【珍盤】トヨタ・フィルハーモニック・マスター・プレイヤーズ・ベルリンの交響曲47番(ハイドン)

トヨタ・フィルハーモニック・マスター・プレイヤーズ・ベルリン(Toyota Philharmonic Master Players, Berlin)の演奏で、バッハのブランデンブルク協奏曲第3番、ハイドンの交響曲47番、モーツァルトの交響曲40番の3曲を収めたアルバム。収録は1997年1月6日から8日にかけて、ベルリンのTELDECスタジオでのセッション録音。制作はトヨタ自動車でジャケットには「非売品」との記載があります。
ジャケット写真からわかるとおりトヨタの創立60周年を記念して制作されたもの。ライナーノーツを紐解いてみると、1997年の11月3日が創立60周年の日で、このために特別にベルリンフィルのOBによって編成されたオケによって、コンサートが開催され、合わせて記念CDが制作されたということです。この取り組みはウィーンの「ヘルベルト・フォン・カラヤン・センター」の賛同により実現したとの記載もあります。収録情報からわかる通り、収録はスタジオなので、この演奏とは別に、97年の7月に日本でツアーが行われたとの記載があります。もしかしたら、このツアーのコンサートを聴かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。
当ブログのマニアックな読者ならお気づきのこととおもいますが、この種の企画ものは以前に一度取りあげた事があります。
2010/11/15 : ハイドン–オラトリオ : サヴァリッシュ、N響の天地創造ライヴ
そう、バブル成熟期の1991年の日本で行われた、BMWジャパンによる天地創造のコンサートの模様を収めたBMWジャパンの創立10周年記念アルバムです。その91年から6年後に、今度は世界のトヨタが創立60周年を記念して、ベルリンフィルのOBを起用してこのアルバムを制作した訳ですが、サヴァリッシュとN響を起用したBMWを上回る覇気を見せつけようとの意図も見え隠れするような企画。トヨタの企画陣がBMWを意識したか、真偽のほどは定かではありませんが、私はなんとなくトヨタの企画サイドにはそんな意図があったのではと邪推しております(笑)
戯言はともかく、BMWがハイドンの天地創造を、トヨタもバッハ、モーツァルトに加えてハイドンの曲を記念アルバムに採用してきたことは、流石の見識と言うべきでしょう。
ライナーノーツにはオケのメンバー表が記載されており、26名の奏者で構成されています。音楽監督を務めたのはカラヤン時代のベルリンフィルを支えた名コントラバス奏者のライナー・ツェペリッツで、指揮者は置かれなかったようです。チェンバロはハンス・マルティン・シュナイトとの記載があります。
1曲目のブランデンブルク協奏曲3番は、ベルリンフィルOBらしい穏やかなキレを感じさせる演奏。指揮者なしということで、踏み込んだ表現は聴かれず、音楽自体に淡々と語らせる演奏。
Hob.I:47 / Symphony No.47 [g] (1772)
ブランデンブルク協奏曲の終了から間をほとんどとらずにはじまります。小規模オケの良さを感じさせるクリアな響き。テンポは一貫していて、やや速めに感じます。ところどころに明確にレガートを強調してカラヤン時代の名残りを感じさせる演奏。キビキビとした各楽器の粒立ちの良さは流石にベルリンフィル出身者揃いという感じです。シュトルム・ウント・ドラング期独特の濃密な雰囲気はあまり感じさせず、逆にさっぱりとした表情。ハイドンの音楽を純音楽的な透明感のある響きでまとめていこうというスタイルでしょうか。音楽が進んでくるとヴァイオリンのキレ、各楽器のアクセントのキレの良さがじわりと伝わってきます。
2楽章も速めのテンポで音楽の流れの見通しの良さを強調した展開。弱音器をつけた弦楽器が繰り出す音階が様々に交錯する綾を楽しみます。弦楽器のフレージングからは不思議と厚みとキレの両立した全盛期のベルリンフィルらしさがにじみ出てくるのが不思議なところ。これが伝統というものでしょうか。2楽章でこうした味わいが出てくるとは予想しませんでした。穏やかながら深みもある良い演奏。
メヌエットも前楽章同様速めのテンポで流れの良い演奏。音楽が進むのにつれてオケの一体感も上がり、1楽章で感じられた固さもほぐれてきます。淀みなく流れるハイドンの美しいメヌエットのフレーズ。
フィナーレに入ってもギアチェンジなし。穏やかに音楽が流れ、じわりと沸き上がってくる高揚感。楽章間のメリハリをあえて抑えているようですが、単調さはなく、逆に音楽が切れ目なく流れる一貫した良さを感じさせます。この辺が普通のオケとは違う所でしょう。音楽の非常にデリケートな部分できっちり表情をつけていける表現力があるということでしょう。良く聴くとフレーズにはしっかりとメリハリがついており、各奏者が深い部分で音楽を共有していることがわかります。この辺は、同じ指揮者なしでもオルフェウス室内管などとちょっと異なるところ。1楽章ではすこしギクシャクしていたところが、最後はしっかりまとまってくるのは流石というところでしょう。
続くモーツァルトの40番も同様の演奏スタイル。詩情が迸る劇的な演奏ではなく、きっちりとオケが響きを重ねながらじわりと味わいを感じさせる演奏。こちらも悪くありません。
今や世界を代表するトヨタ自動車の創立60周年を記念して16年前に制作されたアルバム。BMWジャパンが、サヴァリッシュとN響による天地創造のライヴという記念アルバムで、通なクラシックファンにも通じる入魂の企画で勝負してきたのに対し、トヨタはベルリンフィルというネームバリュー、指揮者なしのスタジオ録音という企画を当ててきたのは、なんとなく両者のブランドの狙いも反映しているようで非常に興味深いところです。アルバム作りについても、曲間が妙に短かったりして、制作がクラシックになじみのない人が担当していたような印象もありますが、肝心の演奏はきちんとしたクォリティを保っているあたり、流石トヨタというところでしょう。冒頭に非常に珍しいアルバムと記載しましたが、もしかしたらこの頃トヨタ車を買った方には大量に配られていたりすると、多くの人が聴いた演奏という可能性もありますが、この辺のところはちょっとわかりません。肝心の演奏は、トヨタ車同様隙のない仕上がりです。評価は[++++]としておきましょう。
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