【新着】イヴァン・イリッチのピアノによる交響曲集(ハイドン)

しばらくメジャー系のアルバムを取り上げていましたが、そろそろマイナー系が恋しくなってきました(笑)

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イヴァン・イリッチ(Ivan Ilić)のピアノによる、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、75番、44番「悲しみ」の3曲を収めたアルバム。収録は2019年2月28日から3月2日にかけて、イングランドのロンドン北西の海沿いの街、サフォーク(Suffolk)のポットン・ホール(Potton Hall)でのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

ハイドンの交響曲をピアノで演奏したアルバムは、今までにも何枚か聴いていますが、いずれも2楽章など単一楽章を演奏したものばかり。ハイドンのピアノソナタ全集を録音した、ヤンドーやデルジャヴィナなどのものが知られていますが、4楽章をフルにピアノで演奏したものを聴くのは私ははじめて。確認のため所有盤リストを検索してみると、やはり手元にはありませんでした。収録曲も、オックスフォードや悲しみなどよく知られた曲に混じって75番という超マイナー曲が含まれているのが気になります。ということで、これは非常に珍しいアルバムであると言っていいでしょう。

演奏してるイヴァン・イリッチもはじめて聴く人。それもそのはず、このアルバムが彼の5枚目のアルバムで、前4枚はゴドフスキー、モートン・フェルドマン、アントン・ライヒャなど知る人ぞ知る作曲家の作品を再発見に近い形で取り上げるというコンセプトのアルバムばかりです。今回リリースされたのは、作曲家こそメジャーなハイドンですが、名曲の宝庫であるソナタではなく、これまた知る人ぞ知る、交響曲のピアノ版という超変化球を投げてきました。この人、相当マニアックです(笑)

そのピアノ独奏版への編曲(トランスクリプション)は、ドイツの音楽家カール・ダーヴィト・シュテークマン(Carl David Stegmann)によるもの。シュテークマンはハイドンより19歳若く、1751年の生まれで、テノール歌手、オルガン奏者、指揮者、作編曲家として活躍した人とあります。そしてこのアルバムの3曲は全曲世界初録音とのこと。

このような編曲が行われた背景がライナーノーツの触りに記載されていました。ハイドンが活躍していた時代には録音もラジオもなかったため、音楽愛好家にとって曲を知ったり深く理解する唯一の方法は原曲をメロディーやハーモニーをほぼそのまま他の楽器、例えば多くの人が演奏できるピアノ向けに編曲して演奏することがだったとのこと。当時ヨーロッパで絶大な人気を誇ったハイドンの交響曲がピアノ独奏版に編曲されるニーズがあったのは想像に難くないでしょう。現在では数多の録音が流通しているため、こうした原曲のまま他の楽器に移し替えるというニーズはなくなりつつありますが、そうした背景を知ってこの録音を聴くことで、このピアノ独奏版の交響曲という特殊な演奏の深みを味わうことができそうです。

と、ここまで書いて思い出しましたが、そういえばデニス・ラッセル・デイヴィスと滑川真希の連弾による天地創造と四季のアルバムをだいぶ前に取り上げましたね。

2010/09/13 : ハイドン–オラトリオ : ピアノ連弾による四季と天地創造2
2010/09/12 : ハイドン–オラトリオ : ピアノ連弾による四季と天地創造

かなり前のことゆえうろ覚えでしたが、確認してみると、こちらはだいぶ時代が下って、ツェムリンスキーが編曲したものということで、背景は異なるものでした。

さて、肝心の演奏です。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
CHANDOSがよく使う録音会場だけにピアノの響きの艶やかさが印象的な録音。交響曲の充実した響きと比べてしまいがちですが、ピアノという単一の音色の楽器にしてはニュアンスが多彩で、フレーズごとに音楽がスルスルと流れていく快感が味わえます。曲はよく知っている曲だけに、その響きのエッセンスをトレースするように聴こえてきました。音量を少し上げて聴くと迫力も十分。脳内でオケの響きを想像しながら聴くようになり、なんとなくオーケストラ版を聴くよりも脳が活性化する感じ(笑) 表情が豊かなので、聴きごたえ十分。
かっちり多彩な1楽章に続いて、2楽章のカンタービレ。この美しいメロディーはピアノに合いますね。中間部の重量感こそないものの、メロディーラインのひらめきを純粋に味わえるというメリットがありますね。
意外にしっくりきたのがメヌエット。ピアノのキレの良さが曲本来の軽快な印象を浮かび上がらせます。トリオのしっとりとした表情もしっかり対比が効いていて効果的。メヌエットのメロディーと構成の美しさを再認識。
そして、有名なフィナーレ。どうしても脳内には朝比奈隆盤の夢見心地で弾む入りのメロディーが浮かびます。イリッチはリズムをキリリと引き締め、畳み掛けるようにきっちりと音を重ねていきます。やはりここはハイドンのフィナーレの見事な構成感を浮かび上がらせたいのでしょう。オーケストラよりもリズムが明快なのは鍵盤楽器ならではのこと。展開の妙を見事な指捌きで落ち着いて仕上げてくるあたり、やはりテクニックは万全。全く破綻なく最後まで推進力を保つところも見事。

Hob.I:75 Symphony No.75 [D] (before 1781)
序奏のシリアスな陰影と主題に入ってからのメロディーの展開の面白さが、この曲を選んだ理由でしょうか。リズムのキレは前曲の終楽章から変わらず、推進力抜群。なんとなく気づいてきたんですが、この人、強音でも音が全く濁らず、力みもありません。交響曲のスケールを音量で表現しようとすると力みそうなものですが、一貫してクールに攻めます。それはハイドン、すなわち古典の曲だからでしょう。この軽妙さと端正さがハイドンの面白さと知ってのことでしょう。1楽章は小気味良くまとめますが、それこそ狙い通りなんでしょうね。
2楽章は抑制を効かせて実に穏やかな表情が美しい。ハイドンの慈しみ深い穏やかな心情に触れるよう。変奏が進むにつれて、光が射し、表情に明るさが加わっていきます。メヌエットでも小気味良いタッチは健在。音を転がしながらメロディーを作っていく感じ。そのままさらりと終楽章に続き、軽やかに終わります。

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
一番気になっていた曲。あの濃密な曲想をどう料理してくるのでしょうか。1楽章の疾走するような入りは、軽やかと鮮やかなタッチで有無をも言わせぬしなやかさ! 響きは異なるもののこの曲独特の雰囲気をよく表現しています。そして意外にダイナミックな印象もあります。曲が進むにつれて入組む音符の多さと超絶技巧を要するような混濁を経ながら、落ち着いて仄暗い情感を表出していきます。いやいやこれは見事。時折指が絡まりそうになる瞬間がありますが、これがかえってスリリングでいいですね。
メヌエットはあえて淡々とした演奏で1楽章との対比をしっかり印象付けます。そして原曲では美しさの限りを尽くしたアダージョですが、ここも淡々としたままで、ちょっと驚きますが、逆に見透し良くハイドンの美しいメロディーが堪能できて結果的にイリッチにしてやられた感じ。じわじわと癒されていきます。
この曲のフィナーレは力強さと疾走感に包まれる名曲ですが、イリッチはその両方を見事に表現してきます。アルバムの最後にふさわしくぐっと踏み込んでクライマックスを築いてきました。いやいや見事!

イヴァン・イリッチによる、ハイドンの交響曲のピアノ独奏版世界初録音ですが、これは面白い! 実に玄人好みのアルバムで、演奏も見事。単にピアノで弾いたというレベルではなく、原曲のメロディーやハーモニーをなるべく変えないように編曲されたものを、ピアノという楽器の響きの特性を踏まえて、原曲の面白さとはちょっと違うところにしっかりとスポットライトを当て、しかも不自然でなく、また軽妙かつ端正なハイドンの音楽の本質をしっかりと踏まえたものになっています。ハイドン入門者向けとは言えませんが、色々聴いてきたハイドン通の皆さんにこそ聴いていただきたいアルバムだと言えるでしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。



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tag : オックスフォード 交響曲75番 悲しみ

【新着】クレンペラー/バイエルン放送響の「時計」正規盤(ハイドン)

先日虎馬さんから情報をいただいていたクレンペラーの「時計」ですが、ようやくアルバムが手に入りました!

