【新着】ルドルフ・ゼルキン最晩年のピアノソナタXVI:50(ハイドン)

HMV ONLINE
ルドルフ・ゼルキン(Rudolf Serkin)のピアノによるブラームス、マックス・レーガー、ハイドンの作品を収めたアルバム。ハイドンはピアノソナタ(Hob.XVI:50)。ハイドンの収録は1985年5月15日、10月4日、アメリカ、ヴァーモント州、ギルフォード(Guilford)にあるルドルフ・ゼルキンの自邸のスタジオでの録音。レーベルは日本のSony Music Japan。
ルドルフ・ゼルキンといえば、ベートーヴェンなんでしょうが、個人的になじみなのはアバドと組んだモーツァルトのピアノ協奏曲。アバドといえばグルダと組んだモーツァルトが神格化されていたので、ゼルキンとの演奏は頑固オヤジのピアノにアバドが寄り添った演奏との印象でした。今までハイドンの録音があるとは知らずに来ましたが、HMV ONLINEの検索に引っかかって見つけたもの。
ルドルフ・ゼルキンは1903年、ボエミア、現在のチェコのヘプ(Chep)生まれのピアニスト。両親はロシア系のユダヤ人で、小さい頃ウィーンに移りピアノと作曲を学びました。1915年にウィーン交響楽団とメンデルスゾーンのピアノ協奏曲を弾いてデビュー、1920年にはアドルフ・ブッシュとデュオを組んでヨーロッパ各地で演奏活動を行うようになり、アドルフ・ブッシュの娘と後に結婚することになります。1936年にはトスカニーニ指揮のニューヨークフィルとの共演でアメリカデビュー、1939年にはナチスから逃れるためアメリカに移住して、カーチス音楽院で教職につきます。その後の活躍は録音を通しても知られているかと思いますが、録音には慎重であり、得意としていたベートーヴェンについてもソナタ全曲の録音は残していないそうです。亡くなったのは1991年であり、今日取り上げる演奏は82歳と最晩年の録音。ゼルキンの自宅での録音というのも興味を引くところ。
もちろんハイドンが入っているCD2から聴き始めますが、1曲目に入っているマックス・レーガーの「バッハの主題による変奏曲とフーガ」が素晴しい集中力の演奏で思わず引きづり込まれます。ハイドンを聴く前からゼルキンの骨のある音楽にやられてます。
Hob.XVI:50 / Piano Sonata No.60 [C] (probably 1794)
レーガーは広いホールでの録音のようでしたが、ハイドンはまさに自宅で弾いているようなリアルな録音。グールドとまでは行かないものの、硬質なスタッカートが印象的な入り。とても82歳のピアニストの演奏とは思えない緻密なコントロール。一音一音の粒立ちが鮮やかで、ハイドンの機知を楽しむようにゼルキンが絶妙のタッチで演奏を進めます。大きな流れを表現したレーガーでの演奏とは異なり、本当にタッチのひとつひとつを楽しむような演奏。指一本一本が独立して一音一音を巧みにコントロールしているよう。ちょっと他の人には真似の出来ないような独特のハイドンですが、音楽に淀みはなく、絶妙のコントロールに酔いしれます。練習曲でも素晴しい音楽になるのだと諭されているよう。まさに自在な境地。終盤のオルゴールのように響く所も、繊細なタッチでデリカシー十分。あっぱれ。
1楽章のあまりにも素晴しい流れから予想はしていましたが、アダージョは絶品。これほどまでに磨き抜かれたピアノの響きを聴けるとは。フレーズのひとつひとつを慈しむように音楽にしていき、しっかりと音楽の骨格も感じさせるあたり、並のピアニストではありません。この期に及んでこれほど純粋な音楽を奏でられるとは驚きです。最後は本当に消え入るような響き。
フィナーレは予想通り、軽く流すような演奏。指は十分動いて、速いパッセージも軽々と音楽を楽しむ余裕のある演奏。メリハリは適度で、これまでの音楽の情感をさらりと洗い流すようなさっぱりとした演奏。必要な部分で音楽をすべて表現しきったからでしょうか、悟りにも聴こえる音楽でした。
大御所、ルドルフ・ゼルキンの晩年の演奏ということで、もうすこし大仰な音楽だと想像していましたが、さにあらず。自宅での録音と言う事が影響しているのか、悟りきったような心境から迸り出る燻し銀の音楽。この人のベートーヴェンはすごいだろうと想像できるような、ちょっと骨っぽさを感じる一方、自己表現のような欲は皆無で、この人の特徴である、骨格のしっかりした確かなタッチで音楽を刻んでいく演奏でした。リヒテルのようにハイドンを得意としていたとは聞いていませんが、ハイドンの演奏としても流石といえるものでしょう。なんとゼルキンのCBSへの最後の録音がこのハイドンということで、少々感慨深くもあります。これは[+++++]をつけざるを得ませんね。
評価の高い、クーベリックとのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集、発注です!
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