ユーリ・テミルカーノフ/読響の「驚愕」(サントリーホール)

10月に入りコンサートが続いています。9日は今年最も楽しみにしていたコンサートを聴いてきました。

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読売日本交響楽団:第592回定期演奏会

ユーリ・テミルカーノフの振る読響の「驚愕」とショスタコーヴィチの「バビ・ヤール」です。一般的にはテミルカーノフがショスタコーヴィチを振る「バビ・ヤール」が目玉なんでしょうが、私はもちろんテミルカーノフの「驚愕」目当てです。以前テミルカーノフがレニングラードフィル室内管を振った「朝」と「昼」のLPを取り上げていますが、これが実に素晴らしい演奏なんです。

2016/09/04 : ハイドン–交響曲 : ユーリ・テミルカーノフ/レニングラードフィル室内管弦楽団の「朝」、「昼」(ハイドン)

自分で書いた記事ながら、読むと感動的な演奏の記憶が蘇ります(涙)。1972年と今から50年近く前の録音ですが、彫りの深い確かな造形力に裏付けられ、実に優美でゆったりしているのに推進力十分な演奏。特に「昼」は私の溺愛する演奏です。このLPでテミルカーノフのハイドンの素晴らしさを知って以降、テミルカーノフはかなり気になる存在となりました。テミルカーノフが何度か来日して、ロシアのオケや読響を振っていることは知っていましたが、プログラムにハイドンが組まれたことはなかったように記憶しています。今回のコンサートにハイドンのそれも「驚愕」がプログラムされているのを知り、迷わずチケットを取った次第。約50年前の録音とはいえ、あの造形力の素晴らしさは類稀な音楽性に裏付けられたもの。テミルカーノフが振れば極上のハイドンが味わえるはずとの確信がありました。結果から言えば、その予想は見事的中。この日は忘れられないコンサートになりました。

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いつものように開場時間にはホールに到着。この日の席はいつものRA席ではなくP席。オルガン下のオケの後ろ右前、4台ものハープが並べられたすぐ後ろ。指揮者の動きがつぶさに見える席です。すぐ目の前ではハープが4台が時間をかけて調律していましたが、ハープは「バビ・ヤール」に使うものでハイドンでは入りません。もちろんハイドンは1曲め。お客さんの入りは8割程度だったでしょうか。

定刻になり、オケが揃って調律が終わるとテミルカーノフがゆったりとした足取りで登壇。この日は日下沙矢子がコンサートミストレス。ショスタコーヴィチ用の座席の前側に奏者が座りますが、なんとなく低音弦の人数が多いように感じました。数えてみるとコントラバスが6名、チェロが8名とハイドンにしては多かったのかもしれませんね。テミルカーノフが木管にさっと指示を出して序奏が始まるとイメージ通り、艶やかな音色がホールに響き渡ります。テミルカーノフの指揮は、いちいち拍子を取らず、手を左右に広げて大きな流れを直裁に指示する無駄のないもの。「昼」の録音で聴かせた素晴らしい立体感は予想通り。楽譜通りというわけではなく、テミルカーノフ流に洗練されたデフォルメを効かせながら重厚なのにしなやかな演奏。洗練された優美さは、まるでアクロポリスのエレクティオン神殿のよう。低音弦の人数は分厚い低音が響くわけです。このハイドンの交響曲の最高傑作たる「驚愕」の聴きどころは1楽章の構成の緊密さですが、そのハイドンの音楽の魅力が完璧に表現される秀演に鳥肌が立ちます。読響がまるでウィーンフィルになったようなふくよかな響きでリズムはキレキレ、そしてテミルカーノフ流のアクセントが見事に決まり、ハイドンの交響曲の均整の取れたフォルムが浮かび上がります。普段いろいろな演奏を聴いていますが、この1楽章には痺れました。間違いなく現代楽器による現代最高のハイドンの演奏に身を乗り出してかぶりつきます。
1楽章をビシッと締めると観客の咳き込みが落ち着くのを待たずに2楽章のアンダンテに入ります。楽章間の間も音楽のつながりが大事なのでしょう。この「驚愕」のアンダンテはいろいろな指揮者がいろいろな演出でハイドンのユーモアを表現してきますが、テミルカーノフはメロディーの1フレーズ目をかなり大きめの音で、2フレーズ目を極端に音量を落とし、ジャーンを際立たせます。オーソドックスながら、対比をあえて鮮明にすることでこれもまた新鮮。その後の展開の優美さはテミルカーノフの真骨頂。あの「昼」のアダージョで聴かせたのと同様、音楽の見事なフォルムが浮かび上がります。至福を通り越して夢の中にいるよう。
続くメヌエットでは入りの溜めをキャラクターにして独特の楔感を演出。そしてフィナーレは1楽章同様目眩くようなスタイリッシュさでピラミッドバランスのオケが躍動。日下さんのリードも誠に見事でオケも完璧な演奏でテミルカーノフのコントロールに応えました。観客の拍手は1曲目ということで熱狂までには至りませんでしたが、私はあまりに見事なテミルカーノフの「驚愕」に放心状態(笑) このような素晴らしいハイドンを聴くことができた喜びに満たされていました。

休憩後は、あの、暗澹たる「バビ・ヤール」。ハイドンの喜びに満たされてコンサートを終え、前半で帰ろうかとも思いましたが、テミルカーノフのショスタコーヴィチが如何なるものかも体験しておくべきと思いとどまり、後半も聴くことにしました。演奏については他に多くの方が書いているでしょうから、門外漢の私が書くのも野暮でしょう。

明るく幸福感に満ちたハイドンを見事にまとめたテミルカーノフ、後半のショスタコーヴィチは、時代が変わって音楽芸術が表現する目的や領域も変わり、ユダヤ人虐殺のソ連の芸術弾圧が契機となった実に暗澹たる音楽の闇の深さと、複雑怪奇な曲の大編成のオケ、コーラス、歌手をまとめる類稀なコントロール能力を印象付けました。このプログラム、この表現の極端な対比こそが企画意図だったのだろうと終演後に気付きました。

齢80歳のテミルカーノフのハイドンの「驚愕」、今まで聴いた中で最も心に残る演奏でした。最高でしたよ。

年齢を考えると、あと何回聴けるか分かりませんが、再度のハイドンの演奏を聞きたいものです。読響の中の人、よろしくお願いします!



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tag : 驚愕 ショスタコーヴィチ

ジョナサン・ノット/東響の「グレの歌」(ミューザ川崎)

10月6日の日曜日はコンサートに行ってきました。

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ミューザ川崎シンフォニーホール開館15周年記念公演「グレの歌」

ジョナサン・ノット率いる東京交響楽団の秋の声楽曲シリーズ。昨年まで3年間はモーツァルトのダ・ポンテ三部作が取り上げられていて、2016年のコジ・ファン・トゥッテ、17年のドン・ジョヴァンニ、昨年のフィガロの結婚と存分に楽しんだことは記事に書いた通り。そして今年はガラッと趣向を変えて、シェーンベルクの「グレの歌」になったんですね。あんまり馴染みのない曲目でしたが、歌手にコジのドン・アルフォンソで老獪な歌唱を披露したサー・トーマス・アレンと何度かの実演でその素晴らしさを堪能している藤村美穂子さんの名前があったのでチケットを取った次第。残念ながら藤村さんはご都合により代わってしまいましたが、期待のコンサートであることには変わりありません。

配役などは下記のとおり。

ヴァルデマール:トルステン・ケール(Torsten Kerl)
トーヴェ:ドロテア・レシュマン(Dorothea Röschmann)
山鳩:オッカ・フォン・デア・ダムラウ(Okka von der Damerau)
農夫:アルベルト・ドーメン(Albert Dohmen)
道化師クラウス:ノルベルト・エルンスト(Norbert Ernst)
語り手:サー・トーマス・アレン(Sir Thomas Allen)
合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨永恭平(Kyohei Tominaga)
指揮:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott)
管弦楽:東京交響楽団

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この日のコンサートはミューザ川崎の開館15周年記念コンサートということで、グレの歌はミューザからの提案で実現したプログラムとのことと実演当日に知りました。シェーンベルクは実演でも「浄められた夜」は何度か聴いたことがあるものの「グレの歌」はあまり馴染みがなく、予備知識も乏しい状態。ということで、ホールに入ってみてステージいっぱいに並べられたオケの席を見てびっくり。比較的広いミューザのステージの隅々まで奏者の席が並びます。現代物だとパーカッションが色々並ぶことは多いのですが、そもそもオケの各パートの人数が半端ないですね。開演後にちょっと数えてみたところ、目についたところだけですが、コントラバス10人、チェロ14人、ホルンは11人いました。ヴァイオリンに至っては数える気にならないほど。オケだけ見るとマーラーの千人よりも多いような気がします。これほどの大編成の曲とステージを見て知った次第。加えて歌手も一流どころが揃い、15周年記念を祝うのに相応しいプログラムです。

プログラムによると「グレの歌」はシェーンベルクの比較的初期の作品で、デンマークの詩人ヤコブセンの同名の詩の独訳をテキストとしたもの。中世デンマークのヴァルデマール王が侍従の娘トーヴェを愛してしまい、トーヴェは嫉妬に狂う王妃に殺されてしまいますが、ヴァルデマール王はその死をもたらした運命に神を罵ったことで、王も命を落とし亡霊となってグレの地をさまよい、最後の審判を受けるのですが、なぜか最後はハッピーエンド的に終わるという、劇的と言うか、ちょっとわかりにくい筋。そのテキストにつけられたシェーンベルクの音楽は無調に至る前の後期ロマン派の音楽とのことですが、音楽も実に難解。ハイドンばかりでなく現代音楽も嫌いではない私ですが、分裂気味に展開しまくる音楽に聴く方も分裂気味。一言で言うと音多すぎです(笑)。そんな曲なんですが、この日のコンサートは、いつもながら隅々まで行きわたるノットのコントロールに完璧に応えるオーケストラ、圧倒的な声量と存在感の歌手陣、ノットの挑発にまたもチャレンジする東響コーラスの渾身の演奏によって、時に爽やか、時にロマンティック、時に壮麗壮大で要所は爆風のような迫力に圧倒される見事な演奏にノックアウトされました。

席は3階右上からオケを俯瞰して見下ろす席。この席、音響も非常にいいのは今年のサマーミューザでのアラン・ギルバートのローマの松で実証済みのお気に入りの席です。開演前のステージでは何人かの奏者が練習中ですが、目についたのは指揮台の前の巨大な楽譜。これだけの人数の大オーケストラの大曲ということが楽譜の大きさからも伺い知れます。

第1部は約1時間の長いもの。王に続いてトーヴェが愛を歌ったあと、山鳩がトーヴェの死と王の嘆きを歌う山鳩の歌で締めくくります。
オケの前の指揮者脇狭い隙間に歌手用の椅子が置かれ、最初はヴァルデマール王役のトルステン・ケールとトーヴェ役のドロテア・レシュマンの2人のみ登壇。コーラスは前半は入りません。曲はうっすら昔聴いた記憶がある程度。入りはキラめくような色彩感溢れるオケが印象的だと思っていると、やはり超巨大編成オケのパワーは凄まじいものがあり、すぐに迫力に圧倒されるようになります。超大編成オケが炸裂しても響きが飽和しないミューザの素晴らしい音響を堪能。オケの後ろと客席後ろの2箇所に据えられた電光掲示板に表示される歌詞を追うのに視線の移動が大きいきらいはありましたが、なんとか筋を追いかけながらの鑑賞でした。王役のトルステン・ケールは大音響のオケに負けないよく通る声で見事な歌唱、トーヴェ役のドロテア・レシュマンも艶やかなよく通り声。そして、当初藤村実穂子がキャスティングされていた山鳩役のオッカ・フォン・デア・ダムラウが予想外に素晴らしい存在感。第1部の途中で登壇し、オケの間奏の後の山鳩の歌は聴きごたえ十分でした。