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オットー・クレンペラー(Otto Klemperer)指揮のバイエルン放送交響楽団(Symphonieorchester des Bayerischen Rundfunks)の演奏で、ハイドンの交響曲101番「時計」とブラームスの交響曲4番を収めたCD。ハイドンの収録は1956年10月18日、19日、ミュンヘンのヘラクレスザールでのライヴ。レーベルはバイエルン放送響の自主制作、BR Klassik。

これまで、この演奏ははライヴ系のレーベルからいくつかのなどで知られていた演奏ですが、ご本家BR Klassikからようやく正規盤がリリースされたというもの。ただし、それらの演奏記録は1956年10月19日のライヴとうことですが、今回リリースされたものは前記の通り10月18日と19日というもの。果たして既発盤とどのような違いがあるのかが興味のポイントでしょう。

クレンペラーがバイエルン放送響を振ったのはオイゲン・ヨッフムの招きにより1956年4月のこと。その後1969年5月までの間にミュンヘンで11回のコンサートを振ったとのこと。このアルバムのライナーノーツの記載によれば、このアルバムのハイドンの録音は1956年10月18日、19日でマーラーの4番との組み合わせ。おそらくコンサート自体はこの2日間に行われたのでしょうが、録音が19日のものか、あるいは2日間の録音から編集されたものかはわかりません。

Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)
この演奏自体は流れの良い楷書体の立派な演奏で、後年のEMIのスタジオ録音とも別の良さがあります。1楽章はクレンペラーらしい雄大な感じがありながらもきびきびとスタイリッシュに進む快感が満ちています。自然に吹き上がるオケの魅力とこの1楽章の端正な造形美が両立する素晴らしい演奏。
続く時計のアンダンテはまさに中庸の美学。オーソドックスなのに彫りが深く、素晴らしい立体感。流石にバイエルン放送響、木管の巧さも絶妙です。そして展開部でオケのパワーを見せつけたかと思うと、音量を落として孤高な印象も残します。テンポをあまり動かさずにこれだけ表情の変化をつけるのは流石。
メヌエットはクレンペラーらしく豪快で堅固。リズムをあえて重くして、中間部の軽やかさを引き立てます。そしてフィナーレは1楽章のスタイリッシュさが戻ってきました。オケをグイグイ煽ってハイドンの書いた音楽が鮮やかに広がります。晩年テンポをかなり落とした演奏が多かったクレンペラーですが、この快速のフィナーレは痛快。これをナマで聴いたらさぞかし素晴らしかっただろうと想像してしまいます。いやいや見事。



さて、これまであんまり聴き比べ的なことはやってきていませんが、このアルバムの真価をを明らかにするためには聴き比べ的アプローチも必要ということで、聴き比べ情報も付記しておきましょう。

まずは比較対象を開陳。手元にはクレンペラーがバイエルン放送響を振った時計のアルバムがいくつかありますので、所有盤リスト掲載順に列記しておきます。

(1) (????) [8'26/9'08/7'35/4'22] DISQUES REFRAIN DR 910002-2 ※演奏日の記載なし
(2) (December 1950/Live) [8'12/8'53/7'23/4'14] Couplet CCD-3012 ※CD-R
(3) (18, 19 October 1956/Live) [8'20/8'53/7'25/4'23] BR KLASSIK 900717 ※今回のアルバム
(4) (19 October 1956/Live) [8'12/8'53/7'23/4'14] MEMORIES REVERENCE MR 2266/2277

また、以前謎めいたCouplet盤を取り上げた時にコメントをいただいたライムンドさんのブログよりGolden Melodram盤の記録を転記しておきます。
(5) (19 October 1956/Live) [8'10/8'44/7'18/4'10] Golden Melodram

タイミングだけみると(2)はタイミング的に(4)と一緒なので結局10月19日の演奏なんでしょう。しかも(2)のハイドン以外の曲が1950年10月の演奏なので、ハイドンの演奏日の誤記と考えるのが自然です。(5)のGolden Melodram盤もタイミング的には近いですね。楽章間の時間のとりかたでこの程度はずれるでしょう。(1)はどの楽章も一律に少し演奏時間が長いんですが、1楽章を何度か聞き比べると、ちょっと音程が低いような気がしないでもありません。テープ速度の問題でしょうか。(5)は実際に聴いていませんが、おそらくここにリストアップした演奏は同一の演奏のような気がします。

音質面ではこのBR KLASSIK盤が既発盤とどう違うのかが気になります。もちろん全てモノラルです。
(1)は書いた通り、少しテンポが遅く感じます。それゆえ雄大な感じもあり、音質は自然ではありますが高音が少し詰まって聴こえます。演奏の印象も雄大な感じが強くなります。
(2)が意外にもなかなかいい録音。今回色々と聴き比べてみると、繊細感とバランスがなかなかいい具合。
(3)の正規盤は(2)よりもさらに繊細でダイナミックですが、ヴァイオリンだけちょっと浮かび上がるようなところがあったりかすかに位相がずれているような微妙な違和感があります。色々加工して仕上げてきているような感じ。
(4)は精細感は劣るものの自然さは勝ります。低音が少しボンつく感じはありますが、ライヴ盤としては聴きやすい感じです。

ということで、今回リリースした正規盤もなかなかのところですが、音質面では一長一短で買い直し必須とまでは言い切れないところ。
ということで、当ブログの結論は下記の通り。

このバイエルン放送響とのライヴは絶品。評価は[+++++]。
クレンペラーファンの方は既発盤を含めて全部買う価値があります。既発盤を持っている方は音質面では無理して買い直す必要はありません。なお正規盤でなければ認めないというコンプライアンス意識の高い方で密かに既発盤を持っている方は、既発盤は投げ捨て、正規盤に買い換えましょう!

※ハイドンの演奏コレクターである私はGolden Melodram盤が欲しくなってきました(笑)





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tag : 時計

【新着】絶品! エンリコ・オノフリ/セビリア・バロック管の「悲しみ」(ハイドン)

8月中にもう1枚!

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エンリコ・オノフリ(Enrico Onofri)指揮のセビリア・バロック管弦楽団(Orquesta Barroca de Sevilla)によるハイドンの交響曲44番「悲しみ」などを収めたアルバム。収録はスペイン、セビリアのエスパシオ・サンタ・クララ(Espacio Santa Clara)でのセッション録音。レーベルはベルギーのPassacaille。

少し前に手に入れていたアルバム。「18世紀アンダルシアの葬送音楽」とタイトルがつけられています。その冒頭にハイドンの「悲しみ」が置かれていますが、気になるのは「セビリア大聖堂ヴァージョン」との注記。
これは、セビリア大聖堂の音楽監督を勤めていたドミンゴ・アルキンボ(Domingo Arquinbau)のサインが残る写譜にハイドンのオリジナルとは異なるダイナミクスとアーティキュレーションが書き込まれたもので、おそらく当時の実際の演奏に使われたものと思われるもの。
ライナーノーツの英文を紐解くと、ハイドンの音楽はイベリア半島にも広く伝わっており、コルドバ大聖堂にはハイドンの弦楽四重奏曲や交響曲の楽譜の写しが伝わっていたとのこと。セビリア大聖堂にも、この交響曲44番の他、52番、53番、82番、92番などが伝わってたとのことですが、1825年の大聖堂の楽譜リストにはこれらの記録は残っておらず、どのようにしてセビリア大聖堂に伝わったのかはわからないようですが、1814年、独立戦争終結時に英国軍司令官ウェリントン公爵がスペイン議会に送った楽譜類がアルキンボの手に渡ったものと考えられるとのこと。

