【新着】リチャード・エガー/AAMの「受難」(ハイドン)
今日は新着アルバム。

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TOWER RECORDS
リチャード・エガー(Richard Egarr)指揮のエンシェント室内管弦楽団(Academy of Ancient Music)の演奏で、ヘンデルのオラトリオ「サウル」からシンフォニア、F.X.リヒターのグランド・シンフォニー第7番、シュターミッツのシンフォニア第4番、モーツァルトの交響曲第1番、そしてハイドンの交響曲第49番「受難」の5曲を収めたアルバム。収録は2011年9月21日から23日、ロンドンの聖ユダ・オン・ザ・ヒル教会(St Jude-on-the-Hill)でのセッション録音。レーベルはAAMとオケの自主世作レーベル。
エンシェント室内管弦楽団AAMといえば、ハイドンに造詣の深い皆様は良くご存知のとおり、クリストファー・ホグウッドと組んで古楽器演奏の草創期を代表するオケ。今回調べてみると、設立は1973年、やはりホグウッドが18世紀から19世紀の音楽を当時の楽器で演奏するために創設したオーケストラ。L'OISEAU-LYREレーベルからリリースされたモーツァルトやハイドン、バロック期の繊細、典雅な録音の数々は多くの人が耳にしたと思います。ホグウッドの監督のもと、1996年からはオーボエ奏者のポール・グッドウィンが副指揮者、ヴァイオリン奏者のアンドルー・マンゼが副音楽監督となっていたそうですが、この時期の録音が少ないため、日本ではホグウッドのイメージが強いでしょう。2006年からはこのアルバムの指揮を担当するリチャード・エガーが音楽監督に就任し、ホグウッドは名誉音楽監督になっているとのこと。
リチャード・エガーはイギリス生まれの鍵盤楽器奏者、指揮者。鍵盤楽器はハープシコード、フォルテピアノ、現代ピアノとなんでもこなします。少年合唱から音楽を学び始め、ヨーク・ミンスター、マンチェスター、ケンブリッジなど各所で学び、古楽はグスタフ・レオンハルトに師事しました。上で紹介したように2006年にホグウッドの創設したエンシェント室内管弦楽団の音楽監督に就任しています。それまで、ハイドン&ヘンデル・ソサイアティー、ターフェル・ムジークなどにも客演し、また現代オケもいろいろ振っているそう。
今日取り上げるアルバムのタイトルは「交響曲の誕生(Birth of the Symphony)」。ヘンデルのシンフォニアに聴かれる交響曲の萌芽から、徐々に交響曲の形式が定まり、ハイドンの名交響曲「受難」で締めるという構成。聴いていると、まさに時代の大きな流れを俯瞰しているように感じる見事な企画。ハイドンに至るまでのエガーのコントロールは、まさに自然なソノリティが美しい古楽器オーケストラの演奏。ホグウッドやピノックなどによって開拓されてきた古楽器の演奏は、現代楽器のアンチテーゼたる、古楽器らしい響きを意図的に演出した演奏だったと気づかされました。そうと感じるほどに、このエガーの演奏は自然。ここに至って古楽器演奏は、時代のパースペクティブに素直に位置づけられる自然さを獲得したかのように感じる説得力があります。
ハイドンの直前に置かれたモーツァルトの1番(K.16)が想像を絶する素晴らしさ。ホグウッド盤、ピノック盤でも印象に残りましたが、古楽器ながら実に自然にフレーズが進み、音の重なりが織りなす感興が噴出。落ち着いたエガーの棒から生気が迸り出るよう。音量を上げて聴くと、まさに交響曲と言う形式がすぐ後の時代に高みに昇りつめるのを予感させるような迫力。堂々とした響きから音楽の力が伝わります。今まで聴いたモーツァルトの1番ではダントツの出来。モーツァルトの爽やかなメロディーに酔いしれます。
Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
冒頭から感動的な響きが沁みます。実にしっとりとした序奏。ゆっくりゆっくりと朝日が昇るようすを眺めるようなさわやかな気分にさせられる入り。これ以上自然な表情をつくるのは難しいと思わせる完成度。描かれるメロディーラインとその間に全神経が集中。小規模なオケなのに、凄い厚みと迫力が宿っています。オケの鳴らしどころをわきまえた素晴しいデュナーミクのコントロール。現代楽器のような色濃い表情ながら、時折ハッとするようなノンヴィブラートのヴァイオリンの旋律の爽やかさにこの演奏が古楽器であることに気づかされます。
