ハンス・スワロフスキー/ウィーン響の「悲しみ」(ハイドン)

11月も月末が近くなってまいりましたが、旅行記にかまけて、肝心のハイドンのレビューが停滞しておりました。本記事より正常化いたしますが、ネタはちょっと訳ありのLPです。

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ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」などを収めたLP。収録に関する情報は記載されておらず、LPのレーベルにPマークが1974年とあるのみ。レーベルはニューヨークのOLYMPIC RECORDS。

スワロフスキーのハイドンはなかなかいい演奏があり、そのスワロフスキーが「悲しみ」振ったものということで、最近オークションで手に入れたLPですが、ちょっと怪しげなLPです。LPに書かれた収録内容は以下の通り。

HAYDN:
・Symphony No.44 (Funeral)
・Italian Overture
・Trumpet Concerto
HANS SWAROWSKY conducting The Vienna Symphony Orchestra

音盤を入手すると、まずはざっと聴いて所有盤リストに登録するのですが、トランペット協奏曲にソリストの表記がありません。ちょっと調べてみたところトランペット協奏曲は手元にあるTUXEDOのCDと同じ演奏。演奏時間もほぼ同一です。TUXEDO盤はソリストがウィーンフィルのアドルフ・ホラー(Adolf Holler)でオケはウィーン響ではなくウィーン国立歌劇場管弦楽団。ついでにItarian Overtureと書かれた方も同盤の序曲(Hob.Ia:4)と同演奏。Discogsを調べるとこの演奏が色々なレーベルからリリースされていますので、このLPの表記はおそらくウィーン国立歌劇場管弦楽団の間違いでしょう。

LPのB面に収められた曲の表記がちょっと間違っているというのは、まあありそうなこと。問題は、冒頭に置かれたアルバムのメインになる「悲しみ」です。まず驚いたのが、交響曲44番と書かれていますが、収録されているのは交響曲44番とヴァイオリンとピアノのための協奏曲(Hob.XVIII:6)の2曲なんですね。レーベル面の表記は交響曲44番のPart1が交響曲全曲、Part.2が協奏曲の1楽章、盤をひっくり返してPart.3が協奏曲の2、3楽章なんですね。

このようにこのアルバムの表記は相当適当です。このLPのOLYMPIC RECORDSというレーベルの信頼性にも関わる適当さ。そこで、Discogsでこのレーベルがリリースしているアルバムを調べてみると、クラシック以外も色々あり、クラシックはThe Classical Collection、The Opera Collectionというシリーズが1973年から75年くらいまでにかなりの枚数がリリースされています。このアルバム自体は掲載されていません。それ以上のことはあまりよくわかりません。

そこで今度はスワロフスキーのディスコグラフィーを探すと、ありました。しかも由緒正しいものです。

Hans Swarowsky

ハンス・スワロフスキーアカデミーのウェブサイトです。

ご存知の通り、ハンス・スワロフスキーは指揮者としても有名ですが、指導者としての方が有名ですね。師事した指揮者はアバド、メータ、ヤンソンス、ワイルなど楽壇のトップクラスがずらり。このアカデミーのプレジデントはなんと、マンフレート・フス。そして名誉総裁はついこの間、ベルリンフィルと来日したズビン・メータです。このサイトは、スワロフスキーの偉業を称える情報が盛り沢山。ディスコグラフィー、コンサート記録、コンサートプログラム、写真、手紙などが全て整理されて掲載されています。

肝心のディスコグラフィーで作曲家別のハイドンのページにはこのアルバムが掲載されていました。しかも、トランペット協奏曲などもウィーン交響楽団とのアルバムの表記のまま掲載されています。また「悲しみ」の方も同様。オフィシャルサイトが掲載していますが、ヴァイオリンとピアノ協奏曲には触れていませんので、中身を検証しての掲載ではないでしょう。

ということで、このアルバムの「悲しみ」について、確たる情報は見つかりませんでした。果たして、スワロフスキーがウィーン交響楽団を振ったものなのでしょうか。録音があるということはコンサートでも取り上げているケースも多いと思い、コンサート記録を探してみることにしました。

そこで、ウィーン交響楽団のウェブサイトをみると、なんと、1900年以降の全てのコンサートの記録が検索できるではありませんか! そこで"Swarowsky Haydn"で検索すると36件の記録があります。残念ながら「悲しみ」やヴァイオリンとピアノのための協奏曲が演奏された記録はありませんでしたが、スイトナーがピアノを弾いた協奏曲(Hob.XVIII:11)や86番の演奏があるなど今から思うと夢のようなプログラムがならび、しばしうっとり(笑)

トランペット協奏曲と同様、ウィーンフィル(ウィーン国立歌劇場管弦楽団)の演奏である可能性も捨てきれないということで、ウィーンフィルのウェブサイトで同様の検索をすると、2件の記録があり、こちらも「ロンドン」と「雌鳥」のみでした。

色々調べた割には裏は取れず仕舞い。

私の想像というか仮説は、「悲しみ」はウィーン交響楽団のとの演奏で、穴埋めに既出のウィーン国立歌劇場管とのトランペット協奏曲を差し込み、あんまり詳しい情報を載せず、ウィーン交響楽団とだけ記載したとの説。隠し球のヴァイオリンとピアノのための協奏曲もウィーン交響楽団との録音で、担当者が曲名が分からなかったので苦肉の策で、交響曲の一部と誤魔化して収録したというものです。上司からシリーズの拡大を急かされた担当者のやっつけ仕事説です。

色々調べても確たることはわからずですが、色々想像して調べることは楽しいです(笑) どなたかこの演奏について情報がある方がいらっしゃいましたら、是非お知らせいただきたいものです。

ということで肝心の演奏です。ここまで調べてわざわざ取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいからに他なりません。

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
針を落とすとそれなりに鮮明でみずみずしい音が聴こえてきますが、若干ピークがびりつき気味。これはアルバムのコンディションの問題でしょう。演奏は非常に彫刻的なフォルムの美しい演奏。1楽章の入りのテンポは心地よい速さ。この端正なバランスの良いフォルムはスワロフスキーが振っているのではと思わせます。この時期のハイドンの曲に特有の憂いを帯びた響きが素晴らしいですね。
メヌエットは端正そのもの。どこにも隙なく揺るぎないながら、響きには素朴さが漂い、完璧な演奏。それによって中間部でのしなやかさが際立つ見事な演奏。
素晴らしいのは3楽章のアダージョ。なんという癒しに満ちたフレージング。ゆったりと刻まれる音楽ですが、おおらかな起伏が実に心地よい。時に光が射し、時に陰り、琴線に触れられる美しすぎる音楽が流れます。最後にさらにゆったりとテンポを落として終わりったかと思うと、実に自然に険しい響きのフィナーレに移ります。現代の機能的なオケとは異なり、アンサンブルがキレキレな訳ではありませんが、音楽としての堅固さと、やはり彫刻的なフォルムの端正さから生み出される味わい深い迫力が見事。いやいや、これは絶品です。

Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
続く、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲もフォルムの端正さは変わらず。ヴァイオリンとハープシコードのソロはかなりの腕前。特にヴァイオリンの艶やかで存在感のある音色は印象的。音だけで奏者を当てられられるほどの耳と知見は持ち合わせておりませんので、想像の余地があることを楽しみながら聴くことにしました。こちらも2楽章が素晴らしいんですね。ヴァイオリンの美音にもう、夢見心地。古き良き時代の素晴らしい音楽に酔いしれます。ハープシコードは控えめなんですが、それがなんとも奥ゆかしい。