ということで、このセビリア大聖堂ヴァージョンはハイドンが活躍していた18世紀にスペインでどのように演奏されていたかを知る手がかりとなるというわけです。

指揮のエンリコ・オノフリのアルバムは初めて聴きます。1967年イタリア、ラヴェンナ生まれのヴァイオリニストで、ミラノ音楽院出身。バロックヴァイオリンの名手として知られる人で、アーノンクールのウィーン・コンツェントゥス・ムジクスやジョルディ・サヴァールのオケなどで活躍した他、なんとアントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコのソリストとして活躍したとのこと。近年は自身で立ち上げた「アンサンブル・イマジナリウム」を率いる他、指揮者としても活躍していますね。ネットを検索してもこのアルバム以外にハイドンの録音はない模様です。

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
録音会場のエスパシオ・サンタ・クララはホールというよりは美術館のようなスペースのようです。残響は多めです鮮明さはあり、よく響く小さなホールでの演奏を間近で聴く感じの録音。古楽器による演奏ですが、アーティキュレーションは実に自然。ピノックのインテンポの演奏に近いタイトな演奏ですが、しなやかさもあり、キビキビとしたこの曲の魅力をしっとりとした雰囲気も加えて伝えます。アントニーニはまだこの曲を録音していませんが、アントニーニのエキセントリックに冴える感じまでは行かず、オーソドックスな古楽器演奏の魅力がポイントでしょう。ヴァイオリニストらしく、弦楽器が主体で管楽器は響きに色付けを乗せるような役割。
続くメヌエットも、弦楽器の美しい響きで音楽を作っていきます。響きが実によくコントロールされていて、音楽がマスとなって一体的に響きます。ハーモニーのバランスを非常に綿密にとっているのでしょう。
聴きどころは3楽章のアダージョでした! 実にしっとりとした音楽が流れてハッとさせられます。生成りの響きというか、これぞ古楽器の音色の魅力と唸らされます。つぶやくように音符一つ一つに神経を張り巡らし、語っていきます。なんとなく当時のスペインの聖堂で演奏しているイメージが浮かんでくるではありませんか。遠くウィーンから伝わった音楽がセビリアであたたかく響きわたります。当時の奏者の気持ちがわかるような気がします。至福のひととき。この楽章、どれだけ多くの人の心を癒したのでしょうか。沁みます。
一転、険しさを強調するように終楽章に入ります。弦楽器のボウイングの荒ぶる様子が素晴らしい迫力で迫ってきます。ここぞとばかりに攻めに入り、ハイドンの音楽の険しさを知らしめて曲を終えます。いやいや素晴らしい!

この後にはスペインの18世紀の音楽が4曲続きますが、どの曲も古楽の癒しに包まれる幸せな音楽。葬送音楽ではありますが、死に際して演奏される音楽の澄み渡る心境を堪能できる名曲揃いで、ハイドン以外も楽しめる素晴らしい選曲です。

初めて聴くエンリコ・オノフリのハイドンですが、これは絶品です。キビキビとした入り、磨き込まれたメヌエット、癒しに満ちたアダージョ、そして荒れ狂うフィナーレとこの曲の素晴らしさを存分に伝える名演奏と言っていいでしょう。この曲には名演奏が多いですが、私はイチオシとします。特にアダージョの美しさは深く心に残りました。評価はもちろん[+++++]とします。



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tag : 悲しみ 古楽器

【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第8巻(ハイドン)

淡々とリリースが続くこのシリーズ、8巻目になりました。このところリリースピッチが上がってきましたね。

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飯森範親(Norichika Iimori)指揮の日本センチュリー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲60番「迂闊者」、交響曲54番の2曲を収めたSACD。これで8巻目になります。収録は2017年8月11日、大阪のいずみほホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

順調に巻を重ねてきているこのシリーズ。当ブログではこれまでリリースされた8巻中、この記事を含めると6巻を記事にしています。過去の記事はリンク先をご覧ください。

2019/02/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第6巻(ハイドン)
2018/06/29 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第4巻(ハイドン)
2018/03/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第3巻(ハイドン)
2017/07/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)
2016/11/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)

このシリーズもライヴながら演奏、録音ともに非常に高い水準を保っていて、安心して曲を楽しむことができます。日本でのハイドンの素晴らしい音楽の知名度アップに大きく貢献しているだけに応援しなければなりません!

今回はシュトルム・ウント・ドラング期後の1774年頃に書かれた2曲を組み合わせた玄人好みの選曲。ハイドンの交響曲分野の前半の頂点は「告別」や「悲しみ」「受難」など踏み込んだ感情表現を持つ数々の名曲を生んだシュトルム・ウント・ドラング期にあることはご承知の通り。その後、交響曲の作風は大きく変わり、親しみやすくより明快な表現に変わっていきます。これは中野博詞さんの「ハイドン交響曲」によると、エステルハージ家や侯爵の好みを反映したことや、この頃からハイドンがオペラをはじめとする劇音楽に関心が移っていったことなどに起因するとされています。今回の2曲はまさにハイドンの交響曲の創作の転換を象徴する選曲になっているということで、実に興味深い選曲です。

Hob.I:60 Symphony No.60 "Il disrratto" 「迂闊者」 [C] (before 1774)
ハイドンは1773年に作曲・上演した歌劇「裏切られた誠実」"L'infedeltà delusa"以降、多くの歌劇を作曲するようになるなか、翌1774年にカール・ヴァール(Karl Wahr)一座がジャン=フランソワ・ルニャール作の喜劇「ぼんやり者」をエステルハーザで上演することになった際、ハイドンがこの劇の付随音楽として序曲・各幕の間の間奏曲4曲と終曲を作曲。これを交響曲の形にまとめたものがこの曲。ハイドンの交響曲では唯一6楽章構成で、交響曲というよりは劇音楽のような構成。
冒頭の序曲に当たるアダージョからホール内に心地よくオーケストラが響き渡ります。このシリーズの初期のリリースでは録音もばらつきがあり、ちょっと人工的なニュアンスもあったんですが、ここ数巻は安定してホール内の響きを非常にうまくまとめていますね。音量を上げて聴くとまさにホールで聴いているよう。主題に入ると快活なメロディーの魅力炸裂。金管を含めたオケの響きが非常によく溶け合い非常に自然。オケもアクセントとリズムがキレキレで血湧き肉躍る痛快な演奏。クッキリとコントラストがついて、特にティンパニのリズム感が尋常ならざるレベル!
続くアンダンテでは弦楽器がこちらもイキイキとしたフレージングで聴かせます。この日のオケはリズムが冴え渡りまくって、音楽が弾みます。時折テンポをぐっと落とすのも効果的。3楽章のメヌエットは流麗な力感と中間部の民謡風のメロディーの対比が見事。そして4楽章はまさに劇中音楽を交響曲のフィナーレにアレンジした感じで目くるめくように展開しますが、ここで終わらないのがこの曲。ちょっと唐突に美しいメロディーのアダージョが続きますが突如軍隊調のファンファーレが挟まります。このあたりの場面展開はまさにオペラのよう。終楽章は有名な音程が乱れた混沌とした響きをチューニングして正す場面がありますが、おそらく飯森さんの咳払いで注意を促すという演出に客席からも笑いが漏れ聞こえます。交響曲としてはおふざけにあふれた珍曲ではありますが、格調高い諧謔的な面白さもあり、ハイドンのユーモアを見事に浮かび上がらせた名演奏でした。このシリーズは拍手はカットされていますが、この曲は拍手があったほうが臨場感があったでしょう。

