ユーリ・テミルカーノフ/読響の「驚愕」(サントリーホール)

10月に入りコンサートが続いています。9日は今年最も楽しみにしていたコンサートを聴いてきました。

Temirkanov94.jpg
読売日本交響楽団:第592回定期演奏会

ユーリ・テミルカーノフの振る読響の「驚愕」とショスタコーヴィチの「バビ・ヤール」です。一般的にはテミルカーノフがショスタコーヴィチを振る「バビ・ヤール」が目玉なんでしょうが、私はもちろんテミルカーノフの「驚愕」目当てです。以前テミルカーノフがレニングラードフィル室内管を振った「朝」と「昼」のLPを取り上げていますが、これが実に素晴らしい演奏なんです。

2016/09/04 : ハイドン–交響曲 : ユーリ・テミルカーノフ/レニングラードフィル室内管弦楽団の「朝」、「昼」(ハイドン)

自分で書いた記事ながら、読むと感動的な演奏の記憶が蘇ります(涙)。1972年と今から50年近く前の録音ですが、彫りの深い確かな造形力に裏付けられ、実に優美でゆったりしているのに推進力十分な演奏。特に「昼」は私の溺愛する演奏です。このLPでテミルカーノフのハイドンの素晴らしさを知って以降、テミルカーノフはかなり気になる存在となりました。テミルカーノフが何度か来日して、ロシアのオケや読響を振っていることは知っていましたが、プログラムにハイドンが組まれたことはなかったように記憶しています。今回のコンサートにハイドンのそれも「驚愕」がプログラムされているのを知り、迷わずチケットを取った次第。約50年前の録音とはいえ、あの造形力の素晴らしさは類稀な音楽性に裏付けられたもの。テミルカーノフが振れば極上のハイドンが味わえるはずとの確信がありました。結果から言えば、その予想は見事的中。この日は忘れられないコンサートになりました。

IMG_9059.jpeg

いつものように開場時間にはホールに到着。この日の席はいつものRA席ではなくP席。オルガン下のオケの後ろ右前、4台ものハープが並べられたすぐ後ろ。指揮者の動きがつぶさに見える席です。すぐ目の前ではハープが4台が時間をかけて調律していましたが、ハープは「バビ・ヤール」に使うものでハイドンでは入りません。もちろんハイドンは1曲め。お客さんの入りは8割程度だったでしょうか。

定刻になり、オケが揃って調律が終わるとテミルカーノフがゆったりとした足取りで登壇。この日は日下沙矢子がコンサートミストレス。ショスタコーヴィチ用の座席の前側に奏者が座りますが、なんとなく低音弦の人数が多いように感じました。数えてみるとコントラバスが6名、チェロが8名とハイドンにしては多かったのかもしれませんね。テミルカーノフが木管にさっと指示を出して序奏が始まるとイメージ通り、艶やかな音色がホールに響き渡ります。テミルカーノフの指揮は、いちいち拍子を取らず、手を左右に広げて大きな流れを直裁に指示する無駄のないもの。「昼」の録音で聴かせた素晴らしい立体感は予想通り。楽譜通りというわけではなく、テミルカーノフ流に洗練されたデフォルメを効かせながら重厚なのにしなやかな演奏。洗練された優美さは、まるでアクロポリスのエレクティオン神殿のよう。低音弦の人数は分厚い低音が響くわけです。このハイドンの交響曲の最高傑作たる「驚愕」の聴きどころは1楽章の構成の緊密さですが、そのハイドンの音楽の魅力が完璧に表現される秀演に鳥肌が立ちます。読響がまるでウィーンフィルになったようなふくよかな響きでリズムはキレキレ、そしてテミルカーノフ流のアクセントが見事に決まり、ハイドンの交響曲の均整の取れたフォルムが浮かび上がります。普段いろいろな演奏を聴いていますが、この1楽章には痺れました。間違いなく現代楽器による現代最高のハイドンの演奏に身を乗り出してかぶりつきます。
1楽章をビシッと締めると観客の咳き込みが落ち着くのを待たずに2楽章のアンダンテに入ります。楽章間の間も音楽のつながりが大事なのでしょう。この「驚愕」のアンダンテはいろいろな指揮者がいろいろな演出でハイドンのユーモアを表現してきますが、テミルカーノフはメロディーの1フレーズ目をかなり大きめの音で、2フレーズ目を極端に音量を落とし、ジャーンを際立たせます。オーソドックスながら、対比をあえて鮮明にすることでこれもまた新鮮。その後の展開の優美さはテミルカーノフの真骨頂。あの「昼」のアダージョで聴かせたのと同様、音楽の見事なフォルムが浮かび上がります。至福を通り越して夢の中にいるよう。
続くメヌエットでは入りの溜めをキャラクターにして独特の楔感を演出。そしてフィナーレは1楽章同様目眩くようなスタイリッシュさでピラミッドバランスのオケが躍動。日下さんのリードも誠に見事でオケも完璧な演奏でテミルカーノフのコントロールに応えました。観客の拍手は1曲目ということで熱狂までには至りませんでしたが、私はあまりに見事なテミルカーノフの「驚愕」に放心状態(笑) このような素晴らしいハイドンを聴くことができた喜びに満たされていました。