休憩後はオルガン前中央に男性、両脇に女性が陣取るコーラスが入場します。不気味な重低音が響いて王が神を罵る歌を歌う短い第2部。続いて第3部は亡霊になってしまった王と従者が腹いせに狩で大騒ぎして、農夫、道化クラウスがそれを憂う場面。王の従者の男性コーラスがここにきて出番。終結部は「夏風の荒々しい狩」と名付けられ、語りのトーマス・アレンが自然を賛美。そしてなぜか女性コーラスの艶やかなハーモニーに乗って夏の太陽が昇ってハッピーエンドとなります。筋書きの説得力(=私の理解力)がイマイチなものの、終盤のオケとコーラス分厚いうねりは見事。あまりの迫力に拍手のフライングはご愛嬌でしたが、コンサートの終わりの拍手でこれほど熱狂的なのは初めてと言っていいくらいのブラヴォーの嵐が吹き荒れました。東響はいつも通り、ノットのタクトに完璧に対応、歌手も見事な歌唱、そして、出番は少なかったものの東響コーラスも分厚いハーモニーで演奏を盛り上げました。これだけの大編成ながら緩んだ部分は皆無。ブラヴォーの嵐も納得ですね。ノットも歌手もオケ、コーラスが退場した後も二度ほどステージに呼び戻され、最後はステージ周りにいたお客さんの中に降りていってハイタッチや握手攻めにあってました。トーマス・アレンも嬉しかったのか、自分のスマホで客席を写してましたね。観客は現代音楽ファンばかりでなく、川崎のオケファンも多いと思われますが、「グレの歌」でここまで盛り上がるとはと驚きました。ノットもミューザもいいお客さんがついていますね。

私も、「グレの歌」とシェーンベルクの真価に触れられた、貴重なコンサートとなりました。来年の秋は何が組まれるのか、今から楽しみです!



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tag : シェーンベルク

ハーゲン四重奏団のOp.76(トッパンホール)

10月1日、2日、3日はハーゲン四重奏団の来日コンサートに行ってきました。

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トッパンホール:ハーゲン・クァルテット/ハイドン&バルトーク ツィクルス

珍しく1つの団体のコンサートに3日連続で出かけたのには理由があります。それはプログラムを見ていただければ一目瞭然。

<2019年10月1日>
ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76のNo.1
バルトーク:弦楽四重奏曲2番(Sz67)
ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76のNo.2「五度」

<2019年10月2日>
ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」
バルトーク:弦楽四重奏曲第3番(Sz85)
ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」

<2019年10月3日>
ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76のNo.5「ラルゴ」
バルトーク:弦楽四重奏曲第6番(Sz114)
ハイドン:弦楽四重奏曲Op.76のNo.6

そう、ハイドンの弦楽四重奏曲の頂点たるOp.76「エルデーディ四重奏曲」全曲を3日に分けて演奏するプログラムなんですね。しかもハイドンの間にバルトークが挟まれるという実に興味深いプログラムなんです。今年2019年は当時はオーストリア・ハンガリー帝国だったオーストリアおよびハンガリーとの国交樹立150周年ということで、オーストリアはザルツブルク生まれのハーゲン兄弟を核とするハーゲン四重奏団が、両国の代表的な作曲家、ハイドンとバルトークの名曲を並べて来日公演を行うということで、実に祝賀ムード満点なプログラム。ただし、単に祝賀的なだけでははなく、著名ながら1993年のOp.20の録音以来ハイドンの録音がないハーゲン四重奏団が、Op.76の全曲を完全にハイドンが主役の曲順で取り上げるということも、このコンサートを3日連続で聴こうと思った理由です。意外にも当ブログではハーゲン四重奏団の演奏を取り上げたことはありませんが、指導役として多くの若手四重奏団育て、また、チェロのクレメンス・ハーゲンは多くのチェリストを育てていることはこれまでの記事で紹介した通り。現在は4人ともモーツァルテウムや、バーゼル音楽院で教職に就いているとのこと。いつものように一応簡単にさらっておきましょう。

ハーゲン四重奏団はモーツァルテウム管弦楽団の首席ヴィオラ奏者オスカー・ハーゲンを父に持つ4人の兄弟で1981年に設立されたクァルテット。現在のメンバーは下記のとおり。

第1ヴァイオリン:ルーカス・ハーゲン(Lukas Hagen)
第2ヴァイオリン:ライナー・シュミット(Rainer Schmidt)
ヴィオラ:ヴェロニカ・ハーゲン(Veronika Hagen)
チェロ:クレメンス・ハーゲン(Clemens Hagen)

第2ヴァイオリンはハーゲン兄弟から現在のライナー・シュミットに替わりましたが、シュミットになったのは1987年と、現在のメンバーとなって30年以上になります。2011年まではDeutsche Grammophonの看板クァルテットとして多くの作曲家のアルバムをリリースしていましたので、日本での知名度も高いですね。近年もドイツのMyrios Classicsから色々アルバムがリリースされているようですが、ハイドン以外を追いかける余力に乏しく全くノーケア。ハイドンの録音はDGの1988年の「ひばり」「騎士」などのアルバム、1992年から93年にかけての太陽四重奏曲集の2点のみ。これらのアルバムも随分前に聴いたのもので、典雅な演奏こそハイドンと思っていた私には、小細工の多いちょっと個性的な演奏聴こえて若干違和感を持ったという印象が残っています。

ということで、録音を含めても実に久しぶりに聴くハーゲン四重奏団。しかも室内楽にはぴったりのトッパンホールということで、30年近くの熟成を経たハーゲンのハイドンは如何なものか自分の耳で確かめるというのが今回のシリーズのテーマです。

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このシリーズ、3日連続のチケットを嫁さんの分も合わせて手配したんですが、1日と3日の嫁さんの都合がつかなくなり、1日はブログでよくコメントをいただくだまてらさんと、3日は同じくハイドンマニアの小鳥遊さんとご一緒させていただきました。お二人、異論、ご指摘などあればズバズバ突っ込んでください(笑)

席は3日とも同じ席で、前方7列目の中央やや右あたりでした。

<10月1日>
コンサートに行く時には、私は一切予習しません。事前にプログラムに入っている曲を聴くと、どうしてもその演奏と比べて聴いてしまう傾向が生まれるからです。というわけではるか昔に聴いたハーゲン・クァルテットの印象だけがイメージに残る中、最初のOp.76のNo.1が始まります。思った以上に第1ヴァイオリンのルーカスの個性が強かったですね。ウィーン風とはちょっと異なる糸を引くような滑らかなフレージングが印象的ですが、メロディーにかなりダイナミックにコントラストを付けていきます。冴え渡る伸びやかな高音を響かせたかと思うと、荒々しく刺激的なアクセントを付け、テンポはかなり動かして独特のハーゲン訛りとでもいうような個性的なフレージング。ただしアンサンブルは流石に30年以上このメンバーで続けているだけにスキがなく緊密。ルーカスのヴァイオリンとクレメンスのチェロのはっきりとコントラストの間を第二ヴァイオリンのライナー・シュミットが取り持ち、ヴィオラのヴェロニカが冷静に音を重ねていく感じ。
このNo.1はどちらかというと端正で流れの良い演奏が似合う曲との先入観を打ち砕くようにテンポも音量も自在に動かし、時折非常に音量を落としてハッとさせられるような瞬間を作っていきます。そのように演奏することで各パート間のやりとりがクッキリと浮かび上がり、全体の音楽の流れよりもハイドンが各パート間に仕込んだ曲の面白さが浮かび上がるような演奏。録音と異なり視覚情報の印象も大きいので、最初はくどいと思いましたが、しばらくでくどく感じることもなくなりました。この演奏スタイルは今回のシリーズを通して貫かれ、ハーゲン四重奏団の大きな特徴になっていました。2楽章に入るとそのコントラストは若干下がり、しなやかな肌合いに包まれ、クァルテットの精妙なアンサンブルと、弦の響きの美しさにホッとします。逆にメヌエットから終楽章にかけてはハーゲン流のコントラストが曲の面白さをしっかりと浮かび上がらせました。まずは1曲めということで、少々ボウイングに硬さがみられましたが、昔の演奏の記憶からハーゲンの印象がアップデートされた感じ。

2曲めのバルトークは、ハーゲンの演奏スタイルにより合っている感じ。バルトーク独特の不安げなストイックな曲調が際立ち、しかも緊密なアンサンブルが緊張感をさらに高めていき、水も漏らさぬタイトなアンサンブルを味わえました。

そして休憩後の「五度」は生のコンサートならではの迫力を堪能。ハイドンの曲がメインに据えられるコンサートは滅多にありませんが、休憩後に置かれたこの曲は、この日のメインプログラムに相応しい品格と迫力を兼ね備えた演奏でした。1曲めでは前座感が残ったハイドンですが、この曲は出だしから素晴らしい推進力で迫ってきます。適度にハーゲン的なコントラストを付けていき、若干いじりすぎたような印象がつきまとうところもなくはありませんでしたが、曲全体の推進力の勢いが勝りましたね。やはりこの曲は名曲ですね。緩徐楽章はNo.1同様しなやかさを保ちながらも独特のアクセントと音量を極端に落とす場面を作って個性を印象づけ、メヌエットでは斬りこむようなアクセントを超緊密なアンサンブルで刺激を振りまきます。そして終楽章はハイドンの書いた交錯するメロディーの面白さを視覚的な要素も含めて堪能。ルーカスが投げる変化球に全員がピタリと合わせてくる緊密さは逆にスリリングさが際立ち実に面白い。端正なばかりがハイドンではないと言わんばかり。この妙技にお客さんも拍手喝采。初日からブラヴォーが飛び交いました。アンコールは、翌日のプログラムの予習とばかりに、「皇帝」のメヌエット。メヌエットをアンコールに持ってくるとは流石にハイドン通です(笑)

1日めは、録音でしか触れてこなかったハーゲンクァルテットの真髄にようやく触れた印象が残りました。もちろん、コンサート後はだまてらさんと飯田橋近くの居酒屋で反省会。プチ情報交換で盛り上がりました(笑)

<10月2日>

2日めは「皇帝」と「日の出」です。この日は早くから売り切れていましたが、やはり人気曲だからでしょうか。前日のコンサートで雰囲気をつかめていましたので、この日は1曲めから落ち着いて聴くことができました。かなり濃い目の表現をするハーゲンが、聴き慣れた「皇帝」をどう攻めてくるのかとは思いましたが、やはり1楽章はしなやかな流れではなく、ハーゲン訛りでクッキリとコントラストがついた演奏でした。ただし、前日の1曲めほどの違和感はなく、むしろ訛りを楽しんで聴ける感じ。びっくりしたのがドイツ国歌で有名な2楽章。終始音量を極端に落として精妙極まる演奏。流石にタダでは済ませませんね。メヌエットからフィナーレにかけては、前日同様、メヌエットの諧謔さと、フィナーレの交錯を浮かび上がらせる至芸。ただの「皇帝」ではありませんでしたね。

2曲めのバルトークの3番は4つの部分が繋げて演奏される曲。「皇帝」の余韻を断ち切るような鬼気迫る緊張感。そして聴いているうちに弓が青光りしているような妖艶な瞬間や、突如振りまかれるピチカートなど、ハイドンの時代とは全く異なる音楽のつくりに興味津々。私にとっては普段滅多なことでは聴かない音楽を極上の空間、極上の演奏で純粋に楽しめる時間でした。

