作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ヴィリー・ストラルチクのピアノソナタ集(ハイドン)

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今日のアルバムも私の所有盤リストにないということで湖国JHさんに貸していただいたもの。現役盤というか最近リリースされたばかりのもので、HMV ONLINEで何度か注文しようとしていたものですが、タイミングが悪くこれまで注文せずにきたものです。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ヴィリー・ストラルチク(Willy Stolarczyk)のピアノによるハイドンのピアノソナタ集。初期のソナタ5曲(Hob.XVI:27、XVI:13、XVI:11、XVI:5、XVI:4)と弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」の2楽章、カプリッチョ(XVII:1)、交響曲53番「帝国」の2楽章の8曲を収めたアルバム。収録は2009年7月ですが収録場所は記載されていません。レーベルはデンマークのdanica RECORDS。

ヴィリー・ストラルチクは1945年、デンマークのロラン島に生まれたピアニスト、作曲家。デンマークのユトランド半島にあるオーフス(Aahus)にある王立音楽アカデミーでピアノを学び、1976年にはピアニストとしてコンサートを開くようになりました。その後ローマで作曲を学び、その後同じユトランド半島のホルステブロー(Holstebro)の音楽学校の教師や市の作曲家として働きました。それから近くのヴァイレ(Vajle)の文化担当になり、ヴァイレの街でのクラシック音楽、現代音楽の振興に務めています。このアルバムでは、ヴァイレ博物館に保存されている1900年頃に製造されたスタインウェイで録音されています。ストラルチクは作曲家としては、96台のピアノと打楽器のための交響曲「大地、空気、火、水」という壮大な曲で知られているそう。才気あふれる作曲家として、ハイドンのピアノソナタを古いスタインウェイで弾くという、何となく落ち着かない構図ですが、聴いてみるとこれが非常に落ち着いた秀演。人にはいろいろな才能があるものですね。

Willy Stolarczyk

いくつかの曲を選んでレビューしておきましょう。

Hob.XVI:27 / Piano Sonata No.42 [G] (1776 or before)
ピアノの音色は現代のスタインウェイの粒立ちの良いワイドレンジな音とは異なり、中音域重視で、音色もまろやかで味わい深く、ハイドンのソナタを演奏するためにあるような素晴しいニュートラルさ。録音も最新のものらしく、ピアノのまろやかな響きを程よく鮮明に捕らえた秀逸なもの。肝心のストラルチクの演奏、やはり作曲家だからか、虚飾を排して、淡々とハイドンの音楽を紡いでいくような演奏。ハイドン中期の質実な中にもキラリと光る閃きのある曲を、さっぱりと速めのテンポで進めるようすは、まさにオルベルツさながらの孤高の名演奏。ハイドンの作品の素晴しさを掌握しているからこそできる、淡々とした演奏。単純な音階やフレーズ一つ一つにも閃きがあり、シンプルな曲なのに素晴しく聴き応えのする演奏。ピアノの音が転がるように音楽を放っていきます。この人、ピアノ奏者としても只者ではありません。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
有名なドイツ国歌のメロディー。2楽章だけピアノで弾かれることも多い曲ですね。程よい枯れを見せながら、ゆったりとメロディーが演奏会場に響き渡る様子を楽しむような演奏。メロディーの提示から変奏に入るときのギアチェンジの鮮やかなこと。はるか先を見ながらの演奏でしょうか、小細工はなく、おおらかにメロディーラインを音楽にしていきます。実に慈しみ深い演奏。穏やかに響くピアノの音色が心にしみますね。

Hob.XVI:4 / Piano Sonata No.9 [D] (before 1765)
3曲とばして、シュトルム・ウント・ドラング期よりもかなり前に作曲された曲。ストラルチクのあっさりしたアプローチがドンピシャでハマります。シンプルな曲想が逆に非常にクッキリと浮かび上がり、まさにこの曲のためにピアノをあつらえたような自然さ。変に自己主張しようとしないのも良いですね。ハイドンのすぐれた演奏は、オルベルツもアムランも、大河の流れのような、曲ごとではなく、ハイドンのソナタ自体に宿る大きな流れを表現しようとしているようなところがありますが、まさにストラルチクの演奏もそうした印象が重なります。この小曲がミクロコスモスのように響き渡ります。

このアルバム、久々にハイドンのソナタの真髄をえぐるような演奏でした。演奏のテクニックがどうこうではなく、ストラルチクのハイドンに対するリスペクトが淡々とした演奏から沸き上がってくるよう。楽器の選定も言うことなし。できれば、続編、そしてピアノソナタ全集を目指してほしいところです。これまで多くのピアニストがハイドンのピアノソナタ全集を完成させたり、挑んだりしていますが、過去の演奏と比べても演奏の質に置いては十分勝負になりますし、ハイドン演奏史にのこるものにもなると思います。ピアノソナタ好きな皆さん、必聴のアルバムです。評価は今日取りあげた3曲以外も含めて全曲[+++++]とします。

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