レビューでしっかりと聴き込んでみると、私の仮説通りに違いないとの確信を得ました。が、これは私が思っているだけで、全く違う奏者の演奏である可能性も捨てきれません。ただしハンス・スワロフスキーアカデミーのサイトにも掲載された演奏ということで、多少の説得力はあるかもしれませんね。もちろんこの2曲の演奏は[+++++]といたします。所有盤リストには録音年不明で掲載しました。

(参考)
2017/05/05 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)



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tag : 悲しみ トランペット協奏曲 ヴァイオリンとピアノのための協奏曲XVIII:6

【新着】イヴァン・イリッチのピアノによる交響曲集(ハイドン)

しばらくメジャー系のアルバムを取り上げていましたが、そろそろマイナー系が恋しくなってきました(笑)

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TOWER RECORDS / amazon

イヴァン・イリッチ(Ivan Ilić)のピアノによる、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、75番、44番「悲しみ」の3曲を収めたアルバム。収録は2019年2月28日から3月2日にかけて、イングランドのロンドン北西の海沿いの街、サフォーク(Suffolk)のポットン・ホール(Potton Hall)でのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

ハイドンの交響曲をピアノで演奏したアルバムは、今までにも何枚か聴いていますが、いずれも2楽章など単一楽章を演奏したものばかり。ハイドンのピアノソナタ全集を録音した、ヤンドーやデルジャヴィナなどのものが知られていますが、4楽章をフルにピアノで演奏したものを聴くのは私ははじめて。確認のため所有盤リストを検索してみると、やはり手元にはありませんでした。収録曲も、オックスフォードや悲しみなどよく知られた曲に混じって75番という超マイナー曲が含まれているのが気になります。ということで、これは非常に珍しいアルバムであると言っていいでしょう。

演奏してるイヴァン・イリッチもはじめて聴く人。それもそのはず、このアルバムが彼の5枚目のアルバムで、前4枚はゴドフスキー、モートン・フェルドマン、アントン・ライヒャなど知る人ぞ知る作曲家の作品を再発見に近い形で取り上げるというコンセプトのアルバムばかりです。今回リリースされたのは、作曲家こそメジャーなハイドンですが、名曲の宝庫であるソナタではなく、これまた知る人ぞ知る、交響曲のピアノ版という超変化球を投げてきました。この人、相当マニアックです(笑)

そのピアノ独奏版への編曲(トランスクリプション)は、ドイツの音楽家カール・ダーヴィト・シュテークマン(Carl David Stegmann)によるもの。シュテークマンはハイドンより19歳若く、1751年の生まれで、テノール歌手、オルガン奏者、指揮者、作編曲家として活躍した人とあります。そしてこのアルバムの3曲は全曲世界初録音とのこと。

このような編曲が行われた背景がライナーノーツの触りに記載されていました。ハイドンが活躍していた時代には録音もラジオもなかったため、音楽愛好家にとって曲を知ったり深く理解する唯一の方法は原曲をメロディーやハーモニーをほぼそのまま他の楽器、例えば多くの人が演奏できるピアノ向けに編曲して演奏することがだったとのこと。当時ヨーロッパで絶大な人気を誇ったハイドンの交響曲がピアノ独奏版に編曲されるニーズがあったのは想像に難くないでしょう。現在では数多の録音が流通しているため、こうした原曲のまま他の楽器に移し替えるというニーズはなくなりつつありますが、そうした背景を知ってこの録音を聴くことで、このピアノ独奏版の交響曲という特殊な演奏の深みを味わうことができそうです。

と、ここまで書いて思い出しましたが、そういえばデニス・ラッセル・デイヴィスと滑川真希の連弾による天地創造と四季のアルバムをだいぶ前に取り上げましたね。

2010/09/13 : ハイドン–オラトリオ : ピアノ連弾による四季と天地創造2
2010/09/12 : ハイドン–オラトリオ : ピアノ連弾による四季と天地創造

かなり前のことゆえうろ覚えでしたが、確認してみると、こちらはだいぶ時代が下って、ツェムリンスキーが編曲したものということで、背景は異なるものでした。

さて、肝心の演奏です。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
CHANDOSがよく使う録音会場だけにピアノの響きの艶やかさが印象的な録音。交響曲の充実した響きと比べてしまいがちですが、ピアノという単一の音色の楽器にしてはニュアンスが多彩で、フレーズごとに音楽がスルスルと流れていく快感が味わえます。曲はよく知っている曲だけに、その響きのエッセンスをトレースするように聴こえてきました。音量を少し上げて聴くと迫力も十分。脳内でオケの響きを想像しながら聴くようになり、なんとなくオーケストラ版を聴くよりも脳が活性化する感じ(笑) 表情が豊かなので、聴きごたえ十分。
かっちり多彩な1楽章に続いて、2楽章のカンタービレ。この美しいメロディーはピアノに合いますね。中間部の重量感こそないものの、メロディーラインのひらめきを純粋に味わえるというメリットがありますね。
意外にしっくりきたのがメヌエット。ピアノのキレの良さが曲本来の軽快な印象を浮かび上がらせます。トリオのしっとりとした表情もしっかり対比が効いていて効果的。メヌエットのメロディーと構成の美しさを再認識。
そして、有名なフィナーレ。どうしても脳内には朝比奈隆盤の夢見心地で弾む入りのメロディーが浮かびます。イリッチはリズムをキリリと引き締め、畳み掛けるようにきっちりと音を重ねていきます。やはりここはハイドンのフィナーレの見事な構成感を浮かび上がらせたいのでしょう。オーケストラよりもリズムが明快なのは鍵盤楽器ならではのこと。展開の妙を見事な指捌きで落ち着いて仕上げてくるあたり、やはりテクニックは万全。全く破綻なく最後まで推進力を保つところも見事。

Hob.I:75 Symphony No.75 [D] (before 1781)
序奏のシリアスな陰影と主題に入ってからのメロディーの展開の面白さが、この曲を選んだ理由でしょうか。リズムのキレは前曲の終楽章から変わらず、推進力抜群。なんとなく気づいてきたんですが、この人、強音でも音が全く濁らず、力みもありません。交響曲のスケールを音量で表現しようとすると力みそうなものですが、一貫してクールに攻めます。それはハイドン、すなわち古典の曲だからでしょう。この軽妙さと端正さがハイドンの面白さと知ってのことでしょう。1楽章は小気味良くまとめますが、それこそ狙い通りなんでしょうね。
2楽章は抑制を効かせて実に穏やかな表情が美しい。ハイドンの慈しみ深い穏やかな心情に触れるよう。変奏が進むにつれて、光が射し、表情に明るさが加わっていきます。メヌエットでも小気味良いタッチは健在。音を転がしながらメロディーを作っていく感じ。そのままさらりと終楽章に続き、軽やかに終わります。

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
一番気になっていた曲。あの濃密な曲想をどう料理してくるのでしょうか。1楽章の疾走するような入りは、軽やかと鮮やかなタッチで有無をも言わせぬしなやかさ! 響きは異なるもののこの曲独特の雰囲気をよく表現しています。そして意外にダイナミックな印象もあります。曲が進むにつれて入組む音符の多さと超絶技巧を要するような混濁を経ながら、落ち着いて仄暗い情感を表出していきます。いやいやこれは見事。時折指が絡まりそうになる瞬間がありますが、これがかえってスリリングでいいですね。
メヌエットはあえて淡々とした演奏で1楽章との対比をしっかり印象付けます。そして原曲では美しさの限りを尽くしたアダージョですが、ここも淡々としたままで、ちょっと驚きますが、逆に見透し良くハイドンの美しいメロディーが堪能できて結果的にイリッチにしてやられた感じ。じわじわと癒されていきます。
この曲のフィナーレは力強さと疾走感に包まれる名曲ですが、イリッチはその両方を見事に表現してきます。アルバムの最後にふさわしくぐっと踏み込んでクライマックスを築いてきました。いやいや見事!