Hob.I:54 Symphony No.54 [G] (2nd version) (1776)
こちらも同じく1774年に書かれた曲。今まで知りませんでしたが、ザロモンセット以前では最大編成の曲とのこと。4楽章構成ですが、所有盤リストに演奏時間を登録する際に2楽章が19分33秒と異常に長いのに気づきました。この曲の他の演奏で一番長いのがファイの13分弱ということで、ぶっちぎりで最長になります。Wikipediaには「演奏時間も長く、全てのリピートを実行すると20分近くを要する」と記載されていることから、繰り返しを全て実行しているのでしょう。
1楽章は穏やかな曲調の序奏から入り、展開も穏やか平明。シュトルム・ウント・ドラング期のあの深い情感はもうありません。その代わり堅牢な構築感、気高い優雅さなどに満ちています。この急激な変化はやはり侯爵の好みの影響と考えるのが自然な気がします。演奏はこの堅牢さと気高さを十分に反映して、前曲のリズムのキレとは表現を変えてきて堂々たる響きを作って曲に合わせてきました。
続く長大な2楽章はハイドンには珍しいアダージョ・アッサイ。ヴァイオリンとオーボエによるしっとりとしたメロディーがゆったりと流れます。今まで地味な曲に聴こえていたこの楽章も、よく耳を澄ますとハイドンの創意が新たな次元に入った音楽のように聴こえてきました。メロディーに多くを語らせていた音楽から気配の描写のような時代を先取りした音楽を模索しているよう。この楽章、一貫して少ない楽器のハーモニーの美しさを際立たせようとするような繊細な演奏が素晴らしいですね。気配が伝わります。
ハイドンの交響曲の聴きどころはやはりメヌエット。創作の方向が変わったこの曲でもメヌエットの面白さは健在。メロディーと舞曲のリズムが織りなす音楽の面白さはハイドンならでは。中間部は癒しに満ちた音楽で箸休め。オケはメヌエットの面白さを再びキレキレのリズムで見事に表現しています。
フィナーレは1楽章を受けて気高く流麗な音楽。コントラストよりも軽快しなやかに演奏することで晴朗なハイドンの音楽の面白さが際立ちました。ここでもティンパニが効果的。めくるめくようなスリリングな展開でフィニッシュ。

いやいや素晴らしい! このシリーズ、当初は音というか響きを磨き込むような演奏と感じることもあったんですが、ここに至って、音楽をしっかりと彫り込み、ハイドンの創意の真髄に迫らんとする気合いを感じるようになってきました。交響曲の中ではマイナーな2曲ですが、これは見事。この2曲の魅力を再認識いたしました。ということで、評価はもちろん両曲とも[+++++]といたします。オススメです!

(追伸)
Haydn2009さん、ご入院とのこと。お大事に! 快癒されましたらまたオフ会やりましょう!

(追記)
毎日クラシックのcherbinoさんからご指摘いただきましたが、交響曲54番にはバージョンがいくつかあり、この演奏は1楽章に序奏があり、フルート、トランペット、ティンパニが加わっていることから1774年の後1776年に改定された第3版でした。所有盤リストの方はホグウッド盤の順番に合わせて整理してあり、ホグウッド盤では第3版を2nd versionとして記載されているため、リストもそれに合わせて変更しました。cherbinoさん、ありがとうございました!



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tag : 交響曲54番 迂闊者

アントニ・ロス=マルバ/オランダ室内管の交響曲2番(ハイドン)

こちらも最近入手したLP。

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アントニ・ロス=マルバ(Antoni Ros-Marbà)指揮のオランダ室内管弦楽団(The Netherlands Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲2番などを収めたアルバム。ハイドンの収録は1982年11月6日、アムステルダムコンセルトヘボウでのライヴ。レーベルはオランダ室内管の自主制作nko(Het Nederlands Kamerorkest)。

このアルバム、もちろん指揮者のアントニ・ロス=マルバ目当てで入手したもの。私はロス=マルバはお気に入り。ロス=マルバのアルバムは過去に3度取り上げていますので、まずは御一読下さい。

2015/02/15 : ハイドン–協奏曲 : イザベル・ファン・クレーンのヴァイオリン協奏曲(ハイドン)
2013/03/31 : ハイドン–協奏曲 : グラン・カナリア・フィルのトランペット協奏曲、2つのホルンのための協奏曲
2011/01/22 : ハイドン–管弦楽曲 : ロス=マルバ/カタルーニャ室内管弦楽団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

先鋭的な演奏も、流行の最先端も、火花バチバチの演奏も嫌いではありませんが、私の歳になると、豊かな響きでゆったりと歌う演奏の良さが身にしみてきます(笑) ロス=マルバの振るオケはまさにそうした豊かな音楽が溢れ出てくる演奏で、特にグラン・カナリア・フィルの演奏などは見事の一言。そのロス=マルバの振る未知のハイドンのLPをオークションで発見した時には、もちろん過呼吸な状態になり、速攻手に入れたのは言うまでもありません。到着して、所有盤リストに登録する際に色々調べてみると、極上の響きを誇るコンセルトヘボウでのライヴではありませんか。ということで、いつものようにVPIと必殺美顔ブラシで丁寧にクリーニングして、針を落としてみると、期待通りの素晴らしい響きが流れ出しました!

Hob.I:2 Symphony No.2 [C] (before 1764)
B面最初がハイドン。もちろんハイドンから聴きます。交響曲2番ということで、ごく初期のシンプルな曲。期待通り、1楽章は晴朗かつ愉悦感たっぷりの音楽が弾みます。そしてドラティを思わせるキレの良いフレージングも見事。初期のハイドンの交響曲の魅力が万全に表現されています。ロス=マルバの真骨頂は続くアンダンテ。適度に彫りの深い表情ながらほんのりと華やかさ香る演奏。シュトルム・ウント・ドラング期を予感させるかすかな翳りも重なり、実に味わい深い演奏に痺れます。最後にしっかりテンポを落とすマナーもいいですね。そしてフィナーレも華やかさを失わず、華麗に躍動。奏者がリラックスして実に楽しげに演奏しているのがわかります。短い曲ですが、お客さんからは暖かな拍手が降り注ぎ、この短い曲を心から楽しんだ雰囲気に包まれます。

この後に続くラヴェルの「クープランの墓」がまた絶品。ハイドンのレビューで取り上げたんですが、ラヴェルの気品に満ちたしなやかさに耳を奪われます。まるで詩情溢れる絵巻物を眺めるがごとき至福のひととき。ハイドンの華やかさもこのラヴェルの気品もスペイン生まれのロス=マルバの魔術にかかった奏者が完璧にリラックスして音楽を生み出していきます。A面のクリスティアン・バッハのシンフォニア(Op.18 No.2)は典雅の極み、リヒャルト・シュトラウスの「カプリッチョ」からの弦楽合奏はもはや夢の国。ロス=マルバという人、バトンテクニックというレベルではなく、奏者から自然で豊かな音楽引き出す魔術師のような人なのでしょう。

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アントニ=ロス・マルバ/オランダ室内管によるハイドンの交響曲は、独墺系の指揮者とは異なるハイドンの魅力を見事に引き出す素晴らしい演奏でした。ライヴにも関わらず極上の音楽が流れ、この日の聴衆もマルバの魔術に酔いしれたことでしょう。このアルバムも宝物になりました。評価は[+++++]とします。



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tag : 交響曲2番

ローター・ツァグロゼク/ベルリン・コンツェルトハウス管の88番(ハイドン)

先日読響を振ったコンサートでその真価に触れた、ローター・ツァグロゼク。コンサート会場で先行発売されていたCDを手に入れたものの、色々忙しくそのままになっておりましたが、当ブログによくコメントをいただくだまてらさんから記事にせよとの指令をいただきましたので、記事を起こすことに相成りました(笑)

だまてらさん、遅くなりました!

