ポール・トルトゥリエのチェロ協奏曲集(ハイドン)

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ポール・トルトゥリエ(Paul Tortelier)のチェロ、イェルク・フェルバー(Jörg Faerber)指揮のヴュルテンベルク室内管弦楽団(Würtemberg Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、1番の2曲を収めたアルバム。収録は1981年7月6日から8日にかけて、ドイツのシュツットガルトの北の街、ハイルブロン(Heilbron)の聖十字架教会でのセッション録音。
このアルバムは国内盤。ディスクユニオンで仕入れました。トルトゥリエは有名なチェリストですが、ハイドンのチェロ協奏曲のアルバムが手元にない事は、このアルバムを店頭で見かけて、所有盤リストを確認するまで気づいておりませんでした。
ポール・トルトゥリエは1914年、パリに生まれたフランスのチェリスト。パリ音楽院で学び、1930年に1等で卒業。卒業後すぐにパリでリサイタルデビュー。その後パリ音楽院作曲家で再び学び1935年に卒業。すぐにモンテカルロ歌劇場管弦楽団の首席チェロ奏者となり、1937年からはボストン交響楽団、1939年からはパリ音楽院管弦楽団の首席チェロ奏者を歴任しました。1947年からはソリストとして活動を開始し、ビーチャム指揮のロイヤルフィルとの共演でイギリスにデビュー。リヒャルト・シュトラウスの「ドン・キホーテ」をEMIに録音し、これがデビュー盤となりました。1950年以降はカザルスが開催していたプラド音楽祭に毎年出演するなど奏者として活躍。1957年からはパリ音楽院のチェロ科の教授に就任。1956年からはイスラエルフィルを振って指揮者としての活動も開始し、コンセール・ラムルー管弦楽団、イギリス室内管弦楽団などに客演したとのこと。1971年からはパリを離れ、ドイツ、エッセンのフォルクヴァンク音楽院の教授に就任。亡くなったのは1990年、76歳ということです。素晴しいテクニックを持ちながら、それに頼ることなく、内省的に彫りの深い音楽を奏でたチェリストとして知られた人でした。
指揮を担当するイェルク・フェルバーは手元にもいろいろアルバムがあり、有名なところではアルゲリッチがDGに入れたピアノ協奏曲の伴奏を担当しています。1929年、シュツットガルト生まれの指揮者。シュツットガルトで作曲と指揮を学び、ハイルブロン歌劇場、シュツットガルト・オペレッタ音楽祭の音楽監督などを歴任し、1960年、このアルバムのオケであるヴュルテンベルク室内管弦楽団を創設、音楽監督として活躍しています。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
なぜか2番が先に収録されていますが、この曲の出来の良さを最初に聴いてほしいということでしょうか。オケはゆったりと序奏を奏でていきますが、豊かなニュアンスを帯びながらも手堅い仕上がり。トルトゥリエのチェロはリズムに素直に反応しながらキリリとあわせていきますが、最初から練りのある独特の詩情を帯びています。こちらもニュアンスは豊かで、引きずるような独特の弓さばきが奏者の円熟を物語ります。トルトゥリエはこの録音当時67歳くらい。いい意味で枯れた表情もあり、独特の香り高い音楽になっています。高音域の音程が妙に上がりきらないのがまたいい雰囲気を醸し出します。奏者の心情は淀みなく、弓さばきにはちょっと引っかかりがあって、それが味わいになっているよう。オケは一貫したサポートで音楽に張りを与えています。この伴奏とトルトゥリエのしなやかなソロの組み合わせがこの演奏の魅力になっています。両者の心情がピタリと合っています。カデンツァはしんみり語っていくような深い情感を帯びた長いもの。これぞトルトゥリエの真骨頂。色彩感豊かなオケが迎えに出て素晴しい1楽章を結びます。
続くアダージョは、オケが実にしなやかにトルトゥリエを引き立てる訳に徹し、トルトゥリエもそれに応えるように、穏やかながら味わい深いチェロの美音を轟かせます。フルニエほど個性的なボウイングではなく、オーソドックスな弓さばきながらフランス人らしい、華やかなニュアンスと老練さで濃い音楽を造っていきます。カデンツァは天上の平原に吹く微風のような優しさ。トルトゥリエのチェロの素晴しさを思い知らされます。
フィナーレもしなやかな表情が続きます。独特の回想シーンのような音楽をじっくりと奏で、トルトゥリエのチェロとフェルバーのコントロールするオケが渾然一体となって音楽を造っていきます。奏者の力みは皆無で、全奏者の意識が一つにまとまり、ハイドンの書いたメロディーラインをなぞっていきます。落ち着き払ったなかに豊かなニュアンスが漂う大人の音楽。フィナーレのカデンツァはちょっと現代風に踏み込んだもの。美しいハイドンの音楽に最後に緊張をもたらしました。良く聴くとホルンや木管陣の美しい音色も素晴しい響きをつくっています。いやいや、これは名演奏です。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
つづいてハ長調。鮮度の高さで聴かせる演奏が多い中、こちらは冒頭から燻し銀の響きで、いきなり熟れた音楽から入ります。やはり堅実かつ鮮明なオーケストラの響きに耳を奪われます。鮮明といっても音の感触のみで、音楽は実にしなやか。おそらくフェルバーの意識は、各パートを豊かに響かせながらも、メロディーラインの肌触りの良さを聴かせたいというところにあるように感じます。トルトゥリエのチェロは相変わらずリズムに乗りながらも、色濃いニュアンスを残していきます。1番をフレッシュに響かせるのではなく、2番と同時代の熟れた音楽として聴かせようとしているようです。音楽は意図通りに響き、進むにつれて、美しい響きに引き込まれていきます。1番独特の華やかさが、艶っぽさに変わり、熟れた芳香を感じる仕上がり。やはりカデンツァはトルトゥリエの名人芸に圧倒されます。
アダージョはトルトゥリエのチェロの穏やかに枯れた美音が美しいオケの響きと溶け合う絶妙な楽章。音楽が魂に昇華したような素晴しく深い表現。穏やかな心境から光明が見えました。ソロからカデンツァへの自然な入り。カデンツァが特別なものではなく、ソロからの一貫した流れで聴かせるという奇跡的な瞬間。
フィナーレは、曲の最後に相応しいフォーマルな印象。最後にキリリと引き締まった表情に戻し、音楽にメリハリをつけるあたり、流石の構成です。寄せては返す波のような表現の部分は、ひとつひとつの波の音楽が独立しているようなキレの良さ。トルトゥリエのチェロの冴え渡る弓さばき。
トルトゥリエはバッハの無伴奏を聴いていいなと思っていた人ですが、ハイドンがここまで素晴しいとは予想していませんでした。鳴きの美しさで聴かせる演奏は多いんですが、トルトゥリエのチェロはカッチリとリズムに乗りながらもそこここに味わい深い表現があり、しかも全体の音楽の構成が実に深く、個性的な演奏。チェロと言う楽器の奥行きの深さを垣間みた感じです。伴奏のフェルバー/ヴュルテンベルク管も万全。完璧なサポートでトルトゥリエを引き立てます。名盤目白押しのチェロ協奏曲ですが、また一枚、素晴しいアルバムに出会いました。評価はもちろん[+++++]とします。
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