イヴァン・イリッチによる、ハイドンの交響曲のピアノ独奏版世界初録音ですが、これは面白い! 実に玄人好みのアルバムで、演奏も見事。単にピアノで弾いたというレベルではなく、原曲のメロディーやハーモニーをなるべく変えないように編曲されたものを、ピアノという楽器の響きの特性を踏まえて、原曲の面白さとはちょっと違うところにしっかりとスポットライトを当て、しかも不自然でなく、また軽妙かつ端正なハイドンの音楽の本質をしっかりと踏まえたものになっています。ハイドン入門者向けとは言えませんが、色々聴いてきたハイドン通の皆さんにこそ聴いていただきたいアルバムだと言えるでしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。



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tag : オックスフォード 交響曲75番 悲しみ

【新着】絶品! エンリコ・オノフリ/セビリア・バロック管の「悲しみ」(ハイドン)

8月中にもう1枚!

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エンリコ・オノフリ(Enrico Onofri)指揮のセビリア・バロック管弦楽団(Orquesta Barroca de Sevilla)によるハイドンの交響曲44番「悲しみ」などを収めたアルバム。収録はスペイン、セビリアのエスパシオ・サンタ・クララ(Espacio Santa Clara)でのセッション録音。レーベルはベルギーのPassacaille。

少し前に手に入れていたアルバム。「18世紀アンダルシアの葬送音楽」とタイトルがつけられています。その冒頭にハイドンの「悲しみ」が置かれていますが、気になるのは「セビリア大聖堂ヴァージョン」との注記。
これは、セビリア大聖堂の音楽監督を勤めていたドミンゴ・アルキンボ(Domingo Arquinbau)のサインが残る写譜にハイドンのオリジナルとは異なるダイナミクスとアーティキュレーションが書き込まれたもので、おそらく当時の実際の演奏に使われたものと思われるもの。
ライナーノーツの英文を紐解くと、ハイドンの音楽はイベリア半島にも広く伝わっており、コルドバ大聖堂にはハイドンの弦楽四重奏曲や交響曲の楽譜の写しが伝わっていたとのこと。セビリア大聖堂にも、この交響曲44番の他、52番、53番、82番、92番などが伝わってたとのことですが、1825年の大聖堂の楽譜リストにはこれらの記録は残っておらず、どのようにしてセビリア大聖堂に伝わったのかはわからないようですが、1814年、独立戦争終結時に英国軍司令官ウェリントン公爵がスペイン議会に送った楽譜類がアルキンボの手に渡ったものと考えられるとのこと。

ということで、このセビリア大聖堂ヴァージョンはハイドンが活躍していた18世紀にスペインでどのように演奏されていたかを知る手がかりとなるというわけです。

指揮のエンリコ・オノフリのアルバムは初めて聴きます。1967年イタリア、ラヴェンナ生まれのヴァイオリニストで、ミラノ音楽院出身。バロックヴァイオリンの名手として知られる人で、アーノンクールのウィーン・コンツェントゥス・ムジクスやジョルディ・サヴァールのオケなどで活躍した他、なんとアントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコのソリストとして活躍したとのこと。近年は自身で立ち上げた「アンサンブル・イマジナリウム」を率いる他、指揮者としても活躍していますね。ネットを検索してもこのアルバム以外にハイドンの録音はない模様です。

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
録音会場のエスパシオ・サンタ・クララはホールというよりは美術館のようなスペースのようです。残響は多めです鮮明さはあり、よく響く小さなホールでの演奏を間近で聴く感じの録音。古楽器による演奏ですが、アーティキュレーションは実に自然。ピノックのインテンポの演奏に近いタイトな演奏ですが、しなやかさもあり、キビキビとしたこの曲の魅力をしっとりとした雰囲気も加えて伝えます。アントニーニはまだこの曲を録音していませんが、アントニーニのエキセントリックに冴える感じまでは行かず、オーソドックスな古楽器演奏の魅力がポイントでしょう。ヴァイオリニストらしく、弦楽器が主体で管楽器は響きに色付けを乗せるような役割。
続くメヌエットも、弦楽器の美しい響きで音楽を作っていきます。響きが実によくコントロールされていて、音楽がマスとなって一体的に響きます。ハーモニーのバランスを非常に綿密にとっているのでしょう。
聴きどころは3楽章のアダージョでした! 実にしっとりとした音楽が流れてハッとさせられます。生成りの響きというか、これぞ古楽器の音色の魅力と唸らされます。つぶやくように音符一つ一つに神経を張り巡らし、語っていきます。なんとなく当時のスペインの聖堂で演奏しているイメージが浮かんでくるではありませんか。遠くウィーンから伝わった音楽がセビリアであたたかく響きわたります。当時の奏者の気持ちがわかるような気がします。至福のひととき。この楽章、どれだけ多くの人の心を癒したのでしょうか。沁みます。
一転、険しさを強調するように終楽章に入ります。弦楽器のボウイングの荒ぶる様子が素晴らしい迫力で迫ってきます。ここぞとばかりに攻めに入り、ハイドンの音楽の険しさを知らしめて曲を終えます。いやいや素晴らしい!

この後にはスペインの18世紀の音楽が4曲続きますが、どの曲も古楽の癒しに包まれる幸せな音楽。葬送音楽ではありますが、死に際して演奏される音楽の澄み渡る心境を堪能できる名曲揃いで、ハイドン以外も楽しめる素晴らしい選曲です。

初めて聴くエンリコ・オノフリのハイドンですが、これは絶品です。キビキビとした入り、磨き込まれたメヌエット、癒しに満ちたアダージョ、そして荒れ狂うフィナーレとこの曲の素晴らしさを存分に伝える名演奏と言っていいでしょう。この曲には名演奏が多いですが、私はイチオシとします。特にアダージョの美しさは深く心に残りました。評価はもちろん[+++++]とします。



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tag : 悲しみ 古楽器

フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハ/ポーランド室内管の悲しみ(ハイドン)

またまたお宝盤!

