タートライ四重奏団のOp.77(ハイドン)

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タートライ四重奏団(Tátrai Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2の2曲を収めたアルバム。収録は1974年11月1日から6日にかけて。収録場所は記載されていません。レーベルはHUNGAROTON CLASSIC。
タートライ四重奏団は、ハイドンの地元でもあるハンガリーを代表するクァルテット。ハイドンの弦楽四重奏曲は全曲録音しており、古くはこのタートライ四重奏団のアルバムが定番として知られていました。メンバーは以下のとおり。ハイドンの録音はすべてこのメンバーのようです。
第1ヴァイオリン:ヴィルモシュ・タートライ(Vilmos Tátrai)
第2ヴァイオリン:イシュトヴァーン・ヴァールコニ(István Várkonyi)
ヴィオラ:ギョルギー・コンラート(György Konrád)
チェロ:エデ・バンダ(Ede Banda)
第1ヴァイオリンのヴィルモシュ・タートライは1912年生まれでブダペストのフランツ・リスト・アカデミーの教授であり、1946年にブダペスト・キャピタル管弦楽団のメンバーを集めてタートライ四重奏団を設立しました。設立間もなくの1948年にバルトーク弦楽四重奏コンクールで優勝し、世界的に知られるようになりました。ハンガリーでは国内の作曲家の72の作品の初演を手がけるとともに、国外の作曲家の64作品のハンガリー初演も担当し、名実ともにハンガリーを代表する存在でした。
タートライ四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲は、ちょっと癖のあるHUNGAROTON CLASSICの硬質な音のなかから、非常にオーソドックスなカッチリとした演奏が浮かび上がってくる、えも言われぬ味わいのあるもの。近年は優秀な録音のハイドンの弦楽四重奏曲全集がいくつもリリースされ、少し目立たぬ存在となってしまいましたが、なんとなく味わい深いハイドンとして、心の片隅に引っかかっている存在です。今日はハイドン晩年の作曲のOp.77を収めたアルバムを久々に取り出してみました。
Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
やはり音質はちょっとボケ気味。HUNGAROTON CLASSIC独特の音ですが、もしかしたらこれはCD化によるものかもしれませんね。LPで聴くとまた違った印象なのでしょうか。手元にLPはありませんので、今度出会いましたら入手して確かめてみようと思います。冒頭から非常に落ち着いたテンポで堂々とした入り。かっちりとした演奏ですが、音の刻み方がポルタメントを多用した時代の余韻のようなものがs少し感じられます。音階の刻みの角が適度に面取りされているのでそう感じるのでしょうか。タートライのヴァイオリンはことさら目立つ事なく、アンサンブルに溶け込み、淡々とこなしていきます。音程の微妙な揺らぎがえも言われぬ味わいを醸し出しています。
アダージョはタートライ四重奏団の真骨頂。前記事で取りあげたブッフベルガーとは正反対で、精度はそこそこながら曲のもつ深みのようなものがにじみ出してくる演奏。適度な粗さと、節目でしっかり沈み込むことでメリハリがついているんですね。タートライの演奏を推す方は、このへんに打たれているのではないかと思います。特に音量を落とした部分のデリケートなコントロールが秀逸。まさに手作りの孤高の響き。
メヌエットは意外と流すように構えなく入り、逆にメリハリは抑え気味。こう来るとは思いませんでした。このカジュアルな感じは悪くありません。
そしてフィナーレは今度はメリハリを少し強調。音程の安定度やキレ、迫力はほどほどながら、彼らの演奏にはなぜか人を惹き付ける音楽が流れています。ハイドンらしい朗らかさが音楽に宿り、聴いているこちらが微笑ましく思うような演奏。長年愛され続ける理由がある演奏ですね。
Hob.III:82 / String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
つづいてNo.2。響きのキレは前曲同様、さほどではありませんが、じつに微笑ましい演奏。心が清らかになるような演奏です。久しぶり聴き直してみると、以前もっていた印象とはまた異なった印象を受けます。最近いろいろな演奏を聴いているせいか、タートライ四重奏団のこの朗らかな音楽性が身にしみます。以前は演奏の精度や録音などにずいぶん引っ張られて聴いていたのでしょう。演奏している方もまさに演奏を楽しんでいる様子がはっきり伝わります。1楽章は全員の息がピタリと合って、メロディーが朗らかに弾み、音楽のエッセンスだけが踊っています。
この曲は2楽章がメヌエットで、前曲とは異なり、メリハリクッキリハッキリのメヌエット。テンポはかなり落としてメロディーラインの面白さを強調。中間部はつぶやくような表現に変わり、まさに変幻自在の演奏。一貫して微笑ましい音楽。
ハイドンのアンダンテでも最も美しいメロディー。タートライ四重奏団の手にかかると朗らかな癒しの音楽になり、美しい音楽に引き込まれていきます。ハイドンが最晩年に到達した、無欲の澄みきった境地に脚を踏み入れたよう。あまりの素晴しさに背中に龍が登ります。アドレナリン大噴出。
そして驚きのフィナーレ。何と弾む音楽。前楽章の崇高な空間から日常の生活も楽しいと引き戻されるような展開。ハイドンの創意にあらためて驚嘆すると同時に、タートライ四重奏団の解釈のキレにも惚れ惚れとします。前曲同様、久々に聴き直して、タートライ四重奏団のハイドンの素晴しさが身にしみました。
音楽の本質は、テクニックではないとあらためて知らしめるような演奏。正直、これまでのタートライ四重奏団の演奏に対する評価を改めなくてはなりません。やはり以前はちょっと癖のある録音や、表面的なテクニックの部分に引きずられて、タートライ四重奏団の、この朗らかな音楽をしっかり理解できていませんでした。評価は以前の評価を改め、両曲とも[+++++]とします。このアルバムをお持ちの方で、私と同じような印象をお持ちだった方、ぜひ取り出して聴き直してみてください。こんなに素晴しいハイドン、滅多にありません。
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