休憩後は、あの、暗澹たる「バビ・ヤール」。ハイドンの喜びに満たされてコンサートを終え、前半で帰ろうかとも思いましたが、テミルカーノフのショスタコーヴィチが如何なるものかも体験しておくべきと思いとどまり、後半も聴くことにしました。演奏については他に多くの方が書いているでしょうから、門外漢の私が書くのも野暮でしょう。

明るく幸福感に満ちたハイドンを見事にまとめたテミルカーノフ、後半のショスタコーヴィチは、時代が変わって音楽芸術が表現する目的や領域も変わり、ユダヤ人虐殺のソ連の芸術弾圧が契機となった実に暗澹たる音楽の闇の深さと、複雑怪奇な曲の大編成のオケ、コーラス、歌手をまとめる類稀なコントロール能力を印象付けました。このプログラム、この表現の極端な対比こそが企画意図だったのだろうと終演後に気付きました。

齢80歳のテミルカーノフのハイドンの「驚愕」、今まで聴いた中で最も心に残る演奏でした。最高でしたよ。

年齢を考えると、あと何回聴けるか分かりませんが、再度のハイドンの演奏を聞きたいものです。読響の中の人、よろしくお願いします!



にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 驚愕 ショスタコーヴィチ

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

最新記事
カテゴリ
ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

交響曲4番モーツァルトヨハン・クリスチャン・バッハオックスフォードロンドン豚の去勢にゃ8人がかりピアノソナタXVI:51ピアノ三重奏曲十字架上のキリストの最後の七つの言葉ヘンデルラモースカルラッティバッハ驚愕ショスタコーヴィチシェーンベルク交響曲75番悲しみチェロ協奏曲古楽器ホルン協奏曲時計弦楽四重奏曲Op.50アンダンテと変奏曲XVIII:6弦楽四重奏曲Op.64弦楽四重奏曲Op.20弦楽四重奏曲Op.54天地創造ヴォルフレスピーギヨハン・シュトラウスリヒャルト・シュトラウスタリスリゲティ交響曲10番軍隊ピアノソナタXVI:49迂闊者交響曲54番ネルソンミサバリトン三重奏曲ベートーヴェンピアノソナタXVI:52交響曲2番ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:46日の出皇帝弦楽四重奏曲Op.71交響曲88番ブルックナーベルリオーズウェーベルンベンジャミンナッセングリゼーメシアンヴァレーズシェルシOp.20弦楽四重奏曲交響曲67番交響曲65番交響曲9番弦楽四重奏曲Op.76狩り交響曲39番交響曲73番交響曲61番リームピアノソナタXVI:6アンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:48四季交響曲全集リムスキー・コルサコフラヴェルピアノソナタXVI:45ピアノソナタXVI:44ピアノソナタXVI:21第九太鼓連打ヒストリカルボッケリーニ交響曲99番シューベルト交響曲5番ストラヴィンスキーチャイコフスキーライヴピアノ協奏曲XVIII:11弦楽四重奏曲Op.2序曲ヴィヴァルディオペラ序曲パイジェッロアリア集ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6すみだトリフォニーホールピアノソナタXVI:34ブーレーズサントリーホール弦楽四重奏曲Op.74哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ変わらぬまこと無人島アルミーダ騎士オルランドチマローザ英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:4ピアノ協奏曲XVIII:3ピアノ協奏曲XVIII:1ラメンタチオーネアレルヤ交響曲79番交響曲3番チェロ協奏曲1番交響曲27番交響曲58番交響曲19番紀尾井ホールドビュッシーミューザ川崎LPオーボエ協奏曲協奏交響曲ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:38ピアノソナタXVI:29スタバト・マーテルピアノソナタXVI:39マーラー告別交響曲97番交響曲90番交響曲18番奇跡ひばりフルート三重奏曲交響曲102番交響曲86番ヴァイオリン協奏曲哲学者小オルガンミサミサブレヴィスニコライミサ交響曲95番交響曲93番交響曲78番ピアノソナタXVI:23王妃武満徹SACDライヴ録音交響曲81番交響曲80番マリア・テレジア交響曲21番クラヴィコードBlu-ray東京オペラシティ交響曲11番交響曲12番交響曲15番交響曲37番交響曲1番ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:3ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:1ディヴェルティメント東京芸術劇場交響曲98番ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:35ロッシーニライヒャドニぜッティ弦楽三重奏曲東京文化会館フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.77弦楽四重奏曲Op.103ピアノソナタXVI:31ピアノソナタXVI:26ファンタジアXVII:4アレグリパレストリーナバードモンテヴェルディ美人奏者交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンスコットランド歌曲ヴェルナーガスマンピアノソナタXVI:24交響曲35番交響曲46番交響曲51番DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3帝国ラ・ロクスラーヌハイドンのセレナードラルゴ五度ラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.1弦楽四重奏曲Op.33騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス時の移ろい交響曲42番ベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏冗談ナクソスのアリアンナピアノ協奏曲XVIII:9ピアノ協奏曲XVIII:5ヴァイオリンソナタ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2ロンドン・トリオドイツ国歌カノンモテットオフェトリウムよみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難交響曲84番パリセットベルク主題と6つの変奏オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41交響曲57番交響曲68番リラ・オルガニザータ協奏曲交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師オルガン協奏曲交響曲38番火事リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲34番交響曲77番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生音楽時計曲ピアノソナタXVI:47bisピアノソナタXVI:11ピアノ小品カートリッジ雅楽プロコフィエフサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7天地創造ミサジャズ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャ交響曲56番マリアテレジア2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場テ・デウムサルヴェ・レジーナカッサシオン室内楽曲ベトナム料理国立新美術館高音質CD交響曲28番交響曲13番交響曲62番交響曲107番交響曲108番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲カンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽ピアノソナタ

タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
09 | 2019/10 | 11
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
41位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
4位
アクセスランキングを見る>>
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

大家さんFC2のクラシックブログランキング。

おすすめ(音楽)
当ブログが発掘した超名演盤
ViventeR.jpg
衝撃の爆演(記事1 記事2

PetersenQ.jpg
Op.1の超名演(記事

Destrube.jpg
美音の饗宴(記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック


クラシックの独自企画・復刻盤は要注目


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実
HMVジャパン
HMV & BOOKS ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV & BOOKS ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

おすすめ(音楽以外)






twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