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フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハ(Volker Schmidt-Gertenbach)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polnisches Kammerorchester)によるハイドンの交響曲44番「悲しみ」、モーツァルトの交響曲29番、ホルストのセント・ポール組曲、エルガーの序奏とアレグロ、ブリテンのシンプル・シンフォニーの5曲を収めた2枚組のLP。収録は1991年6月15日、ドイツのエッセン近郊に建つヴィラ・ヒューゲル(Villa Hügel)でのライヴとあります。レーベルは独KRUPP。

このLP、最近オークションで仕入れました。もちろんハイドン目当てで入手したものですが、このアルバムの奏者を見たときにビビビと電気が走ったのは言うまでもありません。それは当ブログでかなり前に取り上げた名盤であるシュミット=ゲルテンバッバの悲しみが含まれているからに他なりません。

2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

ただし、以前に取り上げたアルバムはワルシャワ・シンフォニア(シンフォニア・ヴァルソヴィア)の演奏、今日取り上げるLPはポーランド室内管の演奏ということで、別の演奏だと思って入手してみると、共通して収録されている悲しみとモーツァルトの29番の演奏時間は完全に一致する上、ちょっと聴いてみると演奏も同一であることが判明。ゲルテンバッハの写る写真も同じ。

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オケの方はワルシャワ・シンフォニアはポーランド室内管が母体となるオケとのことで一件落着かと思いきや、録音についてはCDの方は1991年4月ポーランドのワルシャワ国立ラジオスタジオでのセッション録音とあり、LPの1991年6月15日ヴィラ・ヒューゲルでのライヴと日付は近いもののエッセンとワルシャワと全く異なるロケーションと不可解です。

LPの方は美麗な解説書がついており、エッセンのヴィラ・ヒューゲルという建物の歴史から奏者、曲の説明まで独、英、仏の3ヶ国語で記載されており、観客を入れてゲルテンバッハが指揮をしているコンサート当日の写真まで載せているので、このコンサートのライヴ録音であるという企画通りの仕立て。しかし録音を聴いてみると、ライヴの会場ノイズは全く聞こえず、音響処理でノイズを消しているというレベルではない感じ。しかもハイドンとモーツァルトはスタジオ収録という感じの音響なのに対し、ホルスト、エルガー、ブリテンの方はこのヴィラでの録音と思わせる残響を感じさせます。ということで、この不思議な状態はもともとこういうわけであろうと想像してみると、、、

このライヴのLPのリリースにあたり、写真をみるとオケが観客に囲まれるような距離だったので、収録された音は会場ノイズが目立ちすぎるため、コンサートで演奏した曲を観客抜きでコンサートの前か後に収録たものを音源とすることにした。加えてちょうど6月のコンサートの前の4月にハイドンとモーツァルトはワルシャワでの収録が終わっているのでその音源を使い、異なるオケながらメンバーがおそらくダブっている2つのオケなので良しとしたという経緯ではないかと思います。ということでハイドンとモーツァルトの演奏のデータはCDのデータが正しいのではないかと思います。まあ、完全な想像なので事実関係はわかりません。

こうなると、興味はCDとLPの音質の差。CDでも演奏の素晴らしさは存分に味わえましたが、そのLPが手に入ったということで、さらに鬼気迫るダイレクト感が味わえるはずです。実に久しぶりにCDを取り出して、シュミット=ゲルテンバッハの名演奏を味わい、やおらLPに針を落とします。

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Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
やはり響きの自然さはLPの方が一枚上。膨らみ気味の音像もLPは自然になります。1楽章のヴァイオリンの迫真のボウイングは見事。キレキレな上に全奏者が完全に揃って透明感すら感じさせます。シンフォニア・ヴァルソヴィアの弦楽セクション、特にヴァイオリンはベルリンフィル以上の精度。オケの一体感も絶妙。神がかっているとはこのことでしょう。LPはミントコンディションで極上な上DMMカッティングということでノーノイズ。シュミット=ゲルテンバッハの精緻なコントロールに完全に追随するシンフォニア・ヴァルソヴィアの驚愕の演奏が間近に迫ります。ついついヴォリュームを上げてこの名曲の名演奏を堪能。惜しむらくは、この演奏がスタジオ録音ということ。ヴィラ・ヒューゲルで収録されていたらさらに素晴らしかったでしょう。というのも、このアルバムに含まれる、ブリテンのシンプル・シンフォニーも超絶的演奏。精緻なピチカートは驚くべき精度でしかもヴィラの広々とした空間に自然に広がる余韻の美しさも絶妙なんですね。やはりLPの方が演奏の真髄に迫ることができました。

このLPからはリアルなライヴの音を聴くことができませんでしたが、この日のコンサートを聴いた観客は極上の空間での極上の演奏に酔いしれたことは想像に難くありません。ハイドンもモーツァルトもブリテンもエルガーも絶品。ホルストのセント・ポール組曲はアンコールとして演奏されたと記録されています。このアンコールを楽しんだ観客の心情を想像しながらこのLPを楽しみました。

もちろん悲しみの評価は[+++++]。いいアルバムを手に入れることができました。

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【新着】オラ・ルードナー/ロイトリンゲン・ヴュルテンベルク・フィルの悲しみ(ハイドン)

しばらく間を空けてしまいましたが、新着アルバムが続きます。

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オラ・ルードナー(Ola Rudner)指揮のロイトリンゲン・ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団(Württembergishe Philharmonie Reutlingen)の演奏で、モーツァルトの協奏交響曲KV.297b、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、ベートーヴェンの交響曲8番の3曲を収めたSACD。収録は2014年4月22日から25日、10月27日から28日、収録場所は記載されておりません。レーベルは独Ars Production。

このアルバムは最近リリースされたばかりのもの。指揮者もオケも馴染みがなく、聴く前からちょっと期待が高まります。

オラ・ルードナーはスウェーデン生まれの指揮者。ヴァイオリニストとしてジェノヴァで開催されたパガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで入賞したのをはじめに、シャーンドル・ヴェーグのアシスタントとなり、カメラータ・ザルツブルク、ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン交響楽団のコンサートマスターとして活躍しました。1995年にはフィルハーモニア・ウィーンを創設、2001年から2003年までタスマニア交響楽団、2003年から2007年までイタリア北部のボルツァーノのハイドン管弦楽団の首席指揮者務め、その後ハイドン管弦楽団の終身客演指揮者となっています。このアルバムのオケであるロイトリンゲン・ヴュルテンベルク・フィルには2008年から首席指揮者を務めているとのこと。日本ではあまり知られた人ではありませんが、地元スカンジナビア、オーストラリアなどでは広く知られた人のようですね。オペラも得意としているようで、フォルクスオーパーの常連のようです。

Ola Rudner

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
SACDらしく広い空間にオケが響くようすがよくわかる録音。演奏は新たなリリースとしては珍しくオーソドックスで、手堅さが光るもの。オケは適度に粗さもあって、それが迫力につながっています。太い筆で勢いにのって書かれた書のよう。金管木管は抑え気味で弦楽器重視の端正なバランスの響き。1楽章は教科書的正統派の演奏。もう一歩の踏み込みがほしいいという余韻を残します。
つづくメヌエットも端正なテイストは変わらず、淡々と演奏を続けますが、短調の仄暗いメロディーから自然に立ち上る情感が滲みでてきてこうしたスタイルも悪くないとの印象。楽章ごとの対比ではなく滔々と流れる音楽の一貫性を重視しているようです。作為のない表現を通してハイドンの音楽の魅力が浮かび上がってきました。ルードナーはオケをきっちりコントロールしながら、自身の作為を極限までなくそうとしているような指揮ぶり。この名曲の魅力を実に自然に感じさせます。
つづくアダージョも同様。ここに至って、ルードナーのオーソドックスなコントロールも悪くないと思い始めます。前のメヌエット同様、ハイドンの美しいメロディーがしっとりと心に沁みてきます。元ヴァイオリン奏者らしく弦楽器のフレージングは実に丁寧で自然。この楽章の美しいメロディーが生成りの布のような優しい感触で包まれます。
フィナーレに入るとオケはギアチェンジしてかなりの迫力。特に分厚く響く弦楽器の迫力はかなりのもの。鮮明な録音により自然な厚みのある響きが心地よく伝わります。よく聴くと各パートともに実によく揃っています。鍛え上げられた弦楽器陣の響きが魅力のオケであることがわかります。明らかにフィナーレの力強さを意識した演奏でした。