Zagrosek88.jpg
TOWER RECORDS / amazon

ローター・ツァグロゼク(Lother Zagrosek)指揮のベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(Konzerthausorchester Berlin)の演奏で、ブルックナーの交響曲9番とハイドンの交響曲88番の2曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は2007年5月5日、6日ベルリンのコンツェルトハウスでのライヴ。レーベルはAltus。

冒頭に触れた読響を振ったコンサートの記事はこちら。

2019/02/23 : コンサートレポート : 爆演! ローター・ツァグロゼク/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)

このコンサートはリームもブルックナーも素晴らしかったんですが、最も素晴らしかったのはツァグロゼクの指揮。ブルックナーは完全に暗譜でオケを緻密に先導し、指揮者の意図がオケの隅々にまで行き渡る見事なコントロール。クライバーの煽りとも、マゼールの魔法のタクトのような緻密さとも異なりますが、そのコントロール能力は両者以上とみました。まさに自身の体から湧き出る音楽がオケに乗り移ったような見事な指揮ぶりに圧倒され、そして、ブルックナーの7番も引き締まった実に見事な演奏でした。

そのツァグロゼクの来日に合わせてリリースされた2枚のアルバムのうちの1枚にハイドンの88番が含まれるということで、普段コンサート会場で売っているCDを買うことはありませんし、サイン会に並ぶ風習もないながら、これはちょっと気になるということで手に入れたもの。

ブルックナーの9番にハイドンの88番ということで、収録日の異なる2曲を合わせてありますが、通例ハイドンが先と思いきや、1曲目はブルックナー。これは予想通り、ツァグロゼクの面目躍如、緊張感みなぎる素晴らしいライヴ。精緻なコントロールで淀みなく流れ、深々とした弦の響きの美しさに圧倒される見事なものでした。一般の方はこちらがメインでしょう。

Hob.I:88 Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
ブルックナーの荘厳な終結のジワリとした拍手の後に、ハイドンの端正な音楽が新鮮に響きます。メロディーを軽やかつクッキリと浮かび上がらせる手腕は見事。ハイドンでもツァグロゼクの類まれなコントロールが活きています。キリリと端正ながら躍動感もあり、まさに王道を行く感じ。
一転して2楽章のラルゴは、癒しに満ちたコミカルさというこの曲の雰囲気を非常にうまく表現しています。一般的なしなやかな演奏とは異なり、ざっくりとした肌触りがあり、そのざっくりさが朴訥さを感じさせるところがユニーク。表現が適度な範囲に収まっているところが古典の範疇。
メヌエットは流石に手堅くまとめます。オケが気持ちよく吹き上がり、ここでも適度な表現が心地良いですね。メヌエットで攻めてくる演奏も多いですが、ここは攻めどころではないと見切っているよう。
もちろん、88番の攻めどころはフィナーレ。コミカルなメロディーがフレーズごとに微妙に表現を変えながら展開していく面白さは手に汗握るもの。迫力とは無関係な音楽を聴く楽しみを味あわせた後、オケが牙を剥きます。鮮やかに吹き上がるオケはツァグロゼクが緻密にコントロールしているのでしょう。緩急硬軟自在の見事な演奏。力みなく整然と展開する音楽はハイドンの音楽の本質をズバリと突くもの。いやいや素晴らしい! 会場からもブラヴォーが飛び交う見事な演奏でした。

88盤にはライナーやセルのようにオケをグイグイ鳴らしきる名演もありますが、このツァグロゼクのように八分の力でこなす方が粋かもしれませんね。コントロールを隅々にまで行き渡らせながら、ハイドンの交響曲の面白さをさらりと聴かせる、まさに円熟の技とはこの演奏のことでしょう。ブルックナーではコントロールの向こうに神々しい深い響きを聴かせたかと思うと、ハイドンでは軽やかに粋なところを聴かせる見事な描き分け。このアルバムからはツァグロゼクの芸の幅広さも伝わりました。ハイドンの評価は[+++++] とします。



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tag : 交響曲88番 ブルックナー

【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第7巻(ハイドン)

これは取り上げないわけには参りません。

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のバーゼル室内管弦楽団(Kammerorchester Basel)の演奏で、ハイドンの交響曲67番、65番、9番、モーツァルトの劇付随音楽「エジプトの王タモス」(K.345/336A)から管弦楽のための5つの楽章の合わせて4曲を収めたCD。このアルバムはアントニーニによるハイドンの交響曲全集の第7巻。収録は2017年10月2日から6日にかけて、前巻と同じスイスのバーゼル近郊のリーエンという街にあるランドガストホフ・リーエン(Landgasthof Riehen)でのセッション録音。レーベルはレーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。

毎巻リリースを楽しみにしているこのシリーズ。中でも今回は待ち遠しかった! というのも、昨年10月にアントニーニが読響に客演したコンサートを2つとも聴いて、アントニーニの真価に打たれてしまったからに他なりません。

2018/10/21 : コンサートレポート : アントニーニ/読響による「軍隊」など(東京芸術劇場)
2018/10/18 : コンサートレポート : アントニーニ/ムローヴァ/読響によるハイドン・ベートーヴェン(サントリーホール)

コンサートの模様は記事をご覧ください。特にサントリーホールでの初日の最初の歌劇「無人島」序曲でアントニーニの繰り出す音楽に圧倒されました。読響から聴いたこともないようなタイトな響きを引き出すあたり、やはり響きに対する鋭敏な感性は並ではありませんでした。これまでリリースされている全集の中でも、間違いなくドラティを超えてくる完成度を誇り、こちらもこれまでリリースされた全ての巻を取り上げ、皆勤賞で迎えております。

2018/07/07 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第6巻(ハイドン)
2017/11/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第5巻(ハイドン)
2017/04/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)
2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

毎巻テーマを設定して選曲されていますが、今巻は"Gli Impresari"。これは直訳すると「管理者たち」で、販促文を見ると「劇場監督たち」とあります。モーツァルトの曲も含めて、この巻に収められた曲はいずれも当初交響曲ではなくオペラなどの曲として書かれた経緯があるとのことです。どの曲も録音が少ない曲ということで、この演奏も貴重なもの。いつも通りキレキレ極上の演奏で味わえるということで貴重なものと言えるでしょう。

Hob.I:67 Symphony No.67 [F] (before 1779)
コミカルなメロディーが心地よく鳴ったかと思うといきなりフルスロットルでタイトな響きが畳み掛けてきます。入りからアントニーニの才気が炸裂! グイグイ畳み掛けてくるエネルギーをコミカルなメロディーで鎮めるハイドンの才気を完全に汲み取っての演奏に圧倒されます。シュトルム・ウント・ドラング期以降パリセットまでの間の曲は今ひとつ目立たぬ存在ながら、この演奏を聴くとはち切れんばかりの才気が仕込まれていることがわかります。1楽章の終わりのホルンの割れた響きを際立たせるところも見事。
続くアダージョは音量を落としてはいるのですが、耳をそばだてて聴くようにくっきりとコントラストをつけて、ちょっと音量が上がるとハーモニーの美しさや木管の響きの美しさに聴き惚れるように仕立てます。ゾクゾクするような気配に包まれながら響きに聴き入る至福の境地。
静けさを断ち切るように速めのテンポでのメヌエットに入りますが、トリオの部分はオケからグラスハーモニカのような不思議な音色を引き出します。これはコル・レーニョ・デラルコ奏法と言って、弓の背の部分で弾いているとのこと。
そしてフィナーレはギャラントな響きを引き出してオケの響きの美しさを際立たせますが、この楽章でも中間部の聴かせどころを丹念に描いて、ハイドンが仕込んだ展開の面白さこそこの楽章の真髄と言わんばかりに音楽のフォルムをデフォルメを効かせて描きます。67番がこれほど創意にあふれた曲だと改めて気づかされる驚異の名演奏と言っていいでしょう。

