【新着】トーマス・ファイの交響曲99番,軍隊(ハイドン)

12月最初のアルバム。発売が延びて先日ようやくHMV ONLINEから届いたもの。

Fey99_100.jpg

トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のハイデルベルク交響楽団(Heidelberger Sinfoniker)の演奏で、ハイドンの歌劇「突然の出会い」序曲、交響曲99番、交響曲100番「軍隊」の3曲を収めたアルバム。収録は2013年3月5日から8日にかけて、ドイツ、ハイデルベルクの10kmほど南のヴィーズロッホ(WiesLoch)という街のパラティン・ホテルのホールでのセッション録音。レーベルはいつもの独hänssler CLASSIC。

ファイのハイドンは、当ブログでも度々取りあげていますので、もうおなじみでしょう。

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あらためて数えてみると、21枚中8枚を取りあげていますので、かなりの割合でレビューしていることになります。今回の第21巻は、ファイの演奏スタイルから、おそらく未曾有の面白さではないかと期待される軍隊と、加えてトルコ風オペラとして知られる「突然の出会い」の序曲まで含まれるとあって、到着が楽しみでなりませんでした。

ジャケット写真も、合成写真臭さ満点ですが、ロンドンらしい曇天のロンドンブリッジの前で自信ありげにたたずむファイの姿があしらわれたもの。聴く前から期待が高まります。

Hob.XXVIII:6 / "L'incontio improvviso" 「突然の出会い」 (before 1775)
き、来ました。冒頭の一音から何という力の漲り。いきなりオケが大爆発。シンバルにグランカッサが混じり、トルコ趣味の軍隊のクライマックスのような盛り上がり。地響きを立てて湧きあがるオケ。いつものファイらしく、一音一音に巧みにメリハリをつけてオケを煽っていきます。中間に静かな聴かせどころを配して、最後に再び大爆発。録音も超鮮明キレキレ。まさに緩急自在。これからはじまる歌劇への期待がいやがおうにも高まりますが、アルバムとしてはこのあとの2曲への期待も高まります。ハイドンのオペラの序曲の痛快な面白さを完璧に表現した素晴しい演奏です。

Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)
ハイドンのザロモンセットの中では比較的穏やかな曲ですが、ファイはどう料理してくるでしょうか。クーベリックに代表される穏やかな響きの古典的バランスを追求した演奏とは異なり、ファイはこの曲を、エキセントリックな響きを交えながら、ハイドンの宝石箱のような美しいメロディの重なりと力感の表現の坩堝のように描いていきます。金管をやや強調し、メロディーのひとつひとつをかなりクッキリ描く事でこの曲の面白さが、いつもと異なる形で浮かび上がってきます。それにしてもリズムが冴え渡り、演奏はキレまくってこちらの耳を飽きさせません。途中で明確なテンポをハッキリギアチェンジ。響きのひとつひとつに小技総動員。この辺のアイデアはファイならではでしょう。
しっとりとした名曲のアダージョ。ファイはここではハイドンの楽譜に書かれた音楽の深さに敬意をはらっているのか、少し速めなテンポで、木管の響きをクリアに維持する以外に、仕掛けをしてきません。ただただ演奏される事で大きな流れが出来上がり、曲に身を任せられます。
メヌエットに入ると、徐々にファイの才気が芽を出し、アクセントの変化とレガートで、この曲の垢を落とそうとしているよう。テンポはかなり落としてじっくりとハイドンの曲を分解して楽しんでいるよう。オケの奏者のリズムがぴたっと決まって、特にティンパニの正確なアタックに惚れ惚れとします。
フィナーレは、おとなしめで入り、いつ爆発するかと手ぐすねをひきながら待ちます。それを見透かすようにほどほどの力感で、曲の面白さを落ち着いて流しながらこなし、そして最後はテンポをぐぐっと落として、コミカルに終わります。最後の方のホルン、絶妙の上手さ。か~、流石にまとめ方が上手いです。やられました。

Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
いよいよ軍隊。意外に序奏からかなりデフォルメを効かせての入り。花道での入りの見栄、ばっちりキマってます。主題に入ると、怒濤の推進力、金管がキリリとエッジをつけて、この類いまれな名曲を、キテレツ、キレキレの演出で描いて行きます。火を噴く大道芸を見物しているようなスリリングさ。外連味溢れる豪快な演出で、ファイへの期待を知ってか、煽りまくります。テンポの変化と抑えた部分の沈み具合も素晴しく、この曲のスペクタクルな魅力全開。めくるめくような1楽章です。
軍隊の行進をイメージさせるアレグレット、普通に来るとは思っていませんでしたが、やはり速目でサカサカとした入り。そしてグランカッサとシンバルの一撃とともにテンポを落とし、おどろおどろしさ炸裂。まさにファイ劇場。不思議とアーティスティックな範囲を保っているのが素晴しいところ。速めのテンポでミニチュア人形の軍隊の行進のようなコミカルな感じを残すあたりも面白い効果。
メヌエットは、今度は軍隊の行進を受けて、流すような、テンションを少し下げた演奏。こちらの方が行進曲のようなリズムの安定感。おだやなな曲調を踏まえて、オケも力は入っていますが、すこし気楽に応じているよう。このアルバムでもっともオーソドックスな楽章。
フィナーレは入りは穏やかですが、徐々にファイがスロットルを噴かしはじめ、鋭い音色の金管と、透明な弦楽器、ティンパニなどの繰り出す怒濤の響きが噴出。だんだんテンポを揺らし始め、極端にテンポを落として間をとって、コミカルな雰囲気を演出。かなり激しいアクセルの開閉にオケがピタリと追随。最後はオケ全員がフルスロットルで大爆発。ファイらしくキリリと引き締まったコントロールで、オケが爆音を収めます。いやいや、期待通りのファイらしい軍隊でした。

今回も素晴しい出来でした。軍隊も素晴しかったんですが、才気がより溢れていたのは「突然の出会い」序曲と99番。とくに99番の緊張感溢れる演奏には痺れました。もちろん、全曲[+++++]です。

トーマス・ファイのハイドンの交響曲全集もこれで21巻目。そろそろ6、7合目でしょうか。過去にハイドンの交響曲全集を目指したホグウッドやロイ・グッドマンなども、この正念場を乗り切ることがができませんでした。ファイの全集はビジネスベースでどれほどの成功を収めているかは把握しておりませんが、アルバムの出来をみる限り、ハイドンファンの支持を得ているように思えます。かく言う私も、最初は苦手だったものの、徐々にファイの術中にハマり、新盤リリースの度に手に入れレビューするようになりました。トーマス・ファイとハイデルベルク響は、104曲、正確に言うともうすこしありますが、大山脈のようなハイドンの交響曲の現代におけるもっとも興味深い演奏者であることは間違いありません。この素晴しい全集の完成を心より祈ります。

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ハイどんちゃん

ファイは騒々しくって、私は彼を「ハイどんちゃん」と呼んで軽蔑しているのですが、彼の「軍隊」は楽しそうですし、99番は好きですし、聴いたことの無い「突然の出会い」序曲までもれなく付いてくる、となると、これは彼が私に和解の手を差し伸べてくれているのですね。

Re: ハイどんちゃん

戎棋夷説さん、こんばんは。
私も最初はファイは苦手でした。こちらのもっているハイドンの交響曲のイメージとズレていることで、かなり抵抗があったのは正直なところです。ところが、そのこちらの固定観念を取り払って虚心坦懐に聴くと、これがなかなか面白い。本来ハイドンとはこのように自由な発想で演奏しても良いのではと思い始めると、これがハマるんですね。好みは人それぞれですので、いろいろな評価があってしかるべしですが、私は最近はかなり気に入ってます。
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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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