つづくベートーヴェンの8番もハイドンの終楽章の力感を引き継いで、素晴らしい迫力の入り。こちらも端正さを基調にした好演。

オラ・ルードナーというスウェーデンの指揮者によるハイドンの名曲「悲しみ」。近年では珍しい実にオーソドックスな演奏。優秀な弦楽器陣の繰り出す分厚い響きを基調にした端正なハイドンです。録音も優秀なので、この交響曲の魅力をベーシックに伝えるいい演奏だと言っていいでしょう。古楽器や古楽器風の斬新な演奏も魅力的ですが、こうした地に足のついたアプローチの魅力も捨て難いですね。人によってはこうした演奏の方がハイドンの魅力が伝わるという意味で高評価となるかもしれませんが、私の評価は[++++]としておきます。

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ジョン・ラボック/セント・ジョーンズ・スミス・スクエア管の悲しみ、受難(ハイドン)

あまり知られていない超名演奏、見つけました。

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ジョン・ラボック(John Lubbock)指揮のセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団(The Orchestra of St. John's Smith Square, London)の演奏による、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」の2曲を収めたアルバム。収録年に関する表記はなくPマークが1986年とだけあります。レーベルは名録音の多いMCA CLASSICS。

ちょっと廉価盤然としたジャケットに「悲しみ」と「受難」というハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の短調の傑作交響曲2曲を組み合わせたアルバム。さして期待せずCDプレイヤーにかけてみると、実にしなやかかつ緻密な音楽が流れてきてびっくり。何気なく聴きはじめましたが、あまりの充実度に集中。これは衝撃的に素晴らしい演奏です。

ということでまったく未知だった奏者の情報を調べます。

指揮者のジョン・ラボックは検索するといろいろなアルバムをリリースしているようですが、あまり情報がありません。指揮者であり歌手であるようで、1967年にこのアルバムの演奏を担当するセント・ジョーンズ・スミス・スクエア管弦楽団を設立。Promsには1976年から2006年の間に6度出演しており、現代作曲家の作品の初演などを担当しているとのこと。1999年にはロンドンの王立音楽院の名誉フェローに選ばれています。

ということで今ひとつよくわかりませんが、このハイドンの稀有な名演をレビューすることにいたしましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
極めてオーソドックスな入り。程よい躍動感を伴ってよくコントロールされたオケがほの暗い悲しみのメロディーを奏でていきます。ただし、ただオーソドックスな演奏なだけではなく、くっきりとしたバランスの良い陰影がついて、ほのかにアーティスティック。適度に写実的な風景画を見るようですが、色のバランスや構図の設定がよく、まるでフェルメールが書いたような穏やかな個性があります。このコントロールは相当の技術的裏付けと音楽性が必要。演奏のタイプはニコラス・ウォードやロバート・ハイドン・クラークのような方向性。この曲の1楽章に潜む劇性をしなやかに描ききります。こうした円熟の技によるオーソドックスな演奏こそ、ハイドンの名曲を引き立てます。1楽章から身を乗り出して音楽に入りこみます。
続く2楽章に入っても演奏スタイルは変わらず、滔々と音楽が流れます。一貫して堅固な構成。全ての音に必然性があり、実にしなやかな音楽。素晴らしい完成度。弦によるメロディーをうっすらと隈取る木管やホルン。各奏者はハーモニーを乱すことなくそっと音を乗せていき、まるで一人の奏者による演奏の重ね録りのような一体感。
絶品なのが続く3楽章のアダージョ。テンポをかなり落としてビロードのような肌触りの極上の癒しに満ちた音楽が流れます。この楽章をここまで磨き込んだ演奏を知りません。音楽がとろけて心に染み込んできます。バーンスタインのような脂っこさはなく、清々しい練りによって、ハイドンらしさを保っています。絶品。悲しみが昇華されて天に昇っていくよう。
フィナーレは、節度を取り戻すようにオーソドックスな演奏に戻ります。深く燻らしたような陰影を伴いながらもオケの表現は穏やかに踏み込んで、躍動感もかなりのもの。気づいてみれば色彩感豊かなバランスの良い演奏できりりと締まって終わります。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
入りはアダージョ。前曲の3楽章の素晴らしいアダージョの再来のような、いきなりぐっと沈み込む情感が伝わります。この遅いテンポの描き方の深さは相当なもの。冒頭から惹きつけられます。ヴァイオリンの高音部を強調してメロディーをくっきり浮かび上がらせるなど、演出上手なところも垣間見せます。迫真のアダージョ。
大波が寄せては返すような大きな流れを彷彿とさせる2楽章。前楽章の暗く沈む情感から激しく展開して各パートもかなり踏み込んだ表現に変わりますが、相変わらずオケの一体感は素晴らしく、すばてのパートが完璧にコントロールされています。ジョン・ラボックはよほどの完璧主義者だと想像。
メヌエットは穏やかな劇性を感じるこの曲一番の聴きどころ。この穏やかさを保ちながら音楽の起伏を表現するあたり、やはり只者ではありません。あえて淡々と刻む伴奏に対し、非常に深い音色のヴァイオリンの奏でるメロディーが孤高の表情。
フィナーレは疾走するオケの魅力で一気に聴かせます。かなりのテンポにもかかわらず各パートのつながりの良さが印象的。要所できりりと引き締まりながらも疾走を続け、最後はきっちり終えます。

いやいや、このアルバムの演奏、この2曲のなかでも指折りの名演と断じます。悲しみ、受難といえば名演盤が多い名曲ですが、その中にあっても燦然と輝く価値があるといっていいでしょう。特にアダージョ楽章の濃密な情感と癒し音楽、全体のバランスを崩さないコントロール、そして何より素晴らしいのがオケの一体感。これが今では無名に近い演奏者の演奏というのが驚きです。有名どころの演奏よりよほどハイドンの真髄に迫っていると言っていいでしょう。この2曲はハイドンの交響曲でも名曲であり、その名曲の代表的な名演として永く聴き続けられるべき価値のあるアルバムです。評価はもちろん[+++++]。手に入るうちにどうぞ!

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tag : 悲しみ 受難

ダニエル・バレンボイム/ECOの悲しみ、告別、マリア・テレジア

前記事でとりあげたバレンボイムのLPが良かったので、すかさずamazonにバレンボイムの現役盤CDを注文。

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HMV ONLINEicon / amazon / TOWER RECORDS

ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番「マリア・テレジア」の3曲を収めたアルバム。収録は「悲しみ」が1975年9月エジンバラ、その他の2曲が1978年3月、ロンドンのヘンリー・ウッド・ホールでの世ション録音です。

このアルバム、国内盤でユニバーサルから"The Best 1200"というシリーズでリリースされたもの。この手の国内盤はほとんど買ったことがありませんでしたが、バレンボイムのハイドンの初期交響曲で現在入手しやすいのはこれしかないため、躊躇せず注文したものです。

国内盤はジャケットのセンスも今一。仕事は丁寧ですが、所有欲をかき立てるかというとそうではなく、どうしても輸入盤の方にいってしまうのが正直なところです。このアルバムもジャケットもせっかくのDG風のものに茶色の縁取りとThe Best 1200というセンスの悪いロゴが入って、今ひとつどころか、美的感覚が疑われるところ。ただし内容は悪くありませんでした。

上記のHMV ONLINEのリンクをご覧戴くとわかるとおり、「高精度ルビジウム・クロック・カッティング」が売り物で、帯にも「ルビジウム・クロック・カッティングによるハイ・クォリティ・サウンド」とのコピーが踊ります。LPで聴かれた繊細かつデリケートなコントロールが最新のリマスターでどのように蘇ったのか、興味は尽きません。

