作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

リリー・クラウス/シモン・ゴールドベルク/アンソニー・ピニのピアノトリオ(ハイドン)

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当ブログはカスタマー・フォーカスを旨としております(笑)

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リリー・クラウス(Lili Krauss)のピアノ、シモン・ゴールドベルク(Szymon Goldberg)のヴァイオリン、アンソニー・ピニ(Anthony Pini)のチェロによるハイドンのピアノ三重奏曲3曲(XV:26、XV:27、XV:29)と、シモン・ゴールドベルクのヴァイオリン、ワルター・ジェスキンド(Walter Susskind)指揮のフィルハーモニア管弦楽団(The Philharmonia Orchestra)の演奏でハイドンのヴァイオリン協奏曲(VIIa:1)を収めたアルバム。今日取り上げるピアノ三重奏曲の収録は1939年8月29日と9月1日、収録場所はロンドンとだけ記載されています。レーベルはDante ProductionsのLYS。

非常に懐かしいこのアルバム。手に入れたのはかなり昔のだったと思います。このアルバムは手元の所有盤リストに掲載していたのですが、3曲収められたピアノトリオの評価は[++++]としていました。そうしたら、このお正月、いつもコメントを戴き、当ブログの評価についてもずいぶん参考にしていただいている戎棋夷説さんが、twitterで、「ハイドン音盤倉庫でなぜこれが評価[+++++]でないのか、考えてしまった。」と、疑義まではいきませんが、大人の表現でつぶやかれていらっしゃいます。

このアルバムの評価はかなり昔のことゆえ、これは責任重大ということで、あらためて取り出し、レビューしなくてはと思い立った次第。

所有盤リストの評価は、かれこれ15年がかりでつけています。ちなみに1997年当時の所有盤リストを確認するとアップルマーク3つ。つまり最高評価としていました。当時は3段階評価だったわけですね。それを5段階の現行評価に変換し、いろいろいじって現在に至ってますが、この3曲の評価をいつ変えたものなのかは記録はなく、判然としません。

ここは現在の耳で虚心坦懐にレビューしなくてはならないでしょう。

リリー・クラウスは1903年ハンガリーのブダペスト生まれのピアニスト。ユダヤ系とのこと。ブダペスト音楽院で、シュナーベル、コダーイ、バルトークらに学び、1930年代にはウィーン音楽院で再びシュナーベルに師事。モーツァルトやベートーヴェンを得意としており、シモン・ゴールドベルクと組んで室内楽の演奏に早くから取り組んでいました。1942年からのアジア遠征で訪問したインドネシア、ジャワ島で日本軍に捉えられ、終戦まで軟禁されたとのこと。戦後は国際的に活躍し、日本にも度々来ています。亡くなったのは1986年で、永住先のアメリカ、ノースカロライナ州アッシュビル。

シモン・ゴールドベルクは一度アルバムを取りあげています。

2013/07/11 : ハイドン–協奏曲 : シモン・ゴールドベルク/オランダ室内管のヴァイオリン協奏曲

略歴は上の記事をご覧ください。奥さんは日本人で亡くなったのは富山ということで、おなじみの方も多いでしょう。

チェロのアンソニー・ピニは1902年、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれのチェリスト。10歳でグラスゴーに移り、それからロンドンに上りデビュー。1932年にトーマス・ビーチャムの招きでロンドンフィルの首席チェロ奏者となり、以降イギリスの主要なオケのチェロセクションのリーダーとして活躍した人。1989年に亡くなっているとの事です。

このアルバムのピアノトリオの録音は1939年と古いもので、SPからの板起こしと思われますが、録音ははっきりと骨格を捉えた素晴しいものゆえ、時代を超えて音楽が我々の耳に迫ってきます。

Hob.XV:26 / Piano Trio (Nr.40/op.73-3) [f sharp] (1795)
若干のヒスノイズは伴いますが、素晴しい立体感。リリー・クラウスの弾くピアノは眼前にあるよう。ノスタルジックな印象もありますが、落ち着き払ったトリオのゆったりとした演奏にうっとりとします。特にピアノ余韻の美しさは素晴しいですね。1930年代の録音としては流石のクォリティ。ピアノの音は転がるような滑らかさ。
この曲の2楽章は交響曲102番の2楽章を転用したもので、メロディーの美しさは折り紙付き。リリー・クラウスがフレーズを非常にうまく描いて、ゆったりと詩情溢れる展開。ゴールドベルクのヴァイオリンも独特の弓の摩擦が濃いような音でメロディーを重ね、えも言われぬような濃い雰囲気になります。
秀逸なのはフィナーレ。静寂のなかから音符が浮かび上がるような独特の入り。テンポもゆったりして慌てるそぶりはなく、淡々と弾き進めていきますが、ゴールドベルクのヴァイオリンも独特の図太い音色でメロディーを重ね、徐々に感極まるような成熟した響きに至ります。極上のヒストリカルな響き。

