スカールホルト四重奏団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

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スカールホルト四重奏団(The Skálholt Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めたアルバム。収録は2003年8月4日から7日、アイスランドの首都、レイキャビクから東に約50Kmほど内陸に入ったスカールホルト(Skálholt)カテドラルでのセッション録音。レーベルはアイスランドのSmekkleysaというレーベル。
クァルテットの名前でもあり、録音された教会のある街の名前でもあるスカールホルトについて調べてみたところ、中世アイスランドの文化的、政治的中心地であり、当時はアイスランド最大の街だったとのこと。現在はこのカテドラルと数軒の家しかない静かな街。
このスカールホルト・カテドラルでは毎年夏に音楽祭が開かれ、クァルテットのメンバーはその音楽祭のコンサートの常連で、メンバーは下記のとおりです。
第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:読めません!(Rut Ingólfsdóttir)
ヴィオラ:読めません!(Svava Berhardðdóttir)
チェロ:読めません!(Sigurður Halldórsson)
ヤープ・シュレーダーはホグウッドとのモーツァルトの交響曲全集で有名な人ですのでご存知の方も多いでしょう。当ブログでもシュレーダーが第1ヴァイオリンを務めるクァルテットのアルバムを2度ほど取りあげています。
2013/09/09 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : クァルテット・エステルハージのOp.20
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54
シュレーダー以外のメンバーはアイスランドの人でしょうか。一東洋人たる私にはポーランド語もまったく発音が想像がつきませんが、このアイスランド語らしき文字も皆目読めません。クァルテットとして活動を開始したのは1996年からで、アイスランドはもとよりフランスなどでコンサートを開き、またアイゼンシュタットのエステルージ宮殿で毎年開かれているハイドンフェスティバルにも招待され、この十字架上のキリストの最後の七つの言葉を披露したとのことで、彼らにとってハイドンは重要なレパートリーとなっているようです。
Hob.III:50-56 / String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
序章
アルバムに古楽器との表記はないのですが、古楽器然とした鋭い弦の音色。かなり残響の多いカテドラルに鋭い音色の響きがこだまします。非常に個性的な録音。スカールホルトカテドラルの響きをそのまま収めるという意図でしょう。かなり濃いめにフレーズしっかり奏で、エキセントリックというか緊迫感のある演奏スタイル。切々と劇画タッチでメロディーを描いていきます。ヤープ・シュレーダーのこれまでの演奏スタイルとはちょっと異なるスタイル。徐々に個性的な録音にも慣れてきて、意外にじっくり語るこのスタイルの魅力がわかるようになってきました。
第1ソナタ
第1ソナタはメロディーをクッキリ浮かび上がらせるスタイルが続き、第1ヴァイオリン以外は陰に寄り添うようについていきます。間をたっぷりとるので幽玄な感じも漂います。古楽器にしては異例のメリハリ。
第2ソナタ
色濃い表情が徐々に透明感を帯びてきたように感じます。若干表情のメリハリが枯れてきたのがそのような印象につながっているのでしょうか。意図したコントロールだとしたら見事です。
第3ソナタ
曲調にしたがって、本当に穏やかさが増してきているようで、まさに透明感を感じる展開。すべての楽器の表情が研ぎすまされてきて、凪の水面のような心境になってきました。序章からここまで、演奏スタイルを穏やかにへんかさせてくるあたりの大局を見据えたコントロールはただものではありませんね。終盤はアンサンブルのクリアさよりも心情の吐露のような乱れも生じて一瞬劇的な展開に。
第4ソナタ
前ソナタの乱れの余韻を継いで、これまでの恍惚としたような表情が、少し純朴な方向に振れて、良い意味で心に刺さるようになります。音楽のエッセンスの微妙な変化を楽しみます。
第5ソナタ
ピチカートに乗ったヴァイオリンの美しいフレーズが有名な曲。ピチカートをかなり抑え気味にして、ヴァイオリンはちょっとざらついた鋭い音でえぐるように名旋律を奏で、曲が進むにつれて、各楽器がグイグイ攻めこんできて、ぐぐっと心に迫ってきます。決して磨かれた音ではなくむしろ荒々しさを感じる弦楽器の響きが迫力につながっています。
第6ソナタ
序奏で強音を象徴的に響かせたあと、穏やかなメロディーに入り対比を鮮明に描きます。少し疲れたのか音程の安定度が少し揺らぐ場面があります。終盤にかけてもかなり踏み込んで強音を響かせ、慟哭のような効果を生みます。
第7ソナタ
最後のソナタ。ここまでソナタ毎に演奏スタイルを微妙に変化させて、曲の背景に潜む気配のようなものを丹念に描いてきました。最後のソナタでは、枯れ行く木々の葉が落ちる侘しさのようなものを実に上手く描いて、枯淡の境地に浸ります。フレージングのメリハリが妙に心に残る印象的なもの。最後は消え入るように。
地震
再び序奏の衝撃のようなものが蘇ります。ゆったりとしながらもエキセントリックな響き。音量での迫力ではなく、デフォルメされたメロディラインの迫力が襲いかかります。
この演奏は立場的にヤープ・シュレーダーが主導権をとっているものと思いますが、この演奏の荒々しくも恍惚とした迫力は、もしかするとスカーホルト・カテドラルそのものに宿る伝統、歴史のようなもののイコンが乗り移っているのかもしれません。広々としたカテドラルの豊かな残響のなかに浮かび上がるざらついた弦楽器の響きによって浮かび上がるハイドンの傑作ソナタ。弦楽四重奏曲としてバランスの良い演奏とは言えないものの、ここで聴かれる音楽は、まさにハイドンの手になる名曲「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の本質をえぐるものであることは間違いありません。私は非常に気に入りました。ちょっと粗い面もあり、一般の方へのおすすめ度合いを考慮して評価は[++++]としておきます。いろいろなクァルテットの世界を楽しみたいベテランの方にはもちろん、激オススメです!
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