【新着】シュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集(ハイドン)

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シュパンツィヒ四重奏団(Schuppanzigh-Quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲3曲(Op.54のNo.1、Op.20のNo.2、Op.74のNo.3「騎士」)を収めたアルバム。収録は2011年12月8日から11日にかけて、ベルリンの南西、ポツダムに近いヴァン湖のほとりにあるアンドレアス教会でのセッション録音。レーベルはベルギーの名門ACCENT。
このアルバム、調べてみるとシュパンツィヒ四重奏団のハイドンの弦楽四重奏団の3枚目にリリースされたアルバムとのことですが、先にリリースされたアルバムも手元になく、このアルバムを聴いてあわてて発注した次第ですが、在庫状況がいまいちで、なかなか入荷しません。先にリリースされたアルバムを聴いてからレビューしようと、まさに棚に上げていたんですが、しびれを切らしてレビューです(笑)
シュパンツィヒ四重奏団は1996に設立されたピリオド楽器による四重奏団。もともとハイドンが生きていた頃とも重なる時代に活躍していたオーストリアの名ヴァイオリニスト、イグナツ・シュパンツィヒが1796年に設立した四重奏団ですが、それから200年を記念して1996年に新生シュパンツィヒ四重奏団が設立されたとのこと。メンバーは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:アントン・シュテック(Anton Steck)
第2ヴァイオリン:フランク・ポールマン(Franc Polman)
ヴィオラ:クリスティアン・グーセンズ(Chiritian Goosses)
チェロ:ウェルナー・マツケ(Werner Matzke)
アントン・シュテックとクリスティアン・グーセンズは以前に同じACCENTからリリースされているハイドンのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集の記事で略歴を紹介しています。
2012/08/12 : ハイドン–室内楽曲 : アントン・シュテック/クリスティアン・グーセズによるヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ集
ヴァイオリンのフランク・ポールマンはムジカ・アンティカ・ケルンやレ・ ミュジシャン・デュ・ルーヴルのメンバー、そしてチェリストのウェルナー・マツケはコンチェルト・ケルンやアムステルダム・バロック・オーケストラのメンバーと4人とも古楽器界で広く活躍している人ということです。
Hob.III:58 / String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
いきなりエネルギッシュな古楽器の張りのある響き。教会らしい残響がほんのり乗りますが、オンマイクでしっかり捕らえられた4人の響きは鮮明。アントン・シュテックのヴァイオリンはなかなかのキレ。キリッとアクセントをつけてクッキリとメロディーを描いていきます。このアルバム、基本的に古楽器を良く響かせて、虚飾もハッタリもなく、自然体の一貫した演奏スタイルで、演奏を楽しんでいるよう。4人の演奏スタイルがピシッと合った演奏。カミソリのようなキレ味ではなく、意外と素朴な印象もあり、逆に好ましく感じられます。中期のこの曲では、曲の明るさを踏まえてよく弾む演奏でした。基本的に楽天的な演奏ですが、ハイドンの音楽の本質と重なるということで、説得力もあります。フィナーレの終盤の響きやテンポの変化、間を使った遊びなど、実に演出上手。スカッと楽しめる演奏です。
Hob.III:32 / String Quartet Op.20 No.2 [C] (1772)
一転アルカイックな響きの魅力が溢れるこの曲。クッキリメリハリが効いた演奏に違いはありませんが、ほんのりと漂うシュトルム・ウント・ドラング期の濃厚な空気。演奏者として一定の視点から曲を解釈しているのですが、微妙に曲のもつ雰囲気を描き分けているのが素晴しいところ。滲みでる情感。やはりこの曲は名曲なんでしょう。音楽が淀むことはなく、次々とハイドンの書いたメロディーが繰り出され、めくるめくように響いてきます。チェロの実に晴朗なフレーズに心が洗われるよう。アダージョではシュテックのすこしテンションを下げつつ、孤高の表情を見せ始めます。良く聴くと演奏の精度が抜群に高い訳ではなく、適度に粗さもあるのですが、それがまた良い味わいにつながっています。長調に転調する場面は何度聴いてもいいもの。パッと一筋の光明が射すよう。メヌエットでは鳥のさえずるような軽さと和音の精妙な重なりの美しさを引き出し、フィナーレではさらりとした感触のフーガのデリケートなタッチの魅力を存分に表現。曲によって聴かせどころを微妙に合わせる手腕は見事です。
Hob.III:74 / String Quartet Op.74 No.3 "Reiterquartetett" 「騎士」 [g] (1793)
妙に心に刺さる入り。響きの強さではなく、じっくり構えたフレージングが刺さります。やはり湧き出るように音楽が進むのがこのクァルテットの良いところ。キツい陰影ではなく、デリケートにトーンが変化する大判フィルムで撮影したモノクロームの写真のよう。どの音域もデリケートなトーンが良く出ていて、実にニュアンスが豊か。力で攻めてくるクァルテットも多い曲ですが、逆に力は抜き気味で曲のメロディーラインの髄を捉えようとしているよう。この引いたアプローチ、良いですね。優雅な部分の余裕が際立ち、結果的に険しい部分の彫り込みも浮かび上がります。
精妙、クッキリくると思ったラルゴですが、意外とサバサバとした自然なアプローチでした。所々に盛り上げどころを配置していますが、自然な語り口から迸る情感は説得力があり、曲自体の美しさが際立つという寸法。このへんの演出の上手さはシュパンツィヒならではでしょう。メヌエットも力を抜き気味でラフな表情をみせつつ自然な進行。フィナーレはタッチの軽さと良く弾むフレーズで、再びクッキリしたキレの良い演奏が戻ってきました。やはり楽器を良く鳴らしながら、8分の力で軽々と弾き進めていきます。この楽天的な推進力はこのクァルテットの特徴でしょう。フレーズごとの変化も巧みにつけて、名曲のフィナーレに相応しい幅の広い表現を聴かせます。クライマックスの表現は流石聴かせ上手。
古楽器の名手ぞろいのシュパンツィヒ四重奏団の弦楽四重奏曲集。作品ごとにまとめてリリースするのではなく、1曲1曲を組み合わせてアルバムを構成するあたり、ハイドンの弦楽四重奏曲に対する確かな選曲眼があるのだとでもいいたそうなアルバム構成でした。演奏はやはりハイドンを演奏し慣れていることとうかがわせる円熟したアプローチ。クッキリと曲を弾き進めることが基本にありながらも、所々で踏み込んだ解釈を織り交ぜ、聴くものを飽きさせません。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏をいろいろ聴き込んだ方にこそわかる、確かな違いがありますね。評価は全曲[+++++]としたいと思います。
発注中の2枚のこれに先立つアルバムの到着が楽しみですね。
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