続く2楽章のアレグロ・ディ・モルトは、古楽器のキレと、押し寄せる現代楽器並みの迫力が両立して、聴くものを凛とさせる素晴しい攻め。本当の意味で楽器の区別を無用にするような説得力。この名旋律あふれる曲の真髄をとらえた迫真の演奏。手に汗握るとはこのことです。エガーの実に巧みなコントロールにオケが鮮やかに反応し、瞬時に畳み掛ける変化を聴かせます。
メヌエットは、シュトルム・ウント・ドラング期独特のほの暗い情感の濃さを落ち着いて描いていきます。柔らかな木管楽器群にとろけるようなホルンの音色が重なり、メロディーに潜む色を滲ませていきます。良く出汁の効いた吸い物をいただくような至福の心境。メロディーと響きが五感をフルに刺激しながら、超リラックス。分析的過ぎない録音もグッドです。
フィナーレに入ると、わずかにレガートを効かせるなどをしながら変化をつけますが、聴き所は図太いエネルギーを巧みにコントロールするアクセルワーク。速いパッセージをこなしながらめくるめくスペクタクルな演出。自然な力感に自然な感興、そして曲の素晴しさを堪能できるダイナミックさもあわせもつ演奏。このアルバムの締めに相応しい完璧な演奏でした。
古楽器演奏の礎を築いたエンシェント室内管の新たな時代を切り開くような素晴しい演奏。交響曲の誕生と題されたこのアルバムの企画も冴えており、演奏も文句なし。古楽器か現代楽器かというような議論を無意味にさせるような本質的な魅力をもつ演奏というのが偽らざるところ。真実はわかりませんが、ハイドンの時代から現代の演奏に至るまでの演奏スタイルの変遷の中には、現代に構築された、さも古楽器然とした演奏ではなく、このエガーのような自然な力感と音楽を演奏する悦びに満ちたダイナミックな演奏があったのではないかと思います。一聴すると才気に溢れる個性的な演奏ではありませんが、実に音楽的に練られた良い演奏。激、気に入りました。新世代の古楽器演奏として、ギィ・ヴァン・ワースとレザグレマンの演奏とともに要注目の演奏でしょう。評価はもちろん[+++++]です。
ここまで書けば、ハイドン好きな皆さんは素通りできませんね(笑)

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リチャード・エガー(Richard Egarr)指揮のエンシェント室内管弦楽団(Academy of Ancient Music)の演奏で、ヘンデルのオラトリオ「サウル」からシンフォニア、F.X.リヒターのグランド・シンフォニー第7番、シュターミッツのシンフォニア第4番、モーツァルトの交響曲第1番、そしてハイドンの交響曲第49番「受難」の5曲を収めたアルバム。収録は2011年9月21日から23日、ロンドンの聖ユダ・オン・ザ・ヒル教会(St Jude-on-the-Hill)でのセッション録音。レーベルはAAMとオケの自主世作レーベル。
エンシェント室内管弦楽団AAMといえば、ハイドンに造詣の深い皆様は良くご存知のとおり、クリストファー・ホグウッドと組んで古楽器演奏の草創期を代表するオケ。今回調べてみると、設立は1973年、やはりホグウッドが18世紀から19世紀の音楽を当時の楽器で演奏するために創設したオーケストラ。L'OISEAU-LYREレーベルからリリースされたモーツァルトやハイドン、バロック期の繊細、典雅な録音の数々は多くの人が耳にしたと思います。ホグウッドの監督のもと、1996年からはオーボエ奏者のポール・グッドウィンが副指揮者、ヴァイオリン奏者のアンドルー・マンゼが副音楽監督となっていたそうですが、この時期の録音が少ないため、日本ではホグウッドのイメージが強いでしょう。2006年からはこのアルバムの指揮を担当するリチャード・エガーが音楽監督に就任し、ホグウッドは名誉音楽監督になっているとのこと。
リチャード・エガーはイギリス生まれの鍵盤楽器奏者、指揮者。鍵盤楽器はハープシコード、フォルテピアノ、現代ピアノとなんでもこなします。少年合唱から音楽を学び始め、ヨーク・ミンスター、マンチェスター、ケンブリッジなど各所で学び、古楽はグスタフ・レオンハルトに師事しました。上で紹介したように2006年にホグウッドの創設したエンシェント室内管弦楽団の音楽監督に就任しています。それまで、ハイドン&ヘンデル・ソサイアティー、ターフェル・ムジークなどにも客演し、また現代オケもいろいろ振っているそう。