Hob.XV:27 / Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
名曲XV:27。ゴールドベルクとリリー・クラウスはもともと2人で組んでの演奏活動も長いため阿吽の呼吸。チェロのピニは音量は抑え気味ですが、そっと音を乗せて、脇役に徹するよう。この曲では時代を超えて躍動感が伝わります。リリー・クラウスのピアノの演奏は、余韻の美しさの限りを尽くしたようなもの。シモン・ゴールドベルクは直裁な音色を活かしながらもしなやかにアンサンブルに応じて、後年の唯我独尊的演奏とは異なる柔軟さが光ります。1939年という録音年代が信じられないようなしなやかさ。
このアルバム一番の聴き所はこの2楽章でしょう。あまりの詩情の濃さにむせ返りそう。リリー・クラウスのピアノだけでもデリケートなニュアンスに富んだ素晴しい演奏。古い録音ながら、このニュアンスの豊かさは何なのでしょう。ピアノと言う楽器の表現力の多彩さに今更ながら驚きます。圧倒的な音の分厚さ。現代の録音よりも音楽的に感じます。
3楽章は驚くべきダイナミックさとキレ。もはやピニは完全に脇役。リリー・クラウスとシモン・ゴールドベルクの火を噴くような掛け合い。パンチアウト!

Hob.XV:29 / Piano Trio (Nr.45/op.75-3) [E flat] (1796)
一転して落ち着いた導入の曲。良く聴くとピニのチェロも抑え気味ながら、実に味わい深い演奏であることがわかります。丹念に陰を描くような控えめな姿勢ですが、テンポの正確さと、抑えた音量のコントロールは流石。やはり名人芸はシモン・ゴールドベルク。ヴァイオリンのメロディーを追いかけているだけでで至福の時間。落ち着いた1楽章を聴いているだけでトリップしそうです。終盤にドビュッシーかと思うような音階の閃きがあり、リリー・クラウスのピアノの抑えたタッチが冴え渡ります。
前曲のアンダンテで感極まってましたが、このアンダンティーノも素晴しい。この演奏を上回る詩情はあり得ないと思わせる豊かな音楽。部屋の中に香しい花のつぼみの香りが満ちているよう。
そしてフィナーレで、一気に花が咲き乱れたような爽やかな明るさ。途中の絶妙な抑え具合と、アクセントの付け方はもはや神がかっています。リリー・クラウスのピアノがこれほど素晴しいと今更気づかされました。このアルバムの録音は1939年の原盤に込められたデリケートなニュアンスをそのまま伝える素晴しさ。おそらくSPはもっと素晴しいのでしょう。最後はキリリと締めて終わります。

リリー・クラウスとシモン・ゴールドベルクの凄さを思い知らされるような空前絶後の演奏。リリー・クラウスのデリケートなニュアンスに富んだ演奏は現代では真似の出来る人はいないでしょう。古き良き時代を感じさせると同時に、古さを感じさせない普遍性もあります。シモン・ゴールドベルクのヴァイオリンは独特の音色で穏やかに合わせていくところと、キリリと引き締まった攻め込むところの使い分けが見事。そして決して前に出てこないアンソニー・ピニの脇役振りも見事。これほど素晴しい演奏だったとは、昔の記憶とは異なります。そう、このアルバム、[+++++]意外の評価はつけ難いですね。早速修正です。

戎棋夷説さんが違和感を感じられたのも無理もありません。今後ともご指導よろしくお願いいたします。

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2 Comments

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戎棋夷説

No title

twitter を気にかけていただいて恐縮しております。「たぶん録音が古いから評価4なのだな」と思ってました。アンソニー・ピニは初めて聞く名でしたが、ビーチャムのもとでハイドンをたくさん弾いてる人なんですね。

  • 2014/01/21 (Tue) 16:40
  • REPLY

Daisy

Re: No title

戎棋夷説さん、コメントありがとうございます!
所有盤リストの評価も、数が膨大なため、ご指摘のような状況が生じてしまいます。まあ、こちらも道楽でやっておりますゆえ、あまり厳しい指摘に耐えられるものではありませんが、やはりいいものはいい。こちらの器もみなさんからのご意見や指摘によって育つものと寛大なる視点で見守っていただければと思います。リリー・クラウスの真価にようやく触れられた気分です。
今後ともよろしくお願いいたします。「ダウト」も歓迎でございます。

  • 2014/01/21 (Tue) 22:28
  • REPLY