バレンボイムの情報は前記事を参照いただくとして、早速レビューに入りましょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
前記事で取りあげたLPの演奏の穏やかな感覚とは異なり、流石に名曲「悲しみ」は冒頭から力感に満ちた入り。テンポも速めでバレンボイムがかなり煽っているのがわかります。いい意味で期待したよりも覇気に溢れた演奏。バレンボイムらしく音量を落とした部分の丁寧な演出は健在です。オケのイギリス室内管は名手ぞろいで、くすんだイギリスの空のような深みのある音色が魅力。弦パートのキレの良さは他のアルバムでも聴き所なほどイギリス室内管の特徴的なもの。ハイドンの名曲の実に味わい深い演奏です。肝心の音質は、もちろん音にこだわったCDですので安定しています。ただし、LPほどの繊細な解像感はないものの、ダイナミックレンジと迫力は最新のリマスターらしくなかなかのものです。
2楽章のメヌエットはほの暗く、サラッとオーソドックスな演奏。良く聴くと表情の変化があって聴き応えはありますが、バレンボイムらしく実に地味な展開。
秀逸なのは3楽章のアダージョ。やはり前記事のLPから期待した、非常にデリケートな弱音部のコントロールが絶妙。抑えているのに非常に表情豊かな演奏。ハイドンの緩徐楽章のツボをおさえた演奏ですね。古き良きハイドンの魅力を存分に味わえます。
そしてフィナーレに入ると図太い低音弦の象徴的なメロディーが巨大構造物のごとき存在感で非常に印象的。楽章の変わり目の呼吸というか演出が非常に上手いですね。フィナーレは弦の分厚い響きによるザクザクとした演奏が大迫力。オケ全体から立ちのぼる気迫とエネルギーが伝わります。まさに力感の塊のような演奏。

Hob.I:45 / Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
演奏場所が変わってヘンリー・ウッド・ホールでの録音。どちらかというと、前曲のエジンバラでの録音の方がキレがあるように聴こえます。基本的には聴きやすい録音ですが、響きが前曲と比べると固まって、余韻の漂う感じが薄れ、多少デッドな印象です。この録音の印象が演奏の印象にも影響して、やはり第一印象はオーソドックスで地味目なもの。ただし良く聴くとイギリス室内管の魅力ある演奏でもあり、バレンボイムらしいオーソドックスながら豊かな表情も聴き取れます。
続くアダージョも同様、前曲で聴かれた繊細なコントロールほどの緻密さは感じず、実にオーソドックス。これはLPで聴くともうすこし表情がくっきり浮かんでくるような気がします。ただ、曲が進むにつれて抑えた部分の表情は豊かになってくるところはバレンボイムの意図通りなのでしょうか。
そしてメヌエットは吹っ切れたような自然なソノリティが魅力。前楽章のデリケートなコントロールのあとに、ある意味淡々としたメヌエットを重ね、楽章ごとの変化を印象づけます。
そして聴き所のフィナーレ。前半は予想通りクッキリした表情で淡々といきます。後半も予想通りあっさり淡々とした入り。徐々に楽器が減るところでも一貫した表情で特に目立った演出は加えません。徐々に寂しさが浮かび上がってきて,ふと我に返るような演奏ですね。

Hob.I:48 / Symphony No.48 "Maria Theresia" 「マリア・テレジア」 [C] (before 1769?)
最後はマリア・テレジア。録音会場は前曲同様ヘンリー・ウッド・ホールですが、響きの力感と鮮明さはむしろ1曲目の悲しみに近い印象。このアルバムで一番クッキリハッキリした録音に聴こえます。クッキリしすぎてちょっと整理し過ぎな印象もある感じです。祝祭感あふれるこの曲らしく、力感とエネルギー感を感じさせるコントロールですが、逆にデリケートさは交代して、若干の単調さをはらんでしまっています。
2楽章に入るとデリケートなニュアンスが戻ってきました。陰りのあるイギリス室内管のしっとりとした響きとバレンボイムのあっさりとしたコントロールが実にいい感じ。木管楽器の美しい音色と弱音器付きの弦楽器群の織りなすハーモニーが美しく溶け合います。
メヌエットは祝祭感満点。クッキリ明るい部分は若干古風な印象もありますが、すぐに展開して、陰りが強くなり陽と陰のコントラストを見せます。そしてフィナーレもクッキリした明解な響きが基調となり、バレンボイムもクライマックスに向けてテンポを上げて煽ります。フィナーレは快速テンポで一気に聴かせてしまいます。

バレンボイムの指揮するイギリス室内管の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲集。前記事のLPが一貫してゆったりかつ抑えた部分の表情の美しさで聴かせたのに比べると、こちらはテンションの高い力感を重視した演奏に聴こえますが、曲によっては、力感重視のところは単調な印象もはらみますね。CDとしてのリマスタリングは手間をかけているように聴こえ、音質もなかなかのものですが、やはりLPによる繊細な響きの魅力は捨て難く、比べるとLPに軍配が上がりますでしょうか。評価は「悲しみ」が[+++++]、告別が[++++]、マリア・テレジアは[+++]とします。

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tag : 悲しみ 告別 マリア・テレジア

ネヴィル・マリナー/アカデミー室内管の「悲しみ」

今日はマリナーの交響曲集から。

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サー・ネヴィル・マリナー(Sir Neville Marriner)指揮のアカデミー室内管(Academy of St Martin in the Fields)によるハイドンの名前つき交響曲集。今日はその中からマリナーの名演が聴けるCD3の「悲しみ」を取りあげます。収録は1975年10月で収録場所は明記されていません。レーベルはもちろんPHILIPSです。

ネヴィル・マリナーのハイドンはいろいろ取りあげていますが、交響曲はまだ多くありません。

2011/08/21 : ハイドン–交響曲 : マリナー/アカデミー室内管の86番
2011/08/10 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番1】マリナー/ドレスデン・シュターツカペレのネルソンミサ
2011/04/24 : ハイドン–協奏曲 : バリー・タックウェル/マリナーのホルン協奏曲
2011/03/03 : ハイドン–協奏曲 : ハーデンベルガー、マリナー/ASMFのトランペット協奏曲
2011/02/27 : ハイドン–オラトリオ : フィッシャー=ディースカウフル登場、マリナー/ASMFの天地創造-2
2011/02/27 : ハイドン–オラトリオ : フィッシャー=ディースカウフル登場、マリナー/ASMFの天地創造
2010/12/06 : ハイドン–声楽曲 : マリナー/ドレスデン・シュターツカペレの戦時のミサ
2010/10/14 : ハイドン以外のレビュー : ホリガーのモーツァルトのオーボエ協奏曲
2010/10/03 : ハイドン–協奏曲 : リン・ハレルのチェロ協奏曲集

