驚愕の名演 シャロン四重奏団の冗談、五度(ハイドン)
年始一発目はこちら。

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シャロン四重奏団(THe Sharon Quartet)の演奏による、伝ハイドンの弦楽四重奏曲Op.3のNo.5、いわゆる「ハイドンのセレナード」、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.33のNo.5「冗談」、Op.76のNo.2「五度」の3曲を収めたアルバム。収録は1989年6月、ドイツ、ケルンの聖ヨハネ教会でのセッション録音。レーベルはDISCOVER INTERNATIONAL。
DISCOVER INTERNATIONALといえば、先日取りあげたワリド・アクルのピアノソナタ集などをリリースしているレーベル。アクルのアルバムでは"KOCH" DISCOVER INTERNATIONALとKOCHの名前が入っていたのですが、このアルバムにはKOCHの名前が入っていません。今日取り上げるアルバムの方が録音年代が古いことを考慮すると、この後このレーベルをKOCHが傘下に収めたということでしょうか。この辺の状況はわかりません。KOCH自体ももう存在しませんが、KOCHといえばハイドンマニアの方は、マンフレッド・フスによる室内楽、管弦楽の素晴しい演奏の数々を思い浮かべるでしょう。そう、ハイドンマニアには注目のレーベルなんですね。幸いフスの録音は現在スゥエーデンのBISからかなりの量リリースされていおり、現在も流通しているものと思います。
前振りが長くなりましたが、このアルバム、例によって湖国JHさんから貸していただいたもの。地味なジャケットですが、かく言う背景から、DISCOVER INTERNATIONALのロゴにアンテナがピンときました。
演奏者のシャロン四重奏団はもちろんはじめて聴く団体。設立は1984年で、第1ヴァイオリンがギル・シャロンということが楽団名の由来のようです。メンバーは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:ギル・シャロン(Gil Sharon)
第2ヴァイオリン:ロディカ=ダニエラ・チョチョイ??(Rodica-Daniela Ciocoiu)
ヴィオラ:ゲオルク・ハーグ(Georg Haag)
チェロ:カタリン・イレア=マイアー(Catalin Ilea-Meier)
第1ヴァイオリンのギル・シャロンはどうやらルーマニアの人のよう。ブカレストで学び、ルーマニア国内各地を演奏してまわったそう。1961年イスラエルに渡り、テル・アヴィヴ大学のルービン・アカデミーで引き続き学びます。その後イスラエル軍弦楽四重奏団の創設メンバーとなり、ダヴィド賞を受賞、1971年にはロンドンで開催されたエミリー・アンダーソン国際ヴァイオリンコンクール優勝しました。その後、マーストリヒト交響楽団のコンサートマスター、バルセロナ交響楽団の客演コンサートマスターなどとして活躍すると同時にソロヴァイオリニストとしても活動し、ヨーロッパ各国、イスラエルなどでコンサートを開いています。室内楽ではこのシャロン四重奏団とアマティ・アンサンブルを創設して活動しているとのことです。
このアルバム、聴くとシャロンの落ち着いたヴァイオリンをベースとしたのどかな音楽が流れてきます。最近非常に凝った表現のアルバムが多いなか、テンポはほとんど揺らさず、メリハリもそこそこ、かといって一本調子になるでもなく、じつに落ち着いた音楽が流れ、癒されるようなハイドン。そういった意味で貴重な演奏でしょう。
String Quartet Op.3 No.5 [F] (Doubtful 疑作 Composed by Roman Hoffstetter)
久しぶりに聴く「ハイドンのセレナード」。録音は時代なり。教会での演奏らしく、適度に残響がのった聴きやすい録音。先に触れた通り、非常にオーソドックスな弦楽四重奏。キリリと締まった表情、テンポ良く進め、外連味は一切なく堅実この上ない演奏。4人の奏者の息はぴったりですが、やはり第1ヴァイオリンのギル・シャロンの美音が印象的な演奏。このオーソドックスな演奏がかえって新鮮です。
