ヴォデニチャロフ、フェルナンデス、ツィパーリングのピアノ三重奏曲集(ハイドン)
今週は正月明けにもかかわらず、仕事がだいぶ忙しく、間があいてしまいました。土曜になってようやく書きかけの記事を仕上げられます。

TOWER RECORDS
ボヤン・ヴォデニチャロフ(Boyan Vodenitcharov)のフォルテピアノ、フランソワ・フェルナンデス(François Fernandez)のヴァイオリン、ライナー・ツィパーリング(Rainer Zipperling)のチェロによるハイドンのピアノ三重奏曲4曲(XV:18、XV:23、XV:21、XV:10)を収めたアルバム。収録は2005年12月17日から20日にかけて、ベルギーのブラ・シュル・リエンヌ(Bra sur Lienne)でのセッション録音。レーベルはベルギーのFLORA。
Floraのアルバムは手元に何枚かあって、以前に、フェルナンデスとツィパーリングが奏者として参加しているスコットランド歌曲とバリトントリオを組み合わせたアルバムを取りあげました。
2010/07/23 : ハイドン–声楽曲 : スコットランド歌曲集、マリーの夢
また、バリトントリオはこのアルバムのメンバーの生演奏をラ・フォルジュネ・オ・ジャポンでモーツァルトを特集した年、東京国際フォーラムのなかの相田みつお美術館でも聴いています。生の印象は古楽器独特の非常に精緻かつきっちり堅実な印象でした。
今日取り上げるアルバムではじめて聴くのはフォルテピアノのヴォデニチャロフ。1960年、ブルガリア生まれのピアニストで作曲家。ソフィア国立音楽院で学び、1982年ブルガリア国内の作曲コンクールで優勝。ブゾーニコンクールやクィーンエリザベスコンクールで3位となるなどの成績を残し、以後演奏家として国際的に活躍しています。1991年からはベルギーに住み、ブリュッセル王立音楽院で教職の立場にあるそうです。ネットで調べてみるとアルバムもちょこちょこリリースされており、ソロでモーツァルトのピアノソナタを録音していたり、寺神戸亮と組んだアルバムなどもあり、そこそこ活動している人のようです。
今日とりあげるアルバムは古楽器によるハイドンのピアノトリオの演奏なんですが、先日取りあげた同じく古楽器による、ヴァン・スヴィーテン三重奏団のものに比べて、なんとも華やかというか、花の香りがするような典雅な雰囲気がして、ドイツとベルギーの違いが、はたまたレーベルの違いかわかりませんが、古楽器の演奏でも微妙な違いが音楽の印象に大きな違いを生んでいるのが興味深いところ。以前聴いたバリトントリオのコンサートでも、そういえばそこはかとない華やかさがあったと思い出した次第です。
Hob.XV:18 / Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
テンポは普通の速さなんですが、妙にゆったり感のある典雅さがあります。古楽器それぞれがキレよりもしっとり感をかんじさせる演奏なのでそう感じるのでしょうか。録音は美しい古楽器の音を鮮明に捉えたもの。残響は少なくはないんですが抑え気味で眼前に3台の楽器がクッキリ定位するもの。スタジオ録音に近いのですが、雰囲気はあり、なかなか良いです。フォルテピアノが完全に主導権をとる演奏も多いですが、この演奏は録音のバランス上も対等で、アンサンブルの呼吸もぴったり。自然な雰囲気のなかに音楽が活き活きと踊ります。ところどころでテンポをかなり落として静寂を感じさせるのもいいですね。
素晴しいのがアンダンテ。まさに花が咲いたような華やかさ。花の香りが届いているような気分になります。ここでも自然なテンポで、非常にリラックスした演奏。美しいハイドンのメロディーに浸ります。
フィナーレは少し遅めのテンポで、爽快感よりもしなやかな音楽の流れを印象づけるもの。典雅の極みとはこのこと。3人が笑顔で演奏を楽しんでいるようすが伝わるようです。
Hob.XV:23 / Piano Trio (Nr.37/op.71-3) [d] (before 1795)
続いて短調の曲をもってきました。極上のコンサートのような選曲のセンス。やはり典雅な演奏で、華やかというか、艶やかな短調の調べにうっとり。古楽器のしっとりした音色が沁みます。徐々に力感が増してきますが一貫して落ち着いた演奏。つぼみが花開く様子を見ているよう。ピアノトリオはクライマックスでかなり力む演奏が多いなか、この癒し系の落ち着いた力強い演奏は貴重でしょう。
つづくアダージョはフェルナンデスのヴァイオリンの中音域の実に美しいメロディーとフォルテピアノの静かな掛け合いが見事。水面に波が広がるような余韻の美しさにとろけそう。