休憩後は「日の出」。この演奏はこのシリーズで取り上げたハイドンの6曲の中で最も素晴らしい演奏でした。まさにバルトークが前座と感じる演奏。もちろんハーゲン訛りは少なからずあるものの、演奏には堂々とした風格が漂い、各パートの緊密なアンサンブルと、素晴らしい推進力。1楽章は展開の面白さをじっくり味わえ、続くアダージョでは精緻なハーモニーにうっとり。そしてメヌエットはハーゲンクァルテットにしか演奏し得ないクッキリとしたコントラスト、フィナーレは入りは訛っていたものの徐々に盛り上がるクライマックスに至って、後光が射すような神々しさ。最後にクレッシェンドしていく部分の妙技は流石なところ。ホールのお客さんもハーゲンクァルテットの至芸にのまれましたね。この日の拍手とブラヴォーが一番でした。アンコールは予想通り翌日のNo.6からフィナーレでした。

<10月3日>

そして最終日。この日は「ラルゴ」とNo.6。1日め、2日めと休憩後のハイドンの見事な演奏が印象に残るコンサートでしたが、この日は後半にNo.6と比較的軽めの曲だったので、曲順を心配しましたが、その予想は的中。結果的には前半の「ラルゴ」の見事な演奏の方が印象に残りました。

コンサートも同じ奏者の3日めともなると、純粋に演奏に集中して聴くことができます。1曲めのラルゴに至ってハーゲン訛りが心地よく聴こえてくるではありませんか。しかもルーカスとクレメンスの間をとりもつライナー・シュミットとヴェロニカをよく見ると、実に巧みというか、ルーカスとクレメンスとの呼吸の合わせ方が絶妙。流石に30年以上アンサンブルを重ねているだけありますね。ラルゴはそんなことを考えながら聴いていました。この日のバルトークの6番はヴィオラのソロから入るんですが、ヴェロニカのヴィオラの深い響きが素晴らしい。そしてバルトークでもライナー・シュミットとヴェロニカの妙技に釘付け。このクァルテットが成り立っているのは、特にライナー・シュミットの功績が大きいとは同席した小鳥遊さんの見解ですが、まさにその通り。そして、最後のNo.6は、特に1楽章がデュエットが組み合わせてを変えながら展開するというハイドンのアイデアの面白さに気づきました。これは実演ならではで、録音ではなかなか気づきませんね。前日のアンコールでフィナーレを聴いた通り、最後は軽妙な終わり方だったため、1日め、2日めほどのインパクトが残りません。この日のアンコールは、私は初日の五度から来るのかと思いきや、なんとシューベルトの「ロザムンデ」のメヌエットでした。ハイドンの理性的な音楽とは異なり、濃密な情感にホールが満たされ、時代がさらに進むことで音楽も変りゆくのだとの余韻を残す見事な選曲でした。これまで頻繁に来日しているハーゲンですが、次回のコンサートはシューベルトなのかもしれませんね。



ハーゲン四重奏団の3夜連続コンサート、行って良かったですね。ハーゲンの良さはセッション録音では伝わらないですね。むしろ一発録りのライヴの方がいいように思います。これまでリリースされているハイドンの2枚も、ハーゲンの良さが伝わりません。レストランで冷凍食品を出されているような感じといえばいいでしょうか。実演で聴くハーゲンは訛りと感じる部分はあれど、その面白さと、逆にアンサンブルのスリリングさを際立たせる効果もあり、それが他のクァルテットとははっきりと異なるハーゲン四重奏団の個性でもあります。やはり実演を聴くことの大切さを再認識した次第。ハーゲン四重奏団にはハイドンの新譜をライヴで期待したいところです。



さて、最終日も同席の小鳥遊さんと、飯田橋駅近くの居酒屋で反省会に出かけました。

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ハイドンばかりでなくキリル文字諸国の激ニッチな作品を偏愛する小鳥遊さんとのコレクター同士ならではのたわいもない話で夜は更けていきました、、、(笑)

<業務連絡>
ちなみに、だまてらさん、小鳥遊さんと都合を確認したので、改めてオフ会の日程調整に入りま〜す(笑)



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タカーチ四重奏団の「鳥」(ヤマハホール)

9月26日はコンサートに出かけてきました。

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ヤマハホール:珠玉のリサイタル&室内楽 タカーチ弦楽四重奏団

銀座ヤマハホールにタカーチ四重奏団がやってくるとのことで、チケットを取ってあったもの。しかもプログラムにはハイドンが入るということで見逃す手はないですね。

さて、そのタカーチ四重奏団ですが、当ブログでもこれまでにアルバムを2回ほど取り上げています。ただ、評価は分かれています。

2016/02/28 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : タカーチ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)
2012/01/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : タカーチ四重奏団のOp.71(ハイドン)

素晴らしかったのはDECCAによる1989年録音のOp.77、Op.103の方。この頃は第1ヴァイオリンが創設メンバーであるガボール・タカーチ=ナジで、DECCAの看板クァルテットとして円熟を極めたアンサンブルに痺れました。一方hyperionからリリースされたOp.71の方は2010年の録音で、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラとチェロ以外3人のメンバーが入れ替わり、しかも拠点はアメリカのコロラド州ボルダーに移すなど新体制となってからの演奏。往時の円熟味は薄れ、特にNo.1とNo.2はちょっと硬さが残る演奏でした。
その録音からも9年経過しており、どのような演奏が聴けるのか興味津々といったところです。

今回の来日時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:エドワード・ドゥシンベル(Edward Dusinberre)
第2ヴァイオリン:ハルミ・ローズ(Harumi Rhodes)
ヴィオラ:ジェラルディン・ウォルサー(Geraldine Walther)
チェロ:アンドラーシュ・フェエール(András Fejír)

hyperionのアルバムの時から第2ヴァイオリンが替わっています。創設時から変わらないのはチェロのアンドラーシュ・フェエールのみですね。この日のプログラムは下記の通り。

ハイドン:弦楽四重奏曲Op.33 No.3 「鳥」
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲12番「アメリカ」
(休憩)
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲9番「ラズモフスキー第3番」

もちろん、私はハイドン目当てですが、おそらくメインプログラムはベートーヴェンでしょう。

会場のヤマハホールは実は私ははじめて。銀座7丁目のヤマハビルの上にあります。かつてこのヤマハビルにもレコードショップがあり、学生の頃は銀座にきた時は山野楽器とハンター、ヤマハなどが巡回先でしたが、そんなはるか昔にヤマハビルに来て以来、実に久しぶりにヤマハビルにきました。もちろんビルも建て替えられ昔のアントニン・レーモンド設計のヤマハビルの面影はなく、キラキラビルになっていました。新ヤマハビルが建ったのは2010年と結構前のこと。新築時に話題になった並びのGINZA SIXには何度か来ているのに、関心を持ってないと全く立ち寄らないんですね。

いつも通り、開場時間にはヤマハビルにつき、ヤマハの店員さんに案内されるまま、奥の大型エレベーターで7階のヤマハホールまで上がります。調べたところ席数は333席とかなり小さめ。クァルテットや器楽のコンサートにはいい大きさですね。この日の席は2階席最前列中央。大きなホールではVIPなご来賓が座るような席ですが、2階の階高が高くかなり上から見下ろす感じの席でした。しかもロビーのある7階に対して1階席が8階、2階席が9階で、移動は階段。階高があるオフィスビルゆえ7階で大型エレベーターを降りてから4階分非常階段チックな階段を昇ることになり、結構大変。高齢のお客さんにはかなりしんどい造りですね。

ということで、いつもならロビーで一杯煽って、聴覚神経を鋭敏にするんですが、4階分降りてまで行く気になれず、席で開演を待つことにしました。

録音されたハープの音色がホール内に鳴り響いて、そろそろ定刻。

拍手に迎えられて登壇した4人が座ると、お目当のハイドンです。
出だしの響きは思ったほど残響を伴わず、割とダイレクトな響きの印象。ホールの宣伝には美しい響きとあったものの、音楽ホールとしては比較的デッドですね。1曲目ということでやや硬さが感じられる入り。リズムの線やハーモニーがわずかにズレるようなところもありましたが、曲が進むにつれ、第1ヴァイオリンのエドワード・ドゥシンベルの描くメロディーが徐々に伸びやかさを感じさせるようになってきました。ドゥシンベルがリードしているように思いきや、流れを作っているのは第2ヴァイオリンのハルミ・ローズの大きな体の動き。この曲の華やかな音楽にピシッとフォーカスが合ってきたところで、1楽章が終わります。
2楽章に入るとだいぶリラックスしたのか、4人の息もピタリと合ってきて、抑えたスケルツォの入りに緊張感が漂います。そして鳥がさえずるようなところで、ハッとさせられ、ホール内に光がさしたような鮮明な響きに変わります。やはり表現力の幅広さは一流どころ。以降の濃密な表情づけは往時のタカーチを思わせるものがありました。アダージョではテンポはあまり落とさず、4人それぞれの表現力が競い合いながら一体化した音楽が流れます。唯1人創設時からのメンバーであるアンドラーシュ・フェエールは控え目ながら、克明に表情をつけて、アンサンブルに深みをもたらしていました。なんとなくここまで聴いてクァルテットの伝統が途絶えていないような気がしたから不思議なものです。
フィナーレはドゥシンベルの見事な弓裁きでグイグイ音楽が進みます。やはりテクニシャン揃いで、全員の息が合って畳み掛けるようにスリリングな終楽章でした。ハイドンのウィットを感じさせるような軽快感もありながら表現力の限りを尽くしたクライマックスに観客も微笑みながらジワリと湧き上がる拍手で応えていました。

前半は硬さがあったものの、やはりさすがはタカーチ、見事にまとめてきました。

ただ、続くドヴォルザークはさらに見事な演奏。この日の聴きどころはドヴォルザークでしたね。アメリカという曲ながら、随所にスラヴを思い起こさせる陰りのある響きが織り交ぜられ、構成美で聴かせるハイドン以上にタカーチの表現がフィットして、素晴らしい演奏でいした。ハイドンでは控えめだったヴィオラとチェロの聴かせどころも多く、それぞれのメンバーの表現力をたっぷり味わえる名演奏でした。もちろん満員のお客さんも拍手喝采。

そして休憩後はメインディッシュのベートーヴェンのラズモフスキー3番。簡潔かつ晴朗なハイドンを愛する私にはベートーヴェンはちょっとヘビーでクドイと感じてしまうのですが、タカーチ四重奏団が得意とするベートーヴェン、やはり迫力と病的なまでに展開しようとし続ける音楽のエッセンスをしっかりと踏まえて、響きの変化を一貫してまとめながらクライマックスに持っていく構成力は並ではありませんね。もちろん、最後はブラヴォーが降り注ぎました。

何度かのカーテンコールの後、第2ヴァイオリンのハルミ・ローズがメモを見ながらたどたどしいながら丁寧に日本語で来客への感謝と、アンコールにメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲からスケルツォを演奏すると伝えると、ホールが笑顔に包まれました。このメンデルスゾーンも得意としているのでしょう、重厚なベートーヴェンの後の清涼剤のように爽やかな演奏で癒されましたね。

hyperionの録音でちょっとマイナスイメージを持っていたタカーチ四重奏団でしたが、このコンサートで彼らが素晴らしい実力の持ち主だとわかり、行って良かったと思えるコンサートでした。



イマイチだったのがヤマハホール。帰りも階段をえっちらおっちら4階分降りて大型エレベーターを待つために狭い通路で行列。銀座の一等地にあるため空間が限られるとはいえ、ホールの動線設計が音楽を楽しむ人を迎えるという視点が弱い。閉口したのがホール内の横の壁。ビルの外観の意匠と呼応してか正方形のブロックを45度傾けて配置しているんですが、2階席から急角度でステージを見下ろしながら聴いていると、横の壁の目地の影響でクラクラして、平衡感覚が麻痺するような感じが残ります。そう、この感じ、同じ日建設計の設計によるすみだトリフォニーホールでも感じたもの。このホールも両脇の無意味にインパクトが強い斜めの線が出しゃばるデザインで同じ感覚になります。ビルの外観もけっして上品とは言えず、昔のヤマハビューティーを誇った洗練されたセンスはどこに行ってしまったのでしょう。
響きも宣伝文句ほど良いとは思えず、開演前のハープのチャイムもイマイチなセンスでなぜかスタッフも皆事務的。2階席目の前の手すりは埃が溜まっていました。
少々厳しくなりましたが、ヤマハはスタインウェイとタメを張る世界的楽器メーカー。音楽を楽しむということをトータルに提供すべきヤマハというブランドへの期待の高さゆえの苦言ですので悪しからず。どこかにラ・ショー・ド・フォンのムジカ・テアトルのような世界一ピアノが美しく響き、おもてなしに満ちてゆったり音楽が楽しめるホールを造って起死回生を望みたいところです。(行ったことはないので、ゆったり音楽が楽しめるかどうかは不明です!)

