作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】カール・フォルスターの天地創造(ハイドン)

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実に、実に久しぶりに天地創造のアルバムを聴きます。

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カール・フォルスター(Karl Forster)指揮のベルリン交響楽団(Berliner Symphoniker)、ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊(Chor der St. Hedwigs-Kathedrale Berlin)の演奏で、ハイドンのオラトリオ「天地創造」。収録は1960年1月27日から30日、2月17日、ベルリンのグリューネヴァルト教会(Grünewaldkirche)でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICSのELECTROLA COLLECTION。

ソロは次のとおり。

ガブリエル/エヴァ:エリザベート・グリュンマー(Elisabeth Grümmer)
ウリエル:ヨゼフ・トラクセル(Joseph Traxel)
ラファエル/アダム:ゴットローブ・フリック(Gottlob Frick)

このアルバム、タワーレコードの店頭で発見したもの。2013年にリリースされたものながらネットショップでは見つかりません。なぜでしょうか。

LP時代、ドイツプレスのEMI盤であるELECTROLA盤は、フランスプレスのPATHE MARCONI盤とともに音が良いので知られていましたが、CD時代に入ってELECTROLAの名前を見ることはなくなりました。このアルバムは久々にELECTROLAの名を冠したアルバムと言う意味でも感慨深いものがあります。

指揮者のカール・フォルスターは1904年ドイツのバイロイト東方、チェコ国境に近いティルシェンロイト近郊のグロースクレナウ(Grossklenau)生まれの指揮者、合唱指揮者。最初はレーゲンスブルクで哲学、神学を学び、その後ミュンヘンのルートヴィッヒマクシミリアン大学で教会音楽や音楽学を学ぶようになり、1934年から亡くなるまで、このアルバムの合唱を担当するベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊のカペルマイスターとして活躍しました。1963年に若くして亡くなっていますので、この録音は亡くなる3年前、56歳での録音ということになります。私はこのアルバムではじめてカール・フォルスターの音楽を聴きました。

歌手も当ブログではなじみのない人なのでさらっておきましょう。

ソプラノのエリザーベート・グリュンマーは1911年生まれのドイツのソプラノ。アーヘン歌劇場でカラヤン指揮のもと1940年にデビューし、その後デュイスブルグ、プラハの歌劇場で歌うようになり、戦後ベルリンに移って、ベルリン市立歌劇場(現ベルリン・ドイツ・オペラ)に出演するようになります。その後ヨーロッパやアメリカの主要な歌劇場に出演するようになりますが、出演はドン・ジョバンニのドンナ・アンナ、パルジファルの花の乙女、魔弾の射手のアガーテなど、ごく限られたものに制限していたそう。1986年に亡くなっています。

テノールのヨゼフ・トラクセルは1916年マインツ生まれのドイツのテノール。ダルムシュタット音楽院で学びましたがすぐに徴兵されますが、病気で離隊した後、1942年にドン・オッターヴィオ役でデビュー。その後捕虜としてイギリスにで過ごしたあと1946年にニュルンベルクで音楽界に復帰、シュツットガルト歌劇場、ザルツブルク音楽祭、バイロイト音楽祭などに出演。モーツァルトやワーグナーを得意としていたよう。亡くなったのは1975年。手元のアルバムでは同じ天地創造のウリエルをカイルベルト盤で歌っています。

バスのゴットローブ・フリックは1906年、シュツットガルト近郊のエールブロン=デュロン出身のバス。シュツットガルト州立歌劇場合唱団のメンバーから、フライブルク、ケーニヒスブルク(現ロシアカリーニングラート)などで働き、ケーニヒスブルクでカール・ベームに見いだされ、ドレスデン州立歌劇場と契約することになりました。その後ベルリン・ドイツオペラに移りましたが、以降はヨーロッパの主要な歌劇場に出演するようになります。亡くなったのは1994年。フルトヴェングラーから「ドイツで最も闇を感じるバス」と称された声の持ち主とのこと。録音はワーグナーが多いようです。手元のアルバムではヨッフム盤でもアダム/ラファエルを歌っています。