やはりフィナーレはしっとりとまとめてきます。フォルテピアノが他の奏者を待つような落ち着いたスタンスがこのリラックス感を生んでいるのでしょうね。
Hob.XV:21 / Piano Trio (Nr.35/op.71-1) [C] (before 1795)
しなやかな序奏から明るい快活なメロディーに入ります。ここでも前曲からの曲調の変化の面白さを意識した曲の配置が粋。本当のコンサートを聴いているような楽しみが味わえます。良く聴くとヴァイオリンの弓さばきから生まれる一音一音のメリハリの面白さが素晴らしいことに気づきます。チェロも音量は控えめながら穏やかな表情のサポート。
このアルバム、緩徐楽章の典雅さはどの曲も素晴しいですね。何気ない表情で淡々と弾き進めていくのですが、実に表情豊か。音色の美しさと、奏者のゆったりと心境が沁みるよう。これは至福の時間。
フィナーレはリズムとメロディーが躍動。たった3台の楽器の演奏での、これだけの躍動感は貴重ですね。力感ではなく躍動感のエッセンスで聴かせる見事な演奏。
Hob.XV:10 / Piano Trio (Nr.23/op.40-3) [E flat] (1785)
最後は2楽章の曲。これまでの3曲より10年ほど前の作曲で、曲自体も精緻な構成感よりはメロディ−の新鮮さを聴くべき曲。最後にこの曲をもってきたセンスも見事。フォルテピアノがキラ星のごとき美しい輝きを帯びて、それに乗ってヴァイオリンとチェロが遊ぶよう。ピアノトリオの面白さの原点のような曲の構成。フォルテピアノのヴォデニチャロフはかなり抑えててヴァイオリンとチェロを目立たせる役回り。最後のプレストは何気ない美しさに満ちた曲。軽いタッチで演奏していくだけで、華やかな気分に。このアルバムを象徴するような華やかさで締めます。
このアルバム、オススメです。ハイドンのピアノトリオは多くの曲が晩年の作曲で、良く聴くと素晴しい筆致。音楽を楽しむエッセンスが詰まった名曲揃い。弦楽四重奏曲の陰にかくれて、人気は今ひとつなんでしょうが、この素晴らしさは室内楽ファンにはわかるでしょう。その傑作を古楽器の名手があつまって、しかも実にリラックスして演奏を楽しんでいるようすを収めた録音。何度も書いて恐縮ですが、この華やかな雰囲気は最高です。曲の配置も実にいいセンス。一杯呑みながらのんびりと音楽を楽しむのに絶好のアルバムです。もちろん評価は全曲[+++++]です。

ボヤン・ヴォデニチャロフ(Boyan Vodenitcharov)のフォルテピアノ、フランソワ・フェルナンデス(François Fernandez)のヴァイオリン、ライナー・ツィパーリング(Rainer Zipperling)のチェロによるハイドンのピアノ三重奏曲4曲(XV:18、XV:23、XV:21、XV:10)を収めたアルバム。収録は2005年12月17日から20日にかけて、ベルギーのブラ・シュル・リエンヌ(Bra sur Lienne)でのセッション録音。レーベルはベルギーのFLORA。
Floraのアルバムは手元に何枚かあって、以前に、フェルナンデスとツィパーリングが奏者として参加しているスコットランド歌曲とバリトントリオを組み合わせたアルバムを取りあげました。
2010/07/23 : ハイドン–声楽曲 : スコットランド歌曲集、マリーの夢
また、バリトントリオはこのアルバムのメンバーの生演奏をラ・フォルジュネ・オ・ジャポンでモーツァルトを特集した年、東京国際フォーラムのなかの相田みつお美術館でも聴いています。生の印象は古楽器独特の非常に精緻かつきっちり堅実な印象でした。
今日取り上げるアルバムではじめて聴くのはフォルテピアノのヴォデニチャロフ。1960年、ブルガリア生まれのピアニストで作曲家。ソフィア国立音楽院で学び、1982年ブルガリア国内の作曲コンクールで優勝。ブゾーニコンクールやクィーンエリザベスコンクールで3位となるなどの成績を残し、以後演奏家として国際的に活躍しています。1991年からはベルギーに住み、ブリュッセル王立音楽院で教職の立場にあるそうです。ネットで調べてみるとアルバムもちょこちょこリリースされており、ソロでモーツァルトのピアノソナタを録音していたり、寺神戸亮と組んだアルバムなどもあり、そこそこ活動している人のようです。
今日とりあげるアルバムは古楽器によるハイドンのピアノトリオの演奏なんですが、先日取りあげた同じく古楽器による、ヴァン・スヴィーテン三重奏団のものに比べて、なんとも華やかというか、花の香りがするような典雅な雰囲気がして、ドイツとベルギーの違いが、はたまたレーベルの違いかわかりませんが、古楽器の演奏でも微妙な違いが音楽の印象に大きな違いを生んでいるのが興味深いところ。以前聴いたバリトントリオのコンサートでも、そういえばそこはかとない華やかさがあったと思い出した次第です。