今日取り上げるアルバムのタイトルは「交響曲の誕生(Birth of the Symphony)」。ヘンデルのシンフォニアに聴かれる交響曲の萌芽から、徐々に交響曲の形式が定まり、ハイドンの名交響曲「受難」で締めるという構成。聴いていると、まさに時代の大きな流れを俯瞰しているように感じる見事な企画。ハイドンに至るまでのエガーのコントロールは、まさに自然なソノリティが美しい古楽器オーケストラの演奏。ホグウッドやピノックなどによって開拓されてきた古楽器の演奏は、現代楽器のアンチテーゼたる、古楽器らしい響きを意図的に演出した演奏だったと気づかされました。そうと感じるほどに、このエガーの演奏は自然。ここに至って古楽器演奏は、時代のパースペクティブに素直に位置づけられる自然さを獲得したかのように感じる説得力があります。
ハイドンの直前に置かれたモーツァルトの1番(K.16)が想像を絶する素晴らしさ。ホグウッド盤、ピノック盤でも印象に残りましたが、古楽器ながら実に自然にフレーズが進み、音の重なりが織りなす感興が噴出。落ち着いたエガーの棒から生気が迸り出るよう。音量を上げて聴くと、まさに交響曲と言う形式がすぐ後の時代に高みに昇りつめるのを予感させるような迫力。堂々とした響きから音楽の力が伝わります。今まで聴いたモーツァルトの1番ではダントツの出来。モーツァルトの爽やかなメロディーに酔いしれます。
Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
冒頭から感動的な響きが沁みます。実にしっとりとした序奏。ゆっくりゆっくりと朝日が昇るようすを眺めるようなさわやかな気分にさせられる入り。これ以上自然な表情をつくるのは難しいと思わせる完成度。描かれるメロディーラインとその間に全神経が集中。小規模なオケなのに、凄い厚みと迫力が宿っています。オケの鳴らしどころをわきまえた素晴しいデュナーミクのコントロール。現代楽器のような色濃い表情ながら、時折ハッとするようなノンヴィブラートのヴァイオリンの旋律の爽やかさにこの演奏が古楽器であることに気づかされます。
続く2楽章のアレグロ・ディ・モルトは、古楽器のキレと、押し寄せる現代楽器並みの迫力が両立して、聴くものを凛とさせる素晴しい攻め。本当の意味で楽器の区別を無用にするような説得力。この名旋律あふれる曲の真髄をとらえた迫真の演奏。手に汗握るとはこのことです。エガーの実に巧みなコントロールにオケが鮮やかに反応し、瞬時に畳み掛ける変化を聴かせます。
メヌエットは、シュトルム・ウント・ドラング期独特のほの暗い情感の濃さを落ち着いて描いていきます。柔らかな木管楽器群にとろけるようなホルンの音色が重なり、メロディーに潜む色を滲ませていきます。良く出汁の効いた吸い物をいただくような至福の心境。メロディーと響きが五感をフルに刺激しながら、超リラックス。分析的過ぎない録音もグッドです。
フィナーレに入ると、わずかにレガートを効かせるなどをしながら変化をつけますが、聴き所は図太いエネルギーを巧みにコントロールするアクセルワーク。速いパッセージをこなしながらめくるめくスペクタクルな演出。自然な力感に自然な感興、そして曲の素晴しさを堪能できるダイナミックさもあわせもつ演奏。このアルバムの締めに相応しい完璧な演奏でした。
古楽器演奏の礎を築いたエンシェント室内管の新たな時代を切り開くような素晴しい演奏。交響曲の誕生と題されたこのアルバムの企画も冴えており、演奏も文句なし。古楽器か現代楽器かというような議論を無意味にさせるような本質的な魅力をもつ演奏というのが偽らざるところ。真実はわかりませんが、ハイドンの時代から現代の演奏に至るまでの演奏スタイルの変遷の中には、現代に構築された、さも古楽器然とした演奏ではなく、このエガーのような自然な力感と音楽を演奏する悦びに満ちたダイナミックな演奏があったのではないかと思います。一聴すると才気に溢れる個性的な演奏ではありませんが、実に音楽的に練られた良い演奏。激、気に入りました。新世代の古楽器演奏として、ギィ・ヴァン・ワースとレザグレマンの演奏とともに要注目の演奏でしょう。評価はもちろん[+++++]です。
ここまで書けば、ハイドン好きな皆さんは素通りできませんね(笑)
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