Hob.I:65 Symphony No.65 [A] (before 1778)
番号は前曲に近いですが、作曲年代は1772年ごろと告別交響曲と同じくシュトルム・ウント・ドラング期の最盛期のもの。曲想を汲んでか、入りからしなやか流麗な演奏。弦楽器のハーモニーの美しさで聴かせます。しなやかに聴こえるものの、くっきりとデュナーミクをコントロールして、しなやかな音楽の流れもしっかりとしたコントロールによって造られていることがわかります。
続くアンダンテはいつもながらハイドンのアイデアの豊富さに驚く曲。鳥のさえずりのように自在に駆け回るメロディー。どのようにしてこのようなメロディーを思いつくのか、そしてアントニーニもこの不思議な曲を、まるでハイドン自身が振るような説得力で描きます。ホールに漂うオケの響きの余韻の美しさも鳥肌もの。
メヌエットは短いものですが、リズムの面白さに趣向を凝らし、トリオでさっと雰囲気を変える見事な展開に驚きます。全く手抜きなし。
そしてフィナーレではホルンの鮮やかな号砲がアクセントとなって始まり、低音弦のダイナミックな動きとホルンが掛け合ううちにクライマックスを迎えます。

Hob.I:9 Symphony No.9 [C] (1762?)
最後に初期の曲を持ってきました。メロディーラインは面白いものの、前2曲と比べると明らかに構成は単純。アントニーニも曲に合わせて力を抜いて流すようにリラックスした演奏。これが功を奏して気楽に楽しめるようまとまります。
聴きどころは2楽章のアンダンテ。シンプルながら独特の雰囲気のメロディーと木管の音色が相まって実に趣深い音楽が流れます。単調だからこそメロディーがくっきりと引き立つわけですね。そのあたりを見極めたアントニーニのさっぱりとしたコントロールセンスが光ります。
3楽章のメヌエットも一貫して速めのテンポでさっぱりと仕上げます。力の抜き方にも巧みさが垣間見えます。

第7巻までこぎつけたジョヴァンニ・アントニーニのハイドンの交響曲全集。全く隙のない完璧な仕上がり。いつも通りプロダクションも丁寧で、アーティスティックな写真と充実した解説がつけられ、毎巻手に入れる楽しみもあります。録音も古楽器オケの響きの厚みをしっかりと感じられる素晴らしいもの。このシリーズ、完結すればおそらく史上最高のハイドンの交響曲全集となることでしょう。もちろん評価は全曲[+++++]とします。



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tag : 交響曲67番 交響曲65番 交響曲9番

【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第6巻(ハイドン)

このシリーズ、順調なリリースが続いています。

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飯森範親(Norichika Iimori)指揮の日本センチュリー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲39番、61番、73番「狩り」の3曲を収めたSACD。これで6巻目になります。収録は2018年10月19日、大阪のいずみほホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

このシリーズ、これまで5巻のうち4巻を取り上げていました。

2018/06/29 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第4巻(ハイドン)
2018/03/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第3巻(ハイドン)
2017/07/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)
2016/11/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)

この前の第5巻も良かったんですが、その前の4巻の素晴らしさに比べると、ちょっと手慣れた感が感じられたため、記事にはしませんでした。今回の6巻は期待通りの出来。オケをよく鳴らして、このコンビのオーソドックスなハイドンの交響曲の魅力がしっかり感じられます。

Hob.I:39 Symphony No.39 [g] (before 1770)
初期の傑作交響曲の一つ。このシリーズの中では残響が適度で、オケの響きにも実体感があり録音も自然に感じられます。ここにきてマイクセッティングも落ち着いてきました。疾走するこの曲の入りの感じが非常に丁寧に描かれ、シュトルム・ウント・ドラング期特有の仄暗い感じもよく出ています。オケにも生気がみなぎり、1楽章はタイトな攻めを感じる演奏。
それを受けて2楽章のアンダンテは落ち着いたテンポでコミカルなメロディをゆったりと楽しむ楽章。メロディーの描き方も力が抜けて非常にリラックスした展開。時折アクセントや長い休符を効かせることで、コミカルさを強調。語り口の巧さが印象的。
独特の濃い情感の乗ったメヌエットに軽やかなトリオが挟まれる3楽章は淡々と描くことでさらりと流し、嵐の到来を注げるようなフィナーレへの繋がりを確保。そのフィナーレも力まず流れよくしたことで、楽章の対比をかえって強調できたように聴こえます。オーソドックスながら、見通し良くまとめたことで、非常に完成度の高い演奏となりました。

Hob.I:61 Symphony No.61 [D] (1776)
あまり録音の多くない中期の曲。1楽章は適度なダイナミックさを実に上手く表現した演奏。オケがよくコントロールされ、実に気持ちよくホールに響き渡ります。絶妙な力加減と言っていいでしょう。録音の良さも相まってハイドンの仕込んだ機知と音楽の面白さがくっきりと浮かび上がります。一見シンプルなメロディーが軸ですが、様々な楽器で繰り返され、微妙に変奏が発展していく面白さがたまりません。
2楽章は12分近い長いアダージョ。穏やかな曲調ながら長い楽章の構成感はしっかりと保って、次々と展開していくコントロール力は見事。しかも要所で聴かせどころをしっかり設けることで引き締まった音楽にまとめていきます。
メヌエットは1楽章よりも力を抜いて、オケではなくホールの空気を鳴らすように音を響かせます。トリオの部分の折り目正しい感じと木管の響きの美しさは絶品。
コンパクトながらアイデアに富んだフィナーレ。ここでもオケがよく鳴り、キビキビとしたテンポとダイナミクスが痛快。見事。

Hob.I:73 Symphony No.73 "La Chasse" 「狩」 [D] (before 1782)
序奏のゆったりとした足取りを優雅に描いた入り。主題に入るとメロディーを流麗に浮かび上がらせ、発展させていきます。このあたりのセンスは申し分なし。ヴァイオリンの澄んだ音色が響きの明るさにつながっています。曲が進むにつれて響きが徐々に厚くなっていく感じやダイナミックになっていく感じはかなり緻密にコントロールしているのでしょう。
ザクザクとしたアンダンテは、録音の良さを痛感するところ。厚みがありながら自然で繊細な響きだからこそ、音楽の繊細さも味わえるもの。ちょっとした響きの変化のデリカシーが聴きどころです。
メヌエットも同様。内声部の動きも含めて響きが鮮明に録られていますので、パートの動きがくっきり浮かび上がります。
そして盛り上がる有名な終楽章。元は歌劇「報いられた誠意」の第3幕の序曲。狩猟の信号ラッパのようなホルンの音形が特徴でこの曲はアダム・フィッシャーとハイドンフィルの来日公演でもアンコールで演奏されました。アダム・フィッシャーが湧き上がるような躍動感にスポットライトを当てたのに対し飯森範親はもう少し落ち着いていて、ライヴにも関わらずホルンも含めて襟を正したようなHi-fi調。アルバムの最後だけにもう少し躍動して欲しかったところ。

コンサートは全曲演奏を目指していますが、アルバムの方はいまだに全集を目指すとはどこにも書いてないまま(笑)第6巻までこぎつけたこのシリーズ。この第6巻は演奏の完成度も高く、録音もこのシリーズでは最も自然。最後の73番がもう少し吹っ切れた盛り上がりを聴かせて欲しかったところが惜しいところでしたが、39番と61番は絶品。特に61番はこの曲の面白さを再認識させてくれる見事な出来でした。ということで、継続して見守っていきたいと思います。評価は73番が[++++]、ほか2曲は[+++++]とします。



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tag : 交響曲39番 交響曲61番 交響曲73番 狩り

【新着】エルンスト・メルツェンドルファーの交響曲全集(ハイドン)

ちょっとご無沙汰しています。大物到着です。

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エルンスト・メルツェンドルファー(Ernst Märzendorfer)指揮のウィーン室内管弦楽団(Vienna Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲全曲、および協奏交響曲を収めた全33枚組のアルバム。元はMusical Heritage SocietyからリリースされていたLPが音源で、所謂板起こしというやつです。収録時期は1960年代でpマークが1969年から1972年となっています。レーベルはヒストリカルな音源の発掘に熱心な英SCRIBENDUM。

