作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ショスタコーヴィチ四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

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今日は珍しいロシアものの弦楽四重奏曲。

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ショスタコーヴィチ四重奏団(Shostakovich Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたアルバム。収録は1986年とだけ記されております。レーベルはロシアのVISTA VERA。

このアルバム、お正月にディスクユニオンで発見したもの。

弦楽四重奏版の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」は、切々とした響きの魅力があり、お気に入り。この日もディスクユニオン新宿店の弦楽四重奏曲のハイドンの棚を徘徊していいて、見慣れぬアルバムにドキリ。しかも未知のロシアものということで、期待大であります。

演奏者のショスタコーヴィチ四重奏団は、1966年にモスクワ音楽で設立されたクァルテット。1970年のミュンヘン、1973年のブダペストでそれぞれ行われた弦楽四重奏の国際コンクールで1等を獲り有名になりました。1979年にはソ連の文化省よりショスタコーヴィチの名を冠することを許されました。以降、ソ連、ロシア国内を中心にコンサート活動を重ねるようになり、38カ国を演奏旅行、50枚以上のアルバムの録音をこなし、日本も含むロシア、ヨーロッパ各国でリリースされるに至りました。メンバーは全員モスクワ音楽院の教授職にあるということです。

第1ヴァイオリン:アンドレイ・シシコフ(Andrei Shishlov)
第2ヴァイオリン:セルゲイ・ピシューギン(Sergei Pischugin)
ヴィオラ:アレクサンドル・ガリコフスキー(Alexander Galkovsky)
チェロ:アレクサンドル・コルチャギン(Alexander Korchagin)

このアルバム、ロシアものタイトな演奏かと思いきや、一貫した淡々とした語り口の燻し銀の演奏。過度な感情を排した、穏やかかな表情の演奏。

Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
録音は86年なり、というよりもう少し鮮明さが欲しくなるのが正直なところ。まあ、ロシアものとしては想定内です。華美な響きではなく、弦の内なるエネルギーを素直に表出したような演奏。オーソドックスなテンポで淡々とハイドンの劇的なメロディーラインを描いていく事で、封じられた悲しみを描いていくよう。この淡々とした演奏から立ちのぼるほのかな情感がいいんですね。4人のアンサンブルはピタリと合って、引きずるような表現も4人のベクトルがはっきり一致しています。
曲が進むにつれて、テンポはむしろ上がりながらこなれていき、純粋にメロディーラインの美しさが浮かび上がってきます。良く聴くと第1ヴァイオリンのシシコフはかなり強弱の変化をつけてメロディーを立体的に浮かび上がらせていることがわかります。ちょっとした音の揺れに儚さがにじみ、表現の幅が広がっています。むしろ速めのテンポだからこそ浮かび上がるソノリティの美しさ。奏者の集中度も上がって、徐々に音楽に生気が漲ってきます。技術と録音を越えて音楽が流れ出してきます。このハイドンの名曲に宿る魂に灯が灯ったよう。
第3ソナタに入るとぐっと情感がこもり、テンポが落ちます。蓮の花が一輪咲いたような不思議な華やぎと静かな凛とした美しさを感じる独特の心境。ハイドンの曲に込められた心情を静かにあぶり出すような見事な演奏。決して華美に走らない燻し銀の表現。序章で感じた淡々とした印象から、気づいてみるとグイグイ引き込まれる素晴しい音楽。枯淡の極致のような枯れた中に滲む音楽。続く第4ソナタも同様、すばらしい集中が続きます。そして第5ソナタのピチカートの名旋律は弦の胴鳴りの美しさが素晴しい! 力みはまったくなく、まるで一人の奏者が弾いているような音楽の一体感。次々と変化しているメロディの面白さを楽しんでいるよう。聴いているこちらにも微笑みが移るよう。
第6ソナタに入ると、象徴的に冒頭のメロディーをデフォルメして、流れの変わり目を印象づけます。印象的な音形を際立たせ、曲のメリハリをつけるところは流石。流すところとクッキリさせるところの潮目の変化で曲の構成を際立たせるあたり、このクァルテットの音楽性のポイントでしょう。ここにきてチェロの雄弁な演奏も耳に残ります。回想するような美しいメロディーの繰り返しに感極まります。
そして最後のソナタでは、意図してか再び淡々とした表情にもどり、封じられた悲しみを再現。最後の地震は迫力を殺して、パントマイムを見るような骨格だけの音楽。これはユニークですし、表現もしっくりきます。この曲の聴き所が7つのソナタの心情の変化にあることを確信的に表現した演奏でしょう。

聴きはじめの印象から、曲が進むにつれてどんどん音楽が濃くなり、しかも抑制された表現の中でのデリケートな変化。ハイドンのこの名曲の素晴しい音楽を知り尽くした設計に打たれました。華美さを避け、音楽の内なるエネルギーをしなやかに表出する名人芸。実に深い音楽を聴く事ができました。当初はもうすこし低い評価をつけようかと思いましたが、この音楽性は只者ではなく、演奏もジェントルななか十分個性的。ということで、[+++++]をつけることとしました。弦楽四重奏曲の実に深い奥行き。この燻し銀の音楽、お好きな方にはたまらないでしょう。

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