作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ジュリア・クロードのピアノソナタ集完結(ハイドン)

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ながらく探していたアルバム、最近ようやく出会いました。

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ジュリア・クロード(Julia Cload)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:24、XVI:26、XVI:29、XVI:35、XVI:36)を収めたアルバム。収録はPマークが1990年、ロンドンのモッティンガムにあるエドワード懺悔王教会でのセッション録音。レーベルは英Meridian。

ジュリア・クロードによるハイドンのピアノソナタ集は、これまでこのアルバムを含めて3枚リリースされており、そのうちの1枚は当ブログで約3年前に取りあげています。

2010/09/25 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集

前記事をよんでいただければわかるとおり、ジュリア・クロードはハイドン研究の大家、ロビンス・ランドンが推薦しているピアニスト。アルバムのジャケットに書かれた推薦文を前記事から転載しておきましょう。

「ハイドンのピアノソナタはジュリア・クロードの演奏によって新たな次元に。彼女の情熱的な音楽的才能と強靭な個性はこの演奏からも明らかに感じられる。彼女は今やハイドンの解釈の第一人者だ。」 H. C. ロビンス・ランドン


そして、今日取り上げるアルバムのジャケットにも何やら小さな字で、同じくランドンの推薦文が。こちらも訳して乗せておきましょう。

「ジュリア・クロードは、把握するのが決して容易ではないハイドンの音楽の全体像を把握する豊かな能力をもっている。そしてまた、類いまれなルバートのセンスをもっている」 H. C. ロビンス・ランドン



ジュリア・クロードは1946年、ロンドンに生まれたピアニスト。ロンドンの王立音楽大学、ブダペストのフランツ・リスト・アカデミー等で学び、ロンドンのウィグモア・ホールでデビューしました。ロンドンやプダペストを中心に活動し、Meridianに録音したバッハのゴールドベルク変奏曲で有名になりました。Meridianへのこのハイドンのソナタ集は全集を目指しているようですが、もしかしたらリリースされている3枚がすべてかもしれません。

いずれにせよ、ハイドンの大家であるロビンス・ランドンにここまで言わせる存在として非常に気になっていました。3枚の中では一番最近のリリースである、このアルバムの出来は如何なものでしょう。

ライナーノーツによれば、ピアノはFAZIOLI、マイクはAKG C24と音質にもこだわっていることが窺える記載。

Hob.XVI:24 / Piano Sonata No.39 [D] (1773)
女性らしい高音の綺麗なピアノの響き。左手はあえて弱めのバランスて、シュトルム・ウント・ドラング期の終わりごろのソナタをクリアに奏でていきます。たしかにルバートを多用して、詩的な印象を強く残します。録音は十分鮮明で、教会に響く残響が美しいもの。1楽章のバランスの良い演奏から、2楽章に入ると宝石のように磨かれた美しいピアノによる響きの結晶のような音楽。ゆったりとした音楽が流れますが、ランドンの言うように、全体のフォルムをきっちり把握してメリハリは十分。フィナーレは縦横無尽に飛躍する音階の表現が秀逸。響きの美しさと、タッチの鮮明さ、そして全体設計をふまえたバランスのよい構成と、あらためてクロードの良さが出た演奏。

Hob.XVI:26 / Piano Sonata No.41 [A] (1773)
2曲は流し弾きのようなあっさりとした演奏から入ります。曲の特徴によってタッチを変えてきます。ハイドンの曲の面白さをよく捕らえた演奏。楽章が進んでも流し弾きのようなスタイルは変わらず、軽いタッチで通します。この曲ではそのタッチの面白さが活きて、悪くありません。

Hob.XVI:29 / Piano Sonata No.44 [F] (1774)
リヒテルの素晴しい力感の演奏が耳に残っているこの曲。クロードは速めのテンポで、力感ではなくリズムの面白さと、やはり美しい宝石が転がるような美音を聴かせどころにしています。速い所はタッチが際立つようになおさら速く弾いているよう。逆に力感は抑えて、クリアに響きの余韻だけを残すような演奏。この曲では好き嫌いというか、好みが別れるような気がします。アダージョに入ると一転、呼吸の深さが印象的に。抑えた音量で響きを磨きぬいていき、メロディーの美しさが際立ちます。一旦おちついたことで、フィナーレもしっとりとした表情が活きてきます。クロードの磨かれた美しい音の魅力が良く発揮された楽章でした。

Hob.XVI:35 / Piano Sonata No.48 [C] (c.1780)
いままでのなかでは、落ち着いた演奏の方に歩があります。この曲は落ち着いた方の演奏。軽快な曲を美音を駆使してしっかりリズミカルに進めていくだけですが、曲の面白さはこれが一番。メロディーラインがクッキリ浮かび上がり、非常に見通しの良い演奏。アダージョは非常にやわらかいタッチが冴えます。無音の空間にピアノの磨かれた響きを一つ一つ置いていくよう。これは絶品。フィナーレに入ってもタッチが冴え渡り続け、ハイドンの創意が結晶になっていくよう。この曲はオーソドックスなアプローチながら、クロードの良さが最も出た感じ。

Hob.XVI:36 / Piano Sonata No.49 [c sharp] (before 1780)
最後の曲ですが、最初にハッとするような変化をかませて聴き手を驚かせます。ときおり垣間見せる機知が冴え渡ります。この曲も落ち着いてじっくり来ていますので、前曲同様キレてます。じっくりと間を取りながら、じっくりと曲を料理していきます。ハイドンの曲の面白さを知り尽くした演奏と言っていいでしょう。スケルツァンド、メヌエットとつづきますが、右手のタッチの冴えにうっとり。詩情溢れる演奏にノックアウトです。

ジュリア・クロードのハイドンのソナタ集。3枚目にしてクロードの真髄に触れた感じです。冒頭に紹介したランドン博士の言葉の意味がよくわかりました。ハイドンのソナタの楽譜に込められたニュアンスをこれほど豊かな詩情を伴って演奏できる人はそういません。深い思慮にもとづいた演奏、ピアノの美しい響き、素晴しい録音と三拍子そろった素晴しいアルバムです。評価はXVI:29のみ減点して[++++]、それ以外は[+++++]とします。愛聴盤になりそうです。

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