この全集、少し前にリリースが発表された時には、ほとんどのハイドンファンが意表を突かれたことでしょう。何しろハイドンの交響曲の金字塔たる、アンタル・ドラティの全集より先にハイドンの交響曲全集として完成したものとの触れ込みだったからです。一部のコアなハイドンを愛好する方の中にはMusical Heritage Societyから細々とリリースされたLPを集めていた方もあるようですが、私もこの全集のいきなりの発表にはびっくり。ということで注文を入れておいたわけですが、それが先日ようやく到着した次第。

ここで、メルツェンドルファーについて触れておかなくてはなりませんが、こういったケースではいつもネットやライナーノーツなどを色々調べて情報を掘り起こす必要があります。このアルバムにはライナーノーツらしきものは全く付属していません。ということでネットを調べてみると、HMV&BOOKS onlineiconの解説が尋常ではありません。このアルバムの発売の経緯から、企画を担当した名プロデューサー、クルト・リストについて、そして全集の録音を完了しながらクルト・リストの急逝に伴い、プロモーションなどが行われないまま、ドラティの全集が世界最初のハイドンの交響曲全集として広く知られるようになった経緯など、詳細に触れられています。 しかもロビンス・ランドンが関わってハイドンの交響曲が録音されはじめてからの様々な録音の一覧などについてまで触れられていますが、圧巻はメルツェンドルファーの仕事歴。オペラ指揮者でウィーン国立歌劇場などで長年に渡って指揮してきた演目が年毎に一覧化されているなど、アルバムの販促記事の域を超越しています。

ということでメルツェンドルファーの情報については上記記事に譲ることにして、果たして、このアルバムがハイドンの演奏史に一石を投ずるものなのかを紐解いていきましょう。

到着と同時に、数枚のCDを聴きながら、まずは所有盤リストに収録曲を登録。1番から104番までに加えて通称Aの106番(Hob.I:106)、通称Bの107番(Hob.I:107)、協奏交響曲に、53番「帝国」の終楽章は2つのバージョンが併録されているということで、収録曲の網羅度は言うことなし。
録音については、残念ながらドラティ盤と近い録音年代ながらDECCAの力感みなぎる素晴らしい録音とは大きく差がついてしまっているというのが正直なところ。というのも冒頭に触れた通り、この全集は板起こし。ジャケットには"Digitally remasterd from Vinyl. Original tapes missing and cannot be found."とあり、マスターテープは失われてしまっているとのこと。ただ、実際の音にはスクラッチノイズの類は全くなく、巧みな音響処理により除去されているものと思われます。この処理によって非常に聴きやすくなっていますが、一方LPらしい実体感のある響きもちょっとおとなしくなって、少し燻んだ古びた響きに聴こえます。板起こしとしてレベルが低いわけではありませんが、ドラティ盤の素晴らしい響きと比べてしまうと部が悪いというところ。

肝心の演奏についての大まかな感想を書いておきましょう。

1枚目の交響曲1番から聴き始めましたが、ごく初期のものについては歌劇場の人らしく手堅くまとめた演奏ながら、メルツェンドルファーが煽るのかヴァイオリンパートのみかなりインテンポでメロディーを切り裂いていくよう。ちょっとあくせくした感じが残ります。この印象がついてしまい、若干期待はずれ感が漂う中、何枚かつまみ聴きしていくと、特に緩徐楽章や弱音部の美しさにうっとりするようになります。
シュトルム・ウント・ドラング期の曲では、その緩徐楽章の瑞々しい表情の美しさが印象的。楽章毎に表情にコントラストをつけて変化を鮮やかに見せるところは流石なところです。マーキュリー、悲しみ、告別などは、しっとりとした美しさがしみる演奏。マリアテレジア、受難と聴き進むと、独特の音質にも慣れてきます。板起こしゆえの個々の曲毎の鮮度の違いはあるものの、共通して緩徐楽章の情感の濃さはメルテンドルファーの演奏の面白さを代表するもの。歌劇場で鍛え抜かれた表現力に裏付けられたものでしょう。
ザロモンセットまではまだ手を出していませんが、曲を変えるたびにメルツェンドルファーの繰り出す音楽の語り口の面白さにワクワクするようになるという意味で、この全集は存在価値が十分あるという手応えを持ちました。

直後にリリースされたドラティの偉業の影に霞んでしまい、多くの人から忘れられてしまったこの演奏ですが、録音から50年以上経って、CD化されたことは喜ぶべきことでしょう。

この全集、解説はつかないんですが、全33枚の紙ジャケットの一部に描かれているハイドンの肖像画が全部異なるという凝った一面もあります。これはオリジナルのMusical Heritage SocietyのLPも同じ趣向になっていて、オリジナル盤のオマージュになっています。復刻を担当したSCRIBENDUMの気合を感じるところ。

評価は聴いた曲から順次つけていますので、所有盤リストをご覧ください。曲によって[++]から[++++]までつけていますが、悲しみや84番など、[+++++]をつけるかもしれない曲もあり、侮れません。1枚目の交響曲1番から5番までの印象が悪いので損をしていますが、聴き進むときっと宝物のような演奏にありつけます。

当ブログとしてハイドンの交響曲全集のファーストチョイスはドラティ盤であることは変わりませんが、ドラティ盤、アダム・フィッシャー盤、NAXOS盤を持っている方は買うべき価値があります。皆さんの耳で確かめてみてください!



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tag : 交響曲全集

ホルスト・シュタイン/ドレスデン・シュターツカペレの太鼓連打、オックスフォード(ハイドン)

前記事でビーチャムの優美な交響曲を聴いて、穏やかな交響曲をもう少し聴いてみたくてLPの中から取り出した1枚。

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ホルスト・シュタイン(Horst Stein)指揮のドレスデン・シュターツカペレ(Staatskpelle Dresden)の演奏で、ハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、92番「オックスフォード」の2曲を収めたLP。収録は1961年、レーベルはETERNA。

N響に度々客演していたので日本ではおなじみの方も多いホルスト・シュタイン。私は学生時代に父の仕事の関係で回してもらったコンサートのチケットで実演を聴いたことがあります。朧げな記憶とN響の演奏記録を照合すると、聴いたのはおそらく1983年2月にNHKホールでモーツァルトのプラハ、ヒンデミットのシンフォニア・セレーナ、オネゲルの交響曲3番 「礼拝」などが演奏されたコンサート。この日は大学の製図の締め切りで前日が徹夜だったため、モーツァルトは完全に子守唄で熟睡。目が覚めたのはヒンデミットに入ってから。ずんぐりむっくりしたシュタインの意外に緻密なタクトからの繰り出される多彩な響きと、穏やかな起伏を経て盛り上がる流れの良さ。この時はじめてヒンデミットを聴きましたが、独特な音楽に興味を持った覚えがあります。そしてオネゲルも聴いたことがあったのはパシフィック231くらい。こちらもオネゲルの迫力を生で存分に味わい、職人気質のホルスト・シュタインの繰り出す音楽の魅力を知った次第。

ホルスト・シュタインはWikipediaなどによれば、1928年、ドイツのエルバーフェルト(現ヴッパータール市)生まれの指揮者。フランクフルト音楽大学、ケルン音楽大学などで学び、その後はヴッパータール市立劇場合唱指揮者、ハンブルク州立歌劇場指揮者、ベルリン国立歌劇場を経てマンハイム国立劇場音楽監督になるなど、オペラの人。1952年から1955年にかけてバイロイト音楽祭でクナッパーツブッシュ、カイルベルト、カラヤンらの助手を務め、1962年にはバイロイトで「パルジファル」を指揮。1970年には「ニーベルングの指環」全曲を指揮するなどワーグナー指揮者として知られる人です。その後ウィーン国立歌劇場第1指揮者、ハンブルク州立歌劇場音楽総監督、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督、バンベルク交響楽団首席指揮者などを歴任するなど世界の一流どころで活躍。N響には16回客演しているとのこと。2008年に亡くなっています。