マリナーの交響曲はこの8月にパリ・セットを収めた2枚組から86番を取りあげたのみ。86番は速めのテンポによるタイトな名演でした。今日取り上げる名前つき交響曲集の中で、26番ラメンタチオーネと47番の2曲だけがマリナーの演奏ではなくレイモン・レッパード(Laymond Leppard)指揮のイギリス室内管弦楽団(English Chamber Orchestra)の演奏で、この穴埋め的存在のレイモン・レッパードの演奏は以前にレビューしています。この交響曲集から1曲選べと言えば、やはり「悲しみ」でしょう。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
冒頭から素晴らしい覇気が伝わります。劇的なまでの立体感とエネルギーに満ちた推進力。1楽章のヴァイオリンによる音階はキレキレ。素晴らしいテンション。そしてこれぞPHILIPSという実体感、定位感がキリッと決まりながらも美しい残響にうっとり。PHILIPS録音の頂点といってもいい素晴らしい響き。そこここに次のフレーズへの橋渡しとなるアクセントが効果的に置かれ、力感、立体感は驚くほど。マリナーの悲しみ、これほど素晴らしいものとは思いませんでした。まさに手に汗握る圧倒的な迫力。1楽章から腰がくだけそう。
2楽章のメヌエットはまさにシュトルム・ウント・ドラング期特有の憂いをたたえた曲。そそり立つような素晴らしい立体感。彫り込みも深く劇的でもありますが、古典の均衡は保っているところがマリナーならではのバランスでしょう。
そして弱音器つきのヴァイオリンによって奏でられるアダージョも表情の豊かさが印象的。弱音器つきとは思えない分厚い響き。糸を引くようにメロディーを描いてきます。波の高さも十分で素晴らしい迫力。何と美しい音楽でしょう。
フィナーレはオケの各パートのせめぎ合いのような掛け合いが見事。特に弦楽器が拍子をかなり速めに打って畳み掛けるように掛け合うようすは見事の一言。

ネヴィル・マリナーの名前つき交響曲集から1曲選んだ「悲しみ」は予想を遥かに上回る素晴らしい演奏でした。マリナーのハイドンはドレスデン・シュターツカペレとのミサ曲など素晴らしい演奏も多いんですが、この『悲しみ」は交響曲の中ででもマリナーのハイドンの交響曲を代表する名演奏と言っていいでしょう。演奏、録音、企画と3拍子そろった素晴らしいもの。オススメです。評価はもちろん[+++++]とします。

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tag : 悲しみ

ハルトムート・ヘンヒェン/C.P.E.バッハ室内管のラメンタチオーネ、受難、悲しみ

今日はお気に入りのハルトムート・ヘンヒェンの名前つき交響曲集から。

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ハルトムート・ヘンヒェン(Hartmut Haenchen)指揮のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団の演奏によるハイドンの名前つき交響曲集。全6枚に交響曲18曲、序曲1曲を収めたアルバム。今日はその中からCD1の交響曲26番「ラメンタチオーネ」、49番「受難」、44番「悲しみ」、歌劇「無人島」序曲(Hob.Ia:13)の4曲を取りあげます。収録は1987年11月と手元の記録にはありますが、ライナーノーツには記載されていません。レーベルはedel CLASSICS。

このアルバムからは以前「哲学者」を取りあげていますが、すばらしい演奏でした。演奏者などの情報はこちらの記事をご参照ください。

2011/01/26 : ハイドン–交響曲 : ハルトムート・ヘンヒェンの哲学者

なんとなく交響曲のいい演奏が聴きたくなり取り出したアルバム。今日はシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲を選びました。

Hob.I:26 / Symphony No.26 "Lamentatione" 「ラメンタチオーネ」 [d] (before 1770)
柔らかい音色のオーケストラが繊細なハープシコードの響きを伴って、この曲独特のほの暗い旋律を生気溢れる演奏で描いていきます。ヴァイオリンの軽さと低音弦の迫力、リズムのキレの良さが抜群。小編成オケでしょうが響きのまとまりは非常に良く、まさにこの曲独特の雰囲気を万全に表していきます。活き活きとしたメロディ、哀愁に満ちた響き、小気味好いキレ。必要十分というか完璧です。
2楽章のアダージョは爽快さを感じさせるほどの速めのテンポ。メロディーラインの描き方が上手く、速いながらも情感は十分。こなれた音響によるすばらしい感興。録音は鮮明さは最新のものに劣るものの鑑賞には十分。繊細なハープシコードの響きが雅さを加えています。オケは奏者全員が高い音楽性を身につけているよう。
フィナーレはこれ以上ないほどの生気が漲る演奏。インテンポで入るアタックのキレが素晴らしく、肩に力が入っていないのに踊り出すような音楽。中世のバシリカの窓から差し込む光が、重厚な石積みの立体感を活き活きと浮き彫りにしているよう。ラメンタチオーネにはニコラス・ウォードの中庸の美学を極めた名演盤がありますが、このヘンヒェンの演奏も速めのテンポによる、爽快なのに実に味わい深い名演と言えるでしょう。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
深く沈み込むオーケストラの音色。大きく表情を浮き彫りにする素晴らしいフレージング。彫りの深い演奏はまるで部屋にパルテノン神殿が出現したよう。絶妙の呼吸とデュナーミク。暗黒の淵を覗くような深い情感。名演の予感です。冒頭から素晴らしい響き。ハープシコードもじつに効果的。1楽章は圧巻の出来です。ヘンヒェンのコントロールは情感と立体感をバランス良く表現。くどさもわざとらしさも感じさせず、見事という他ありません。
2楽章に入り速度はあまり上げませんが、やはりエネルギーが満ちてきます。高低に変化する旋律の対比がすばらしいですね。音階が音の連なりの糸を引くようなところがなく非常にキレのいいのが特徴。音色も柔らかくするところとカッチリするところメリハリが見事。なにより音楽が活き活きとしていて、ハイドンの見事な音楽がまさに生きているような進行。
メヌエットも安心して聴いていられる安定感。弦楽器に宿るうら悲しいエネルギーが顔を出すたびに、この曲がシュトルム・ウント・ドラング期の作品であることを思い起こさせます。
フィナーレは、予想していたのとは少し異なり、流すような流麗なもの。最後にこの力の抜き具合は見事です。1楽章の圧倒的な存在感がこの演奏のポイント。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
名曲「悲しみ」。穏やかに入りますが、最初のテーマの速い音階にちょっと癖のある表情で変化をつけます。前2曲にくらべて、力が抜けた演奏と言えるでしょう。1楽章の聴き所であるヴァイオリンの音階はことさらキレを強調する事なく、音楽全体の流れを重視するようですが、音楽がすすむにつれて徐々にエネルギーが満ちていき、最後にクライマックスを持っていくあたりが流石。
メヌエットはハイドンのこの時期の交響曲のなかでも素晴らしい出来のもの。メヌエットなのに情感が溢れ出す素晴らしいもの。ヘンヒェンはこのメヌエットの魅力を余裕たっぷりに表情をつけ、じっくりと描いていきます。やはりフレージングの上手さが際立ち、さりげないのに表現の彫りの深さは素晴らしいですね。
アダージョも絶品。立ちのぼるシュトルム・ウント・ドラング期の香り。ハイドンの時代にタイムスリップしたよう。
フィナーレは弦楽器のキレが最高潮に。弦楽器のキレがメロディーを見事に浮き上がらせ、ザクザクとメロディーを刻んでいきます。最後に迫力を見せつけて終了です。

Hob.XXVIII:9 / "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779) 序曲
最後はオペラの序曲。シュトルム・ウント・ドラング期のちょっと後の作曲。序奏から独特の劇性があり、じっくりと畳み掛ける主題、ほのかな明るさを感じさせる中間部と、なかなか聴き応えのある曲。ここでもヘンヒェンはじっくりとオペラの幕が上がる前のざわめき感を上手く聴かせて、このアルバムの素晴らしい演奏を締めくくります。