調べてみるとソロは大物揃いということがわかりました。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第1部
歌手の起用から予想は出来ましたが、朗々としたソロが聴き所の演奏。適度に粗いオケはまさにオペラのよう。ちょっと時代がかった演奏スタイルではありますが、これがすぐに慣れてしまって、違和感はありません。それよりも、まずはフリックの鋼のような芯のあるラファエル、意外に堂々とキレのあるトラクセルのウリエル、体中に余韻が響き渡るグリュンマーのガブリエルと、ソロの素晴しい存在感に圧倒されます。オペラ黄金期の覇気が伝わるような歌唱。これでは現代の演奏が敵いそうにありません。フォルスターの指揮はベテランのオペラ指揮者のごとく、歌手を引き立てながら、所々で個性的なフレージングで自己主張。火の玉のような熱くたぎる音楽が吹き出していきます。聴き所のガブリエルのアリアは夢の国のよう。グリュンマーの美しすぎるソプラノに完全にノックアウトです。高音から低音まで磨き抜かれた美声。特にヴィブラートが良くかかった高音の美しさは筆舌に尽くし難いもの。溺愛するヤノヴィッツ、ゼーフリート以上かもしれません。第1部のクライマックスを構成する第10曲から13曲までの盛り上げは、コーラスがずば抜けた迫力。粗さはあるものの、荒削りな表情だけがもつ迫真の迫力を感じさせるもの。フォルスターのコントロールは堅実かつ要所をビシッと決め、静けさも戦慄を感じさせるなど、ポイントを押さえた職人らしいもの。特に第13曲の大神殿のような構築感は見事。鳴門の渦潮に巻き込まれていくような陶酔感、あ〜れ〜っ。

第2部
間をおかずすぐに第2部。名曲連発の第2部はこのアルバムの真の聴き所。すぐにガブリエルのアリアで、再びグリュンマーの美声にうっとり。適度にノリのいいフォルスターの伴奏にグリュンマーも歌いやすそう。つづいて圧倒的な迫力のゴットローブ・フリックのレチタティーヴォ、それから三重唱を経て第2部前半のクライマックスですが、最後の部分をテンポを落として朗々と演奏するあたり、古風ではありますが、独特の迫力を帯び、悪くありません。多くの演奏で三重唱でテノールが聴き劣りするんですが、トラクセルはむしろ対等以上の覇気を感じさせます。
CD2に変えて第2部後半。オケは調子が上がって鳴りが非常に良くなっています。ラファエルのアリア、第22曲「いまや天は光に溢れて輝き」の遠くから響き来る荘厳な輝き、ウリエルのアリア、第24曲「威厳と気高さを身につけ」の弾むような華麗さも盤石。トラクセルの表情豊かな伸びやかな声もこの曲のベストと思わせるもの。第2部のクライマックスのハレルヤコーラス、三重唱、ハレルヤコーラスでの三重唱の沈み込むコントロールが効いていて、対比の効果抜群。最後のコーラスはやはりテンポを落として荘厳に。

第3部
聴き所のアダムとエヴァの最初のデュエットは期待通りの素晴しさ。極上のオペラの一場面のような息のあったデュエット。アダムのフリックがあまりに揺るぎないので可憐というより鉄壁という感じ。2番目のデュエットはグリュンマー、絶唱。そして第34曲は、荘厳な入りから、例によって落としたテンポで神々しいばかりのクライマックス。演奏によっては構築感が出にくい難しい終曲をしっかりまとめる手腕は見事でしょう。

久々に聴いた大曲天地創造。歴史を感じさせる時代がかった演奏でもありますが、3人の名歌手と怒濤の迫力を生むコーラスをまとめあげ、劇的に展開するカール・フォスターの手腕は見事と言う他ありません。ソロはソプラノのグリュンマーが特に素晴しいと言いたいのですが、聴いてみると3人とも素晴しい出来。どのパートも天地創造のベストと言っても過言ではありません。このアルバムがこれまで眠っていたのは人類の損失です。評価はもちろん[+++++]をつけます。大変気に入りました。

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