ワリド・アクルのピアノソナタ集(ハイドン)
今日も湖国JHさんに貸していただいているアルバムから。

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ワリド・アクル(Walid Akl)のピアノによるハイドンのピアノ作品全集の第1巻。ソナタ4曲(Hob.XVI:20、XVI:22、XVI:35、XVI:23)と変奏曲(Hob.XVII:7)の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1998年、場所はパリとだけ記載されています。レーベルはオーストリアのKOCH DISCOVER INIERNATIONAL。
ワリド・アクルのアルバムは手元に「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」のピアノ版のアルバムがあるのみ。そのアルバムにもハイドンのピアノ作品全集の第3巻との記載がありますが、他の巻のアルバムをあまり目にすることもなかったので、とりたてて注目しているわけではありませんでした。今回このアルバムを貸していただいて、ライナーノーツをよく見ると、裏面に「ワリド・アクル(1945-1997)に捧ぐ」との記載があり。ハイドンのピアノ作品全集を残して、亡くなられたということでしょう。
ライナーノーツの解説によるとワリド・アクルは終戦の年、1945年にレバノンに生まれたピアニスト。パリで教育を受け、マルグリット・ロン・アカデミー、エコール・ノルマル、パリ音楽院などで学び、1969年からヨーロッパの都市を中心に活躍したとのこと。オケとはミュンヘン・フィル、ラジオ・フランス管弦楽団、パウル・クエンツ管弦楽団などと共演。レパートリーは広く、ベートーヴェン、リスト、ボロディンなどまでこなしましたが、とりわけ気に入っていたのがハイドンとのことで、ピアノ作品全集まで録音したということです。1997年、パリで心臓手術を受け、そのあと52歳という若さで亡くなったとのことです。
現在、amazonで中古が数枚みつかる他、あまり目にしないアルバムですが、聴いてみるとさすがにハイドンの全ピアノ作品を録音しようというほどの意気込みが伝わる演奏でした。1曲1曲の表現を磨くのではなく、非常に大きな視点から音楽を描いて行く感じ。これは悪くありません。
Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
録音は自然でいいですね。アクルのピアノはさっぱりとしたテイストでサラサラと弾き進めていくもの。自然に生まれる感興がほどよく感じられ、曲自体がもっている音楽に集中することができます。表現が大げさでないのににじみ出る情感は濃いという不思議な感覚。フレーズはキリリと引き締まり、8分の力でメリハリをつけながら弾いていきます。
期待の2楽章。星がきらめくような名曲ですが、ことさらきらめきを強調することはせず、淡々と弾いていきます。途中音量を結構落とす場面があるのですが、これがいい味をだしています。さっぱりとした美しさがにじみ出てきます。叙事詩が語られるのを聴いているような落ち着いた音楽。ただタッチのキレ、音楽の濃さはそれなりにあって、アクルの演奏スタイルにだんだんハマってきます。
フィナーレは練習曲を速弾きするような軽やかさ。大上段に構えるのではなく、普段の練習のようなくだけたスタイルがハイドンに合っています。冒頭にも書きましたが、やはり全集を演奏するということで、一歩引いた立場で冷静な視点をもちながら、自然な演奏から音楽を滲ませようというスタンス。
Hob.XVI:22 / Piano Sonata No.37 [E] (1773)
つづく曲も姿勢は変わりません。まるでハイドンの多くのソナタをすべて初見で弾いているような新鮮さ。1曲1曲の出来ではなく、ソナタ全体から音楽を引き出そうとしているようにすら感じます。途中の転調でハッとさせられる他は、実に地道な演奏。
2楽章のアンダンテはしっかり沈んで、美しいメロディーを引き立てます。そしてフィナーレは禁欲的なほどあっさりとまとめます。ハイドンの秩序と規律を軽快に表現しているようで、微笑ましい限り。最後の一音のさっと消え入る感じ、こちらも実に味わい深い。
Hob.XVI:35 / Piano Sonata No.48 [C] (c.1780)
軽やかなメロディーラインが心地良い曲。子犬が走り回るような微笑ましい軽快さ。喜んで型にはまっているような律儀さがあり、まさにハイドンのソナタに相応わしいコミカルさをはらんでいます。良く聴くと非常にクッキリとした右手の音階。終盤、きちんと間をとりメリハリをつける事は忘れません。要はハイドンのツボを押さえているということです。