ハルトムート・ヘンヒェンとカール・フィリップ・エマヌエル・バッハ室内管弦楽団の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲3曲の演奏。昔から好きなアルバムでしたが、あらためて取り出して聴くと、その素晴らしさはやはり図抜けています。やはり説得力がちがうというか、ハイドンの時代にタイムスリップしたような素晴らしい響きを聴かせてくれます。評価は序曲を含めて4曲全曲[+++++]です。

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tag : ラメンタチオーネ 受難 悲しみ オペラ序曲 ハイドン入門者向け

イェジー・マクシミウク/ポーランド室内管の「悲しみ」、46番

今日もラックの中からふと取り出した1枚。ラックの肥になってました(笑)

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イェジー・マクシミウク(Jerzy Maksymiuk)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polish Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」、45番「告別」、46番、47番、48番「マリア・テレジア」、49番「受難」の6曲を収めたアルバム。収録は、「悲しみ」と「告別」が1979年9月、「受難」が1977年3月、その他が1978年7月、何れもロンドンのアビー・ロード・スタジオのスタジオ1でのセッション録音。レーベルはEMI CLASSICS。

このアルバム、ハイドンの名演が多いポーランドものということで取りあげました。ポーランドの悲しみと言えば、知る人ぞ知るこれです。

2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

読んでいただければわかるとおり、衝撃の1枚でした。特にヴァイオリンの凄まじいキレ具合は麻薬的なもの。たまに取り出しては聴いていますが、この「悲しみ」は素晴らしいものでした。以来、ポーランドものは気になる存在となりました。

このアルバム自体は結構前に手にいれていましたが、あまり積極的に評価できる印象はありませんでした。今日、久しぶりに取り出して1曲目の「悲しみ」をかけたところ、来てます。ゲルテンバッハばりのヴァイオリンのキレです。1楽章で早くも素晴らしい陶酔感。これはちゃんとレビューしなくては。

イェジー・マクシミウクは1936年、ポーランドの東端から少し入ったベラルーシのフロドナ生まれ。ポーランドのワルシャワ音楽院でヴァイオリンとピアノ・指揮・作曲を学び、1964年にパデレフスキ・ピアノコンクールで優勝しました。その後指揮活動が中心となって、ワルシャワ大劇場で指揮者として働くようになりました。自身で創設したこのアルバムのオケであるポーランド室内管弦楽団とともに1977年イギリスでデビューし、その後世界的に活動するようになりました。1975年から77年まではポーランド国立放送交響楽団の首席指揮者、1993年からはポーランド南部の街、クラクフのクラクフ・フィルハーモニーの首席指揮者として活躍しています。1983年以降はイギリスでBBCスコティッシュ交響楽団をはじめとして数多くのオケと共演、ヨーロッパの主要オケや日本、アメリカのオケとも仕事をするという国際的な活躍をしている人です。ベラルーシ生まれとはいえ活動のオリジンはポーランドにあるようですね。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
来ました。冒頭のタイトな小編成オケの響きに続いてヴァイオリンの素晴らしいキレ具合の音階。ゲルテンバッハばりの素晴らしい音階。悲しみの1楽章の聴き所といえば、この素晴らしい音階です。恍惚感すら感じるキレ具合。時折レガートを効かせて変化をつけます。どことなくストイックな雰囲気が集中力を高めます。これは確信犯的アプローチですね。ポーランドのオケの伝統でしょうか。速いパッセージを素晴らしい弓さばきで松ヤニをまき散らしながら演奏。アクロバチックな印象すら与える弦楽器のキレ。
2楽章は音を切り気味にした特徴的な演奏。じっくりとリズムを刻みながら叙情に傾かないコントロール。若干デッド気味の録音がかえって響きの純度を高めて、音楽の浸透力を増しているようです。素朴さが際立ちます。
3楽章のアダージョは弱音器つきのヴァイオリンの聴き慣れたメロディ。デュナーミクのコントロールは緻密というより素っ気なさも感じる直截なもの。溢れる情感が沸き上がる演奏というよりは素朴な肌合いと素直さが心情というような演奏。これもハイドンの魅力でしょう。ここまで聴き進んでマクシミウクの狙いがようやく見えてきました。ちょっと無骨さをも感じる荒っぽさで、仕上げを気にするというより骨格の表現にすぐれた木炭デッサンのような音楽。それでも沸き上がるシュトルム・ウント・ドラング期のほの暗い情感。
フィナーレは再びヴァイオリンのキレた音階が蘇ります。ヴァイオリンセクションは速くてキレのいいメロディを弾く事に絶対の自信をもっているよう。このキレは只者ではありません。非常に鮮明な主張をもった音楽。両端楽章のキレとエネルギー感は素晴らしいものがあります。

もう1曲行きます。

Hob.I:46 / Symphony No.46 [B] (1772)
CD1枚めの3曲目に置かれた交響曲46番。この前の45番「告別」なかなかまとまった演奏ですが、46番の方にマクシミウクの特徴が出ていると思い取りあげました。冒頭からヴァイオリンをキレをどこで表現しようか迷いがあるのか、ちょっとつんのめった腰高な演奏。弦楽器のキレは相変わらずいいのですが、曲が落ち着かず、速弾きのような慌てた感じ。これがこの曲のコミカルな側面を表していて意外と面白い表情。
2楽章のポコ・アダージョはじわりと沁みる演奏を期待してしまいますが、この楽章も箱庭的なコミカルさが基調にある演奏。ハイドンの交響曲に潜むユーモラスなところを見事に表していると取る事もできますね。かなりユニークな演奏ですが、指揮者の視点が明確にわかるという点ではなかなか含蓄ある演奏と言えるかもしれません。
メヌエットもざっくりして、溜めなく気負いなく、すすっと入り、すすっと進めます。意外と表情の変化やアクセントを付けて楽しませてくれます。この気負いのない音楽こそハイドンの本質を表しているかもしれませんね。
フィナーレはまた来ました! リズムの鮮度と曲の面白さを手作りの音楽で楽しませてくれます。ヴァイオリンのメロディのキレはやはり流石。短調への転調と表情の変化、盛り上がる感興。迸る機知。ヴァイオリン奏者が自慢げに髪を振り乱してメロディーをザクザク刻む姿が目に浮かびます。純粋無垢の子供のような心で解釈して演奏したらこうなるだろうというような演奏。なかなか面白いです。

イェジー・マクシミウク指揮のポーランド室内管弦楽団の演奏でハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。出だしの「悲しみ」のヴァイオリンのキレは素晴らしいもの。ただし、テクニックを誇る演奏ではなく、音楽を演奏する楽しみに溢れた、素朴で、純粋無垢な心を感じる演奏。並みいる名演盤と並べると、表情の豊かさ、深さ、完成度ではかなり差がつくのも正直なところですが、この演奏には音楽を演奏する素朴な楽しみのエッセンスがあるような気がします。指揮者もオケも純粋にハイドンの交響曲の演奏を楽しんでいるよう。これもハイドンの真髄に迫った演奏と言えるかもしれません。評価は「悲しみ」が[++++]、46番は[+++]とします。このアルバム、ハイドンの交響曲をいろいろ聴きこんだ耳の肥えた方にお薦めしたいですね。これもいいアルバムです。

追伸)
有田さん、拍手コメントありがとうございます! 返信ができないのでこちらで失礼。心に触れるレビューを目指して精進します。とても大切なお仕事につかれていることを知り応援したい気持ちになりました。今後ともよろしくお願い致します。

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tag : 悲しみ 交響曲46番

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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