【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第8巻(ハイドン)

淡々とリリースが続くこのシリーズ、8巻目になりました。このところリリースピッチが上がってきましたね。

IimoriVol8.jpg
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飯森範親(Norichika Iimori)指揮の日本センチュリー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲60番「迂闊者」、交響曲54番の2曲を収めたSACD。これで8巻目になります。収録は2017年8月11日、大阪のいずみほホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。

順調に巻を重ねてきているこのシリーズ。当ブログではこれまでリリースされた8巻中、この記事を含めると6巻を記事にしています。過去の記事はリンク先をご覧ください。

2019/02/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第6巻(ハイドン)
2018/06/29 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第4巻(ハイドン)
2018/03/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第3巻(ハイドン)
2017/07/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)
2016/11/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)

このシリーズもライヴながら演奏、録音ともに非常に高い水準を保っていて、安心して曲を楽しむことができます。日本でのハイドンの素晴らしい音楽の知名度アップに大きく貢献しているだけに応援しなければなりません!

今回はシュトルム・ウント・ドラング期後の1774年頃に書かれた2曲を組み合わせた玄人好みの選曲。ハイドンの交響曲分野の前半の頂点は「告別」や「悲しみ」「受難」など踏み込んだ感情表現を持つ数々の名曲を生んだシュトルム・ウント・ドラング期にあることはご承知の通り。その後、交響曲の作風は大きく変わり、親しみやすくより明快な表現に変わっていきます。これは中野博詞さんの「ハイドン交響曲」によると、エステルハージ家や侯爵の好みを反映したことや、この頃からハイドンがオペラをはじめとする劇音楽に関心が移っていったことなどに起因するとされています。今回の2曲はまさにハイドンの交響曲の創作の転換を象徴する選曲になっているということで、実に興味深い選曲です。

Hob.I:60 Symphony No.60 "Il disrratto" 「迂闊者」 [C] (before 1774)
ハイドンは1773年に作曲・上演した歌劇「裏切られた誠実」"L'infedeltà delusa"以降、多くの歌劇を作曲するようになるなか、翌1774年にカール・ヴァール(Karl Wahr)一座がジャン=フランソワ・ルニャール作の喜劇「ぼんやり者」をエステルハーザで上演することになった際、ハイドンがこの劇の付随音楽として序曲・各幕の間の間奏曲4曲と終曲を作曲。これを交響曲の形にまとめたものがこの曲。ハイドンの交響曲では唯一6楽章構成で、交響曲というよりは劇音楽のような構成。
冒頭の序曲に当たるアダージョからホール内に心地よくオーケストラが響き渡ります。このシリーズの初期のリリースでは録音もばらつきがあり、ちょっと人工的なニュアンスもあったんですが、ここ数巻は安定してホール内の響きを非常にうまくまとめていますね。音量を上げて聴くとまさにホールで聴いているよう。主題に入ると快活なメロディーの魅力炸裂。金管を含めたオケの響きが非常によく溶け合い非常に自然。オケもアクセントとリズムがキレキレで血湧き肉躍る痛快な演奏。クッキリとコントラストがついて、特にティンパニのリズム感が尋常ならざるレベル!
続くアンダンテでは弦楽器がこちらもイキイキとしたフレージングで聴かせます。この日のオケはリズムが冴え渡りまくって、音楽が弾みます。時折テンポをぐっと落とすのも効果的。3楽章のメヌエットは流麗な力感と中間部の民謡風のメロディーの対比が見事。そして4楽章はまさに劇中音楽を交響曲のフィナーレにアレンジした感じで目くるめくように展開しますが、ここで終わらないのがこの曲。ちょっと唐突に美しいメロディーのアダージョが続きますが突如軍隊調のファンファーレが挟まります。このあたりの場面展開はまさにオペラのよう。終楽章は有名な音程が乱れた混沌とした響きをチューニングして正す場面がありますが、おそらく飯森さんの咳払いで注意を促すという演出に客席からも笑いが漏れ聞こえます。交響曲としてはおふざけにあふれた珍曲ではありますが、格調高い諧謔的な面白さもあり、ハイドンのユーモアを見事に浮かび上がらせた名演奏でした。このシリーズは拍手はカットされていますが、この曲は拍手があったほうが臨場感があったでしょう。

