある声で聴くと、メロディーラインの彫りの深さが際立ちます。最後に締まりました。
ハイドンのカンツォネッタ集には珍しい男性によるもの。歌ものは好きなんですが、一人の歌手が歌うとどこかしら安定感に賭けたり、不自然な瞬間があるもの。このアルバムでは伴奏も歌もそういった局面が皆無で、盤石の安定感。安心して音楽に身を任せられるというだけで、レベルの高さが窺えます。テノールによる歌唱に違和感を感じるのではと思いましたがが、結果的には全く問題なく、むしろ優しく穏やかな語り口が女性による歌唱よりもいいと思わせるところまで感じさせます。残響が多めの録音とも相俟って、素晴しいハイドンの歌曲を楽しめます。評価は全曲[+++++]とします。
歌曲ファンの方、必聴です。

ステファン・ヴァン・デイク(Stephan van Dyck)のテノール、ジャン=ピエール・バック(Jean-Pierre Bacq)のフォルテピアノによるハイドンの英語によるカンツォネッタ集から15曲。収録曲は下のレビュー記事をご覧ください。収録日は記載されていませんが、ネットの情報などから2004年頃でしょう。収録場所はベルギーのナミュールの東にあるフラン=ワレ城のすぐそばのフラン=ワレ教会でのセッション録音。レーベルはベルギーのARSIS Classics。
テノールのステファン・ヴァン・デイクはベルギーのテノール歌手。生年はわかりませんが、ブリュッセル生まれで、ブリュッセル王立音楽院で歌を学び、ブリュッセル自由音楽大学で音楽学の学位をとりました。その後ルネ・ヤコブスのヴェルサイユ・オペラ・スタジオ、パリ国立高等音楽院のウイリアム・クリスティのクラスで学び、以後、古楽器の著名なオーケストラと共演を重ねました。日本ではバッハ・コレギウム・ジャパンの公演、録音にも参加している人なので、ご存知のかたもあるでしょう。
フォルテピアノのジャン=ピエール・バックは、どうやら、今日取り上げるアルバムをリリースしているARSIS Classicsを主宰している人。彼のサイトは見つかりましたが、略歴がいまいちよくわかりません。
Jean-Pierre Bacq
このアルバム、先に触れたように普通はソプラノなど女性によって歌われることが多いハイドンの英語によるカンツォネッタ集などをテノールで歌った珍しいものですが、フォルテピアノの伴奏に乗ってテノールのステファン・ヴァン・デイクの凛々しく安定した歌声が教会に響き渡る素晴しい録音が楽しめるアルバム。テノールによるカンツォネッタも悪くありませんね。
Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
少し下がって定位するフォルテピアノの伴奏に乗って、ヴァン・デイクの透明感あるテノールが残響たっぷりに響き渡ります。教会での録音らしく、のびのびしたテノールが非常に心地よい響き。高音の伸びと、強い部分の安定感ヴァン・デイクの力量をあらわしています。以後は曲ごとに少しずつコメントを。
Hob.XXVIa:29 / 6 Original Canzonettas 1 No.5 "Pleasing Pain" 「愛の苦しみ」 [G] (1794)
フォルテピアノのバックは控えめかつ自在にテンポを揺らしながら柔らかい音色でヴァン・デイクをサポート。媚びないさっぱりとした表情が伴奏にぴったり。
Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
目立たぬ曲ですが、フォルテピアノとテノールの掛け合いの妙を味わえる曲。要所でテンポを落とし、情感をコントロールしていきます。テンポ感が良いので、曲が変わっても一貫してクリーンな表情を保ってます。
Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テノールの高音の伸びが印象的な曲。教会堂の響き渡るヴァン・デイクの美声。徐々にデイクの真価が発揮されてきました。バックのフォルテピアノもちょっと踏み込んで今までの曲よりも濃い表情。残響が消え入るようすが美しいこと。
Hob.XXVIa:32 / 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
ぐっと沈み込み、表現が深くなります。訥々と語られる詩情。フォルテピアノもぐっと深いフレージングで支えます。ちょっとした音程の変化の美しさに心を打たれます。
Hob.XXVIa:33 / 6 Original Canzonettas 2 No.3 "Sympathy" 「共感」 [E] (1795)
ヴァン・デイクも調子が上がってきたのか、ちょっとしたフレーズの立体感が冴え、小曲の起伏に酔います。
Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
名曲。序奏から、これからはじまる音楽の豊かな響きを予感させます。曲の起伏は進むにつれて深くなり、間も長く、歌曲の醍醐味が詰まった歌唱。ハイドンの歌曲にして濃い陰影。テノールの優しさと演奏の起伏の深さが拮抗してえも言われぬ仕上がり。
Hob.XXVIa:35 / 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
再び、サラッとした表情に戻り、一休み。
Hob.XXVIa:36 / 6 Original Canzonettas 2 No.6 "Content"(Transport of Pleasure) 「満ち足りた心」 [A] (1795)
とろけるようなヴァン・デイクの高音の伸び伸びとした響きの魅力が活きる曲調。
Hob.XXVIa:26 / 6 Original Canzonettas 1 No.2 "Recollection" 「回想」 [F] (1794)
静かな語り口ですが、音階が昇るところのぬけの良さと、高域の伸びの良さが印象的。
Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
文字通り牧歌的な歌。伴奏からのどかな感じが溢れ、ヴァン・デイクの歌ものびのびとして、草原で歌うような雰囲気。
Hob.XXVIa:28 / 6 Original Canzonettas 1 No.4 "Despair" 「絶望」 [E] (1794)
終盤にかかり、フォルテピアノも渾身の気迫。ゆったり流す部分とアクセントの対比のダイナミクスが上がり、しかもゆったりした部分の呼吸の深さがここまでで最も深い。彫りの深い表情と、穏やかさの織りなす綾。終盤のクライマックスと言っていいでしょう。
Hob.XXVIa:42 / "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
美しい高音の和音をキーとした展開。最後に精霊の歌が来るの知ってか、澄んだ展開の曲を挟んできました。
Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
最後の大曲。ハイドンの歌曲の中でも「ナクソスのアリアンナ」と並んで本格的なもの。明るい曲もいいのですが、メロディーに魂が乗っているいるようなシリアスな展開ですが、ヴァン・デイクのテノールの張りのある声で聴くと、メロディーラインの彫りの深さが際立ちます。最後に締まりました。
ハイドンのカンツォネッタ集には珍しい男性によるもの。歌ものは好きなんですが、一人の歌手が歌うとどこかしら安定感に賭けたり、不自然な瞬間があるもの。このアルバムでは伴奏も歌もそういった局面が皆無で、盤石の安定感。安心して音楽に身を任せられるというだけで、レベルの高さが窺えます。テノールによる歌唱に違和感を感じるのではと思いましたがが、結果的には全く問題なく、むしろ優しく穏やかな語り口が女性による歌唱よりもいいと思わせるところまで感じさせます。残響が多めの録音とも相俟って、素晴しいハイドンの歌曲を楽しめます。評価は全曲[+++++]とします。
歌曲ファンの方、必聴です。
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