この曲まで来ると、アダージョのしっとり感もかなりのもの。頭の中に音楽が流れているのでしょう、指から紡ぎ出される音楽は非常に完成度の高い表現。陽光に輝く雪山を遠くから眺めるがごとき陰影の深さ。ゆったりと音楽が紡ぎ出され、輝きは最高潮。
フィナーレは相変わらずの軽さ。これだけの軽さにはかなりのタッチのキレが求められます。
Hob.XVI:23 / Piano Sonata No.38 [F] (1773)
もうアクルの術中にハマってます。いやいや、ハイドンのピアノ作品をこよなく愛していることがひしひしと伝わります。ハイドンのソナタのツボを完全に掌握。とくに軽さとと機知の表現が絶妙。有名なこの曲もアクルのさりげないピアノで聴くと、じつに趣き深いですね。この曲では珍しくかなりアクセントを効かせてメロディーを奏でます。転がるような音階ときっちりメリハリをつけた部分の対比の鮮明さはかなりのもの。
アダージョのさっぱりしながらも濃密な音楽は相変わらず。ゆったり語られる音楽には、比較的硬質なスタインウェイの高音の美しさが効いているよう。抑えた表情の美しさが決まります。
いつもながら、アダージョとフィナーレの切り替えは鮮やか。まさに鮮烈なフィナーレ。音量は抑えながら、色彩感を感じさせる見事な指さばき。
Hob.XVII:7 / Variazioni [D] (1766)
珍しい曲。コミカルなメロディが次々と変奏となっていきます。音楽の方向性は異なるものの、この狂気を感じるほどの鮮やかなタッチのキレはグールドを彷彿とさせるもの。独特のあっさりとしたテイストは保ちながら、右手と左手の独立性はまさにグールド並み。いやいや恐ろしいテクニックです。この小曲が小宇宙のような深さを醸し出します。見事。
今までノーマークだった、ワリド・アクル。このアルバムをじっくり聴き直して、その音楽、テクニックに打ちのめされました。いや素晴らしい。特に最後の小さな変奏曲の鮮やかさには圧倒されました。流石ハイドンのピアノ作品の全集を録音しただけの奏者と納得です。前に触れた通り、この他にもアルバムがリリースされています。入手はなかなか大変そうですが、これは収集しなくてはなりませんね。評価は全曲[+++++]とします。
TOWER RECORDSさんかどこかで、まとめて復刻すべき素晴らしい録音だとおもいますが、如何なものでしょうか。

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ワリド・アクル(Walid Akl)のピアノによるハイドンのピアノ作品全集の第1巻。ソナタ4曲(Hob.XVI:20、XVI:22、XVI:35、XVI:23)と変奏曲(Hob.XVII:7)の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1998年、場所はパリとだけ記載されています。レーベルはオーストリアのKOCH DISCOVER INIERNATIONAL。
ワリド・アクルのアルバムは手元に「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」のピアノ版のアルバムがあるのみ。そのアルバムにもハイドンのピアノ作品全集の第3巻との記載がありますが、他の巻のアルバムをあまり目にすることもなかったので、とりたてて注目しているわけではありませんでした。今回このアルバムを貸していただいて、ライナーノーツをよく見ると、裏面に「ワリド・アクル(1945-1997)に捧ぐ」との記載があり。ハイドンのピアノ作品全集を残して、亡くなられたということでしょう。
ライナーノーツの解説によるとワリド・アクルは終戦の年、1945年にレバノンに生まれたピアニスト。パリで教育を受け、マルグリット・ロン・アカデミー、エコール・ノルマル、パリ音楽院などで学び、1969年からヨーロッパの都市を中心に活躍したとのこと。オケとはミュンヘン・フィル、ラジオ・フランス管弦楽団、パウル・クエンツ管弦楽団などと共演。レパートリーは広く、ベートーヴェン、リスト、ボロディンなどまでこなしましたが、とりわけ気に入っていたのがハイドンとのことで、ピアノ作品全集まで録音したということです。1997年、パリで心臓手術を受け、そのあと52歳という若さで亡くなったとのことです。
現在、amazonで中古が数枚みつかる他、あまり目にしないアルバムですが、聴いてみるとさすがにハイドンの全ピアノ作品を録音しようというほどの意気込みが伝わる演奏でした。1曲1曲の表現を磨くのではなく、非常に大きな視点から音楽を描いて行く感じ。これは悪くありません。
Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