Hob.XV:18 / Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
テンポは普通の速さなんですが、妙にゆったり感のある典雅さがあります。古楽器それぞれがキレよりもしっとり感をかんじさせる演奏なのでそう感じるのでしょうか。録音は美しい古楽器の音を鮮明に捉えたもの。残響は少なくはないんですが抑え気味で眼前に3台の楽器がクッキリ定位するもの。スタジオ録音に近いのですが、雰囲気はあり、なかなか良いです。フォルテピアノが完全に主導権をとる演奏も多いですが、この演奏は録音のバランス上も対等で、アンサンブルの呼吸もぴったり。自然な雰囲気のなかに音楽が活き活きと踊ります。ところどころでテンポをかなり落として静寂を感じさせるのもいいですね。
素晴しいのがアンダンテ。まさに花が咲いたような華やかさ。花の香りが届いているような気分になります。ここでも自然なテンポで、非常にリラックスした演奏。美しいハイドンのメロディーに浸ります。
フィナーレは少し遅めのテンポで、爽快感よりもしなやかな音楽の流れを印象づけるもの。典雅の極みとはこのこと。3人が笑顔で演奏を楽しんでいるようすが伝わるようです。
Hob.XV:23 / Piano Trio (Nr.37/op.71-3) [d] (before 1795)
続いて短調の曲をもってきました。極上のコンサートのような選曲のセンス。やはり典雅な演奏で、華やかというか、艶やかな短調の調べにうっとり。古楽器のしっとりした音色が沁みます。徐々に力感が増してきますが一貫して落ち着いた演奏。つぼみが花開く様子を見ているよう。ピアノトリオはクライマックスでかなり力む演奏が多いなか、この癒し系の落ち着いた力強い演奏は貴重でしょう。
つづくアダージョはフェルナンデスのヴァイオリンの中音域の実に美しいメロディーとフォルテピアノの静かな掛け合いが見事。水面に波が広がるような余韻の美しさにとろけそう。
やはりフィナーレはしっとりとまとめてきます。フォルテピアノが他の奏者を待つような落ち着いたスタンスがこのリラックス感を生んでいるのでしょうね。
Hob.XV:21 / Piano Trio (Nr.35/op.71-1) [C] (before 1795)
しなやかな序奏から明るい快活なメロディーに入ります。ここでも前曲からの曲調の変化の面白さを意識した曲の配置が粋。本当のコンサートを聴いているような楽しみが味わえます。良く聴くとヴァイオリンの弓さばきから生まれる一音一音のメリハリの面白さが素晴らしいことに気づきます。チェロも音量は控えめながら穏やかな表情のサポート。
このアルバム、緩徐楽章の典雅さはどの曲も素晴しいですね。何気ない表情で淡々と弾き進めていくのですが、実に表情豊か。音色の美しさと、奏者のゆったりと心境が沁みるよう。これは至福の時間。
フィナーレはリズムとメロディーが躍動。たった3台の楽器の演奏での、これだけの躍動感は貴重ですね。力感ではなく躍動感のエッセンスで聴かせる見事な演奏。
Hob.XV:10 / Piano Trio (Nr.23/op.40-3) [E flat] (1785)
最後は2楽章の曲。これまでの3曲より10年ほど前の作曲で、曲自体も精緻な構成感よりはメロディ−の新鮮さを聴くべき曲。最後にこの曲をもってきたセンスも見事。フォルテピアノがキラ星のごとき美しい輝きを帯びて、それに乗ってヴァイオリンとチェロが遊ぶよう。ピアノトリオの面白さの原点のような曲の構成。フォルテピアノのヴォデニチャロフはかなり抑えててヴァイオリンとチェロを目立たせる役回り。最後のプレストは何気ない美しさに満ちた曲。軽いタッチで演奏していくだけで、華やかな気分に。このアルバムを象徴するような華やかさで締めます。
このアルバム、オススメです。ハイドンのピアノトリオは多くの曲が晩年の作曲で、良く聴くと素晴しい筆致。音楽を楽しむエッセンスが詰まった名曲揃い。弦楽四重奏曲の陰にかくれて、人気は今ひとつなんでしょうが、この素晴らしさは室内楽ファンにはわかるでしょう。その傑作を古楽器の名手があつまって、しかも実にリラックスして演奏を楽しんでいるようすを収めた録音。何度も書いて恐縮ですが、この華やかな雰囲気は最高です。曲の配置も実にいいセンス。一杯呑みながらのんびりと音楽を楽しむのに絶好のアルバムです。もちろん評価は全曲[+++++]です。
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