ちなみにうちのFMチューナーは惚れ惚れするような洗練されたデザインのT-2。レコードプレーヤーのサブ機はGTほどゴツくない家庭用ベストバランスのYP-D9。両機とも約40年経過した今でも現役バリバリです。昔のヤハマは垢抜けてましたね。T-2を手に入れる時には父とオーディオ店に一緒に行って相談して機種を決めて、重い箱を2人で電車で運び、当時は超贅沢だったタクシーで帰宅。そして箱を開けて取り出した時のワクワク感。ときめきましたね。あの日に帰りたい〜(笑)

脱線が長くなってのでこの辺で(笑)



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アラン・ギルバート/都響のレスピーギプログラム(ミューザ川崎)

相変わらずばたついていて通常記事が書けていません(涙) が、チケットを取ってあったコンサートが攻めてきます(笑)

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フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2019:東京都交響楽団名匠のガイドで聴くイタリアン・プログラム

ミューザ川崎の夏の風物詩となっているフェスタサマーミューザKAWASAKI。今年で15年目とのこと。つい先週もノット/東響のリゲティなどを聴いたばかりですが、そのコンサートはサマーミューザ直前のコンサート。

この日のお目当ては実演で聴いたことのないレスピーギ。ハイドンばかり取り上げているブログですが、若い頃(30年くらい前、、、)はレスピーギも結構聴いていたんですね。刷り込みはもちろんトスカニーニのローマ三部作。1990年ごろトスカニーニの録音がRCAから大量にCD化されて店頭に並び、今は亡き六本木WAVEで手に入れ、キレッキレのトスカニーニ節を堪能したのを覚えています。そしてカラヤン/ベルリンフィルのLPも手に入れ、金属片が飛び散らんばかりのDGGの鮮明録音で真空パックにしたようなベルリンフィルのローマの祭りとローマの松にビックリしたものです。そのローマの祭と松が実演で聴けるということと、加えて有名な「リュートのための古風な舞曲とアリア」の3番までプログラミングされているとのことでチケットを取った次第。フェスタサマーミューザは川崎市のフランチャイズオケである東響の他、読響、N響、都響、新日本フィル、日本フィル、東京フィル、東京シティフィル、神奈川フィル、仙台フィルにゲルギエフの振るPMFフィルまで登場するというなかなかゴージャスな音楽祭。日本のオケの中でも都響はニューヨークフィルの音楽監督だったアラン・ギルバートが振るということで、力の入り方が他のオケとは異なります。

この日のプログラムは下記の通り。

「名匠のガイドで聴くイタリアン・プログラム」
ヴォルフ:イタリア風セレナーデ(管弦楽版)
レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
(休憩)
レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」
レスピーギ:交響詩「ローマの松」

ちなみに、配布されたプログラムには、今回のコンサートの選曲にあたりアラン・ギルバートにミューザの写真を見せたところ、即座にレスピーギをやろうということになったとの件が書かれていました。ご存知の通りミューザ川崎は首都圏のホールの中でも音の良さはピカイチ。サントリーやオペラシティともだいぶ差がつきます。このホールを見てレスピーギを選んだセンスは見事です。

もちろん、アラン・ギルバートも録音も含めて初めて聴きます。昨年から都響の首席客演指揮者になっていたんですね。そしてこの9月からは膨大な建設費で話題になったハンブルクのエルプフィルハーモニーを本拠地とするNDRエルプフィルの首席指揮者に就任するとのこと。お手並み拝見というところでしたが、アラン・ギルバート、これが素晴らしいお手並みでした!



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この日の席は3階席のRA。オケの右上から俯瞰する席です。ミューザは色々な席で聴いていますが、3階席でも音は鮮明。そしてこの日のプログラムのローマの松は金管のバンダが入るとわかっていましたので、オケ側に席をとりました。以前デュトワがN響でマーラーの千人を振った時にはバンダ隊のすぐ後ろでクライマックスでオケの音がバンダにかき消されて音響的にはイマイチだったので、オケとバンダの適度な距離感がある方が良かろうとの選択です。これも当たりでした!

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いつものように、ビールとサンドウィッチで適度にお腹を満たして、コンサートに臨みます。今日はビールの注ぎ方がイマイチ(笑)

お客さんの入りは8割くらいだったでしょうか。アラン・ギルバートの日本での知名度がちょっと影響したかもしれませんね。ステージ上は大編成のオケの席が設えられていました。

1曲めはヴォルフのイタリア風セレナードということで、唯一レスピーギ以外の曲ですが、この曲でいきなりギルバートの才能に釘付けになりました。8分少々の曲ですが、軽やかさと豊かな音楽に満ち溢れた素晴らしい演奏に驚きました。オケの掌握度も完璧。大柄な体を揺らしながらタクトから音楽が湧き出てくるような見事なコントロール。都響も弦楽器を中心にギルバートの指示に完璧に応える見事な演奏。コンサートの出だしの曲はオケが落ち着かないこともままありますが、最初から完璧な入り。こうしたセレナードをこれだけ豊かに仕上げる手腕は誠に見事。

そして、2曲めはレスピーギのリュートのための古風な舞曲とアリアの第3組曲。我々の世代はこの曲の第3曲のシチリアーナがNHKのクラシック番組のテーマ曲になっていたのでおなじみの曲ですね。プログラムを読んで驚いたのは、この曲が作曲されたのがローマ三部作を書き上げたあとなんですね。素材は16、17世紀のリュート曲ということで、凝ったオーケストレイションの絢爛豪華なローマ三部作を作曲しつつもこのような美しい旋律に対する憧れを持っていたのでしょう。弦楽合奏だけになったオケで奏でられるこの曲もアラン・ギルバートによって極上の響きを帯びます。なんと高雅で気品ある響きでしょう。しなやかに膨らまされたメロディーが次々と押し寄せてくる快感。憂いを帯びた「イタリアーナ」、しなやかな陰陽の対比が美しい「宮廷のアリア」と続き、おなじみの「シチリアーナ」に至って感極まります。懐かしさと美しさに満たされます。美しいメロディーが次々に癒しや力強さ、郷愁を帯びながら展開していきます。そして最後の「パッサカリア」で分厚い弦楽合奏の迫力をたっぷり聴かせて終わります。この曲が現代音楽が芽吹く1931年に書かれたことに驚きます。まさに古典回帰。もちろんあまりの素晴らしさに客席からは割れんばかりの拍手が降り注ぎました。

休憩を挟んで後半は「ローマの噴水」に「ローマの松」です。前半もかなりの人数だったのですが、休憩中にさらにオケの席が増やされステージいっぱいに席が並びます。前半楽譜を見ながら指揮をしていたアラン・ギルバートですが、休憩中に指揮者の譜面台は片付けられ、後半は暗譜のようです。そして右に視線をやると、パイプオルガンの席に灯りがともっています。ローマの噴水はオルガン任意となっていましたが、オルガンが加わるようです。

出だしの「夜明けのジュリアの谷の噴水」は弱音のコントロールと色彩感が見事。続く「朝のトリトンの噴水」ではグロッケンシュピールやチェレスタ、トライアングルなどが加わり前半の曲とは色彩感とオーケストレイションが全く異なります。圧巻はこの曲のクライマックスの「昼のトレヴィの泉」。パイプオルガンも足鍵盤が大活躍でオケの大音響にパイプオルガンの重低音が加わりもはや風圧。前半にデリケートなコントロール力を見せつけたアラン・ギルバートですが、もちろんオケのコントロール力は迫力面でも見事。このホールにはレスピーギとの読みを効かせただけに、全てのパートがくっきりと浮かび上がりながら炸裂する様は圧倒的でした。オーディオセットで聴くのとはダイナミックスの次元が異なります。そして興奮を冷ますような最後の「たそがれのメディチ荘の噴水」の透明感あふれる響きが染み渡ります。都響は木管も弦も鳴り物陣も見事な演奏。特にフルートのふくよかな響きが印象的でした。

そして最後の「ローマの松」。噴水の後、何度かのカーテンコールの後、指揮台に戻ると拍手を断ち切るようにいきなりタクトを振り上げ、あの喧騒に満ちた「ボルゲーゼ荘の松」に入ります。この勢いはまるでカルロス・クライバー! しかも録音でのローマの松よりも精度高くミラーボールに目がくらむようなキラキラ感。オケからあのような音色がどうして出るのか不思議なくらい、バランスも音量も完璧。テンポもキレキレで鮮烈な入りに圧倒されます。そして暗騒音のような「カタコンブの松」への鮮やかな場面転換もセンス抜群。オケを俯瞰しながら聴くとドラやシンバルが弱音部実に巧みに使われれているのがよく見えます。そして曲中に下手のドアが開き、楽屋からトランペットのメロディーが響き渡ります。ここでもクラリネットやフルートの表情豊かさが印象的。そして「ジャニコロの松」ではピアノやハープの音色にハッとさせられたと思うと深みのある弦の響きの魅力をしっかりと印象付けます。終盤録音による鳥の鳴き声が流れますが、意外にも違和感はありませんね。そしてクライマックスの「アッピア街道の松」はアラン・ギルバートの面目躍如、フルオーケストラとオルガン、そして左右の3階席に別れたバンダ隊の吹きならす金管による迫力はこれまで聴いたどのコンサートよりもド、ド、ド迫力。オケの全てのパートへ指示を出し、そして左右のバンダ隊に視線を送ると高らかな号砲が吹き鳴らされるのは音響的な快感意外の何者でもありませんね。最後の1音が消えかかるのに怒号のような拍手に包まれたのはもちろんです。マーラーの陰鬱さやブルックナーの神々しさとは無縁のイタリア的音響の快感。この曲はやはり実演で聴いてこそでしょう。

アラン・ギルバートも都響の完璧な演奏に満足したのでしょう。笑顔で奏者を讃えながらカーテンコールに応じていました。やはり、ニューヨークフィルを長年統率してきた実力派かなりのもの。オーケストラコントロール力はもちろんですが、前半のセレナーデや舞曲を夢のように楽しく聴かせるところこそアラン・ギルバートの真骨頂でしょう。この人がハイドンを振ったらさぞかし素晴らしかろうと想像しながらホールを後にしました。



ミューザのコンサート後はいつも楽しみにしている1階の牛タン屋さんへ。昔仕事で一時仙台に住んでましたので、牛タンは懐かしの味なんですね。ここは美味いです。

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食べログ:杉作

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さあ、もう月末ですね、、、(苦笑)



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tag : ヴォルフ レスピーギ

ジョナサン・ノット/東響のシュトラウス、リゲティ、タリス、シュトラウス(ミューザ川崎)

またもやご無沙汰になっちゃいました。色々バタバタしておりましたが、コンサートには通っております。

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東京交響楽団:川崎定期演奏会 第70回

7月21日はミューザ川崎にお気に入りのジョナサン・ノット/東響のコンサートに久々に出かけました。今回はハイドン目当てではなく、リゲティ目当てです(笑)

2018/12/11 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「フィガロの結婚」(ミューザ川崎)
2018/04/15 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響のマーラー10番、ブルックナー9番(サントリーホール)
2017/12/10 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「ドン・ジョヴァンニ」(ミューザ川崎)
2017/10/15 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の86番、チェロ協奏曲1番(東京オペラシティ)
2017/07/23 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「浄められた夜」、「春の祭典」(ミューザ川崎)
2017/07/17 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響のマーラー「復活」(ミューザ川崎)
2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

