ゲリンガス・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)

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ゲリンガス・バリトン・トリオ(Geringas Baryton Trio)の演奏による、ハイドンのバリトン三重奏曲4曲(Hob.XI:5、XI:96、XI:97、XI:113)を収めたアルバム。収録は1990年4月、収録場所の表記はありません。レーベルは独cpo。
このゲリンガス・バリトン・トリオのメンバーは以下のとおり。
バリトン:ダヴィド・ゲリンガス(David Geringas)
チェロ:エミール・クライン(Emil Klein)
ヴィオラ:ウラディミール・メンデルスゾーン(Vladimir Mendelssohn)
ダヴィド・ゲリンガスがチェロを弾いたチェロ協奏曲について、またゲリンガスの略歴は下記の記事をご覧ください。
2013/09/14 : ハイドン–協奏曲 : ダヴィド・ゲリンガス/チェコフィルのチェロ協奏曲集
チェロのエミール・クラインについても、これまで2度指揮者としてのアルバムを取りあげています。略歴はディベルティメント集の記事の方をご覧ください。クラインはゲリンガスの教え子だったんですね。
2013/05/04 : ハイドン–管弦楽曲 : エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2012/06/19 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : エミール・クライン/ハンブルク・ソロイスツのディヴェルティメント集
ヴィオラのウラディミール・メンデルスゾーンはルーマニア、ブカレスト生まれのヴィオラ奏者。どうやら家族もヴィオラ奏者だったようで、ヴィオラと作曲を学び、数々の賞を受賞。その後ヨーロッパを中心に活動しているようです。
ニコラウス・エステルハージ候が得意としたバリトンという不思議な楽器のためにハイドンが大量に作曲したバリトン・トリオから4曲。面白い曲調の曲を選んでの録音。チェロの名手のゲリンガスとクラインがアンサンブルを組んでのバリトントリオ、如何なる響きを聴かせるでしょうか。
Hob.XI:5 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [A] (1765-66)
3楽章で6分少々の短い曲。モデラート-アダージョ-メヌエットと言う構成。かなりシンプルで穏やかな曲。奏者自身が演奏をのんびり楽しんでいるよう。録音は十分自然で鮮明。ちょっとデッド気味ですが、チェロとは微妙に異なるバリトンという楽器の不思議な音色がよくわかります。曲調のせいかちょっとおとなしい演奏に聴こえます。
Hob.XI:96 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [b] (before 1772?, 69-71)
前曲よりぐっと構成が豊かになり、聴き慣れた音形がたびたび現れる印象的な曲。ラルゴ-アレグロ-メヌエットと言う構成。バリトン・トリオの中でも良く演奏される曲でしょう。バリトン、チェロ、ヴィオラと近い音域の楽器3台によるアンサンブルですが、楽器の音域、音の重なりをよく考えて書くものだと感心しきり。じっくりとメロディーラインを描いて行き、えも言われぬ雰囲気を醸し出して行きます。3人のアンサンブルは適度に粒立ちが良く、流れも悪くありません。静かな音楽から独特の感興が立ちのぼり、トランス状態のような気分になるのがバリトントリオの不思議なところ。3人それぞれが自然なフレージングのなかにじっくりとした音楽を奏でる力があればこそのこの自然なアンサンブルでしょう。踏み込んできました。
Hob.XI:97 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
バリトントリオで唯一7楽章構成の曲。1766年12月のニコラウス侯の誕生日のために作曲された曲。おそらくバリトントリオで最も有名な曲でしょう。手元にはこのアルバムを含めて8種の演奏があり、バリトントリオとしてはもっとも多い数。他の演奏と直接くらべているわけではありませんが、ゲリンガス・バリトン・トリオの演奏は穏やかで落ち着いたもの。リラックスしきった奏者の醸し出す至福のひととき。ときおり奏でられる共鳴弦の繊細な響きが不可思議な雰囲気を漂わせます。1曲目に比べると曲の構成も凝ったものに変わり、演奏も難しそう。畳み掛けるようにしのぎ合う3人のアンサンブル。曲にあわせて演奏もだいぶダイナミックになってきます。曲想やテンポの変化も大きく、異なる楽器で同一音を奏でたり、さまざまな効果がそこここに仕込まれており、聴くのに飽きません。
Hob.XI:113 / Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 72-78)
最後の曲は厳かな雰囲気すらあります。それぞれの楽器の音色の美しさを存分にあらわしたもの。呼吸が深くなり、演奏の読みも深くなります。バリトンの共鳴弦と弦楽器のピチカートの響きが重なる余韻がたまりません。表現の幅がぐっと広がり、かなり踏み込んだもの。バリトンの共鳴弦の響きの面白さをかなり活かした演奏。これぞバリトンということでしょう。
このアルバム、1曲目の演奏がおとなしいので、アルバムの印象では誤解されやすいのですが、曲が進むにつれて、どんどん表現が深くなり、演奏も乗ってきますので、聴き進まないと本領がわかりません。今回あらためて聴き直してみて、ようやくこの演奏の面白さに気づいた次第。やはりゲリンガスの手腕は見事でした。評価は1曲目が[+++]、それ以外は[+++++]とします。
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