録音は自然でいいですね。アクルのピアノはさっぱりとしたテイストでサラサラと弾き進めていくもの。自然に生まれる感興がほどよく感じられ、曲自体がもっている音楽に集中することができます。表現が大げさでないのににじみ出る情感は濃いという不思議な感覚。フレーズはキリリと引き締まり、8分の力でメリハリをつけながら弾いていきます。
期待の2楽章。星がきらめくような名曲ですが、ことさらきらめきを強調することはせず、淡々と弾いていきます。途中音量を結構落とす場面があるのですが、これがいい味をだしています。さっぱりとした美しさがにじみ出てきます。叙事詩が語られるのを聴いているような落ち着いた音楽。ただタッチのキレ、音楽の濃さはそれなりにあって、アクルの演奏スタイルにだんだんハマってきます。
フィナーレは練習曲を速弾きするような軽やかさ。大上段に構えるのではなく、普段の練習のようなくだけたスタイルがハイドンに合っています。冒頭にも書きましたが、やはり全集を演奏するということで、一歩引いた立場で冷静な視点をもちながら、自然な演奏から音楽を滲ませようというスタンス。
Hob.XVI:22 / Piano Sonata No.37 [E] (1773)
つづく曲も姿勢は変わりません。まるでハイドンの多くのソナタをすべて初見で弾いているような新鮮さ。1曲1曲の出来ではなく、ソナタ全体から音楽を引き出そうとしているようにすら感じます。途中の転調でハッとさせられる他は、実に地道な演奏。
2楽章のアンダンテはしっかり沈んで、美しいメロディーを引き立てます。そしてフィナーレは禁欲的なほどあっさりとまとめます。ハイドンの秩序と規律を軽快に表現しているようで、微笑ましい限り。最後の一音のさっと消え入る感じ、こちらも実に味わい深い。
Hob.XVI:35 / Piano Sonata No.48 [C] (c.1780)
軽やかなメロディーラインが心地良い曲。子犬が走り回るような微笑ましい軽快さ。喜んで型にはまっているような律儀さがあり、まさにハイドンのソナタに相応わしいコミカルさをはらんでいます。良く聴くと非常にクッキリとした右手の音階。終盤、きちんと間をとりメリハリをつける事は忘れません。要はハイドンのツボを押さえているということです。
この曲まで来ると、アダージョのしっとり感もかなりのもの。頭の中に音楽が流れているのでしょう、指から紡ぎ出される音楽は非常に完成度の高い表現。陽光に輝く雪山を遠くから眺めるがごとき陰影の深さ。ゆったりと音楽が紡ぎ出され、輝きは最高潮。
フィナーレは相変わらずの軽さ。これだけの軽さにはかなりのタッチのキレが求められます。
Hob.XVI:23 / Piano Sonata No.38 [F] (1773)
もうアクルの術中にハマってます。いやいや、ハイドンのピアノ作品をこよなく愛していることがひしひしと伝わります。ハイドンのソナタのツボを完全に掌握。とくに軽さとと機知の表現が絶妙。有名なこの曲もアクルのさりげないピアノで聴くと、じつに趣き深いですね。この曲では珍しくかなりアクセントを効かせてメロディーを奏でます。転がるような音階ときっちりメリハリをつけた部分の対比の鮮明さはかなりのもの。
アダージョのさっぱりしながらも濃密な音楽は相変わらず。ゆったり語られる音楽には、比較的硬質なスタインウェイの高音の美しさが効いているよう。抑えた表情の美しさが決まります。
いつもながら、アダージョとフィナーレの切り替えは鮮やか。まさに鮮烈なフィナーレ。音量は抑えながら、色彩感を感じさせる見事な指さばき。
Hob.XVII:7 / Variazioni [D] (1766)
珍しい曲。コミカルなメロディが次々と変奏となっていきます。音楽の方向性は異なるものの、この狂気を感じるほどの鮮やかなタッチのキレはグールドを彷彿とさせるもの。独特のあっさりとしたテイストは保ちながら、右手と左手の独立性はまさにグールド並み。いやいや恐ろしいテクニックです。この小曲が小宇宙のような深さを醸し出します。見事。
今までノーマークだった、ワリド・アクル。このアルバムをじっくり聴き直して、その音楽、テクニックに打ちのめされました。いや素晴らしい。特に最後の小さな変奏曲の鮮やかさには圧倒されました。流石ハイドンのピアノ作品の全集を録音しただけの奏者と納得です。前に触れた通り、この他にもアルバムがリリースされています。入手はなかなか大変そうですが、これは収集しなくてはなりませんね。評価は全曲[+++++]とします。
TOWER RECORDSさんかどこかで、まとめて復刻すべき素晴らしい録音だとおもいますが、如何なものでしょうか。
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