ご覧のように、2016年に素晴らしい「コジ・ファン・トゥッテ」を聴いてからノットのコンサートにはかなり行っています。モーツァルトのダ・ポンテ三部作は皆絶品でしたが、肝心のハイドンはちょっと弄りすぎで今ひとつだったんですが、元アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督だっただけに現代物は皆素晴らしい出来だったということで、ノットがリゲティのしかも「2001年宇宙の旅」で使われたレクイエムを振るということでチケットを取った次第。

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この日のプログラムは下記の通り。

J.シュトラウスⅡ:芸術家の生涯 op.316
リゲティ:レクイエム
(休憩)
タリス:スペム・イン・アリウム(40声のモテット)
R.シュトラウス:死と変容 op.24

ソプラノ:サラ・ウェゲナー(Sarah Wegener)
メゾソプラノ:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(Tanja Ariane Baumgartner)
合唱:東響コーラス(合唱指揮:冨平恭平)

このプログラム、一見滅茶苦茶な組み合わせに見えます。が、配布されたプログラムの最後に掲載されたこのプログラムを組んだ意図をノットにインタビューする記事を読むと、実によく考えられたプログラムであることがわかりました。今回の軸はノットが高く評価するアマチュア合唱団の東響コーラスがどこまでできるかというのがテーマ。ということで現代もののリゲティに40声部からなるタリスを組み合わせ、20世紀と16世紀の合唱によるピュアな宗教的表現の対比を描こうとするもの。そしてヨハン、リヒャルトの両シュトラウスの曲はワルツに潜む生と死と、19世紀の退廃の時代のドラッグのような時代感覚の対比を描こうとするもの。その二つの対比軸をコンセプトにするものとのこと。開演前にこの記事を読んでプログラムの企画意図に唸りました。

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高まる期待をいつも通りワインで落ちつかせて、コンサートに臨みます。

この日の席はいつもの2階席のRA。オケを右真横から俯瞰する席。指揮者の指示がよくわかるお気に入りの席です。

この日はステージいっぱいにオケ席が配置され、オルガン下の客席は合唱団の席となります。お客さんの入りは8割程度だったでしょうか。一般受けしにくいプログラムゆえ仕方のないところでしょうが、前日のサントリーホールの同プログラムとともにこのコンサートを聴かなかった人は一生の不覚です。この日は東響コーラスにやられましたね。アマチュア合唱団とは思えないポリフォニーの美しさ、精妙さ、そして人の声だけが持つエネルギーの力は圧倒的でした。

1曲めはヨハン・シュトラウスの「芸術家の生涯」。我々の世代はクレメンス・クラウス/ウィーンフィルの黄昏たいぶし銀の演奏で親しんだ名曲です。出だしの金管の音がちょっとひっくりかえったのはご愛嬌。ノットの指揮は予想以上にテンポを落としてじっくりワルツを描くもの。ウィーンの粋な雰囲気というよりデラックスなワルツという感じ。ノットの表情づけの濃さがちょっと気になるのは、刷り込みが高雅すぎるからかもしれませんね。

続いて、お目当のリゲティ。前曲の明るい雰囲気から一変。暗黒峻厳な雰囲気になります。冒頭から微弱な音量のコーラスがただならぬ雰囲気を描きます。間近でコーラスの精妙かつ透明なミクロポリフォニーに包まれる恍惚としたひと時。これは録音では決して味わうことができない響きです。入りのイントロトゥスで緊張感をピキピキに味わったところで、2001年に使われたキリエに入ります。脳内には2001年の映像が交錯しますが、この音楽、実に繊細な構成になっているのに気づきます。コーラスをはじめとしてオケの各楽器が非常に細かく制御され、数多の楽器の織りなす綾が様々な色に光り輝きながら大きな流れとコントラストを作っていきます。その千変万化する音色のそれぞれに耳をそばだてながら異様な雰囲気に包まれる不思議な感覚。コーラスを見ると実に細かく各パートが制御されていることに気づきます。どうしたらこのような音楽が生み出せるのか、常人の創作能力では計り知れぬ領域に達しています。
続く審判の日ではソプラノとメゾソプラノが大活躍。鋭い響きが交錯する中、艶やかなソプラノやメゾソプラノの叫びが加わり、パーカッションの乱舞、そして束の間の静寂が繰り返されます。
最後のラクリモサは不気味な低音にかすかな高音が重なりながら発展。宇宙の果てにいるような感覚。音楽が静寂に包まれ曲が終わるとブラヴォーの嵐。ノットも東響コーラスの健闘に満足いったようで、コーラスメンバーを称えますが、それがマナーなのかコーラスメンバーは緊張を保ちながら直立不動で拍手を受け続けます。いやいや素晴らしかった。生で聴くリゲティは圧倒的でした。

休憩を挟んで、後半はタリスのスペム・イン・アリウム。コーラスのみの曲ですが、オケも入場します。客席が落ち着くとノットとコーラスにスポットライトがあたり、オケは暗転。このタリスは素晴らしかった。実に40声部に及ぶ構成もさることながら、オルガン下の座席いっぱいでも足りず折りたたみ椅子を配置して入った120名規模のコーラスが完璧に制御されて40声部を歌うエネルギーは圧巻。まるでホールが16世紀に引き戻されたような純粋な祈りの空間になります。これがアマチュア合唱団との驚きとともに練習を繰り返してこの領域に至った努力に打たれます。なんと純粋な響き! なんと圧倒的なエネルギー! 10分少々の曲ですが素晴らしい歌唱に本当に圧倒されました。この快演に聴き入っていたオケも含めて場内から嵐のような拍手が降り注ぎました。

そして最後はリヒャルト・シュトラウスの「死と浄化」。先ほど合唱のみの曲でもステージ上にオケがいたのと同様、タリスの曲が終わってもコーラスは下がらず、席に残ります。互いの渾身の演奏をしっかり聴こうということでしょう。これはいいですね。
この曲は滅多に聴く曲ではありませんが、刷り込みはべームとケンペ。特にシュトラウスの愛弟子のベーム/シュターツカペレ・ドレスデンのザルツブルク音楽祭ライヴはこの曲の豊かな表情を楽しめる名盤。ノットは丁寧にじっくりとメリハリをつけて音楽を作っていき、フレージングも盛り上げ方も非常に巧み。これはリヒャルト・シュトラウスに合いますね。この複雑な構成の大曲を場面ごとに見事に描き分けていきます。ベームが大局から音楽を作っていくとするとノットはディティールを丁寧に磨いてシュトラウス独特の退廃した雰囲気と官能的な響きの交錯を描いていく感じ。オケもノットの棒に従ってきっちり描いていきます。ただ、この曲のティンパニのリズムの打ち方は難しいですね。苦労している様子が間近でよくわかります。それでもしっかりとノットの指示に合わせて渾身の打撃!
英雄的なメロディーから目まぐるしく変わる曲想を繰り返しながら終結に向かい、最後はしっかりと盛り上げて終わります。東響渾身の演奏に今度は先ほどまで表情の硬かった東響コーラスが笑顔の拍手で称えます。もちろん観客も拍手喝采。ノット監督、この日が最後のコンサートとなるチェロ主席の西谷さんを労い、最後は2人でカーテンコールを受け、一般参賀。

この日のコンサート、プログラムの企画意図通り、両シュトラウスの対比と中世と現代のコーラスによる宗教的表現の対比を鮮やかに浮き彫りにする見事な構成を体験できました。そしてリゲティの生の迫力、何より東響コーラスの渾身の歌唱が心に残る素晴らしい演奏会でした。



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鈴木優人/神奈川フィルの「天地創造」(横浜みなとみらい)

ちょっと間があきました。7月13日土曜日はお目当のコンサートに行ってきました。

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神奈川フィルハーモニー管弦楽団:みなとみらいシリーズ第350回

バッハ・コレギウム・ジャパンで活躍している鈴木優人が神奈川フィルで天地創造を振るということでチケットを取ってあったもの。

天地創造の実演はアーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスラ・フォル・ジュルネでのダニエル・ロイス/ワルシャワ・シンフォニア鈴木秀美/新日本フィル高関健/東京シティフィルに続いて5回目です。これまで聴いた中では、意外と言っては失礼ですが、高関健の振る東京シティフィルの演奏が、天地創造の美しいアリアの素晴らしさを素直に楽しめるという点で心に残る演奏でした。

神奈川フィルのコンサートはオッコ・カムのシベリウスプログラムに続いて2度目です。

鈴木優人はバッハ・コレギウム・ジャパンのコンサートの奏者としては何度か聴いていますが指揮者としてのコンサートは初めてです。昨年9月よりご本家バッハ・コレギウム・ジャパンでも首席指揮者に就任しているということで、今や楽壇で大活躍の人。ということで、天地創造の貴重な実演の機会というだけではなく、これはおさえておかなくてはならぬとのことでチケットを取った次第。

歌手などは下記の通り。

ガブリエル、エヴァ:澤江衣里(ソプラノ)
ウリエル:櫻田亮(テノール)
ラファエル、アダム:ドミニク・ヴェルナー(バリトン)
合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン

歌手はバッハ・コレギウム・ジャパンではおなじみの人が揃い、合唱もバッハ・コレギウム・ジャパンが担当。コンサート前の鈴木優人さんのプレトークでは、バッハ・コレギウム・ジャパンの合唱団が日本のオケと共演するのはこの日が初めてのことということでした。

この日の席は2階のオケの右背後のRA。歌手の声は後ろから聞くことになりますが、オケを俯瞰して、何より指揮者の指示が克明にわかるお気に入りの位置。この日は車で来ましたので、比較的早めにホールに着いてプレトークも最初から聞くことができました。

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天気はあいにくの曇天。このホールのホワイエは天気がいいと実にいい眺めなんですが、こればかりは致し方ありません。お客さんの入りは8割強ぐらいでしたでしょうか。



さて、定刻になり、オケが入場し、チューニングを終えてからコーラスが入場。そして歌手と鈴木優人さんが登場して第1部が始まります。

入りの混沌の場面は予想に反して、遅めのテンポでかなり丹念な描写。鈴木優人の指揮はテンポとデュナーミクを克明に指示するかなり細かいもの。弦は予想通りノン・ヴィブラート気味で透明感ある響き。神奈川フィルのメンバーはリズムもデュナーミクも指揮に忠実に危なげない演奏で序盤の難しい部分をこなします。ラファエルの第1声は声量こそほどほどながら、こちらも安定した歌唱で、天地創造の肝となる役にふさわしい安定感。ウリエルの櫻田さんは何度か実演を聴いていますが、いつもながら見事な歌唱。そしてガブリエルの澤江さんはふくよかな響きを伴う美しい声で第1部のガブリエルのアリアを熱唱。非常に美しい声ですね。第4日から第1部の終結部にかけての盛り上げ方も見事で、迫力十分のクライマックス。そのまま第2部に入ると思いきや、拍手で一旦歌手と指揮者が下手に下がってオケはチューニング。第二部は美しいアリアの宝庫なんですが、前半は第1部同様迫力の演出が見事でしたが、特に美しいアリアが多い後半は歌の良さを引き出すには少々オケが強めに感じました。鈴木優人の指示も非常に細かく、もう少し力を抜くと歌手はともかく奏者の自然な音楽を引き出せるように感じた次第。歌手の安定感は変わらず素晴らしいものがありました。

休憩を挟んで第3部。オケがリラックスしたのか、演奏も自然さが増して、アダムとエヴァの2つの美しいデュエットも惚れ惚れするような歌唱。1輪の赤い花を使った演出や、終曲で歌手がコーラス席に下がるところなど視覚的な面白さもあって最後は荘重なクライマックス。終曲に加わる4人目のソロが男性だったのがちょっとびっくりでしたが、カウンターテナーなんでしょうか。

鈴木優人さん、チェンバロを弾きながらにも関わらず緻密で手堅い指揮は流石で、この大曲を見事にまとめ上げました。オーケストラのコントロール能力は非常に高く、迫力の演出も見事。そしてコーラスのハーモニーの素晴らしさはバッハ・コレギウム・ジャパンならでは。そして歌手も皆素晴らしい出来で、お客さんからは嵐のような拍手が送られました。神奈川フィルも最後まで緊張感を保つ力演。

神奈川フィルのコンサートは終演後にオケのメンバーがロビーに出てお客さんを見送るんですね。お客さんの表情を見れば、この日の演奏がお客さんの心に届いたかわかりますね。そしてそのような姿勢もお客さんがまた聴きに来ようと思うことにしっかり繋がると思います。また聴きに来なければなりませんね。

いいコンサートでした!