Hob.I:54 Symphony No.54 [G] (2nd version) (1776)
こちらも同じく1774年に書かれた曲。今まで知りませんでしたが、ザロモンセット以前では最大編成の曲とのこと。4楽章構成ですが、所有盤リストに演奏時間を登録する際に2楽章が19分33秒と異常に長いのに気づきました。この曲の他の演奏で一番長いのがファイの13分弱ということで、ぶっちぎりで最長になります。Wikipediaには「演奏時間も長く、全てのリピートを実行すると20分近くを要する」と記載されていることから、繰り返しを全て実行しているのでしょう。
1楽章は穏やかな曲調の序奏から入り、展開も穏やか平明。シュトルム・ウント・ドラング期のあの深い情感はもうありません。その代わり堅牢な構築感、気高い優雅さなどに満ちています。この急激な変化はやはり侯爵の好みの影響と考えるのが自然な気がします。演奏はこの堅牢さと気高さを十分に反映して、前曲のリズムのキレとは表現を変えてきて堂々たる響きを作って曲に合わせてきました。
続く長大な2楽章はハイドンには珍しいアダージョ・アッサイ。ヴァイオリンとオーボエによるしっとりとしたメロディーがゆったりと流れます。今まで地味な曲に聴こえていたこの楽章も、よく耳を澄ますとハイドンの創意が新たな次元に入った音楽のように聴こえてきました。メロディーに多くを語らせていた音楽から気配の描写のような時代を先取りした音楽を模索しているよう。この楽章、一貫して少ない楽器のハーモニーの美しさを際立たせようとするような繊細な演奏が素晴らしいですね。気配が伝わります。
ハイドンの交響曲の聴きどころはやはりメヌエット。創作の方向が変わったこの曲でもメヌエットの面白さは健在。メロディーと舞曲のリズムが織りなす音楽の面白さはハイドンならでは。中間部は癒しに満ちた音楽で箸休め。オケはメヌエットの面白さを再びキレキレのリズムで見事に表現しています。
フィナーレは1楽章を受けて気高く流麗な音楽。コントラストよりも軽快しなやかに演奏することで晴朗なハイドンの音楽の面白さが際立ちました。ここでもティンパニが効果的。めくるめくようなスリリングな展開でフィニッシュ。

いやいや素晴らしい! このシリーズ、当初は音というか響きを磨き込むような演奏と感じることもあったんですが、ここに至って、音楽をしっかりと彫り込み、ハイドンの創意の真髄に迫らんとする気合いを感じるようになってきました。交響曲の中ではマイナーな2曲ですが、これは見事。この2曲の魅力を再認識いたしました。ということで、評価はもちろん両曲とも[+++++]といたします。オススメです!

(追伸)
Haydn2009さん、ご入院とのこと。お大事に! 快癒されましたらまたオフ会やりましょう!

(追記)
毎日クラシックのcherbinoさんからご指摘いただきましたが、交響曲54番にはバージョンがいくつかあり、この演奏は1楽章に序奏があり、フルート、トランペット、ティンパニが加わっていることから1774年の後1776年に改定された第3版でした。所有盤リストの方はホグウッド盤の順番に合わせて整理してあり、ホグウッド盤では第3版を2nd versionとして記載されているため、リストもそれに合わせて変更しました。cherbinoさん、ありがとうございました!



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tag : 交響曲54番 迂闊者

【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番

先日HMV ONLINEから届いたアルバムの一枚。

Fey53.jpg
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トーマス・ファイ指揮のハイデルベルク交響楽団のハイドンの交響曲全集の第15巻。まだまだ膨大な交響曲の前半ですが、15巻まできたということで、取りあげました。交響曲53番「帝国」と交響曲54番の2曲を収めたアルバム。末尾に「帝国」の終楽章の別バージョンの演奏も収録しています。収録は2010年1月18日から21日まで、ハイデルベルク・ドッセンハイムのマルティン・ルター・ハウスでの収録。

ファイの交響曲集はこれまでに2度取りあげています。

2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番

ファイのハイドンはまさに最新型の演奏。何かしてやろうという息吹に溢れているものの、ハイドンの交響曲の本質的な魅力を発揮したと言える演奏にまでなっているものは多くはないのが正直なところ。このあたりがファイの演奏の評価を分けるポイントになっているのではないでしょうか。かくゆう私も面白そうなので毎回買ってしまうんですが、ブログに取りあげようかどうしようかと逡巡する演奏が多いんですね。