シュタインのハイドンの録音はおそらくこのアルバムのみ。しなやかで自然な流れと、大局を見据えて穏やかに盛り上げるコントロールはオペラの人ならではと言っていいでしょう。ハイドンの交響曲から穏やかに盛り上がる曲である太鼓連打を選ぶところも流石なところです。

Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
モノラルながらモノラル用のプレーヤーでかけると適度に鮮明でピラミッドバランスの分厚い音色が心地よい録音。テンポもフレージングもオーソドックスですが、凡庸な感じは一切せず、むしろ揺るぎない安定感と迷いのない説得力に満ち溢れている感じ。主題に入るとオケの分厚い響きの魅力がさらに増していきます。そしてフレーズ毎の表現のキレ味も見事。オケのすべてのパートがあるべきバランスにしっかりとはまって完璧な響きが繰り出されます。まさに太鼓連打の理想的な演奏。優美な曲のフォルムを堪能できます。1楽章の最初と最後のティンパニも実に穏やかに響き渡ります。
続くアンダンテも穏やかでジワリと盛り上がる期待通りの見事なコントロール。ツッコミどころ皆無の完璧に淀みのない音楽。ホルスト・シュタインという人の堅実な音楽がハイドンにピタリとはまります。そしてメヌエットでもゆったりざくっりとここでもしなやかに音楽が流れます。外連味なく堅実な運びは、誰にもできそうですが、おそらくこの高みには誰も到達できないであろう、地道に磨き上げたコントロール能力のなせる技とみました。
そして遠くから響くホルンの絶妙に美しい音色で始まる終楽章は、曲の結びにふさわしい盛り上がりを予感させる、さざめくような音階から入ります。気持ちよく吹き上がるオケを自在にコントロールしてここでも完璧なバランスに仕上げてきます。恐ろしいばかりのコントロール能力。最後まで冷静に温かい音楽を作っていく能力に脱帽。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
太鼓連打同様、完璧に磨き抜かれたフォルムを纏った序奏から入ります。続く主題の推進力と迫力はなかなかのもの。速めのテンポによるフレーズのキレが良いのが推進力につながっているのでしょう。徐々に畳み掛けるような迫力を帯びて、1楽章から手に汗握る展開に圧倒されます。強奏の合間の木管の美しい響きがバランス良く聴こえるポイントなのでしょうか。素晴らしい迫力に惹きつけられます。
この曲の白眉たるアダージョは絶美。特に弦楽器のメロディーと木管に内声部のとろけるようなハーモニーは出色。完璧なフォルムに仕立てられた音楽に身をまかせるだけ。ハイドンの書いた音楽の美しさに何も足さず、素材だけで仕上げた本当の美しさ。ここまでの完成度に到達する演奏が他にありましょうか。メヌエットは太鼓連打同様優雅で堂々としたもの。そして、オックスフォードの聴きどころであるフィナーレの冒頭のメロディーはオケが軽やかに反応し躍動感満点。変奏を重ねるうちに徐々に盛り上がり、自然なクライマックスを構築。最後はビシッと決まります。

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ホルスト・シュタインによるハイドンの太鼓連打とオックスフォード。流石に歌劇場で鍛え抜かれたコントロール能力は伊達ではありませんね。ドレスデン・シュターツカペレの重厚な音色と相まって、ハイドンの交響曲の決定盤的な素晴らしい演奏に痺れました。派手な演出も個性的な解釈もないんですが、この演奏より完成度の高い演奏はありえないほどの揺るぎない構築感。その上ウィットに富んだフレージングもあり、晴朗なハイドンの魅力を存分に表していると言っていいでしょう。モノラルながら録音も盤石で、多くの方に聴いていただきたい名盤と言っていいでしょう。評価は[+++++]とします。



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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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十字架上のキリストの最後の七つの言葉ショスタコーヴィチ驚愕シェーンベルク悲しみオックスフォード交響曲75番チェロ協奏曲ホルン協奏曲古楽器時計弦楽四重奏曲Op.50アンダンテと変奏曲XVIII:6弦楽四重奏曲Op.64弦楽四重奏曲Op.20弦楽四重奏曲Op.54天地創造レスピーギヴォルフリゲティヨハン・シュトラウスリヒャルト・シュトラウスタリスモーツァルト軍隊交響曲10番ピアノソナタXVI:49交響曲54番迂闊者ネルソンミサバリトン三重奏曲ベートーヴェンピアノソナタXVI:52交響曲2番ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:46皇帝日の出弦楽四重奏曲Op.71ブルックナー交響曲88番ベルリオーズナッセンバッハウェーベルンベンジャミンヴァレーズメシアングリゼーシェルシOp.20弦楽四重奏曲交響曲9番交響曲65番交響曲67番弦楽四重奏曲Op.76交響曲73番交響曲39番狩り交響曲61番リームアンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:6ピアノソナタXVI:48四季交響曲全集リムスキー・コルサコフラヴェルピアノソナタXVI:44ピアノソナタXVI:45ピアノソナタXVI:21ピアノ三重奏曲第九ヒストリカル太鼓連打交響曲99番ボッケリーニロンドンシューベルト交響曲5番チャイコフスキーストラヴィンスキーライヴピアノ協奏曲XVIII:11弦楽四重奏曲Op.2序曲ヴィヴァルディオペラ序曲アリア集パイジェッロピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6すみだトリフォニーホールピアノソナタXVI:34ブーレーズサントリーホール弦楽四重奏曲Op.74変わらぬまこと哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェアルミーダ騎士オルランド無人島チマローザ英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:1ピアノ協奏曲XVIII:4ピアノ協奏曲XVIII:3交響曲3番交響曲79番アレルヤラメンタチオーネチェロ協奏曲1番交響曲58番交響曲27番交響曲19番紀尾井ホールドビュッシーミューザ川崎協奏交響曲オーボエ協奏曲LPヴァイオリンとヴィオラのためのソナタピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:38ピアノソナタXVI:29スタバト・マーテルピアノソナタXVI:39マーラー告別交響曲90番交響曲97番奇跡交響曲18番ひばりフルート三重奏曲交響曲102番交響曲86番ヴァイオリン協奏曲哲学者ニコライミサ小オルガンミサミサブレヴィス交響曲95番交響曲93番交響曲78番ピアノソナタXVI:23王妃武満徹SACDライヴ録音交響曲80番交響曲81番交響曲21番マリア・テレジアクラヴィコード豚の去勢にゃ8人がかりBlu-ray東京オペラシティ交響曲11番交響曲12番交響曲4番交響曲15番交響曲1番交響曲37番ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:3ピアノソナタXVI:1ディヴェルティメント東京芸術劇場交響曲98番ピアノソナタXVI:35ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:36ドニぜッティロッシーニライヒャ弦楽三重奏曲東京文化会館フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:31ピアノソナタXVI:26バードアレグリパレストリーナモンテヴェルディ美人奏者交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンスコットランド歌曲ヴェルナーガスマンピアノソナタXVI:24交響曲51番交響曲46番交響曲35番DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3ラ・ロクスラーヌ帝国ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51五度ラルゴラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.1騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス交響曲42番時の移ろいベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏冗談ナクソスのアリアンナピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2ロンドン・トリオオフェトリウムドイツ国歌モテットカノンよみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難交響曲84番パリセットベルク主題と6つの変奏オペラアリアスクエアピアノピアノソナタXVI:41交響曲57番交響曲68番リラ・オルガニザータ協奏曲交響曲50番交響曲89番偽作CD-Rトビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師オルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲77番交響曲34番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生ピアノソナタXVI:11音楽時計曲ピアノソナタXVI:47bisピアノ小品カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7天地創造ミサジャズ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ベトナム料理国立新美術館高音質CD交響曲28番交響曲13番交響曲62番交響曲107番交響曲108番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽ピアノソナタ

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