作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

アンセルメ/スイス・ロマンド管の哲学者、90番(ハイドン)

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今日は懐かしさ満点の演奏。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

エルネスト・アンセルメ(Ernest Ansermet)指揮のスイス・ロマンド管弦楽団(L'Orchestre de la Suisse Romande)の演奏で、ハイドンの交響曲22番「哲学者」、交響曲90番、トランペット協奏曲、フンメルのトランペット協奏曲を収めたアルバム。収録は、交響曲が1965年10月、トランペット協奏曲が1957年11月、スイス・ロマンド管の本拠地、ジュネーブのヴィクトリア・ホールでのセッション録音。豪DECCAのELOQUENCEシリーズ。

今日はこのアルバムから交響曲の2曲を取りあげます。

アンセルメはハイドンを振る指揮者というイメージはあまりないのですが、交響曲ではパリ交響曲集など何枚か録音しています。これまでに一度レビューに取りあげています。

2010/10/28 : ハイドン–交響曲 : アンセルメの交響曲85番「王妃」

以前レビューした演奏は、今日取り上げる交響曲の1年前の1964年のBBC響との録音ですが、今日は手兵スイス・ロマンドとの録音。前記事でも書きましたが、アンセルメと言えばファリャの三角帽子の身の毛もよだつような素晴しい迫力の演奏が耳に残っています。数学者でもあったアンセルメとハイドンの相性は良さそうな気もしますが、以前の演奏では今一本領を発揮しきれていませんでした。このアルバムでは哲学者という独特の詩情をもつ曲をアンセルメがどう料理しているかが聴き所でしょう。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
なにやらアンセルメのちょっと武骨さもある直裁なリズムにのって、聴き慣れた哲学者のメロディーが聴こえてきます。録音はDECCAらしいガッチリしたオケの骨格の実体感を見事にあらわしたもの。ヴィクトリア・ホールでのスイス・ロマンドの録音には名録音が多く手慣れた感じです。弦楽器はすこしザクザクした感触を残しながら、美しい響きをよくとらえています。木管楽器の饐えた感じの音色もこの頃のスイス・ロマンド独特のもの。淡々としたメロディーの繰り返しを聴いているうちにトランス状態になりそう。やはりこの哲学者はアンセルメの芸風に合っています。1楽章は淡々とした演奏から沸き上がる情感。この曲の真髄に触れる演奏です。
2楽章のプレストは、かなり構えが大きく、テンポを落としてがっしり感を感じさせるもの。やはりアンセルメらしくテンポは揺らさず、滔々と音楽を流します。おおらかというか、大げさな印象もある独特の表情付け。聴いているうちに曲の面白さにハッとさせられます。オケは大きなマスはそろっているのですが、適度に粗く、木炭デッサンでヴォリュームの表現は的確なのに細部には印象的な粗さがあるような風情。細かい事は気にせず、大きく音楽を描く一貫したスタイルは流石アンセルメというところ。
そのスタイルはメヌエットに入ると一層堅固になります。独特の筆の勢いは衰えず、個性的な筆致に圧倒されます。音量を上げて聴くと素晴しい迫力。オケのメンバーも微動だにしないアンセルメの指示に忠実に従い、音を置いていきます。ホルンのまろやかな音色と木管の味わい深い響きにうっとり。
フィナーレも風格十分。意外にオケの各奏者の演奏がきっちりしているのにあらためて感心します。ホルンと木管の見事なメロディーのリレー。ハイドンの素朴な音楽から諧謔性にスポットライトを当てて、独特の覇気で味付けしているよう。あまりに堂々とした演奏に圧倒されます。ん~、見事。

Hob.I:90 / Symphony No.90 [C] (1788)
アンセルメの選曲は流石。哲学者に90番を合わせてくるとは、ハイドンの交響曲をすべて把握して、自身の芸術性に最も合った曲を2曲選んでいるに違いありません。やはり遅めのテンポの堂々とした演奏。素朴な曲なのに、巨大な構築物のような迫力。小細工は一切無し。図太い筆で、マスをガッチリとらえた見事なデッサン。流麗ではなく武骨なんですが、力加減のバランスがよく、全体を非常によく見通したコントロール。巨大な蒸気機関車が煙を吐きながら莫大なトルクで坂を上っていくような迫力。ハイドンのこの交響曲に潜むエネルギーを見事に表現しています。三角帽子のあの素晴しい高揚感を彷彿とさせます。ちょっとハマってます(笑)
アンダンテはすこし手綱をゆるめて、流し気味。アンセルメの一貫してがっしりとしたコントロールは健在ですが、蒸気圧が少し落ちて落ち着きを取り戻します。一貫したリズムの刻みに乗ったフルートのメロディーの素朴な感触と、分厚い弦楽器によるアクセントの繰り返しが素朴ながら、規律を重んじるアンセルメらしさを感じさせます。朗らか一辺倒ではないアンダンテ。
この曲でもメヌエットの風格ある迫力は健在。筋骨隆々、疾風怒濤。清々しさもほんのりと乗った覇気溢れる演奏。中間部の木管の演奏はスイス・ロマンドとすぐにわかる音色。
この曲はラトルが、終わりそうで終わらないというパフォーマンスを好んで取りあげる曲。アンセルメは予想通り骨格のしっかりしたフォーマルな構築感を前面に出した演奏ですが、繰り返しが残っていることを意識させない終わらせ方はやはりハイドンのウィットを理解していました。派手な演出ではありませんが、ちょっと微笑んでしまうフィナーレでした。

このあとのトランペット協奏曲はちょっとさかのぼって1957年の録音。録音はかなりクォリティーが下がってしまうのと、あからさまにトランペットが古風な演奏ゆえ、ちょっとお薦めしにくいものでした。そのあとのフンメルは1968年と録音は良いのですが、こちらは予想に反して、結構快速テンポ。なかなか一筋縄ではいきませんね。

今日のレビューの対象とした哲学者と90番は流石アンセルメという演奏でした。このがっちりとした構築感と迫力、武骨さもある独特の雰囲気はアンセルメの演奏に親しんだ世代の方なら、懐かしさを感じていただけるでしょう。総マホガニー張りのヴィクトリア・ホールに轟くスイス・ロマンド管の音色にノックアウトです。アンセルメがこの2曲を選んで録音したということに、ハイドンへの深い理解が感じられます。この演奏もハイドンの本質的な魅力の一面をしっかりとつかんだものといえるでしょう。評価は両曲とも[+++++]とします。

さて、次の記事はアニヴァーサリーなんです。なんでしょう??

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