有名な二楽章のアンダンテ・カンタービレは速めのテンポでこれ以上ない安定感。デリケートに抑えられた3人のピチカートに乗って、ギル・シャロンが優雅にメロディーを奏でます。良く聴くと素晴しい完成度。美しい音楽だけが流れます。これは絶品。
メヌエットも4楽章のスケルツァンドも速めで音楽の見通しは極めてよく、久しぶりに粋な演奏を聴いたという感想。まったく力まず、軽々と音楽を奏でていき、特に4楽章は踊り出すような活き活きとした表情をつくっていきます。この演奏の良さは、弦楽四重奏曲を聴き込んだ人にはわかると思います。1曲目からあまりに見事な演奏に驚きます。
Hob.III:38 / String Quartet Op.33 No.2 "The Joke" 「冗談」 [E flat] (1781)
シャロン四重奏団の演奏スタイルが絶対に映えそうな選曲。予想通り軽やかなメロディーが流れてきます。前曲同様、1楽章から素晴しい音楽。どの楽章も速めのテンポで、楽章間の対比をつけるような意図はなく、一貫した音楽が流れますが、ただただ美しい音楽が見通しよく流れていき、聴いているうちに実に幸せな気分になります。1、2楽章は予想通りだったんですが、驚いたのは3楽章のラルゴ。これほど美しいラルゴを聴けるとは。冒頭から信じられないような美音で、ようやく深くテンポを落としてじわりと心に迫ってきます。チェロとビオラの奏でる伴奏の美しさったらありません。またそれに乗ってギル・シャロンのボウイングが冴え渡ります。まさに至福のラルゴ。お正月気分が吹き飛びます。またもや絶品。
そして、この曲の聴き所。過度にくだける事はなく、凛々しい印象のまま、軽々とフレーズを刻んでいきます。まさに正統派の演奏。すべてのクァルテットの教科書になりそうな、見事な完成度。最後の聴かせどころも素晴しいセンスでまとめます。
Hob.III:76 / String Quartet Op.76 No.2 "Quintenquartetett" 「五度」 [d] (1797)
すでに完全にノックアウトされています。この完成度で五度を聴かされたらと思いながら、まさにワクワク感満点で聴き始めます。速めのテンポは変わらず。そしてバランスの良い落ち着いた演奏スタンスも変わらず、五度の最も美しい冒頭の部分を畳み掛けるように進めていきます。この素晴しい完成度、神々しいというのが相応しいでしょう。素晴しい音楽が流れていきます。良く聴くと時折、ぐっと音量をしぼっているので、引き締まった印象が保たれている事がわかります。
やはり、この曲でもアンダンテが沁みます。情に流されない素晴しいアンサンブル。ヴァイオリンの美音。ハイドンのアンダンテはこのように演奏するのだと諭されているよう。なぜか心にぐっさりささる音楽。終盤の孤高の境地。
五度でもっとも表現が難しいと思われるメヌエット。野暮な演奏で聴くと、ただ荒々しいだけの殺伐とした音楽に成り下がってしまうリスクをはらみますが、流石シャロン四重奏団はツボを押さえて、心に刺さると同時に気高さも感じるタイトな音楽に仕立てました。
フィナーレはこのアルバムで最も力の入った演奏。力が入ったというより、力感の表現が秀逸だといったほうが正しいでしょう。斬り込むような鋭い音色が続きますが、クッキリとまとめて音楽の一体感が際立ちます。いやいや参りました。湖国JHさんが苦手だったこの曲をこの演奏を聴いて好きになったというのが頷ける演奏です。
実はこのアルバム、年末から何度も聴いていてあまりの素晴しさに打たれ続けていたもの。やはりお正月最初に取りあげるのが相応しいとの思いで、レビューを先送りしてきました。弦楽四重奏曲はたった4本の弦楽器のアンサンブルですが、その表現の幅はまことに広く、実に様々な演奏があります。今日とりあげたシャロン四重奏団のハイドンは、まさにハイドンの弦楽四重奏の原点、それも容易には真似の出来ない恐ろしいまでに完成された原点たる演奏といって良いでしょう。このすばらしさは多くの人に聴いていただく価値があります。残念ながら現役盤ではありませんが、amazonなどではまだ手に入るようですので、是非! 3曲とも決定盤、評価は[+++++]以外にはあり得ません。新年の幕開けに相応しい名盤でした。
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