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tag : 天地創造

鈴木秀美/リベラ・クラシカ第43回定期演奏会(三鷹市芸術文化センター)

東京でハイドンを集中して取り上げている皆様ご存知の鈴木秀美率いるオーケストラ・リベラ・クラシカですが、実に43回目の定期公演にして初めてコンサートに足を運びました。

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三鷹市芸術文化センター 風のホール:オーケストラ・リベラ・クラシカ 第43回定期公演

このコンビ、定期公演の録音をかなりの枚数リリースしており、私も手元に10数枚のアルバムがありますが、特に初期のものはピンとこないものが多く、最近はあまり追いかけておりませんでした。

2017/06/04 : コンサートレポート : 鈴木秀美/新日本フィルの天地創造(すみだトリフォニーホール)

また、以前聴いた鈴木秀美の振る新日本フィルの天地創造も歌手の配役がイマイチであまり楽しめなかったということで、どうもあまり相性がよろしくない状況だったというのがこれまでの流れ。

ただし、大阪での飯森範親さんと日本センチュリー響の活躍に対して、東京でも鈴木秀美さんとリベラ・クラシカに頑張っていただくべきということで、コンサートに出かけてみようと一念発起し、チケットを取った次第。会場も三鷹ということで自宅から車ですぐのところ。プログラムは下記の通り。

モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」(K.588)より
・序曲
・第1幕フィオルディリージのアリア「岩のように」 "Come scoglio"
・第2幕フィオルディリージのレチタティーヴォ「ああ、行ってしまう・・・」 "Ei parte... senti..""
・第2幕フィオルディリージのロンド「お願いです、愛しい人」 "Per pietà ben mio"
ソプラノ:中江早希
 (休憩)
ハイドン:交響曲10番
ハイドン:交響曲第100番「軍隊」

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この日は生憎の小雨模様。三鷹駅からは歩くとちょっとした距離があるので集客にも若干の影響はあったでしょうか。私たちは車で30分ちょっきりでついて駐車場に車を停めたのが14時ちょうどくらい。ちょうどコンサートマスターの若松さんが歩いて駐車場に入るタイミングと一緒でした。

このホールは90年代に一度来て以来、かなり久しぶり。ホール周りを少しぶらついている間に開場時間となります。ホールは変わらず綺麗。収容人数は625名とのことで紀尾井ホールより少し小ぶり。お客さんの入りは半分くらい。土曜なのでもう少し入って欲しいところでしょう。席は1階の後ろの方でしたが、視界、音響共に問題なし。

定刻を少し過ぎて、オケが入場し、入念にチューニングをして鈴木秀美さん登場。1曲めのコジ・ファン・トゥッテの序曲はおなじみの曲。古楽器の直裁な音色がホールに響き渡ります。古楽器ということでかなり速めのテンポを予想していましたが、さにあらず。比較的落ち着いたテンポで、1曲めということでアンサンブルは少々荒い感じが残りますが、迫力はなかなか。この曲独特のめくるめく感じはほどほど。まずは挨拶がわりでしょう。

続いてソプラノの中江早希さん登場。「岩のように」はフィオルディリージが貞節を強い信念で守るという歌詞のアリア。中江さんは非常にふくよか、艶やかなを思わせるソプラノで見事な歌唱。伴奏はもう少しオペラティックでも良かったかもしれません。素晴らしい歌唱にお客さんは拍手喝采。鈴木さん、中江さんが一旦下手袖に下がっている間に続くレチタティーヴォの演奏が始まり、鈴木さんと中江さんが腕組みして登場するという演出付き。圧巻は中江さんの朗々としたロンドの歌唱。この曲は疑った恋人のフェルランドに許しを請う歌。終盤かなりの高音が出てくるのですが、声量、艶やかさ共に素晴らしく、惚れ惚れするような歌唱でした。やはり歌ものは歌手の力量がものをいいますね。もちろんお客さんも拍手喝采。

休憩を挟んで後半はお目当のハイドンです。休憩中にステージ上の座席配置はかなり縮小。そして指揮台まで撤去されます。後半最初の曲は最初期の作曲の交響曲10番。休憩明けにメンバーが登壇すると、いきなり演奏が始まります。鈴木さん、チェリストとしてオケの中にいました。この初期の曲ではありですね。演奏はこれまでの録音でも感じられたように、1楽章はあと少し弾む感じが欲しく、2楽章はアーティキュレーションも少し固めな印象。オケの演奏は手堅く安定感はあるのですが、もう一歩踏み込んで欲しいと思って聴いていると、3楽章で状況一変! これまでのオケとは別のオケのような見事なエネルギー感。オケのノリが激変。あまりの活気に驚きます。そう、この一体感を求めていたんです。3楽章は神がかったような見事な出来にこちらも覚醒。

そして、最後はこの日の目玉、軍隊です。メンバーが一旦退場してステージの座席配置を再び広げ、指揮台も復活。この軍隊も見事でした。先の曲でオケもリラックスしたのか、冒頭から集中力が違います。古楽器であることを活かした直裁な響きが迫力に繋がって、オケの響きの厚みはブリュッヘンを彷彿とさせる感じ。リズムのキレは程々ながら迫力でカバーしてこの曲ではそれが足を引っ張りません。素晴らしかったのが2楽章のアレグレット。例の軍隊風打楽器の登場場面では、上手客席後ろ扉から赤い鼓笛隊風衣装を纏った打楽器奏者3名が行進しながらガツン、ガツンと太鼓やトライアングルを鳴らして入ってくるではありませんか。完全に不意を突かれて驚きました。この打楽器奏者がキレててなかなかいいリズム。以前ヤンソンスとBRSOで軍隊をやった時も同様の演出がありましたが、その時は視界から認識できてのことでさほどの驚きはありませんでしたが、今回は完全に背後からガツンとくる演出にやられました(笑) なんとなく初演時のロンドンの観客も驚き、そして盛り上がっただろうなどと想像しながら軍隊の行進の喧騒を楽しみました。メヌエットを経て、終楽章でもこの3人の打楽器奏者が大活躍。やはりこの大迫力は魅力です。大音響で締めくくったコンサートにお客さんも拍手喝采。

何度かのカーテンコール後、アンコールは驚愕のメヌエット。アンコールにメヌエットを持ってくるとは、ハイドン通ならではの選曲。しかも演奏はアンコールらしくノリノリ。なんだかノリで打楽器奏者も大活躍するサービス付き。これは実演ならではのものですね。

前振りに書いた通り、少々不安もあったこのコンビのコンサートでしたが、結果的には大変楽しめました。やはり実演を聴かないとダメですね。今後はなるべく顔を出したいと思った次第。次は11月に上野の石橋メモリアルホールで「ロンドン」です。なんとモーツァルトのフルート協奏曲の独奏はバルトルド・クイケン! 

これは行かねば、、、



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エステルハージー・アンサンブル日本公演(鎌倉佐助サロン)

6月1日(土)は鎌倉までコンサートを聴きに行ってきました。

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幻の楽器 バリトン 〜エステルハージー・アンサンブル日本公演〜

ただでさえ珍しいバリトンという楽器のコンサート、しかも、ハイドン好きの皆さんならご存知Brillant Classicsからリリースされているハイドンのバリトン三重奏のみならずバリトンに関する全作品を録音したあのエステルハージー・アンサンブル(Esterházy Ensemble)の来日公演ということで、ただならぬ期待感を伴いチケットを取ってあったもの。この来日公演は全国8都市で行われるもので、この日の鎌倉のコンサートが初日。(当初9都市と記載しましたが8都市の誤りでしたので修正しました)

バリトン三重奏のコンサートは、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン草創期の2006年、東京国際フォーラム地下の相田みつお美術館で開催されたコンサート以来2度目。この時のコンサートでは、バリトンがフィリップ・ピエルロ(Philippe Pierlot)、ヴィオラがフランソワ・フェルナンデス(François Fernandez)、チェロはライナー・ツィパーリング(Rainer Zipperling)のコンビで、バリトントリオ3曲(Hob.XI:101、XI:66、XI:97)を聴きました。この時にバリトンの実に不可思議な響きを生で体験しましたが、音の出る構造まではよくわかりませんでした。今回はコンサートの休憩明けに実際に音を出しながらバリトンという楽器の説明を間近で聴き、その仕組みも非常によくわかりました。

コンサート会場は鎌倉駅から歩いて10分ほどのところにある佐助サロンという普段は結婚式などに使われる場所。駅からちょうど御成小学校の裏手にあたります。ネットでチケットを取ってネットの地図を頼りに場所を探しますが、場所はわかるものの、入り口がわかりません。しばらくウロウロしている間に隣にある古い洋館をチェック。

鎌倉は学生時代の1985年の夏に神奈川県の文化財調査で洋風近代建築の調査に参加し、真夏に通った懐かしい場所。その古い洋館とは佐助サロンのすぐ隣に建つ駒木邸(旧明治製糖の相馬清邸)。私が実測調査と図面作成を担当しました。当時は広々とした庭だった場所にも家が建ち、敷地は原型をとどめませんが、洋瓦葺きの屋根や手摺子付きのバルコニーなど建物の特徴的な部分は残っているのがわかりました。34年ぶりの訪問で、酷暑の中調査をした日々が懐かしく思い出されます。

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コンサート会場と思われるあたりをうろうろしていると、コンサートのお客さんと思われる人が案内されてきたのについて行き、こちらも鎌倉市の景観重要建築物等である笹野邸に入ります。ついていくまま広大な庭を横切って、敷地内の西のはじに建つ新しい建物が佐助サロンでした。

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入り口は敷地の西側にありました。早めに来た際には看板などが出されていなかったので素通りしたということでした。

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開演30分前に開場。中に通されると、広い庭が一望できるガラス張りの明るい部屋。窓越しに通ってきた庭の新緑と笹野邸が望める素晴らしい会場。

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ステージにあたる場所にはすでにバリトンが置かれていました。自由席だったのでバリトンの指使いを見るべく、左側の一番前に陣取ります。

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しかもバリトンの後ろの花瓶が置かれた台の上には長短2本の弓も置かれていました。

会場は60人ほど入るとのことですが、開演時間にはほぼ満席です。エステルハージー・アンサンブルのメンバーは下記の通りでBrilliantの21枚組のCD録音時と変わりません。

バリトン:ミヒャエル・ブリュッシング(Michael Brüssing)
バロックヴィオラ:アンドラーシュ・ボリキ(András Bolyki)
バロックチェロ:マリア・ブリュッシング(Mária Brüssing)

