作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ブダペスト室内響のヴァイオリン協奏曲、ピアノ協奏曲、迂闊者(ハイドン)

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東京は天気予報通り昨夜から大雪。朝起きた時には5cmくらい積もっているだけだったんですが、夕方には2〜30cmになってます。久しぶりの大雪に、自宅でのんびりしております。

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イムレ・ローマン(Imre Rohmann)指揮のブダペスト室内交響楽団(Budapest Chamber Symphony)の演奏で、ハイドンのヴァイオリン協奏曲(Hob.VIIIa:3)、ピアノ協奏曲(XVIII:11)、交響曲60番「迂闊者」の3曲を収めたアルバム。ヴァイオリン独奏はクリストーフ・バラーティ(Kristóf Baráti)、ピアノ独奏は指揮のイムレ・ローマンです。収録は2007年9月、ハンガリアン・ラジオの22スタジオでのセッション録音。レーベルはハンガリーのBMC。

このアルバムは現役盤ですが、まだコレクションにないのを見越して湖国JHさんから貸していただいたもの。アルバムタイトルは「ヨゼフ・ハイドン2009年アニヴァーサリーアルバム」とあり、ハイドン没後200年の2009年にリリースされたものでしょう。レーベルのBMCは先日ヴェーグの凱旋公演ライヴというすばらしいアルバムが記憶に新しいところ。ハイドンの地元ハンガリーのレーベルですので、この記念アルバム素晴しく気合いの入った造り。音楽を聴く前から迫力を感じます。

2013/09/15 : ハイドン–交響曲 : ヴェーグ/カメラータ・アカデミカのブダペストライヴ

アルバムジャケットもヴェーグ盤同様凝った造りです。

指揮者でピアノ独奏を担当するイムレ・ローマンですが、以前に同じくハイドンのピアノ協奏曲(XVIII:11)のソロを担当したアルバムを一度取りあげています。

2013/06/24 : ハイドン–協奏曲 : イムレ・ローマン/ザルツブルク・モーツァルト・アンサンブルのピアノ協奏曲など

今日取り上げる演奏が2007年の録音、上の以前取りあげたアルバムは2003年の録音と、あまり間を置かずに2回録音しています。以前のアルバムはOVPP(One Voice Per Part)によるスッキリとした響きが特徴でした。イムレ・ローマンについては前記事をご参照ください。

ヴァイオリン協奏曲でヴァイオリンを弾くクリストーフ・バラーティは、1979年ブダペスト生まれのヴァイオリニスト。子供のころはヴェネズエラで過ごし、8歳のころヴェネズエラのマラカイボ交響楽団と演奏したとのこと。ヴァイオリンは母親から学びはじめ、その後カラカス、しそてブダペストのフランツ・リスト音楽アカデミーで学びました。1996年に開催されたジャック・ティボー・コンクールでストラディバディウス・ソサイアティのエドゥアルド・ウルフソン教授に見いだされ、以降はハンガリー及びヨーロッパで活躍しているそうです。

ハイドンの地元ハンガリーのレーベルによるハイドン没後200年を記念する特別なアルバム。その出来はどうでしょうか。

Hob.VIIa:3 / Violin Concerto "Merker Konzert" 「メルク協奏曲」 [A] (c.1765/70)
超鮮明な録音。スタジオでの録音らしい鮮明さ。残響も思ったほど少ない訳ではありません。この曲としてはテンポは遅めでしょう。オケはかなりシャープに伴奏を刻み、バラーティのヴァイオリンは切れ込み鋭いこちらもシャープなもの。ヴァイオリンの低音の分厚い響きと、浸透力の高い高音の澄み渡った響きがストラディヴァリウスらしいですね。ローマンのコントロールが優先しているのか、曲の流れよりも骨格をシャープに表現することを優先したような分析的な演奏スタイル。ただバラーティのヴァイオリンの美音によって響きの美しさも聴き所になっています。良く聴くとバラーティのヴァイオリンの響きの多彩さはかなりのもの。オケがどちらかというと辛口の表現なのに対し、ヴァイオリンは艶やかで色っぽさをもったものが、かえって緊張感を生んでいるよう。カデンツァはバラーティ自身のもので、ストラディヴァリウスの艶やかな美音を思う存分聴かせるもの。
続くアダージョに入ってもオケのテンションはあまりゆるまず、辛口のまま進みます。音量はソロが特に大きい訳ではないのですが、演奏のテンションでヴァイオリンがかなり前に打ってきています。
フィナーレはオケのキレが戻り、かなり分析的な表現も聴かせます。空気感を感じるほどキレのある少し長い伴奏にヴァイオリンソロが加わります。ヴァイオリンはもはや麻薬的に美音を轟かせ、現代音楽のようなエクスタシーを感じさせるほど。ハイドンのヴァイオリン協奏曲としてかなり個性的な演奏ですが、ちょうどクレーメルとアーノンクールによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲の演奏と似た立ち位置の演奏といえば伝わりますでしょうか。音楽表情は一貫してシャープなんですが、音楽の流れもそこそこ良く、個性的な名演奏です。

