作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ハイドン・トリオ・アイゼンシュタットの三重奏曲集

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先日取りあげたグリフォン三重奏団の演奏を聴いてから、ピアノ三重奏曲をいろいろ聴き比べています。今日は名盤を。

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ハイドン・トリオ・アイゼンシュタット(Haydn Trio Eisenstadt)の演奏によるハイドンのピアノ三重奏曲全集。8枚組のCDにハイドンのピアノ三重奏曲が39曲収録されています。収録は1998年から2002年にかけて、オーストリア、アイゼンシュタットのエステルハージ宮殿、ハイドンザールでのセッション録音。レーベルはウィーンのPHOENIX Edition。

ハイドン・トリオ・アイゼンシュタットは、ハイドンファンの皆さんならご存知の、Brilliantからリリースされている全18枚にも及ぶスコットランド歌曲全集の伴奏を担当しているトリオ。ライナーノーツによると、設立は1992年。メンバーはウィーン音楽大学の室内楽コースの出身者で、1995年からは、このアルバムの録音会場であり、もちろんハイドンが過ごしたエステルハージ宮殿ハイドンザールでの「ハイドン・フェスティバル・アイゼンシュタット」でハイドンの39曲に及ぶピアノ三重奏曲の全曲を演奏するコンサートを開催しました。2003年から2008年にかけて前出のスコットランド歌曲集を録音し、まさにハイドンの室内楽の演奏をリードする存在となりました。記録によると日本にも来ているようですね。

ピアノ:ハラルド・コシーク(Harald Kosik)
ヴァイオリン:ヴェレナ・シュトルツ(Verena Stourzh)
チェロ:ハンネス・グラッドウォール(Hannes Gradwohl)

ウェブサイトを見ると、既にハイドン・トリオ・アイゼンシュタットのサイトはなく、ヴァイオリンが入れ替わったメンバーによる「ハイドン・ピアノ・トリオ」という新たなトリオが結成されていました。この辺の事情はあまりよくわかりません。

このアルバムはハイドンのピアノ三重奏曲全集の決定盤でしょう。ながらくボザール・トリオの演奏でハイドンのピアノトリオを楽しんできましたが、このアルバムを聴いて、ハイドンザールでの記念碑的録音と言うだけではなく、オーソドックスでかつ生気に富んだ演奏から、ハイドンが晩年に手塩にかけたピアノトリオの素晴しい音楽が溢れ出してきます。

今日は、CD1から何曲か取りあげます。

Hob.XV:27 / Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
キレ味の良い曲想から多くのトリオが録音している名曲。ハイドン・ザールの豊かな残響に、ピアノ、ヴァイオリン、チェロがクッキリ浮かび上がる録音。残響は多めななのに音像はリアルで十分鮮明。ボザールのPHILIPSの名録音よりもPHILIPSらしい非常に自然な録音です。演奏はハイドンの曲に仕込まれた自然な感興を紡ぎ出していくような穏やかななのに生気に満ちたスリリングなもの。音量を上げて聴くと、まさに自宅がハイドン・ザールになったと錯覚するようなリアルな響きに聴き惚れます。これはピアノのハラルド・コシークのキレの良いタッチから生まれる磨き抜かれたピアノ美音によるもの。上質な生演奏を眼前で聴いているよう。曲想の変化と各楽器のフレーズのやり取りが手に取るようにわかり、まさに室内楽を聴く悦びにどっぷりと浸かります。火を吹くようなキレ味ではありませんが、ほどよいキレとメロディの掛け合いは十分スリリング。クレーメルとアルゲリッチに鎮痛剤をのませて、穏やかにしたよう(笑)
アンダンテは穏やかさが増しますが、途中からピアノのアクセントがかなりハッキリと決まりはじめ、かなりの迫力。漂うような美音と、攻め込む迫力が交互に訪れます。そしてフィナーレはこのトリオのキレを存分に聴かせます。ピアノの快速音階はビロードのような滑らかさ。ライヴのような緊張感も漂う演奏に、こちらも手に汗握ります。力みすぎない十分な迫力が心地よい盛り上がり。フィニッシュには爽快感も。