プログラムはもちろんハイドンのバリトン三重奏曲が4曲と、間に2曲他のものが挟まる構成。メンバーが入場すると、主催者からの挨拶があり、演奏が始まります。

ハイドン バリトン三重奏曲ニ長調(Hob.XI:39)(Adagio - Allegro - Minuet)
ステージには左からバリトン、ヴィオラ、チェロという順に並び、入念にチューニングを行います。バリトン奏者のミヒャエル・ブリュッシングさんは目の前1メートルで演奏するのでバリトンの音色が鮮明に聴こえます。チェロの太い音色とは明確に異なり、チェロよりやや金属的な細身の音が特徴ですが、耳を澄ますとほのかに開放弦による付帯音が伴います。バリトンはエンドピンがなく、両足に挟んでの演奏。チェロもエンドピンがないバロックチェロ。バリトントリオはバリトンという楽器を愛好していたニコラウス・エステルハージー侯爵が演奏するために書かれた曲ということで、技巧を凝らしたものというよりも練習曲のような雰囲気なのはご存知の通り、バリトンの実に不思議な音色がアンサンブルの中でも際立ちます。
プログラムによればこの曲はニコラウス侯の洗礼日に作曲されたものとのことですが、手元の所有盤リストにはこの曲の録音はエステルハージー・アンサンブルの録音1種のみという貴重な曲。1楽章の穏やかなメロディーは今日でもハンガリーではニコラウス侯の歌として知られているとのこと。
続くアレグロは、躍動感ある舞曲。比較的音域の近い3つの楽器が交互奏でるアンサンブルにより、微妙な音色の違いが強調されて聴こえます。三重奏の高音部がヴィオラではなくヴァイオリンだと、ヴァイオリンパートが目立ってしまうのでしょう。バリトントリオがバリトン、ヴィオラ、チェロであるということが実際に間近で聴いて納得できた次第。
そして、ハイドンの真骨頂のメヌエット楽章。曲によって全く異なる聴かせどころを持つのはご存知の通り、この曲ではシンプルな構成にも関わらず、実にコミカルなメロディーを軸に展開する音楽に頬が緩みます。最後の一音が終わった後ももバリトンの開放弦の共鳴音がリアルに聴こえることがよくわかりました。この日初めてバリトンの音色を聴いたお客さんも少なくなかったでしょう。この不思議な音色のアンサンブルに拍手喝采。

1曲めが終わったところでブリュッシングさんがステージ裏の窓を開けます。締め切っていた会場に心地よい風が入り、実に爽やか。

A.I.トマジーニ バリトン三重奏曲12番 イ長調(Hob.XI:96)(Allegro Spiritoso - Adagio - Rondo Allegretto)
ハイドン率いたアイゼンシュタットの楽団のコンサートマスターを務めたトマジーニ(Aloisio Luigi Tomasini)の作品。トマジーニは24曲のバリトン三重奏曲を書いているそうで、その中の1曲。1楽章は快活なイタリア風の明るい曲。ヴィオラとチェロの刻む速いリズムに乗って、バリトンがメロディーを奏でます。解説にはトマジーニがロッシーニの作風を先取りしてしているとの記載がありますが、まさにロッシーニのような輝かしさを感じさせます。音数はハイドンの曲よりもはるかに多いものですが、曲の構成の面白さはハイドンの曲の方に分があります。2楽章に入るとバリトンがメロディーを歌いますが、独特の音色とかすかに響きを加えるバリトンの開放弦の余韻が実に心地よい。これは録音ではなかなかわからないかもしれません。3楽章はメヌエットのように中間部のあるロンド。中間部で短調に変わりますが、その表情の変化が聴きどころ。この中間部でバリトンの開放弦をつまびくソロが初めて入り、バリトンの不思議な響きが会場に響きわたります。ハイドンとの作風の違いが興味深いですね。

ハイドン バリトン三重奏曲ロ短調(Hob.XI:96)(Largo - Allegro - Menuet)
ハイドンが書いた膨大なバリトントリオの中でも2曲しかない短調の曲。この曲は録音も手元に11種ある有名曲。この曲からバリトンの弓を長い方に変えます。冒頭から憂いに満ちたメロディーが印象的。録音で聴くとメロディーラインに耳がいきますが、眼前の演奏ということで、ハーモニーの精妙さを存分に味わえます。特にバリトンの不思議な音色が醸し出す独特の雰囲気があってこそこの曲のメロディーの美しさが際立ちます。深く沈むメロディーはこのバリトンという楽器で奏でることでこの深さを感じさせるのですね。1曲目と同様2楽章に速い楽章を置いた構成ですが、この楽章は短調のために影のある不思議な躍動感。そしてメヌエットにも陰りを感じさせます。微妙な陰影の濃淡の表現が見事。

これで前半が終了して休憩に入ります。窓を開けると外の音が気になるかというと全く気にならず。天気にも恵まれ、窓の外の新緑が非常に美しいですね。音楽は締め切ったホールで聴くことが多いですが、バリトンの音色を聴きながら爽やかな風と外の緑を楽しめるというのも悪くありません。休憩中お客さんはステージに置かれたバリトンの周りに集まり、しげしげと眺めたり写真を撮ったりと興味津々。

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休憩後は、ブリュッシングさんから解説がありました。ニコラウス侯がバリトンを愛好し、ハイドンがバリトントリオを作曲した経緯やバリトンという楽器が現存数もレプリカも少なく非常に貴重なものという話は私はもちろん把握済み。また、アイゼンシュタットでハイドンやニコラウス侯がバリトンを弾いていた部屋は、この日のコンサート会場とほぼ同じ大きさだったというのも興味深い話でした。

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そして特に興味深かったのは、ネックの裏側に張られた開放弦がニ長調で響くように調弦されているということで、実際に表の弦を弓で弾いた時に、開放弦の共鳴の仕方が全く異なること。開放弦の響く音量は表の弦の音でかなり異なり、バリトントリオの多くがニ長調で作曲されている理由がわかりました。また、今回のツアーでは高温多湿の日本での演奏を考慮して、通常は表の弦はガット弦を張るところ、シルクの弦にしていること、裏側の開放弦はチェンバロ用の弦を張っているとのことでした。アンサンブルの中で響く音だとイマイチわかりにくい繊細な部分まで仕組みが実によくわかりました。

ブリュッシングさんの解説を聴いて会場のお客さんもバリトンという楽器のことがわかり、リラックスしたよう。

ハイドン バリトン三重奏曲ニ長調(Hob.XI:35)(Adagio - Allegro di molto - Menuet)
休憩後は再びハイドンの曲。この曲はエステルハージー・アンサンブルの他には1種しか録音がない希少な曲。1楽章はパストラール・シチリアーノ。ヴィオラとチェロの奏でるピッチカートに乗ってバリトンが牧歌的なメロディーを奏でていきます。後半の民謡風な部分もバリトンの特別な音色によって面白さが際立ちます。2楽章は快活な舞曲。奏者も前半よりも演奏に馴染んできたようで、音楽の生気がアップ。そして3楽章のメヌエットは中間部が全パートが同じメロディを弾くという非常に変わった構成。ハイドンのアイデアは尽きません。弦楽四重奏もそうですが、1曲として同じアイデアの焼き直しがなくそれぞれの曲ごと様々に創意を凝らしてきます。

モーツァルト/J.S.バッハ アダージョとフーガ(KV404a)
モーツァルトがフーガを研究した際にバッハの曲に自作の曲を加えて書いた曲とのこと。それをバリトントリオに編曲した曲。モーツァルト風に華麗に展開するかと思いきや、バッハに近い雰囲気の曲でした。ハイドンは楽器の音色が活きるようにに曲を書いているのはみなさんご存知の通り。このバリトンという楽器に合わせて編曲するのはなかなか大変なことでしょう。

ハイドン バリトン三重奏曲ニ長調(Hob.XI:118)(Allegro - Menuet Allegretto - Finale Presto)
最後の曲も、エステルハージー・アンサンブルの他にはクイケン兄弟のフラウト・トラヴェルソによる演奏しか録音がない希少曲。解説によると狩がテーマの曲のようです。この日のプログラムのハイドンの曲では唯一2楽章にメヌエットが配された曲。1楽章はこれまでの曲よりも構成が巧みになり、各パートのメロディーの受け渡しも多くなります。ニコラウス侯のバリトンの腕前の向上を踏まえたものでしょうか(笑) 2楽章のメヌエットは中間部での変化があまりない短いもの。そしてフィナーレも短く狩の後の宴を想起させる音楽とのこと。最後の曲が終わるともちろん皆さん、拍手喝采。暖かい拍手に笑顔でメンバーの表情が印象的でした。

アンコールはヴィオラを弾くアンドラーシュ・ボリキさんの曲。ヴィオラの美しいメロディーが会場に響き渡りました。

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コンサートの終了後はブリュッシングさんがバリトンについて質問に答えてくれるということで、終了後も和やかにお客さんと対話してくれていました。普段はコンサート後にサインなどもらうことはありませんが、この日は特別。プログラムに3人のサインをもらい、ブリュッシングさんと事務局の方に当ブログの宣伝もしておきました(笑)

この日のコンサートはまさに貴重な経験。コンサートのタイトル通り「幻の楽器」であるバリトンのことがかなりわかってきました。エステルハージー・アンサンブルによるハイドンのバリトン三重奏曲全集は愛聴盤ではあり、よく聴いていますが、たまに鳴らされる開放弦の響きと、燻らせたような特殊な音色が特徴だと思っていました。今回のコンサートで、燻らせたような特殊な音色とは、弓で弾く弦の音色のみならず、その音に共鳴する裏側の開放弦の響きの乗り具合で変化する付帯音にもあることがわかりました。帰ってBrilliantのCDを音量を上げて聴くと、まさに微かに響く共鳴音が聴こえるではありませんか! いつもそこそこ小さい音量で雰囲気を楽しむような聴き方が多かったんですが、実際は少人数の小さな部屋で演奏して楽しむのがこれらの作品ということで、こうした室内楽こそ少し音量を上げて、自分で演奏しているくらいのリアリティで聴いて初めてわかることもあるのだと今更ながら再発見。美しいロケーションでのコンサートだったことも含めて鎌倉まで参上した甲斐がありました。



このコンサートはエステルハージー・アンサンブル日本公演実行委員会というところが企画し、日本オーストリア友好150周年記念事業としてオーストリア大使館、オーストリア文化フォーラムの後援のもと開催されたもの。この貴重な機会を設定いただいたご苦労に感謝です。この後6月4日(火)は東京小金井、5日(水)は浜松楽器博物館、6日以降は九州各地で開催されます。ご興味のある方は是非お出かけください!



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ブラウティハムのハイドン&ベートーヴェン(トッパンホール)

5月15日はチケットをとってあったコンサートに出かけました。

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トッパンホール:ロナルド・ブラウティハム(フォルテピアノ) ―ワルトシュタインを弾く

ハイドン愛好家にはお馴染みのロナルド・ブラウティハム。スウェーデンのBISレーベルからフォルテピアノによるハイドンのソナタ全集をリリースしており、古楽器による演奏ながら現代ピアノに近い力感を感じさせる演奏が印象に残っています。記事には3度取り上げていますが、それも直近でも2012年と7年も前のこと。

2012/04/02 : ハイドン–ピアノソナタ : ブラウティハムの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」
2010/10/04 : ハイドン–協奏曲 : ブラウティハムのピアノ協奏曲集2
2010/10/03 : ハイドン–協奏曲 : ブラウティハムのピアノ協奏曲集

そのブラウティハムが来日してハイドンを弾くということで、私としては聴かないわけにはいかないコンサートということでチケットをとってあったもの。プログラムは下記の通り。

ハイドン:ピアノソナタ変ホ長調(Hob.XVI:49)
ベートーヴェン:ピアノソナタ第3番ハ長調(Op.2-3)
 <休憩>
ハイドン:ピアノソナタ変ホ長調(Hob.XVI:52)
ベートーヴェン:ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」ハ長調(Op.53)