ハイドンの交響曲全集はご存知のとおりドラティ、アダム・フィッシャー、突然現れたデニス・ラッセル・デイヴィスの3種に何人かの指揮者で構成したNAXOSのものが知られていますが、ホグウッドをはじめとして途中で頓挫してしまったものも多いので、このファイの全集はぜひとも完成してほしいと願っています。というわけで、やはり最新のこのアルバムは取りあげないわけには参りません。

Hob.I:53 / Symphony No.53 "L'Imperiale" 「帝国」 [D] (1778/9?)
モダン楽器のピリオドアプローチの演奏。キレの良い響きのオケ。旋律を分解して再構成するような手法で脳内のハイドンのメロディーを完全にリセット。千変万化するフレージング。いつものファイ節炸裂の1楽章の入り。まさに前衛を地でいくアプローチ。シュトルム・ウント・ドラング期の憂いあるメロディは影を潜め、少し後の時期の交響曲に特徴的な構成感を強調するような演奏。曲の構造に演奏スタイルがマッチして快感すら感じるハマり具合。ようやく聴き手がファイのスタイルを許容できる器になってきたということでしょう(笑) ただ、録音がデッド気味なので刺激成分が脳髄直撃。もうすこしゆったりした残響の録音であればより素直に楽しめる演奏だと想像しています。
つづく2楽章のアンダンテは、表情をかなり抑えて入ります。途中さらに抑えて、抑制をテーマにしたような弾きぶり。変奏の変化の面白さを強弱ではなく抑えたメロディーラインのみで聴かせるというアプローチ。アイデアとしては非常に面白いものです。一貫してさりげない表情で終了。
メヌエットは一転して、抑えながらもリズムのキレを強調。この表情の変化は見事。音符からリズムのみくっきり浮かび上がらせるような手法。抑えをきかせているのが非常に効果的。最後はティンパニが活躍して祝祭的なフレーズ。
フィナーレのヴァージョンAはカプリッチョ・モデラート。爆発ではなく聴かせるフィナーレ。抑えた表情が不気味な迫力すら感じさせて、いつ牙を剥くかハラハラさせるような手に汗握る演奏。最後は程よく爆発して終了。これはなかなかの名演。
末尾置かれたのフィナーレのヴァージョンBはプレスト。独立した序曲としても演奏される曲(Hob.Ia:7)。颯爽とした吹き上がり感満点の曲。曲単独の迫力と面白さはこちらの方があるようですが、交響曲全体の演奏の変化の面白さはヴァージョンAのほうですね。期待通りの盛り上がりが痛快。

Hob.I:54 / Symphony No.54 [G] (1st version) (1774)
この曲も抑えをきかせて、メリハリを際立たせます。かなり自在なフレージングで変化に富んだ演奏。メロディーに重なるホルンのオーセンティックな音色に痺れます。この曲もファイのマジックにやられてます。曲の変化の面白いことといったらありません。ファイの方もこれまでの創意が空回りするようなところがなく、曲を完全に掌握しての演出となっているのが、演奏の説得力を増しているんでしょう。1楽章のファイ独特のデフォルメされた立体感は非常に面白い。
つづくアダージョ・アッサイは前曲同様抑えを効かせた表現。時折響きを強調してファイ流なテイストに。そしてメヌエットはフィナーレ前のオケのアタックの練習のように自由な演奏。途中に癒しのようなゆったりしたアレグレットをはさんで構成感を強調。
フィナーレはレガートを多用したこれも個性的な演奏。演奏スタイルがめくるめく変わるのがファイの演奏の面白さ。これもハイドンの機知の表現の一つの方法でしょう。意外と堂々とした構築感があり曲の締めにふさわしい演奏。

このブログで取りあげる3枚目のファイのアルバムですが、はじめて両曲とも[+++++]。純粋に面白いと感じられた演奏。こうゆう演奏もハイドンの交響曲の面白さを伝えるいい演奏だということで、「ハイドン入門者向け」タグも進呈。まだまだリリースは続きますので、追っかけたいと思います。

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tag : 帝国 交響曲54番 ハイドン入門者向け

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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