Hob.XV:19 / Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
先日、グリフォン三重奏団でもとりあげた短調の名曲。全曲とは異なり、キレではなく、しなやかなフレージングを求められる曲。やはりピアノのコシークの見事な演奏がベースとなり、ヴァイオリンとチェロが穏やかに重なっていきます。演奏は非常に一貫していて、むらはありません。上質な音楽が滔々と流れていきます。ヴァイオリンとチェロの息がピタリとあって、曲が進むにつれて、テンポが上がり、穏やかな曲が徐々に熱を帯て迫力を増してくるあたりのしなやかな変化が素晴しい。
アダージョは、ピアノの高音域の可憐なメロディーをベースにヴァイオリンとチェロが絡まります。ピアノの響きの美しさを最大限に活かした演奏。まさにピアノトリオならではの美しさ。そしてフィナーレもピアノの美音がハイドン・ザールに響き渡るようすが手に取るようにわかる素晴しい演奏。この余韻の美しさがこのアルバムの聴き所でもあります。ハイドン自身がこの余韻を楽しんだと思うと感慨一入です。

この全集、どの曲もむらなく素晴しい演奏ゆえ、何枚目から聴いても楽しめます。ハイドンとエステルハージという名を冠した団体だけに、ハイドンの曲の真髄を良く知っての演奏。ハイドンのピアノトリオはかなり技巧を要する曲ということで、コンサート等で聴くと、かなり力が入った演奏が多いですが、このアルバムでは、美しく良く響くホールで、適度な力感をコントロールして、ハイドンの書いた美しいメロディーと、機知に富んだ構成をキッチリ描き分け、ハイドンのピアノトリオ自体を存分に楽しめる名演奏です。もちろんこの2曲は[+++++]とします。

このアルバム自体はもともとCAPRICCIOからリリースされていたようですが、現在はPHOENIX Editionに代わり、しかも現役盤ではないようです。見かけたら即ゲット要です!

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4 Comments

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MK

ハイドン・トリオ・アイゼンシュタット

ハイドン・トリオ・アイゼンシュタットのセットを私も愛聴しております。
と云うより、このセット以外他の音源を所有していないのですが・・・(笑)。
大昔吉田秀和さんの「音楽の楽しみ」の番組中、ハイドンの音楽と生涯の特集があり、その何回にも渡り放送されていたピアノ三重奏曲と云うその端整な曲とホーボケン番号と云う、作品番号に興味を覚え、いつかゆっくり全曲を聴きたいと思っておりました。
近年やっと、このセットを購入することができ、長年の思いが叶いました。

  • 2013/12/29 (Sun) 17:08
  • REPLY

Daisy

Re: ハイドン・トリオ・アイゼンシュタット

MKさん、コメントありがとうございます。
いつも香り高い自家焙煎コーヒーの味を想像しながらブログ拝見しております。
この全集をお持ちであれば、とりあえず十分でしょう。ハイドンザールでの素晴しい響きと、ハイドン・トリオ・アイゼンシュタットの名演奏で、ハイドンのピアノトリオを存分に楽しむことができます。交響曲や弦楽四重奏曲の陰に隠れて、いまいちマイナーですが、ピアノが加わった室内楽の響きの美しさは格別ですね。

  • 2013/12/29 (Sun) 22:50
  • REPLY

Skunjp

夢見るような奇跡的な名演

やはりピアノ三重奏曲は晩年のハイドンが至った創作活動の桃源郷なのですね。

特に18番以降、ロンドン時代の諸作は、ひとつひとつがタップリとした重みを持ち、個性豊かな味わいの果実のようです。

何といっても聞き所はハイドンの造る旋律の素晴らしさ!見かけは簡素なようでいて、その実、ピアノとヴァイオリン、それにチェロが紡ぎ出す織り地は非常に複雑です。この点、モーツァルトのピアノ三重奏曲とは違います。

私はモーツァルトも大好きなのですが、彼のピアノトリオの場合、美しい旋律が順番に各楽器にバトンタッチされ、その間、他の楽器は伴奏に終始しているケースが多く、ハイドンの複雑巧緻な旋律に慣れた耳には物足りません。やがて飽きてしまいます。