ハイドンとベートーヴェンのソナタを交互に4曲並べたものですが、これが非常によく考えられた選曲なんですね。

最初のハイドンのXVI:49が1789年から90年にかけて作曲されたものでハイドンのソナタの完成度が頂点を迎えようとしていた頃の作品。続くベートーヴェンの3番(Op.2-3)は1793年から95年にかけて作曲されましたが、Op.2の3曲はベートーヴェンが1792年にウィーンに出向いてハイドンに教えを受けた後に書かれたもので、3曲まとめてハイドンに献呈されたもの。いわばハイドンの音楽の影響を受けたベートーヴェンがそれに応えた回答。そして後半のハイドンのXVI:52は、ベートーヴェンが3番を書いていた頃、ヨーロッパの楽壇の頂点に上り詰め、第2回のロンドン旅行に出かけていた1794年から95年にかけてロンドンで書かれたハイドンのソナタの頂点。そして最後のワルトシュタインはベートーヴェン中期の傑作としてハイドンが最後の弦楽四重奏曲を未完のまま筆を置いた1803年から翌4年にかけて書かれたもの。ハイドンの2曲にもハイドン自身の飛躍が明らかに刻まれ、ベートーヴェンも同様。そしてそれぞれが互いに影響しあって、ハイドンが形式を完成させた古典期のクラヴィーアソナタをベートーヴェンが打ち砕くように発展させていく現場を一夜にして俯瞰できるようにした見事なプログラムといっていいでしょう。

ハイドンのソナタ全集とベートーヴェンのソナタ全集を録音したブラウティハムには、この偉大な2人の作曲家のこのころの火花散るように刺激しあっていたことが克明に見えたのでしょうね。

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いつものように少し早めにホールに着いたので、2階の「小石川テラス」で一休みしてからホールに向かいます。ここはゆったりできるのでお気に入りです。

約400席のホールは満員。この日の席は中央通路の少し前の右側。鍵盤楽器のコンサートは奏者の表情が見える右側の席がお気に入りです。定刻を少し過ぎてホールの照明が落ち、ブラウティハムが登壇。写真の印象通り、シルバーヘアの大柄な人。客席に向かって軽く会釈し、座るとすぐにハイドンの演奏に入ります。

コンサートの1曲めということで、まずは指慣らしのように意外と淡々とした演奏。録音の印象からするともう少しダイナミックで推進力がもう少しあったかしらなどと思いつつ聴き進めましたが、そんな中でも速いパッセージの音階の鮮やかさや大柄なブラウティハムの刻むリズムのキレの良さを感じさせるもの。プログラムによると楽器は2002年、ポール・マクナルティ作のものでアントン・ワルターの1800年モデルのレプリカ。ハイドンのソナタ全集で使用した楽器と音色は非常に似ていますが、同じポール・マクナルティ作のワルターのレプリカでも1795年モデルのレプリカでした。この楽器、絶対音量はともかくピアノに近いスケール感を感じさせる音量レンジがあります。ブラウティハムは譜面を見ながらの演奏ですが、驚いたのは自分で譜面をめくりながら演奏すること。繰り返しの部分で左手でページをさらりと戻すところなど、見事な譜捌き(笑)。そして演奏の揺るぎない安定感は流石一流どころ。フレーズごとに非常に丁寧にデュナーミクをコントロールしていながら、さりげなくこの曲のかっちりとした構成感を踏まえて軽々と弾き進める姿にホール中の視線が集まります。楽章の切れ目も間をおかず、さらりと次に入ります。2楽章のアダージョ・エ・カンタービレに入ると集中力が一段アップ。ホールに響き渡るフォルテピアノの美しいメロディーに酔いしれます。高音から低音まで音色が見事に揃い、そして繊細な響きは楽器に加えてブラウティハムのタッチのなせる技でしょう。特に弱音部の響きの美しさは絶妙。そしてフィナーレでは音階のタッチの軽やかさが見事。鍵盤のフリクションが軽いことで、音階はそよ風のごときしなやかな表情を持つことがわかりました。ただ、このハイドンでの軽やかさは前座でした。

続くベートーヴェンの3番はピアノでしか聴いたことがありませんでしたが、ピアノで聴くのとは全く異なる印象。一音一音の粒だちではなく一連の音符が流れるように線で聴こえてくるでありませんか。それもハイドンより複雑で音数の多い楽譜になって、音階の流れるようなタッチがさらに活きてきます。ブラウティハムはこの曲でも軽々と演奏していきますが、集中力はもう一段アップしてホール内がブラウティハムの紡ぎ出す音楽に完全にのまれます。この前のOp.2の1番と2番はよりハイドンのソナタに近い曲の作りですが、この曲によってベートーヴェンがハイドンの教えの殻を破ったことが、ハイドンの曲と並べて聴くことでよりハッキリとわかります。ピアノでの印象が強かった曲ですが、ブラウティハムの演奏、この時代の楽器で聴くことで、曲自体の位置付けも変わりました。ハイドンに比べると、より自在に、時に暴走するように展開するベートーヴェンの音楽が自然に心に入ってきます。この曲の刷り込みはケンプ。2楽章はケンプのしなやかなタッチによるピアノの磨かれた響きと比べてしまいますが、フォルテピアノだとメロディーラインよりも全体の響きの美しさに耳がいきますね。ブラウティハムは見事な弱音コントロールでこの楽章をこなします。スケルツォでフォルテピアノのダイナミクス一杯に使ったタッチを堪能。そしてフィナーレは形式的な美しさを極めたハイドンに対し即興的に展開するベートーヴェンの面白さが際立ちます。前半でハイドンとベートーヴェンの違いをハッキリと印象づけました。

休憩を挟んで、後半に入ります。後半の1曲めはハイドンのXVI:52。ハイドンのソナタの頂点たる曲です。コンサートでは昨年、ポール・ルイスのストイックなど迫力の名演を聴いています。ブラウティハムは前半よりさらに集中力がアップし、このハイドンは完璧な演奏。ハイドンのソナタの頂点にふさわしく楽器のキャパシティをフルに使ってメロディーの美しさ、構成の面白さ、美しく繊細なハーモニー、そして頂点にふさわしい風格を披露。息を呑むような至福のひとときでした。張り詰めた緊張感の糸が切れることなく、このソナタを演奏し終えた瞬間は、ハイドンという作曲家の成し遂げたものの大きさを感じる幸せな時間でした。

そして最後は今回のコンサートの目玉、ワルトシュタインですが、これが凄かった。速いパッセージの連続というか嵐のように音符が駆け巡る曲だからこそ、ブラウティハムはまるでビロードのように滑らかに、いともたやすく弾きこなしていきながら、うねるように大きな視点で曲をまとめ上げていく至芸。あまりのタッチの鮮やかさに目もくらむよう。展開の多彩さといい音数の多さといい、ハイドンのソナタとは次元の違う領域にベートーヴェンが到達したことを思い知らされるよう。そして、有名な2楽章は一つのテーマを執拗に繰り返していきながら陶酔の極致に至る長大なドラマを演じ切ります。ハイドンの粋な展開とは真逆の一点集中型の追い込みによる迫力は、ハイドンの時代の粋や華麗さや典雅さとは異なる領域に音楽を進めました。このワルトシュタインもピアノの印象が強かったんですが、ブラウティハムの演奏によって、フォルテピアノの軽やかな音階による演奏でこそ、音のながりとハーモニーが大局的な音楽の構成をより鮮明に浮かび上がらせることを確信しました。最後の一音が鳴り止まぬうちに盛大な拍手に包まれ、この日のコンサートが類い稀なものであったことをお客さんが共有することとなりました。

ブラウティハムが何度かカーテンコールに応えて、アンコール。ブラウティハム自身が悲愴ソナタのアダージョと話して演奏。テクニックが優ったワルトシュタインに対して、濃密な詩情を聴かせる選曲でした。もちろん拍手喝采に包まれる見事な演奏を楽しみました。

このコンサート、「キング・オブ・ザ・フォルテピアノ」と呼ばれているブラウティハムの凄さをまさに実体験した貴重な経験になりました。演奏の見事さもさることながら、このプログラムは見事。曲が生まれる時代を俯瞰し、そして2人の偉大な作曲家のしのぎを削る創作の現場を垣間見るような気持ちになる実によく考え抜かれたもの。幸せな気分に浸りながら帰途につきました。

またの来日を楽しみに待ちたいと思います。



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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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十字架上のキリストの最後の七つの言葉ショスタコーヴィチ驚愕シェーンベルク悲しみオックスフォード交響曲75番チェロ協奏曲ホルン協奏曲古楽器時計弦楽四重奏曲Op.50アンダンテと変奏曲XVIII:6弦楽四重奏曲Op.64弦楽四重奏曲Op.20弦楽四重奏曲Op.54天地創造レスピーギヴォルフリゲティヨハン・シュトラウスリヒャルト・シュトラウスタリスモーツァルト軍隊交響曲10番ピアノソナタXVI:49交響曲54番迂闊者ネルソンミサバリトン三重奏曲ベートーヴェンピアノソナタXVI:52交響曲2番ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:46皇帝日の出弦楽四重奏曲Op.71ブルックナー交響曲88番ベルリオーズナッセンバッハウェーベルンベンジャミンヴァレーズメシアングリゼーシェルシOp.20弦楽四重奏曲交響曲9番交響曲65番交響曲67番弦楽四重奏曲Op.76交響曲73番交響曲39番狩り交響曲61番リームアンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:6ピアノソナタXVI:48四季交響曲全集リムスキー・コルサコフラヴェルピアノソナタXVI:44ピアノソナタXVI:45ピアノソナタXVI:21ピアノ三重奏曲第九ヒストリカル太鼓連打交響曲99番ボッケリーニロンドンシューベルト交響曲5番チャイコフスキーストラヴィンスキーライヴピアノ協奏曲XVIII:11弦楽四重奏曲Op.2序曲ヴィヴァルディオペラ序曲アリア集パイジェッロピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6すみだトリフォニーホールピアノソナタXVI:34ブーレーズサントリーホール弦楽四重奏曲Op.74変わらぬまこと哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェアルミーダ騎士オルランド無人島チマローザ英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:1ピアノ協奏曲XVIII:4ピアノ協奏曲XVIII:3交響曲3番交響曲79番アレルヤラメンタチオーネチェロ協奏曲1番交響曲58番交響曲27番交響曲19番紀尾井ホールドビュッシーミューザ川崎協奏交響曲オーボエ協奏曲LPヴァイオリンとヴィオラのためのソナタピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:38ピアノソナタXVI:29スタバト・マーテルピアノソナタXVI:39マーラー告別交響曲90番交響曲97番奇跡交響曲18番ひばりフルート三重奏曲交響曲102番交響曲86番ヴァイオリン協奏曲哲学者ニコライミサ小オルガンミサミサブレヴィス交響曲95番交響曲93番交響曲78番ピアノソナタXVI:23王妃武満徹SACDライヴ録音交響曲80番交響曲81番交響曲21番マリア・テレジアクラヴィコード豚の去勢にゃ8人がかりBlu-ray東京オペラシティ交響曲11番交響曲12番交響曲4番交響曲15番交響曲1番交響曲37番ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:3ピアノソナタXVI:1ディヴェルティメント東京芸術劇場交響曲98番ピアノソナタXVI:35ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:36ドニぜッティロッシーニライヒャ弦楽三重奏曲東京文化会館フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:31ピアノソナタXVI:26バードアレグリパレストリーナモンテヴェルディ美人奏者交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンスコットランド歌曲ヴェルナーガスマンピアノソナタXVI:24交響曲51番交響曲46番交響曲35番DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3ラ・ロクスラーヌ帝国ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51五度ラルゴラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.1騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス交響曲42番時の移ろいベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏冗談ナクソスのアリアンナピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2ロンドン・トリオオフェトリウムドイツ国歌モテットカノンよみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難交響曲84番パリセットベルク主題と6つの変奏オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41交響曲57番交響曲68番リラ・オルガニザータ協奏曲交響曲50番交響曲89番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師オルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲77番交響曲34番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生ピアノソナタXVI:11音楽時計曲ピアノソナタXVI:47bisピアノ小品カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7天地創造ミサジャズ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ベトナム料理国立新美術館高音質CD交響曲28番交響曲13番交響曲62番交響曲107番交響曲108番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽ピアノソナタ

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