作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ニコラ・アルトシュテットのチェロ協奏曲集(ハイドン)

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いろいろ取りあげているチェロ協奏曲にまた、個性的な演奏を発見。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ニコラ・アルトシュテット(Nicolas Altstaedt)のチェロ、ミヒャエル・ザンデルリンク(Michaerl Sanderling)指揮のポツダム室内アカデミー(Kammerakademie Potsdam)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、2番の2曲を収めたアルバム。収録は2008年12月14日から16日にかけて、ベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。レーベルは独ライプツィヒのGENUIN。

チェロのニコラ・アルトシュテットは、1982年生まれのドイツのチェリスト。クレーメルとともにロッケンハウス音楽祭で活躍したロシアのチェリスト、ボリス・ペルガメンシコフの最後の弟子ということです。2004年に開催されたクロンベル・アカデミーでのヘッセン伯賞、2005年に開催されたドイツ音楽コンクールで一等、シュツットガルトでの国際ドミニクチェロコンクール、2006年に開催されたアダム国際チェロコンクールなど、若くして様々なコンクールで優勝しています。
2012年からは、ギドン・クレーメルより、彼が創設したロッケンハウス音楽祭の音楽監督を引き継ぐこととされています。ということで、豪腕クレーメルを引き継ぐクラスの若手腕利きチェリストという存在でしょう。

一方指揮を担当するミヒャエル・ザンデルリンクは、クルト・ザンデルリンクの息子。腹違いの長兄トーマス・ザンデルリンク、同腹の兄、シュテファン・ザンデルリンクと、兄弟そろって指揮者です。シュテファン・ザンデルリンクにはハイドンのパリセットの名盤の録音があります。ベルリン・ハンス・アイスラー高等音楽学校で学び、チェロはウィリアム・プリースとヨーゼフ・シュヴァープに師事しました。その後、1988年から1992年までライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、1994年から2006年までベルリン放送交響楽団のチェロ奏者として活躍、チェロのソリストとしても著名なオケと共演しています。指揮者としては2001年からベルリンフィルの団員によるベルリン室内管弦楽団を指揮し、以降、2003年よりドイツ弦楽フィルハーモニー、2004年よりベルリン室内管弦楽団の首席指揮者、2006年よりこのアルバムのオケであるポツダム室内アカデミーの首席指揮者兼芸術監督、2011年よりドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を歴任するなど近年は指揮者としてかなり活躍している人。

このアルバムは、いわばドイツを中心に活躍する若手チェリスト、指揮者によるハイドンのチェロ協奏曲集という位置づけですね。ただしアルトシュテット、ただの若手にはおさまらない人でした。

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
イエス・キリスト教会にしては、ちょっとデッドな録音。オケは現代風のノンヴィブラート気味の透明感ある演奏。速めのテンポで引き締まった響きをつくっています。アルトシュテットのチェロも、現代風のスタイリッシュな演奏。軽快なボウイングとノンヴィブラートのオケに合わせてさっぱりとした表情の演奏。ハイドンのチェロ協奏曲からキビキビとした小気味好い表情を引き出し、所々チェロの現代的な響きをちりばめた、なかなか個性的な演奏、と思っていたら、1楽章のカデンツァに入った途端、まるで現代音楽、アイヌの人が口で糸をはじく楽器(なんていったか、、、)のような不思議な音色を織り交ぜ、聴くものの想像を超える、恐るべきインパクト。もちろんすぐにいつもの曲調にもどり、1楽章を結びますが、このカデンツァは圧巻です。
何事もなかったように、2楽章のアダージョに入り、現代風のスタイリッシュな演奏に戻ります。アルトシュテットのチェロは、どこか現代風の峻厳な印象、見えない巨大なものの影のような不思議な雰囲気を感じさせるもの。音量を絞りながらも表情を抑えた淡々とした演奏が非常に効果的。オケも情に流されず、冷静さをたもっています。
フィナーレは突然花が咲いたようにパッと明るく、色彩感豊かなオケが鮮烈に響きます。テンポはかなり速めとなり、チェロもオケもキレ味鋭いボウイングが冴え渡ります。まったくストレスなく速いパッセージがサラサラと快速で流れる快感。やはりそこここにデフォルメされた響きをはさんで個性的な音楽にしているのが流石。以前イッサーリスのもの凄い速さの演奏にちょっと違和感を感じたのとは異なり、すんなり受け入れられます。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
成熟した響きの2番がこのコンビにかかるとフレッシュに響くのが不思議なところ。まるでハ長調の曲のような晴朗さ。アルトシュテットはかなり響きを抑え気味かつ、やはり現代風な緊張感をもった入り。前曲同様ハイドンの穏やかな音楽の影に忍び寄る現代音楽の影を感じる演奏。2番の1楽章はハイドン渾身の名旋律の宝庫ですが、その1ビース1ピースを独立させて再構成させ、その微妙なギャップに緊張感をもたせたような見事な音楽構成。アルトシュテットの才気がスピーカーから飛んでくるよう。流石クレーメルの後継を務めるだけの人。ミヒャエル・ザンデルリンクもそれに相応しい、現代的な響きでアルトシュテットをサポート。こちらも見事です。2番のカデンツァも静寂と響きのモアレ模様の様な精妙な響き。痺れます。
1番に比べて短いアダージョは全般に抑えた表情でさらりと進めます。またしてもカデンツァでは鳥肌がたつような精妙な瞬間が垣間見えました。
フィナーレはやはり速め。独特の回想シーンのような曲想が、再構成されて垢をおとされたようなフレッシュな響きに生まれ変わってます。ところどころグールドのようなうなり声がかなり大きめに入りますが、これはアルトシュテットの声でしょうか。最後のカデンツァも低い音量の持続音と自在に音階を刻むメロディーの交錯する素晴しいもの。このアルバムのカデンツァはこれまでの演奏の枠を取り払った前衛的なものですが、こうしたトライアルに良く感じられるぎこちなさが全くなく、非常に完成度が高いもの。アルトシュテットの才気爆発です。2番も素晴しい演奏でした。

ニコラ・アルトシュテット、流石クレーメルの後継者。もしかしたらクレーメル以上の鋭敏な感覚の持ち主かもしれません。このハイドンの伝統的な曲を、現代音楽のように再構成しながらも、音楽のしなやかさと、癒しまで感じさせる高みに至っています。サポートするミヒャエル・ザンデルリンクとポツダム室内アカデミーも万全。アルトシュテットの才気に負けるどころか、それをさらに活かすような、こちらも才気を感じさせる演奏でした。ついこの前聴いたトルトゥリエの素晴しいチェロ協奏曲も良かったんですが、こちらも全く異なる良さをもち、ハイドンのチェロ協奏曲の魅力を全く異なる視点から鮮明に描いた名演奏と言っていいでしょう。いつも聴き始めるときは厳しい姿勢で臨むんですが、このアルバムも評価は[+++++]以外につけようがありません。このカデンツァの才気にあなたも打ちのめされてください!

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