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
こちらも録音は超鮮明。テイストは同じ印象ながら、ヴァイオリン協奏曲よりも自然な流れに修正してきました。ローマンのピアノはやはり分析的な思考が現れて、クリアそのもの。タッチも鮮明で一音一音が光り輝いています。このスタイルが伝統的な演奏の印象をはぎ取り、現代風のイメージを構成しているようですね。音楽の流れは前曲同様特に悪いところはなく、まるでジャズのセッションのようにスリリング。驚くのが1楽章のカデンツァ。これはローマンのものであるとのことですが、かなり音数の多い、しかも現代風のカデンツァ。聴き慣れたこの曲が、実に新鮮に聴こえます。
2楽章は予想通りしなやかな表情が加わり、ローマンのピアノも主旋律をクッキリと強調してキリリとメリハリの効いた音楽をつくってゆきます。音楽が華やかで、現代風の涼やかさも加わり、非常に新鮮な響き。
フィナーレは予想通りオケがキレキレ。テンポが急くことはなく、鋭い響きで落ち着いた進行。どこまでもクリアでシャープな響きを徹底しようとするローマンの意図が伝わります。最後までキレ味は最高。

Hob.I:60 / Symphony No.60 "Il disrratto" 「迂闊者」 [C] (before 1774)
前2曲を聴いて、どうして迂闊者をこのアルバムにもってきたのか、何となくわかりました。イムレ・ローマンのコントロールするオーケストラのキレ味抜群の響きに最も合いそうなのがこの迂闊者であろうと想像がつきます。
この曲はシュトルム・ウント・ドラング期直後の1774年にエステルハーザで、ジャン・フランソワ・ルニャール作の「迂闊者」という戯曲を上演した際の劇付随音楽(XXX:3)と幕間音楽を交響曲に仕立てたもの。まさに劇中音楽のような劇的な音楽で、ハイドンの交響曲中唯一の6楽章構成の曲。作曲当時はハイドンのユーモア溢れる曲想が人気を集めたとのこと。
予想通り冒頭から鮮度の高いオケの響き炸裂。ローマンのキレ味鋭いコントロールがもっとも合った曲。機知に富んだ旋律をスリリングに奏で、しかも鋭い響きが錠に流される事なくアーティスティックに響き渡り、この交響曲の面白さを際立たせています。アーノンクールより響き自体にこだわらず、音楽的な変化の面白さも表現しきっているあたりは流石なところ。協奏曲ではかなりタイトに攻め込んでいましたが、この曲のメヌエットでは、穏やかな表情もきちんとこなして、楽章間のメリハリを効かせています。交響曲では楽章間の変化や間の取り方が曲の締まりに大きく影響することを踏まえて、表現の幅を一段と大きく取っているようです。
普通の交響曲のような前半4楽章とこの曲の聴き所の5楽章ののアダージョと6楽章のフィナーレの描き分けも見事。5楽章は可憐なヴァイオリンソロを引き立てる静けさ表現、そして6楽章はまさにオペラの一場面のようなユーモラスな情景描写。有名なチューニングの場面はかなり抑えた表現でハッとさせられます。最後は純音楽的な透明感ある響きでどんちゃん騒ぎをまとめるような上手い捌きで終えます。

イムレ・ローマン指揮のブダペスト室内交響楽団の演奏による、ハイドン没後200年を記念したアルバム。ハンガリーのオーケストラの素晴しい響きを思い知らせるような素晴しい出来でした。2009年にはハイドンのアニヴァーサリーに合わせて多くのアルバムがリリースされましたが、このアルバムはその中でもきらりと光る存在でしょう。イムレ・ローマンのキリリと引き締まった個性的な解釈によって、ハイドンの2つの協奏曲と迂闊者というユニークな交響曲が新鮮な姿で蘇るような演奏でした。評価は3曲とも[+++++]とします。このアルバム、録音も秀逸でハイドンの名曲を最上の響きで楽しめる名盤でしょう。

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