もちろんモーツァルトとハイドンは音楽の成り立ちが異なるので単純比較はできません。モーツァルトの音楽は、まず神々しいばかりの唯一無二の旋律が命です。ハイドンの音楽は、これに比べてはるかに対位法や痛奏低音の作法が色濃く残っており、それが音楽に一筋縄ではいかない深みをもたらしています。

やはりハイドンの出自(後期バロックから出発)がモーツァルトのそれ(バロックの衣を脱ぎ捨てたクリスチャン・バッハが最初のお手本)とは根本的に違うということでしょう。

そのようなハイドンの旋律の重層性を、このトリオ・アイゼンシュタットは見事な一体感で表現しています。

まずはピアノのハラルド・コシークの素晴らしさ!彼がピアノを弾くと目の前に乳白色の光に満ちた空間がひらけます。その理由は、このピアニストのペダルの巧みさにあると思います。響きがまろやかに溶けあい、しかも一点のくもりもないのです。そこにヴァイオリンが過不足なく煌めきながら絡み合い、チェロがゆったりと音楽を支えます。

まるで夢見るような奇跡的な名演!

その完成され洗練されきった極上の響きを聴いていますと、どこか日本的な抑制の美学のようなものを感じます。「ナイーブで楚々とした感覚」と言いましょうか。ああ、これがハイドンの命なのだなあ…と感激してしまいます。

これに対して最近手に入れたトリオフォントネは極彩色です。ハイドンが意図した音楽的な仕掛けを細大漏らさず極限まで拡大し、ささやくようなピアノからシンフォニックなフォルテまで巨匠的で有り余るテクニックをもって、まことに味濃く仕上げています。「うーん、巧いッ!」と聞き手はグウの音も出ないほど説得されますが、「でもこれってハイドンなの?」と訊かれれば、ちょっと違うかも…と思わされるのもまた事実。

ともかくトリオ・アイゼンシュタットの演奏は、ハイドンのハイドンたる美点を余す所なく実現していると思います。

この演奏が「ハイドンのピアノ三重奏曲全集の決定盤」、というDaisyさんのご意見に心から賛成!

  • 2016/03/11 (Fri) 14:12
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Daisy

Re: 夢見るような奇跡的な名演

Skunjpさん、コメントありがとうございます。

>ピアノ三重奏曲は晩年のハイドンが至った創作活動の桃源郷
おっしゃる通り、私も最近ピアノ三重奏曲の素晴らしさを再認識した次第です。このトリオ・アイゼンシュタットやヴィヴェンテの演奏で聴くピアノ三重奏曲はまさにハイドン創作の頂点と言っていいと思います。

モーツァルトとハイドンの音楽の違いもその通りですね。ハイドンの音楽の深みは、メロディの美しさもさることながら、対位法的な旋律の絡みあい、ウィットや幸福感に富んだ展開に由来するもの。聴けば聴くほどに面白く感じます。モーツァルトがメロディの軽やかな躍動やデモーニッシュな情感で感情に直接訴えるのに比べると、ハイドンの音楽は感情のみならず知的刺激にも満ちているところが玄人好みの所以なんでしょう。モーツァルトのみならず、ブラームスやプロコフィエフなどもハイドンの音楽に心酔していたのも頷けるところです。

>まるで夢見るような奇跡的な名演!
その通りですね。この演奏にはアイゼンシュタットに漂うハイドンの魂が乗り移っているようにも思えます。ハイドンザールはハイドン自身が演奏していたところ。そのホールでハイドンの最高傑作を演奏する奏者はおそらくハイドンの時代の空気を感じているはずです。現代でも最高のハイドン奏者を自負する奏者がホールに漂うハイドンの魂の力を借りて、音楽を織り上げていったのでしょう。これは至宝ですね。このようなアルバムが入手難であることは人類の損失ですね。タワーレコードあたりでなんとかなりませんでしょうか!

  • 2016/03/12 (Sat) 00:53
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